28マモ ハケンのゴブリン
「こいつら、浦木の部下か? なんでこんなにたくさん現れたんだ?」
「こんなにたくさん倒すんですか? 僕のデビルアーミーは倒されたので、あと24時間は再召喚できませんよ?」
「片っ端から倒せばいいんだろ。任せとけ!」
「後方から自分が援護するであります」
雪の中で追うのは嫌だけど、追いかけないと後で痛い目に遭いそうと、マーリンたちはキャベツを食べながら正面玄関で話し合っていた。
傍目から見たら、3匹のマーモットがキャベツを食べながら顔を見合わせて、ぼーっと立っているラブリーな光景だが、真面目に話し合っていたのだ。
雪って冷たいし寒いし嫌だなぁと思ってたら、突然ゴブリンたちの集団が襲ってきたわけ。
新たなる力を手に入れたガブがゴブリンたちの前に意気揚々と出ると、ヘヘッと得意げに笑う。幼稚園児と同じで、手に入れた玩具を見せびらかしたくて仕方ないのだ。
「へっ、天マとなった俺様の力をまた見せる時のようだな! まきゅーーー!」
『サイキック』
『天マ』
ガジガジ
「いて」
ガジガジガジガジ
「いてて」
ぬぉーと力を解放しようとするガブはゴブリンたちに齧られました。黄金マーモットになろうとしていたガブは、毛皮の色をちっとも変えることができていなかった。
「カタッ、ナンダコノデブリス、メタ」
「そのくだりはもう飽きたよ!」
ゴブリンたちに蹴りを喰らわせて吹き飛ばす。なんでだろと、ゴブリンのよだれまみれになりながら傷一つなく頭を傾げて不思議に思うガブだけど、俺は理由がわかってる。
「マナが尽きたんだよ、さっき使っただろ! なんか体調変じゃないか?」
「おぉ、そういえばお腹すいたと思ってたんだ。なるほど、マナって使うと尽きるのか。キャベツくれ」
納得したよとポムと手を打つガブ。どうやら『サイキック』も『天マ』も恐ろしくマナを消費するのだろう。必殺技みたいだから当然か。とりあえず、ガブにはマナの使い方から学ばせないといけないっぽい。そうしないとスライム相手にも黄金マーモットモードになって、後から苦労しそう。力を手に入れたら修行パートに入るというやつだ。
「ま、それは後でにして、ゴブリンたちを倒さなくちゃな。テレキネシスコイン!」
アイテムボックスから取り出したコインを空中に浮かせると、四肢に力を込めてジャンプする。ダンッと床に強い踏み込みの音を残して、俺は飛翔すると弾丸のような速さでゴブリンの横を通り過ぎながら、魔力にて形成した爪で切り裂く。
なにが起こったのかも分からずに、首を落とされて絶命するゴブリンを一瞥することなく、次へと向かい蹴りを喰らわす。ゴキンと骨の音が折れる音がして、ゴブリンの首が曲がってはいけない方向に傾げて崩れ落ちる。
蹴りを入れた反動を利用してさらに飛んでコインに足をつけると方向を変えて、3体目の顔を4本の爪痕を残して殺すと、4体目と繋ぐ。テレキネシスにて操るコインが足場となって、俺は立体機動を可能とし、ゴブリン程度では反撃するどころか、なにが起こっているのかも分からずに、倒されていくのみ。
なにせ、ボーリングのボールが時速150キロで、しかも空間を不規則に曲がって襲いかかってくるのだ。小さなマーモットという利点と夜という環境も相まって、全く対応できていない。
「オノレッ、マーモットノクセニ! むぉぉぉっ!」
それでも大剣ゴブリンならば、なんとか事態を把握したようで、俺目掛けて大剣を振り下ろす。
「なかなかの反応だけど、チートインフレな俺には通用しないっ!」
大剣の横っ面にコインをぶつけると、その軌道を僅かにずらす。小さなコインといえど、その衝撃は無視できない。グラリと揺れて俺の横を通り過ぎてゆくのを横目で見ながら、俺は浮いたコインを足場に、大剣ゴブリンの首元に入る。
「マーモット闘法一式マーモットクロー!」
魔力にて伸ばした爪で一閃。信じられないと目を見開いたまま、首を落とされた大剣ゴブリンが倒れ伏す。
と、強力なマナの反応を感知して、毛が静電気にあったようにピクピクとして、振り向く。見ると、頭に羽飾りを着けて、ローブを羽織ったいかにもゴブリンシャーマンといったゴブリンが魔法を使おうとしているところであった。空中に石礫を生み出して、俺を狙おうとしてる。
『魔法による攻撃は極めて強力な追尾性能を持っているので、マーモットを倒せると考えた模様です。あれはゴブリンシャーマンと名付けました。私が名付ける前にゴブリンシャーマンと決めないでください! 神様協会に言いつけますよ! 神様協会の会長はとても恐ろしくて、マーモットの毛皮をバリカンで刈っちゃいますからね?』
プンスコ怒るAIアシスタントさんが、会話をしてくる。ネーミングに誇りを持っている模様だけど、それならもう少しセンスが欲しいよ?
