19羽 とあるホームセンターの出来事
そこはどこにでもあるホームセンターであった。つい四日前までは、広い敷地に日用品や日曜大工の工具、家庭菜園の用具や種、家具やペット用品が棚に並び、多くのお客で賑わっていた。
しかし、その優しく平和な光景は打ち砕かれて、おびただしい死体が転がる凄惨な世界へと変貌していた。
転がる死体は人だけではない。犬の頭を持つ魔物コボルド、人の頭を一口で噛みちぎることの出来る人と同じ大きさを持つコオロギと、他にも異形の化け物たちの死骸も転がっていた。
その中で、血溜まりに倒れる男を静かに見下ろす男がいた。シワ一つない白い海軍服と海軍帽を身に着けて、水面を思わせる静かな面持ちで立っている。
「主人よ。貴方は立派な方であった。世界で唯一のワールドスキル『融合』を持ち、信頼できる相手と融合することにより、乗算された身体能力と、2人分のスキルを扱えるようになった貴方は世界最強になり得る力をお持ちでした」
追悼の言葉を淡々と口にしながら、帽子を外し礼をする。
「ですが、王は前線で戦うべきではありませんでした。本来の使い方は融合時に相手の力を引き出すに留めておくべきだったのです」
帽子を被り直すと、男は意思を断つように悲しげに言う。
「貴方は王の器ではなかった。チート無双と調子に乗って、戦うべきではなかったのです。後方で指揮するだけに留めておけば問題なく貴方はこの世界を手に入れることができたでしょう。とても残念でなりません。ですがこの3日間、貴方から貰ったこの力と知識は活用させていただきます」
隙のない堂々たる態度で。
「短い間でしたがありがとうございました。貴方のことは我らが語り継ぎましょう。敵討ちも含めて」
軍帽の影から射貫くように鋭い目つきを覗かせて。
戦死した同胞を悼む軍人がそこにはいた。
そして、その目は前へと向く。
「待っていただきありがとう、敵とはいえ、感謝の念を贈る」
その瞳には、死した主人を殺した者が映っていた。
「で、で、で。気に気に気にするなよぉぉ。私はやさしししいいからなぁ。なにせせせ、趣味は日曜大工ぅぅぅ。日曜大工をする者は、心に余裕があり、やさしいんだよぉぉ」
体を傾けてヨタヨタと立っており、どもった口調の声音。それだけなら怪我でもしているのか、それとも酔っているのかと他人が見たら思うだろう。
しかし違う。誰が見てもその男は違った。枯れ木のように身体は痩せており、その身体には何本もの木材が釘で打ち付けられて痛々しい。左手は存在しなく、その代わりに釘打ち機が取り付けられており、右手はノコギリとなっている。頭は髪の代わりに折れた釘がびっしりと生えていて、目玉の代わりに、ハンマーが枝のように瞳から生えていた。
異形。悪夢を組み合わせて作り出したような化け物がそこには存在していたのである。
「だ~い。DIY〜。DIE〜。俺は優しいスーパーダーイ。日曜大工はお手のもの〜。邪魔をする奴は優しくDIE」
音程の外れた歌を歌い、異形はカクカクと身体を動かして嗤っていたが、ピタリと動きをとめると唐突に叫ぶ。
「日曜大工は時間の無駄ぁ? 作る時間よりも買った方が早いいいぃ? 綺麗だし安いィィィ? そんな時間があれば、家族サービスをしろぉぉ? ゴミはどうするのぉぉぉ? うっせーーー! 趣味なんだよぉぉ、趣味に時間をかけるのは当たり前当たり前当たり前だろぉぉ? そそそれを邪魔する奴は俺様の日曜大工の材料にしてやるのさ。そこのの死体もこの俺の作品に加えてやるから安心しろよぉぉ。渾身の墓を作ったんだぁぁ」
そして異形の後ろには積み重なったたくさんの人の死体があった。恐怖の表情を浮かべて死んでおり、木材を打ち付けられて無理矢理組み合わされている。異形は誇らしげに胸を張る姿も合わさって酷く悍ましいオブジェクトと化していた。
「ふん、ご厚意に感謝すると答えれば気が済むのか? だが、主には返しきれない恩義がある。私が丁重に葬るつもりだし、そもそもそのガラクタを墓と呼ぶ者は誰もいないだろう」
「ななな、なにを言うんだ? 日曜大工で作った物は良い物なんだよぉぉ。この良さをお前にもも教えてやるぜ、このスーパーダイがよぉぉぉ!」
