30マモ マーリン死す
「朕の必殺の剣、オーラブレードを受けられるか、マーモット!」
なんかとんでもなく怒って、ブレイクが突撃してくる。その身体をオーラで纏い、大剣ゴブリンなど比べ物にならない速さで、右手にオーラブレードを。左手は光を収束させている。
「オーラブレードって、オリハルコンも破壊できる技だっけ。皇帝自身が前線に出てくる時点で終わってるのに、諦めないやつだな」
崩壊している廃ビルの瓦礫を踏み台に、俺も爪をマナで伸ばして対抗することに決める。どちらにしても倒さないといけない奴だからね。
『レイ、あのオーラブレードをマーモットクローで受け止められる?』
なにせスパスパ廃ビルをぶった切る恐るべき剣だ。マナで受け止められるだろうけど、念のためね。マーモットは用心深いのだ。
『無理ですよ、マーモットの爪で剣を防ぐなんて現実離れしたことができる訳ありません。やれやれ、小動物の爪じゃ缶切りにもなりませんよ?』
『へ?』
スパン
オーラブレードにマーモットクローをぶつけると、豆腐のように抵抗感なく切られた。
『うお!?』
ギョッとして、慌てて体をひねると、次の攻撃をかわす。光の剣が目の前に通り過ぎていき、廃ビルをも全く抵抗感なく切り裂いていく。
げげ、洒落にならない斬れ味だ。マナの爪じゃ役に立たないのか!
「ゴブブ、笑わせてくれるな、マーモットの爪如きで、この皇帝剣を防げるとでも考えたか。浅はかな小動物よ!」
ブレイクの哄笑に抗議したいが、そのとおりなので、ムッと頬を膨らませる程度にして、鋭角にバックステップをしてオーラブレードを躱していく。
空振りしたオーラブレードが廃ビルを細かく切り裂いていき、足場がどんどん崩れていく。
「ちっ、あいつチートすぎない? もしかして主人公? ゴブリンに転生して成り上がるとか」
身体を翻すと、四つ足でテテテテテテとまだ無事な廃ビルの壁面に足をつけて登る。デブリスと言われるとおり、マーモットはリスなんだ。木もビルも簡単に登れるんだよ。本来のマーモットには無理だけど、俺はマーモット+1だからね!
『あのオーラブレードはゴブリンエンペラーのワールドスキル『皇帝剣』です。皇帝剣は本来のオーラブレードの十倍の威力を出せます。あのゴブリンは下剋上を行い、歩が成り上がるように、爆発的にパワーアップをできたようです』
聞きたくない報告をのほほんとしてくるレイ。なるほど、なるほどね?
「浦木の野郎。余計なことをして! ペットは最後までしっかりとお世話をしろよな」
迫るオーラブレードを躱して、ピギーと鳴きながら、浦木を恨む。本当にとんでもないことをしてくれたよ。
「逃すかっ! 朕の兵士を殺した罪を償ってもらう」
「戦争において個人を憎むのは間違ってると思うけどね」
驚くことにブレイクも壁面を登って追いかけてくる。しかも俺の速さについてきて隣を並走までしてくる。崩壊する廃ビルの瓦礫を躱し、小さな窪みを踏み台に、ガラスが割れて窓枠だけとなった縁に足をかけて、その身体能力の高さは舌打ちするほどに凄い。
「フンッ!」
大剣とは思えない速さでブレイクは攻撃をしてくる。走りながらも、袈裟斬りから切り返し、掬い上げから、軽い牽制の攻撃まで。ビルの壁面を走っているのに、剣筋にブレはなく、正直、見事と言うしかない剣技だ。
「だけど当たるわけにはいかないね! 俺の優位な点である小さい身体を利用させてもらうよ」
テレキネシスコインを周りに展開させて、壁面を登る中でも空中に飛び出して、反射歩法で敵の攻撃を躱していく。いかに素早く、ビルをも切れる剣といえど、マーモットの小さい身体と素早い動きを前には命中することは難しい。
「はっ、よっと、ほうって、まきゅ」
身体を捻り、敵の攻撃を器用に躱していく。高速で跳ね回るピンボールのようなマーモットには当たらないだろ。
「ちょこまかと逃げよる。だがその余裕、武技を前にしても見せることができるかな?」
ニヤリと牙を覗かせると、大剣を引き戻してブレイクはオーラを収束させていく。なんかとんでもなく嫌な予感!