『あー、はいはい。神様協会とかあるんだ。気をつけないとね』
『そのとおりです、マーモットさん。会長は名前を言ったら怒られる最高の美女。会員は1人です』
『一人しかいないのに協会とは、幽霊会社のような気もするけど気をつけるよ。で、魔法を防ぐにはどうすれば良いの?』
『テレキネシスは魔法の手です。物理系の魔法なら、掴めるはずです』
おぉ、テレキネシスにはそんな利点があるのか! それは素晴らしい!
『ナイスアドバイス! さすがはAIアシスタントさん、やるねぇ、さすがだねぇ、頼りになるねぇ』
『そのネタわかる人いないと思いますよ』
ほっとけ。レイはわかってるじゃんね。
ゴブリンシャーマンが魔法を完全に発動させて石礫を飛ばしてくる。追尾性能が優れているというのは本当のようで、ゴブリンたちの集団を縫うように曲がりくねりながら、俺へと迫る。
レイの言うとおりならば、テレキネシスで対抗できるということだから……試してみますか!
『テレキネシス』
目を細めて集中し、魔法の手というべき、テレキネシスを発動する。俺にしか見えない不可視の念動力が発生するので、迫る石礫に手を翳す。
ズンと重い感触が脳に奔り、石礫は念動の手に摘まれてピタリと停止していた。俺を倒そうと動くがその動きでは念動力には敵わないようで、もはや石礫は俺の制御下に入ったも同然だ。
「残りの石礫も、とやっ!」
他の石礫も同様に念動力の手で摘み、全ての攻撃を防ぐとニンマリと笑ってしまう。予想以上にテレキネシスは使い勝手が良い。皆にも覚えさせれば良かったかも。
「テレキネシス、たしかに使えそうだ。ほら、返すぞ、利子はお前たちの命だ!」
手を軽く振ると、石礫を念動力で飛ばしていき、複数の石礫がゴブリンたちに炸裂して、その命を狩っていく。
「ギャッ」
「ゴブッ」
「ゲハ」
悲鳴を上げながら、ゴブリンたちが鮮血を撒き散らし、倒れていく。防ごうとしても、軌道を変化させて敵の隙を狙い正確に命中させて、なおかつすぐに取り出すと、他のゴブリンたちに向かわせる。
圧倒的な力だった。無数のゴブリンたちはろくに対抗することもできずに、躯を晒していくのだから、どれだけテレキネシスが強いかわかるというものだ。
「おのれっ、朕の兵を倒すとは不遜な! 早く他の兵士たちを戻すのだ。初陣で負けるなど許さぬぞっ!」
後方でやけに立派な鎧を着込んだ傷だらけの顔の大剣ゴブリンが周りへと怒鳴り散らしている。首元や指に宝石のついた指輪やネックレスをジャラジャラとつけており、頭の上に宝石が散りばめられた王冠を乗せていた。一目見て、あいつがボスだとわかるな。
なら、『理解』だ!
