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異世界でマーモットの王となりました  作者: バッド
1章 俺たちマーモット

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24マモ シェルターのお約束に注意

 ゴブリンから逃げてきた避難民。どうやら日本人らしい。異世界転移からたったの8日しか経過していないが、痩せ痩けた身体と脂ぎった髪の毛、泥だらけの服装を見れば、言葉にもできない苦労をしてきたとわかる。


「あ、ありがとうございます。久しぶりに温かい食べ物を口にしました。ここは食料が豊富なんですね」


 夢中になって、不精髭の男は渡されたすいとんをガツガツと食べていた。よくよく見ると、今は汚れてるし穴も開いていてボロボロだが、元は高価そうなブランドスーツであることがわかる。これまではエリートとして平和な日本で仕事をしていたのだろうに、いきなり魔物が徘徊して、いつ死んでもおかしくない世界に来たんだ。悲惨の一言でしかないね。マーモットなら、もう少し楽に生きてこれたかもね。


 今はホブゴブリンたちを倒してから、保護した避難民の話を聞くべく、食堂に俺たちは集まっていた。メンバーはマーリンこと俺と、アミ、ヴェア男爵とその配下の兵士たち数人だ。あと、俺を膝の上に乗せた幼女。


「食事中にすまない。君は一人で生きてきたのだろうか? それとも仲間もいるのかい?」


 翻訳係アミを通して、ヴェア男爵が尋ねる。その表情には生存者たちに対する心配と警戒が入り混じっている。


 それはそうだろう。この巣は今は保存食もあるし、ポップする野菜もいるが、養える人数には限界がある。一人二人ならともかく、千人とかだとこの冬を乗り越えられないと考えているのだ。なのに、助けようとするのだから、この人は善人だ。


「あ、えっとですね……。私ひと、一人です。えぇ、私は一人で生きてきました」


 気まずげに答える男に、ヴェア男爵の眉がピクリと動く。ひと目見て嘘だと分かる発言だ。しかし、ここで問い詰めても良い結果には繋がらないかもしれない。生き抜くために仲間を犠牲にしてきましたと答えられたら、どう反応すれば良いかわからないからね。


 なので、俺もおヒゲをフルンと震わせるに留める。だってマーモットは眉毛ないんだもん。


「よくぞ一人で生き残ってきました。ここは安全なので、もう安心ですよ。ゆっくりと休んでください」


「そうそう。この城は堅固でそんじょそこらの魔物じゃ、襲ってきても簡単に撃退できますからね」


「風呂はさすがにないですが、シャワー室があるので、そこで汚れをとってください。きっと疲れが取れてぐっすりと眠れますよ」


「ありがとうございます、ありがとうございます。私の名前は浦木ルオと申します。これからよろしくお願い致します」


 ヴェア男爵たちの労りの言葉に、浦木は号泣しながら、すいとんを口の中にかきこむ。その様子を見て、皆は優しく見守るのだった。


 本当に優しい人々だ。素朴で人が良い。こういう人たちだから、お互いに助け合ってこれたんだろう。


(でもねぇ……。なにか引っかかるんだ。あの時の状況は不自然に感じなかったか?)


 100人が100人優しき人たちなら、一匹のマーモットだけは疑わないといけないだろう。


「まーちゃん、もうキャベツはおしまい! 食べすぎでしゅよ。ママもペットには食べ物をたくさんあげたら駄目って言われたの。あればあるだけ食べてお腹を壊しちゃうからだって」


「ピギー!」


 優しい人々はマーモットから食べ物をとったらいけないと思います! そのキャベツでおしまいにするから、食べさせて〜。俺は極悪非道の幼女の手からキャベツを奪い返すべく、お手々をフリフリするのだった。


         ◇


 ━━深夜。見張り以外は寝静まり、シンシンと降る雪が音を吸収し、静寂が支配する暗闇の世界。


 空き室を仮宿として案内された浦木は静かに起き上がると、そっと部屋を出る。廊下は非常灯だけが壁際に点いており、ほとんど真っ暗だ。


「クククッ、どのシェルターもお疲れなのか、皆ぐっすりと寝るもんだ。こいつらには危機感がないのか? 俺なら寝ることなんてできないけどな」


 通路を足音を立てないように気をつけて歩きながら、どこの部屋も静かなことに呆れ果てたように肩をすくめる。時折マーモットがちょこちょこと歩いているくらいだ。


 助けられた時に見せていた必死になって生き延びてきた哀れみを誘う弱々しい姿はどこへやら。非常灯に照らされる浦木の笑みは酷く醜悪なものだ。


「どのシェルターも変わらない。こいつらはゾンビドラマを見たことがないのかね。平和だったシェルターは来訪者が現れることにより崩壊するものなんだよ。まぁ、このシェルターの奴らはどうも日本人には見えないところが不思議なのだが。貧相というか、古臭い服装だが、こいつらはどこから現れたんだ?」