「受けよっ、竜の一撃を! その身に刻み、朕の偉大さを冥土にて広めるのだな!」
『竜爪剣』
ブレイクが剣を振り下ろす。予想の軌道から回避行動をとろうとして、ギョッと動きを止めてしまう。
なぜならば、振り下ろされた剣撃が4本の剣に分裂して迫ってくるからだ。
マジかよ、これはどれが偽物なんだ?
命中すれば、魔法障壁など紙切れのように切り裂かれて俺はマーモットの輪切りになっちゃう。だから目に力を込めて『理解』を発動させるが━━。
「これ、全部本物!? 幻でなく、全て実体化してるのかよ!」
まさかの全て本物だった。剣撃が分裂するとは、異世界を甘く見てた!
「くっ、フルパワーマーモットクロー!」
ここで生半可な防御は無意味。ならば、マーモットクローにマナを注げるだけ注ぎ込んで、敵の斬撃に対抗するのみ!
「まーきゅー!」
竜爪とやらを横から切りかかり、その軌道を変えようと企む。本当は竜爪を切り裂くのが一番だけど、それは無理だろう。
飛び上がると体を回転させた勢いで竜爪の横っ面に全力で爪をぶつけて、火花を散らして、僅かに軌道を変える。
「やった! グッ」
なんとか軌道を変えることができたけど、肩に微かにかすると、鋭い痛みが奔る。見ると肩から血を流しており、魔法障壁が破られたことを教えてくれていた。
「まきゅぅ」
痛みから体勢を崩し、壁面から落ちてしまう。
「くっ、このままだと木に登ろうとして落下死したデブリスとか言われちゃうよ! そ、そうはいくかぁ!」
テレキネシスコインに手を伸ばして、なんとか掴んで落ちるのを防ぐ。このリス太りすぎて、落ちて死んだのね、プークスクスとか通りすがりの人に笑われるわけにはいかないのだ!
ずきりと肩が痛み、顔をしかめてしまう。なんだかんだと、サバイバル生活をしてきた中で初めての出血かも。
「辛うじて落下を防いだか! だが、これでおしまいだ! 皇帝の証明たる竜玉を受けて死すが良い!」
ブレイクは左手に集めたオーラを光球として放つ。オーラブレードと同じく、そのエネルギーは膨大で触れた瞬間にマーモットなど欠片も残らずに吹き飛ぶ。
「死ねぇっ!」
光球がコインにぶら下がる俺に向かってくる。その威力はさっき見てたから、ヤバイ!
