29マモ マ王の力
「ピギーーーーーー」
必殺のマーモットブレスは、不可視ではあるが破壊の痕跡にてその威力を見せながら敵を薙ぎ倒していく。超高周波のブレスに触れたゴブリンたちはその身体を砂のように一瞬で分解されて、手に持つ棍棒も錆びた大剣すらも粉々にしてしまう。
「ピギーーーー」
息が苦しくなるまで鳴き続けて、ゴブリンの軍隊を薙ぎ払う。アスファルト舗装された道路はめくれ上がり、後方の廃ビルの根元も分解し崩壊させ、廃ビルは轟音と共に崩れ落ちて、天まで伸びるように吹き上げた砂煙が視界を埋め尽くすのであった。
「ふぅ、つ、疲れた。これ、1日1回限定って意味わかるよ。連発は絶対にできないね」
ガクリと膝をついて、マーモットなので膝をつくことができないので、ペタリと地面に寝っ転がって息をつく。プニンと毛皮が弛んで、まもんとした顔になっちゃう。
体の力が一気に抜けていく感覚。フラフラと視界が揺れて気持ち悪いよ。
「な、なんつー威力だ。くっ、俺様ももっとパワーアップしないとな! 明日からギュイーンで修行だ!」
「むむむ、天才たる僕もマーリンに追いつけるように頑張らないとならないですね」
「さすがはボスです。そのお力は常人の及ぶどころではありません」
ガブ達は俺のブレスを見て、悔しがったり、考え込んだり、感心したりと様々な態度を見せていて、見張りの兵士はあまりの威力に言葉を失い、ぽかんと大口を開けていた。
俺としても予想以上に強いから満足だ。経験値一万を支払ったかいがあったというものだ。この威力ならほとんどの敵は接敵即倒せるだろう。
「敵のボスは倒したし、生き残りの残党を倒して終わりとしよっか」
1000匹近いゴブリンたちは、そのほとんどをブレスで一掃しただろうけど、生き残りがまだいるはず。そいつらを倒せば終わり━━んんん???
『ねぇ、レイ。少し質問。これ偉大な業績だよね? それなのになんで、クエストクリアの表示が出ないの? マーモットなのに軍隊を倒すという偉大な功績をあげました、経験値一億を与えます! みたいに、たくさん経験値もらえそうなんだけど?』
『クリアしていないからです』
嫌な予感に、顔を引き攣らせてレイに尋ねると端的な答えが返ってきた。嫌な予感通りの答えだ。
「お、おのれぇぇぇぇっ! 朕の軍隊をよくもよくもよくも、倒してくれたなっ!」
憤怒に燃え盛る叫び声が聞こえたと思うと砂煙が突風により散らされていく。
そうして砂煙が散った後にはブレイクが怒りに燃えて立っていた。マーモットブレスを防いだようで、周囲は破壊の跡があるのに、ブレイクの周りだけ影響がなく綺麗なものだ。
その理由はブレイクの前面に展開したバリアだろう。数十センチの金属の破片が円を描くようにブレイクの前面に十個ほど浮いており、赤いバリアを展開させていた。
『なんだあれ? マーモットブレスを受けて無傷なのかよ!?』
『あれはハケンゴブリンの持つ破剣の一部です。派遣社員の老後を心配するが、そのことを考えたくないので現実逃避する心から作られたGT(現実逃避)フィールドですね。全てのエネルギー攻撃を無効化する能力があります』
『胸が痛くなる名前のフィールドだね……。でもエネルギー攻撃無効化なんてチートを持ってるのか。近接戦闘でしか倒せないと』
『そのとおりです、プレイヤー。さぁ、頑張りましょう』
『まきゅ』
面倒くさい敵のようだけど、あいつはここで殺しておかないと、後々やばそうだ。多分浦木よりも危険だと思う。浦木戦をガブに任せて良かったよ。まだまだ余力は残っている。
『なら、覚悟を決めてやりますか! ガブたちは残りのゴブリンたちを殲滅してくれ。あいつは俺が片付ける!』
四つ足で、地面に踏ん張るとブレイクへと駆け出す。高ステータスのマーモットの走りはアクセルをベタ踏みしたスーパーカー並みだ。
「くるか、マーモットよ。朕直々にお前を処刑してくれるわっ!」
背中に担いでいたなぜか半ばで折れている大剣を引き抜くとブレイクは構えをとる。同時に破片が小さな高音を奏でながら俺の周りに展開を始める。
『テレキネシス』
俺は素早く破片をテレキネシスで掴もうとするが、触れた瞬間弾けて消えてしまう。どうやらあの破片自体にエネルギー無効化が付与されているのだろう。そりゃそうか、そうしないとブレス攻撃で破片が壊れるもんな。
「なら、破片は無視して、ボスを倒す!」
一歩一歩が数メートルの歩幅となるマーモットの高速の走りは数十メートルの間合いなど意味をなさない。数秒でブレイクの懐に入ろうとして━━。
チリッと毛皮がそば立つ嫌な予感。
獣の本能に従い横にステップすると、光線が過ぎ去っていく。光線の過ぎた後にはアスファルトが溶けて、深い溝ができている。
「!? ビーム攻撃! まさかっ?」
頭上を仰ぎ見ると、空を飛んでいる破片の先端が光る!
