2マモ マーモットがボスと戦うのは辛い
齧歯目リス科マーモット属。俺の血筋は分からない。ニホンマーモットかな? 日本にいるかは分からないけど。
マーモットってどんな動物? と言われれば、50センチくらいの体格のリス科最大の生物だ。黒みのかかった毛皮、リスなので出っ歯のように尖った歯、可愛らしい鼻、そして、ちょっと虚無的なお目々。二本足で立ち、やけに人間くさい行動をとる、小さなおっさんとも言われる、次に来る人気小動物No.1。それがマーモットなのである!
転生したのでは? との疑問はあれだよ、あれ。炎の鳥が言ってただろ? 輪廻転生で次も人間になるのは稀だって。死んだ仏彫師は人間になれないなんて嫌だぁと悲しんでいたけど、今頃キツツキに転生して鳥生を謳歌してるかもしれん。
というわけで、俺はマーモットに転生した。このままマーモットカフェで人気者マーモットとして生きていくと思っていたんだけど……どうやら今世のマーモット生はそう簡単にはいかないようだ。
名前:マーリン
種族:マーモット
信仰している神:なし
マナ:12
筋肉11
敏捷18
器用11
魔力10
固有スキル:マ王、小動物の加護
スキル:なし
懐かしき古典的でテンプレなステータスボードが目の前に浮いていた。どうやらマーモットなのにトングを使って魔物を倒したのが高評価となって、経験値を貰えたらしい。
俺だって人間の時は異世界転生に憧れていた事があったので、ワクワクしてきたけど、今はマーモットだ。人間よりも遥かに簡単に死ぬ可能性があるので、急いで行動しなくちゃならない。
まずは固有スキルからだ。そっと空中を爪でつつくと、詳細が表示される。
マ王:マーモットの王。自己及び仲間のマーモットの全ステータスに10加算する
小動物の加護:取得経験値10倍、ステータスボード閲覧と操作。スキル手動取得、スキル効果アップ、無詠唱
「マーモットの王!? え? 俺が? ……マーモット王かぁ、てへへ」
マーモットの王、略してマ王になっていた。やはり王と名のつくのは浪漫あるし、テレテレとちっこい手をフリフリと振って照れてしまう。でも、その効果なのか、このステータス。効果が付与されてなかったら、ゴミステータスだな……。
にしても、ヒットポイントの表示がないのは、首を切られたり即死攻撃があると死ぬからかな? そうなると表示なんて意味ないもんな。
「で、次は小動物の加護か……取得経験値10倍はありがちなチート級だけど……ステータスボード閲覧と操作? スキル手動取得? 無詠唱はマーモットは言葉を喋れないからだろうな。にしても、ステータスボード閲覧と操作?」
ひやりと背筋が冷える。小動物のために強力な加護がついているのは分かる。というか、小動物でステータスボードを閲覧できる奴が俺以外にいる予感がしない。これ、酷い加護だ。小動物がステータスオープンなんて、普通思わないよ!
前世は人間だからこそ、このステータス表示を理解できる。日本語で書いてあるしね! 小動物は一切わからないだろうよ! ということはスキル手動取得も使えない事となる。ステータスボードを閲覧できないからな! そうなると経験値も死ぬしスキル効果アップも意味がない。自動取得のほうが遥かにマシである。小動物にとって、この加護はまったく意味ないよ!
加護の悪辣さをひしひしと感じつつも、まずはスキル取得だ。なにせ、スライムが出てきたし……それにあいつらを放置できん。
ちらりと仲間を見ると━━。
「なんか力が強くなった感じするな?」
「ふふふ、たしかに。これなら回し車をもっと回転させられます」
「ねぇねぇ、藁を敷き詰め直すの手伝いなさいよ。もう昼寝しましょ」
「うん。ご飯の時間まで寝よ〜」
目の前の危機が無くなった仲間たちは、昼寝の準備をしていた。せっせと藁を敷き詰め直して、皆で寝るつもりだ。全ステータスが上がってるのに行動は変わっていなかった。放っておくと、すぐに死んじゃいそう。
「とりあえずスキル取得。……んん?」
『信仰する神によって、取得可能なスキルがかわります。信仰する神を選んでください。一度選択すると原則変更不可です』
と表示されて画面が遷移する。ふむふむ、神によって取得スキルが変わると。慎重に選ばないといけないな。ゲーム的なシステムで少しワクワクしちゃう。
そして、ズラッと神々の名前が……。
『適当神ハルカ』
んん? ページをめくるボタンあるのかな?
なんか1個しか出てこないので、バグかなとペシペシとステータスボードを叩くけど、何も起きない。しつこく爪でペシペシ叩いてるとログが表示された。
『マーモットに信仰されるのは嫌だと多くの神々が断りました。マーモットは可愛いよねと残ったのだけを選んでください』
「選べないよ!? なんか1人しかいないよ? ぐぬぬ、仕方ないか。マーモットだもんな。可愛いのに……可愛いのに!」
うぅ、種族差別反対。マーモットに信仰されても良いじゃん!
『適当神ハルカ:全ての神々のスキルを取得可能。ただしそのスキルの効果は70%となる。教義は適当に生きていこう』
おおっと……予想外に良い神様だ。聞いたことない神様だけど。
「効果が落ちてもマーモットはスキル効果の加護があるから、ペナルティにはなり得ない。いいね、この神様! もしも多くの神々が表示されていたら反対にスルーしてたかも! よし、適当神ハルカ様。マーモット王たるマーリンが貴方を信仰します!」
もうマ王としてノリノリのマーリンである。へへーと平伏して、お祈りするので、本当にマーモットかと、人間が見たら目を疑うだろう。
『適当神ハルカを信仰することとしました。スキル取得可能です』
やった。これでスキルをおおぉぉぉ!?