「ここで死ぬのか!?」
命中した光球は真夜中の暗闇を照らす爆発を引き起こすのであった。意識が薄れていく。2回目の人生、もといマーモット生はここで終わるのか……。
『マ王が倒されました。マ王第二形態に移行しますね』
◇
「やったか! やけに手間取らせてくれたマーモットであったな」
壁面に足をめり込ませて、ブレイクは消耗したオーラの量に舌打ちする。喜びよりも、オーラの消耗量の方が痛い。オーラは身体能力を跳ね上げて、武技という通常では使えない技を使えるが、生命力を元にしており、使えば使うほど自身の体力が奪われる危険な技だ。マーモットとの戦闘で疲労感は大きく、今すぐに倒れ込みたいところだ。
だが、あの化け物デブリスは殺しておかなければならなかった。ブレイクの勘があいつを逃がせば恐るべき脅威となると教えてくれていたためだ。
「他のマーモットたちも倒すべきか……。残りのオーラで倒せるか?」
残りは2匹。今倒したマーモットよりも弱いだろうがためらいを覚えはする。やはり一旦退却して体力を回復させてから戻ってくるべきか。
「ピギー(まだ次の戦闘を考えるのは早いんじゃないか?)」
爆煙の中から聞こえてくる鳴き声に、顔を歪めて爆煙を睨みつける。
爆煙が風により吹き飛ぶ中で、マーモットがコインの上に立っていた。焦げだらけでボロボロではあるが、致命傷は負ってなさそうだ。
「ちっ、光球にコインをぶつけて爆発させたか。頭の回るやつ」
「ピギーピギー(お褒めの言葉ありがとう)」
やけに人間臭くマーモットは肩をすくめると、ブレイクを見て笑う。その笑いが、気の所為かやけに上から目線で、ブレイクはイラッとする。
「死ななかったからと得意げになるのはマーモットの脳が小さいためか? だが貴様が朕に敵わないことは分かっているはずだ。何も変わらぬ、貴様が死ぬのがほんの少し伸びただけだ」
「ピギーまきゅまきゅ(そうかな? マ王を舐めてないか? お前が皇帝ならば俺はマ王。そしてマ王の十八番があるだろ? たった一回で死ぬことがないのがマ王なんだ!)」
何を言ってるのかさっぱり分からないが、雰囲気から危険を感じ取り、ブレイクはオーラを再び活性化させる。ここでオーラをケチれば、死ぬことになるのは自分だと本能が教えてくれるのだ。
「ピピピ、ピギー(マーモットパワーレベル1!)」
マーモットの身体が漆黒に染まっていき、内包するエネルギーが一気に高まっていく。空気が震えて、本能が逃げろと背筋に冷たいものが奔る。
「まだ切り札を残していたか! だが、オーラブレードを前にしては無駄な切り札となる!」
だが皇帝が初陣で背を向けて逃げるわけにはいかない。壁面から足を引き抜くと、落下しながらオーラブレードを振り上げる。
対するマーモットは先ほどと同じく爪にマナを纏わせて迎え撃ってくる。だがオーラブレードを前にしては紙切れも同然。先ほどと同じく切裂こうとして━━。
キンッ
オーラブレードはマーモットの漆黒の爪に防がれてしまう。信じられないことに、爪にヒビすら入っていない。
「ば、馬鹿なっ! オーラブレードで切れないものがあるだと!? そんなわけがない。皇帝剣の威力は無敵、無敵のはず!」
「ピギー(驚いたろ? これがマ王の力だ!)」
ブレイクは目の前の現実を信じられなく、オーラブレードを振るい続ける。光の剣が残像を残すほどの速さで振られて、マーモットを切り刻もうとするのに、マーモットも漆黒の爪でオーラブレードを防いで、さらには反撃すらもしてくる。押されている。間違いなく押されている。皇帝たるブレイクが。
「な! こんなことがあってはならぬ! ならば朕の武技を再び受けるが良い。余力など残さぬ。朕の最高奥義!」
『光竜神爪撃』
オーラブレードが光り輝くと、4本の光の爪を繰り出す。先ほど込められたオーラよりも遥かに多い量を注ぎ込んだ光の剣から作り出された光の爪は本物のように巨大で、そのエネルギーは触れただけで消滅する熱量だ。
「ピギーまきゅ(なら、こっちも本気でいこう! マーモットパワーレベル2だぁ!)」
対してマーモットも爪を振り上げる。まだ余力があったのか、先ほどよりも遥かに強大な力だ。
「ピギー(マ王闘法一式マーモットクロー)」
オーラブレードとマーモットクローがぶつかり合うと、衝撃波が巻き起こり、周囲を突風が吹き荒れる。
パリン
そして、オーラブレードがガラスのように砕け、竜の爪が切り裂かれた。
ブレイクの身体をも両断して。
「そ、そんな馬鹿な。朕の、朕の帝国……力のみが敬われる世界、が」
マーモットクローから流れ込むエネルギーが体内で吹き荒れて、ブレイクは大爆発を起こし、自身の野望を終えるのであった。
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