 優しく迎え入れてくれた人々を馬鹿にして、しかし、どうも服装も言語もおかしく日本人には見えないと首を傾げつつ、浦木は暗いショッピングモールを進む。


 目的地は裏口だ。どうやらこのショッピングモールを拠点とする者たちは馬鹿ばかりのようで、門番は正面玄関にしかおらず、他の入口には誰も配置されていない。


 ショッピングモールの裏口と言っても、貨物を運び込むため、貨物を置いておくためのスペースが広々ととられており、シャッターで閉まっている。シャッターがあれば魔物を防げるとでも思って、警備も置いていないのだろうと、その平和な思考に口を歪めて嘲笑する。 

 

「この手の施設は本当に楽だ。シャッターが開き

魔物が雪崩込んだ時の奴らの悲鳴を聞くのが今から愉しみだ」


 歪んだ愉悦の笑みを浮かべて、シャッターを開閉するボタンを探す。この手のシャッターは意外と開くのにはボタンだけというものが多い。だが、しばらく調べてボタンの横に解除用の鍵穴も見つけて舌打ちをする。


「そこまでザルなセキュリティではないか。だが、鍵を探すことはさすがに不可能か。あのコスプレ騎士が持っているだろうしな……仕方ない。『マナよ、閉じたる扉を開く万能の鍵となり給え』。『開錠アンロック』」


 他の日本人が見たら、浦木が朗々と詠唱を始めたことに驚くだろう。思わず『あなた、その歳で厨二病ですか?』とドン引きし、友人なら話のネタにされて、彼女であれば実は私もオタクなのと、オタク話に花を咲かせようとするに違いない。


 だが、浦木は厨二病ではない。シャッターに翳す手のひらに回転する魔法陣が現れると、光を放ち始めてシャッターを照らす。


 魔法の一つ。あらゆる物理的な鍵を開く魔法だ。日本人ならば、そういえばそう言う魔法あるよね、うんうん、俺は古典的なゲーマーだから知ってる知ってると、TRPGを今度やらないかと興奮気味に言う人もいるかも知れない。最近流行りの異世界物はこういう魔法的な世界観を示す魔法って、出てこないよねと、ファンタジー談義に移行するしかもしれない。


 浦木は魔法の光に照されるシャッターを歪んだ笑みで見ながら、これから起こる惨状の最初としてシャッターが開くのを待つ。


 ……だが、待てど暮らせど、シャッターが開かないことに違和感を感じ、眉をひそめる。


「おかしい。シャッターなど『開錠アンロック』の前には開いた扉も同然なのに、なぜ開かない?」


 日本には存在しなかった魔法という絶大な力。世界の物理法則をあっさりとかき消す効果を持つはずなのに、うんともすんとも言わない。


「当たり前だ。そのシャッターはもうダンジョンの背景になってるんだよ。このダンジョンの入口は正面玄関一つ。他はシャッターでも窓でも開くことはないんだ。残念だったなサイコパス野郎」


 奥の通路から聞こえてくる鳴き声に浦木は振り向き━━。


「動くな! 貴様をスパイもしくは意図的なテロリストと見て拘束するであります!」


 5人の特殊部隊らしい者たちがアサルトライフルを向けながら現れる。


「ちっ、どうやら私がこのシェルターを崩壊させようとするのはバレていたようだな」


 アサルトライフルを向けられても、なおも余裕の笑みで、浦木は嗤うのであった。


           ◇


「そもそも疑問があったんだ。あんなによろよろとした走りでゴブリンたちに追いつかれてたのに、殺されないのはおかしい。ご都合主義の映画とかじゃないんだ。あんなに遅く走ってギリギリで逃げれるなんてありえないんだよ」


 マーモットはむふんと胸を張って、浦木へと告げてやる。ここにいるのは俺とガブ、アミたちマモット特殊部隊だ。こんなことだろうと密かに監視していたのだ。


 俺ことマーリンの名推理である。浦木は軽い切傷はあったが致命的な大怪我はしていなかった。その点がもうおかしかった。なにせ敵にはホブゴブリンもいたのだ。あの距離なら確実に殺されていたのに、殺されることなく逃げてきたというのは違和感を感じた。


「貴様、ゴブリンと組んでいるのでありますか? テイムでもしたのですか? 命を助けるからとゴブリンと組んだ……というわけではなさそうでありますね」


 アミがデビルアーミーたちにアイコンタクトで左右に展開するように指示を出す。デビルアーミーたちが自身の左右に展開されても浦木は、それでも余裕の笑みは消えることなく、薄笑いで肩をすくめる。


「私がゴブリンたちと? おいおい、俺があんな醜悪な化け物と組むわけはないだろう? あれは私が使役しているのだよ。ワールドスキル『聖者』の力でね。私は彼らが崇める神も当然なのだ」


 戯言を口にして、両手を広げて浦木は言う。その表情は嫌味的な傲慢なものであり、嘘をついているようには見えなかった。

 

(ゴブリンを配下にする『聖者』? ワールドスキルって、世界で一人しか取れない『ダンジョンマスター』と同一のものだろ。でもそれならなんで俺たちを襲わせるんだ?)