「よろしい。ならばこのテセウスがお相手しよう。主人の敵討ち、させてもらう」
冷静なるテセウスと、激昂し身体を震わすスーパーダイ。お互いの視線がぶつかり合い火花を散らす。
「いいいだろうう。だが、フュージョンしても敵わなかったのに、この俺様に勝てるか? フュージョンが解けたてめぇぇなんざ、雑魚なんだよぉぉ」
「果たしてそれが正しいのかは、結果が教えてくれるだろう」
嘲笑うスーパーダイ。さっきまでテセウスと主人は融合しており、加算された身体能力は数倍の力を発揮できた。それでもスーパーダイに勝てなかったのだ。しかし、テセウスの冷たい表情は変わることなく懐から金色の懐中時計を取り出すと、チャラリとスーパーダイへと見せつける。
「三分。貴公に対して三分の攻撃を許そう。私は一切反撃をしないので、せいぜい頑張ってみてくれ給えよ」
そうしてテセウスはカチリと懐中時計を押すと、カチカチとやけに大きな音を立てて秒針が動き出す。
「おももしれえっ! お前も材料にしてやるよぉぉ!」
スーパーダイはその余裕が気に食わなかった。もはや数段身体能力は落ちており、命乞いをしてしかるべき相手なのに、恐怖の表情を浮かべるどころか、見下ろしてくるような物言いなのだ。その偉そうな態度を恐怖に変えてやるべく、片手を突き出す。その手についているのは釘打ち機だ。
「エアプレッシャーァァァ!」
空気圧で吐き出される無数の釘。本来の釘打ち機とは違い、マシンガンのように威力は強化されており、先端の尖った釘はギラリと光り、本来の用途とは違う、生命を刈る兵器としてテセウスを狙う。
その攻撃は先ほど、テセウスの主を慌てさせ、その動揺から命を喪った原因となる物であった。テセウスの主は銃モドキが使われるとは予想もしておらず、融合にて上昇した身体能力にて、無駄に飛び跳ねて釘を躱し、その隙を狙われて命を落としたのだ。
スーパーダイは先ほどよりも衰えた敵のため、釘だらけの死体となるだろうと考えていたが━━。
フッと、テセウスの姿が消える。消えた空間を通過して、釘が棚を粉々に吹き飛ばし、テセウスは数メートル離れた場所に立っていた。
「なにっ!? なんだ今のは? さっきも俺様の視認ができねぇ程の速さじゃなかったのに、見失っただとぉ?」
「ふむ、未だに勘違いをしているようだから教えてやろうではないか。『融合』は2人の力を乗算して、なおかつスキルなどの知識も共有する強力無比な固有スキルだった。しかしながら、スキルの知識を得ても使えるとは限らないのだよ。我が主はその点が分かっていなかった。知識の書かれた本を手にしても、読まなければ使えないのだよ」
「くっ、なら今はスキルを使えるってことかよぉぉ! 無駄な足掻きをっ!」
答えるテセウスをスーパーダイはさらに狙う。
タタタタタ
釘打ち機の軽い震動で腕を震わせながら釘を撃ち続ける。だが、テセウスに命中しそうになると、その姿が消えて、棚を壊すだけに終わってしまう。
「こ、この野郎。材料の癖に。材料が避けるなぁぁ」
むきになって撃ち続けるが、放たれた釘はテセウスに一本たりとも命中することはなく、虚しく棚を壊していき、木屑が空中に舞い散るだけにとどまってしまう。
「な、ならこれはどうだぁぁ! ノコギリで真っ二つにしてやるよぉぉ」
ノコギリの右手を振り上げると、マナを集中させていく。ユラリとオーラがノコギリを覆い、巨大化させていく。
「だ~い! 店舗斬り〜!」
横一文字に振られたノコギリ。ノコギリから発せられたオーラは刃となって、スーパーダイの視界にある物を全て両断していった。ザンッと全ての棚が切断されて、崩れ落ちてゆく。
「やったか!」
「いや、やってはないな、スクラップよ」
後ろから声をかけられる。スーパーダイの動体視力をもってしても視認できない速さ。その声に振り向くと同時に、スーパーダイは勝負をかける。
スピードではない。何かしらのスキル。
「だが逃げ惑うだけのスキルと見た! なら、俺様のぉぉ、必殺の日曜大工ぅぅ、組み立てよ、俺様お手製の牢獄を喰らえぇぇぇっ!」