『負の想念の中でも派遣社員の怨念が集まったボス。聖者にこき使われていた、かつ聖者を殺害したこともあり、かなりのレベルアップをしているようだ。ハケンゴブリンのブレイクと名付けました!』
『えー、浦木は下剋上されたん? マジかよ、経験値入らないとか骨折り損のくたびれ儲けじゃん。それに聖邪因って、正社員ってことか。たしかに派遣社員の怨念って凄そうだな』
ようやく名付けのネタ元がわかったよ。でも、まずいのがレベルアップしているというところだ。モンスターテイマーは育成した魔物はきっちりと管理しておいてくれよな。野良魔物とか洒落にならん。テイマーが配合した魔王とかは、テイマーが死んだら迷惑となるという例だよ。
はぁ、とため息をつきながらため息を吐き、ゴブリンたちを倒し続ける。まずは雑魚を殲滅し、それからハケンゴブリンとの戦闘かな?
石礫を操りながら、自分でもゴブリンを倒していく。その程度ならそんなに時間はかからない。
そう思っていた時期もありました。
「マーリン! 天才たる僕は気づきました。この場所に集まってくる足音が多数します!」
雪って冷たいから外に出るのは嫌だなと正面玄関から外に出なかったルーが、2本足で立ちながら、なにも考えていないような虚無の瞳でぼーっとしていた。いや、あれは周りを警戒してるんだ。
耳を澄ますと、ゴブリンたちの悲鳴の中で遠くから多くの足音が聞こえてくるので、顔をしかめてしまう。
(まずい、ハケンゴブリンの奴、もしかしてショッピングモールを包囲して攻撃していたのか。ダンジョン化して、この入り口しか入れないと知らなければそうするか! それにしてもこんなにたくさんいたのかよ)
足音から予測するに、1000匹近いゴブリンたちが迫っている。テレキネシスも脳に負荷がかかるし、デビルアーミーもアミしかいない。少しまずいかも。
アミがアサルトライフルを撃ち続けているが、一人では限界がある。これでは数に押されてしまう。
ゲームでも広範囲スキルを取得しないで雑魚に押されてしまうことがあるし、こういう時後悔しちゃうよね。
どうしようかと迷う俺だが、後悔している時間はなさそうで、敵の群れが遠くから走ってくるのを目視してしまう。
『失敗した、広範囲攻撃スキルを取得するべきだったか。レイ、広範囲スキルを選んでくれ!』
『了解しました。ワールドスキル『マ王』専用スキル『マーモットブレス』を経験値一万を消費し取得しました!』
『マーモットブレス:自身のステータスを合計した攻撃力でピギーとブレスを吐く。1日一回の特殊固有スキル』
ナイスだ、レイ! ちっとカッコ悪そうだけど我慢するよ!
『皆、正面玄関から下がって!』
アミたちに念話を送り、正面玄関から下げる。見張りの二人がどこから声が聞こえたんだと、周りを見るがアミだろうと勘違いをして、後ろに下がってくれた。
そうして、ガラ空きとなった正面玄関にゴブリンたちが殺到する。
「ふははは! 数の力には勝てぬか! 今ぞ、突撃、突撃〜」
調子に乗ってブレイクが哄笑し、ゴブリンたちもニヤニヤと下衆な笑みを浮かべて、正面玄関を通過しようと押し合い圧し合いと集まる。
馬鹿なゴブリンたちは、俺たちが下がったことを全然疑問に思わないようだ。なら、反撃といこう!
すううううううう、と息を吸い込むと、満員ラッシュとなっている正面玄関へと向けて叫ぶ。
「ピギーーーーーーー!」
耳を塞ぐレベルの高音の音波がショッピングモール内に響き渡り、破壊の音波がゴブリンたちの集団を食らい尽くすように、向かっていくのであった。
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