 俺たちが疑問に思ったことに気づき、浦木はペラペラと偉そうに話を続ける。自分がエリートであることを自慢にして自分語りをする典型的な奴だ。


「なぜ襲わせるか? だろ? そりゃ答えは簡単だ。愚かな奴らがゴブリンたちに蹂躙されて、悲鳴をあげて苦しむ姿を見るのが楽しいからだよ」


「なるほど、救いようのないクズでありますね。死ね」


 タタタタタ


 アミが容赦なく引き金を引き、アサルトライフルから金属弾が死のシャワーとなって浦木を襲う。他のデビルアーミーたちも一斉射撃を開始して、哀れこれだけの弾丸を受けては、穴だらけどころか、浦木は肉片に変わるだろうと思われた。


 キンキンキンキン


「む!?」


 だが驚くことに鉄板をも貫く威力を持つ軍用ライフルの弾丸は浦木の表皮を貫くどころか、全て弾かれて火花を散らして壁に弾痕を残す。

 

 どれだけ撃っても傷一つつけることはできない。


「驚いたかね? これは『魔法障壁』という物理攻撃を防ぐ魔法の基礎だよ。あぁ、そういえばもう一つ理由があってね。『聖者』たる私は人々の恐怖の悲鳴と絶望を吸収し力へと変えることができるのだよ。このようにな!」


『絶望の両腕』


 浦木の両腕が膨れ上がりどす黒く巨大化する。その大きさは天井につくほどで、太い血管がピクピクと蠢く姿は酷く悍ましい。


「アミ、伏せろ!」


 嫌な予感がして俺が叫び、アミがすぐさま床に伏せるのと、ほぼ同時であった。


 俺の真上を突風が吹き、浦木の両腕が伸びて通り過ぎてゆく。


「グ」


 アミ以外のデビルアーミーたちは伏せるのが間に合わずに、上半身を粉々に吹き飛ばされて、床へと下半身のみがゴロンと倒れる。人間を一撃で粉砕するとはどえらい怪力だよ、こいつ人間か?


「見たかね? これがたった1週間で手に入れた力なのだよ」


「やろう、よくも俺様の召喚獣を殺しやがったな! このガブリエルが相手をしてやるぜ!」


 テチテチテチ


 怒りに燃えたガブが2本足で走る。ちょっぴり太ったもふもふリスのマーモット2本足で走る、だ。


「ぶっ、2本足で走るマーモットだと? 笑わせてくれる! この両腕の力を受けられるか?」


 可愛さしか感じさせないマーモットを見て嗤いつつ、巨大化した両腕を浦木は振るう。だが、迫る両腕を前に摺り足で立ち止まると、ガブはユラリと手を振るう。


「柳に風。これ即ち『柳風体』なり」

 

 静かに呟くと、ガブは朧のようにゆらゆらと揺れる。ちっこい手であるのに、マナが込められた威力は小動物の枠を超えて、風に煽られても折れないゆるやかなる柳のように浦木の両腕を受け流す。


「マーモット闘法1式、マーモットクローだぜ!」

 

 そのまま両腕を畳み込むように胸に当てると、ガブはマナにて形成した長爪で浦木の両腕を切る。両腕から鮮血が迸り、苦痛と驚愕で浦木の顔が歪む。


「な!? マーモットの癖に強い? こいつ、ただのマーモットではないな!?」


 まさかマーモットに傷をつけられることになるとは思ってもいなかったのだろう。あまりにも予想外な光景に動きをとめる浦木を、ガブが鋭い眼光で2本足で走る。


「隙ありだっ! ガブ様の名前を冥土で広めておきなっ!」


 テチテチテチと走るガブ。ここがチャンスと間合いを詰めるが━━。


「馬鹿めッ、私の力がこれだけだと思ってるのか!」


『断末魔を誘う大口』


 浦木が床に両手をつけると、ガブの走る床に亀裂が奔ると、バカリと開く。


 開いた亀裂にはゾロリと生えた牙が生えており、そして亀裂から飛び出してきた大蛇のような舌にガブが絞められて━━大口の中に飲み込まれてしまうのだった。

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1月9日ルックスYの一巻発売してまーす!

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― 新着の感想 ―
ガブだけにガブr…失礼しました。次回の逆転に期待したいと思います。
この侵入者最後はガブと会話できていないかな? それとも「ピギーー」と騒ぎながら駆け寄って来たマーモットに「馬鹿め」とかカッコつけているのかな?
先ずフルネームに疑いを持てよw最も苗字だけだと人参嫌いな野菜王子声の白いms乗ってる奴にもみえるが
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