スーパーダイの身体に張り付いていた木材が解き放たれて、テセウスの周りへと展開する。空を浮く釘が木材を打ち付けると、瞬きをする間に牢獄へと早変わりするのであった。
『ウッドボックスプリズン』
「俺様の汗と涙と人の血で練られたこの木材にて作られた牢獄は空間移動を無効化するぅぅ! どんなスキルかは知らないが、その図体で、もはや逃げることはできねぇぇぞぉ!」
言葉の通り、テセウスは完全に拘束されていた。その体格では見動きも難しく、逃げようにも牢獄がスキルを無効化する。
「ほぅ、やるな、スクラップ。予想以上に手札が多くて感心したよ。褒めてやろう」
「褒めてももうおせぇぇぇ! これでおしまい、ぺしゃんこのミンチになりなぁっ! ツインハンマー解放ッ!」
目に生えたトンカチが風船のように膨らみ巨大化すると、スーパーダイは空へと飛び上がり、胸をそらす。
『ダダンクラッシュ』
そうしてヘッドバットをするように、落下をしながら牢獄へと巨大化したトンカチを振り下ろすのであった。牢獄は砕かれて、内部をめちゃくちゃに潰し、地面にクレーターを作る。
「勝ったァァァ! 第一部完っ!」
砂煙が舞い散るなかで、勝利の雄叫びをあげるが━━。
「残念だったな、勝利を宣言するなら遺体を確認しないといけない。戦闘の基本だ、スクラップよ」
砂煙の中からテセウスの声が響き渡る。
「ば、馬鹿なっ! 今のは会心の一撃! 回避不能の必殺技だったはず!」
「その牢獄は出来が悪い。所詮は日曜大工品というところか」
「そんなはずはねぇ! 逃げられるはずが━━はぁっ!?」
砂煙を掻き分けてテセウスが姿を現すと、スーパーダイは言葉を失う。
なぜならば
「その牢獄、うさが抜け出れる隙間があったうさ!」
ペタペタと足音を立てて現れたのは小兎だった! 白い軍帽を被り、腰にはフリントロック式古式銃を下げている。もふもふな純白の毛皮と赤いつぶらな瞳が可愛らしい小兎だ。
木造の牢獄の隙間は小動物なら充分にすり抜けることの出来る幅があったのだ! なので人化を解いて、隙間に体をねじ込んで脱出したテセウスである。
「お、お前、人に化けてやがったのか! さてはその男の使い魔だったな!」
「その予想は当たっておる。しかし慧眼は戦闘でこそ使うべきだったな。さて、三分経過した。貴公のターンは終わり、残りは私のターンとなる。発動せよ、『弱者の懐中時計』よ!」
いつの間にか三分経過していた懐中時計。その秒針が反時計回りに高速で回っていく。
それとともに、フリントロック式古式銃が膨大なオーラに包まれて、異様な空気を醸し出していく。
「な、なんだぁ、それは? その時計はなんなんだよぉ」
明らかに不審な懐中時計を見て、知らずに後退るスーパーダイを鼻をヒクヒクさせて嗤い、テセウスはフリントロック式古式銃をスーパーダイに向ける。
「この『弱者の懐中時計』は攻撃された時間を全てエネルギーとして集約させ一撃へと変える。貴公は私と戦うのではなく、後ろを振り返ることなく、逃げるべきだったのだよ」
「騙しやがったな! なにが攻撃をしないだ。そ、そんな物が……そんな物がぁぁ!」
対抗するべく釘打ち機を向けようとするスーパーダイだが、その動きは遅すぎた。
「戦闘は最大火力の一撃があれば十分なのだよ」
引き金を引かれたフリントロック式古式銃は眩い閃光を放つと、極太の白光を放つのであった。その光は釘打ち機から撃たれた釘を溶かし、スーパーダイをも吹き飛ばす。
「ウサギも捕まえられる牢獄を作るべきだったぁ」
スーパーダイは光の中で消滅し、店内は貫通し壁も溶かし、ポッカリと大きな溝が残されるのであった。
「『テイマー』と『融合』で知識を教えてくれ力をくれた偉大な主人よ、この先はこのテセウスが王となろう。草葉の陰から応援していて欲しいうさ。きっと主人が偉大であったと知らしめるうさよ」
フリントロック式古式銃の銃口をフッと息で吹くと、テセウスはぴょんぴょんとペットコーナーへと向かうのだった。
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