スキル一覧が表示されたが、大量に表示された。しかもページがあって、その桁が10桁ある! 神々の持つ全スキルとは伊達ではないらしい。
「こんなにあると、なにを取れば良いのかわからないじゃん! ええっと鑑定スキル!」
『そんなスキルはありません。共通認識が違うので結果が変わります』
「あ、そうですか。すいません、はい」
ダメ元で話しかけたら、なんか辛辣な答えが来たよ。AIアシスタント搭載のステータスボードだったか。たしかに『鑑定』は共通認識が無いと不可能だ。マーモットだって、『黄金を掘るアリ』とか呼ばれるしね。人によって名前は違うんだ。
「なら、それに近いスキルをください!」
『経験値一万を消費し、固有スキル理解を取得しました』
『理解:見たものを理解する』
「えぇぇぇ! ちょっと、選択の余地なく取得しないで! せめて考えさせてよ」
し~ん。
慌ててキャンセルしようとするけど、ノーコメント。無視である。AIアシスタントに頼ろうとしたのが間違いだった。しかも固有スキルって一万ポイントも使うの!? このスキル役に立つんだろうな!
「通常スキルは千、固有スキルは一万か……。なら次は攻撃スキルを取得しないと詰むぞ。マーモットだし」
慎重にしないとと、ゴクリと息を呑む。こういうの苦手なんだよ。セーブ画面はないかな? 取得して使えなかったら、ロードするんだけど……。
たくさんあるので、反対に選択できない優柔不断なマーモット、マーリンである。ウ~ンと悩むけど、時間はマーリンを待っていなかった。
「ピギー! この野郎、またでやがったな!」
ガブの警告音に似た鳴き声が聞こえてハッと気を取り直す。見ると、新たなるスライムが次々と這い出てきていた。出てくるのは隣の部屋からだ。たしか厨房だったはず。
マーモットの鳴き声は警笛に似ていて、極めて高音なのだ。その鳴き声を聞いて、他の皆は避難する。でも、その鳴き声に敵は集まってくるんだよね……。
「というか、まった、ガブ。また同じ結果に……」
「オラァ、オラァオラァ! 俺様の歯の力を見せてやるぜ!」
ぷにょんと包まれると慌てるけど、意外なことに覆われてもガブは力強く跳ね除けてカプリと噛むと、あっさりと核を噛みちぎる。さっきまでの苦戦が嘘のようだ。
「あ、これ美味しいぞ!」
そして、くるみでも食べるようにカリカリと核を食べ始めちゃう。大きいリスなのでくるみは大好きなのだ。
その様子を見たルーたちも、震えて隠れていたのが嘘のように、テテテテと走ってくる。
「ふっ、どうやら僕の出番のようですね」
「もぉ~、毛皮が荒れちゃうわ」
「え~い!」
そして、ルーたちもスライムたちに猛然と襲いかかり核を噛みちぎっていく。マーモット無双だ。これ美味しいとカリカリと食べては、次のスライムに襲いかかっていた。どうやら食べ物だと認識したらしい。
「そういえば、ステータスが十倍になったからか」
スライムの大きさは直径1メートルくらい。さっきガブは弱いステータスで耐えていたところを見ると、その拘束力は弱いのだろう。スライム最弱とは本当だったようだ。
「というか、俺も核を食べたい! けど一応『理解』発動」
『どうやらスライムを形成している核のようだ。マナの塊のため、食べてもマーモットへの害はないだろう』
おし! 食べても大丈夫そうだ。理解って鑑定っぽい能力なのね。
マーモットの虚無の瞳をキランと輝かせて、スライムに突撃。顔を突っ込んで核を噛む。さっきまでの反発がほとんど無いように感じ、核もプチュンと潰せた。カリカリと齧るとたしかにくるみの味がする! 美味しい!
俺もマーモットとなったのだ。食べ物もマーモットの舌になったんだよ。
スライムを夢中になって食べてると━━。
「ピギー! なんか嫌な匂いのスライムいるよぅ。隠れよー!」
「隠れるのか!」
「ふっ、急いで巣穴に隠れましょう」
「もぉ~、面倒ねぇ」
もっとスライムを食べようと、厨房に忍び込んだミカが警告音を出して走り抜けていった。ルーたちはその警告音を聞いて、隅っこに集まりお尻をフリフリ振って、隠れたつもりになってる。……うん、マーモットだからね!
そして、厨房からは……ヘドロのような臭いがする巨大なスライムが這い出てきた。二メートルはあるだろうか。這った跡の床から煙が出てる。
『悪意とマナが融合し、魔物を生み出すボススライムが生まれたようだ。酸性の粘体を持っている模様。ブラックスライムと名付けました!』
『理解』が敵の正体をすぐに教えてくれる。けどこれだけ教えてくれるなら、もう鑑定スキルでも良さそうな……。っと、それどころじゃないか。
「えぇぇ、いわゆるボスってやつじゃん! 俺マーモットなんだけど!? とても弱いのに!」
ジリジリと近づいてくるブラックスライムを前に、両手を掲げて睨みつける。
「ピギー!!!」
仕方ない。マーモットの決闘を教えてやろう。
マーリンは声高に叫ぶとブラックスライムと対峙するのであった。
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