「くっ!」
ブレイクに近づくのをやめて、小刻みにステップをしていく。俺の周りに展開している破片がそれぞれに先端からライトアップするかのように光線を撃ってきて殺そうとしてくる。
「この破片、ビットなのかよ。バリアにビームって、狙いすぎだろ!」
「ふははは、驚いておるようだな。朕の魔剣『聖者殺し』の力を思い知るが良いわ!」
小刻みにステップを踏んで、複雑な軌道にて俺は走り、光線を回避していき、その姿を見たブレイクが得意げに高笑いする。ちくせう、悔しいがたしかに強い魔剣だ、俺も欲しいよ。
ピュンと風切る音がして、再び光線が撃たれる。こちらの死角を突いてきて、しかも複数の攻撃は回避しきれない!
「まきゅ! いでっ!」
光線が命中して、痛みが奔る。魔法障壁のお陰でダメージはないが、それでも痛いもんは痛い。それに連続で喰らったらマナはすぐ尽きてしまうだろう。
チュンと、連続で光線が放たれて、いくら躱そうとしても食らってしまい、命中するたびに、痛みが走り顔をしかめてしまう。
『実際に食らうとオールレンジ攻撃が強い理由がわかるよ! これは厳しい!』
高速で飛び回りビームを撃ってくるビットは厄介なんてものじゃない。このままだとジリ貧だ!
『プレイヤーに有能なAIアシスタントの私がアドバイスをしちゃいます。オールレンジは一見不規則で死角から攻撃してくる恐るべき兵器です、ですが、え~と、無限の組み合わせに無限の弾数、所詮は人間が扱うものであり、少しお待ちを。辞典を見直しますので、ちょっと待ってくださいね?』
『その辞典は俺も見たことがあるよ! 無限だと手のつけようがないだろ! でも、そうか、そういえばそうだった。所詮はゴブリンが扱う兵器だ。そして、この地形は俺に有利だな!』
役に立たないAIアシスタントを怒りつつ、回避を止めて、立ち止まる。
「むっ!? 逃げるのをあきらめたか? ふはは、そうだろう、朕に敵う訳がなかったのだ!」
俺が諦めたと勘違いしたブレイクが笑うが、悪いね、俺は諦める気はサラサラない。
「ビットの弱点を突かせてもらう。ここはなにもない宇宙じゃないんだぜ?」
『テレキネシス』
念動力の手を、靄へと変えると積雪へと薄く伸ばしていく。マーモットの呑気な頭でなければ耐えられない負荷が脳に強くかかるが気にすることはない。これが反撃の狼煙となる!
「テレキネシススノーストーム!」
降り積もっていた雪を空中に吹き上げる。細かい雪をバラバラに制御して、舞い散るように、視界を埋め尽くすように。
「ぬうっ! 小賢しい真似を。マーモットの癖に生意気なっ!」
雪煙により視界を埋め尽くされてブレイクが怒鳴るが、視界が通らない影響でビットの動きが鈍くなっている! 宇宙ならば障害物などないので、敵を視認するのに影響は何もない。だが地上だとそうはいかないんだ。
見えなくても、撃ち続ければ当たると考えたのか、ビットはビームを撃ちまくってくる。だがめくらでの攻撃など怖くも何ともない。
「おっと、当たらないよ。お返しのマーモットクロー!」
ビームを背面飛びでスレスレに躱すと爪を振るう。金属のビットに爪痕が走り、放電をすると爆発する。
「一つ!」
体を捻り続けて次のビットを蹴り飛ばす。マーモットの短い足でのキックだが、その攻撃は小さな鉄の破片を破壊することなど容易だ。
「二つ!」
爆発するビットを見ることなく、空飛ぶ二個のビットを掴み取ると猛然と齧りつく。マーモットの歯は鋭く硬い危険な歯なのだ。
「カジカジ、三つ、四つ、プペッ」
途中で爆発しちゃい焦げ焦げになってしまう。機械に齧りつくのは駄目だとマーモット理解した。
「なら、ここからはいっぺんに倒す! 『反射歩法』だ!」
ビットの位置を正確に把握すると、俺は一気に飛び出して、全力でビットを踏みつける。爆発する前に、踏み台にして次のビットへと蹴りかかる。
「5個、6個、7個、8個! それっ、9個、10個!」
まるでピンボールのように俺は空中で跳ねまくり、残りのビットを破壊していく。厄介なビットも視界が通らなければこんなもんだ。
『全部破壊したよ、やったよヒゲレディ!』
『誰が緑のおばさんですか! 私はスーバーAIアシスタントレイにして、ピチピチお肌の絶世の美女、水は肌に触れる前に消滅するほどなんですよ。あぁ~、マーモットには美醜はわかりませんかね。今度バージョンアップする時は音声のみでなく、生成AIで作った私の自画像を映し出したいと思います!』
『長台詞で戦闘の緊張感をなくさせないでよ、ビットは倒したけど、まだブレイク自身は傷一つ━━』
どうも地雷を踏み抜いたらしく、レイが俺を潰すほどのプレッシャーをかけてくるのでツッコミを入れようとしたら、雪煙から光球が飛んできた。廃ビルに当たり、大爆発を起こすと雪煙が爆風で吹き飛ばされてしまう。
「朕の魔剣をよくも破壊したな、この獣めが! 朕直々に斬り殺してくれる! 偉大なる皇帝の剣を受けてみるがよい!」
半ばから折れた大剣がオーラを纏うと、光の剣へと形成されていく。その剣身は長大なんて言葉で表すところではない。30メートルはある長さとなった。
「むぅん!」
ブレイクの腕が掻き消えたと思ったら、廃ビルの根元が爆発し、真っ二つに切り裂かれる。信じられないことにたったの一撃だ。
「オーラブレードは重さはなく、斬れ味は見てのとおりだ、マーモットに勝ち目はないと思え!」
轟音を響かせて倒れていく廃ビルを背景にブレイクは傲慢なる笑みを見せるのであった。
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