18マモ マーモットは社会性のある小動物
ショッピングモールダンジョンは攻略を終えた。初めてのダンジョン攻略であったが、犠牲者ゼロで攻略できたのである。そもそも攻略したのはマーモットで、人間はゼロだったので、元々人間の犠牲者はゼロであったというと、マーモットの権利をと抗議される可能性もあった。
━━そして、夜が来た。ピギー!
◇
安全となったショッピングモールは夜が来ても騒がしかった。なぜならば、ショッピングモールはダンジョン化が解けてようやく安全となったからだ。
しかも、物資が避難民に対して配られていた。食べ物や衣服、そして、ショッピングモールの店舗を仮宿とするべく、割り当てをしたりと、忙しい。
しかしながら避難民は久しぶりに安全な場所で寝れることと、食べ物が食べられることを喜び、忙しさなど感じておらず、笑顔で働いている。
「これはダウンジャケットか。これほど高価なのものをもらえるなんて思いませんでした」
「お湯を沸かさないと。お水をいただきます」
「竈はどこに作る? やはり外が良いか」
「安全のために、見回りの順番を決めるぞ」
アミと愉快なマーモットたちは攻略したショッピングモールダンジョンの資源を惜しむことなく配布している。避難民約200名はインスタント食品や衣服を順番にもらっており、横に浮いている水精霊が生み出す水を汲んで、取り敢えず餓死の危険は去っていた。
ヴェア・ベドリバント男爵はその様子を見て、安堵と共に気まずげにしていた。
「ありがとうございます、アミ殿。領民に代わって感謝を。このまま、寒空の下でいたら凍死者や餓死者が出ていたことでしょう。ダンジョンの所有権は帝国では、攻略者の物と決まっております。なのに見返りなく物資を配布してくださるとは、感謝の言葉もございません」
深々と頭を下げて、ヴェア男爵はアミにお礼を言う。男爵として、自分の領民を守ることができたのは、全てアミ殿のお陰である。アミ殿が助けに来てくれなかったら、ゴブリンの襲撃で命を落としていたかもしれなかった。
「お気になさらず。我々は自分たちの取り分は既に集め終えています。残りを捨てても仕方ありませんし、人々を助けるために配布しても構わないであります」
「ご謙遜を。本来は確保したままでも問題はありません。貴女の善意は皆が知ることでしょう」
ひらひらと手を振って、適当に受け流す美女の表情は本当に気にしていない様子で、その無愛想な態度とは裏腹に、彼女はお人好しなのだろうと思う。━━そして、凄腕の魔法使いだ。
「では、私も食事にしたいと思いますので失礼します。また明日に話し合いをもてればと存じます」
丁寧に頭を下げると、その場を辞して家族の持っている集団に移動する。このショッピングモールはそもそも床で焚き火をできるような建物ではないため、瓦礫を集めて上手く竈にして火をつけている。
「おかえりなさい、あなた。ちょうどインスタントラーメンができたわよ」
「すまないな。暖かい食べ物は3日ぶりだ」
妻が差し出すどんぶりを受け取り、熱々のインスタントラーメンを啜る。火をつけていても寒く、凍える環境で熱々のラーメンは身体を温めてくれて、ほぅ、とため息を吐いてしまう。
「うん、美味いな。これが日本のインスタントラーメンか。帝国のインスタントラーメンよりも味が濃いか」
「パパしゃん、インスタントらーめんおいちーよ。まーちゃんもインスタントらーめん食べうかなぁ?」
「あのリスは食べないかもしれないぞ、ニニー」
久しぶりの温かいご飯に、箸を鷲掴みにして夢中になってラーメンを食べるニニーヴの頭を優しく撫でる。アミ殿の助けがなければ、体力のない子供たちが危なかった。
「これはなんと読むのだろうな。日本語を学ぶ機会などなかったが、インスタントラーメンの味は日本の方が遥かに洗練されている」
塩味のインスタントラーメンに舌鼓を打ちつつ、帝国製と比べる。十年に一度日本人を召喚していただけあって、帝国はかなり日本ライズされている。インスタントラーメンなども普通にあるし、食べたことも数回あったため、驚くことはない。
「……」
無言でインスタントラーメンをすすりながら、離れた場所でピギーピギーと鳴くマーモットと戯れているアミ殿を見て、小さくため息を吐いてしまう。
ヴェアはなぜこの異変が起きたかを正直に説明した。そこに嘘はない。だが、全てを説明していたわけでもなかった。
日本人を大勢召喚しようとした。そこに嘘はないが、真実は少し違う。正確には、全ての日本人を召喚する予定だった━━だ。
パンデモニウム帝国は大きな勘違いをしていた。日本人は少数民族で小さな島に住んでいるとの情報から全ての日本人を召喚することを皇帝陛下は決めたと伝わっている。一万人か二万人。多くてもそれくらいだと予想していたのである。
そして、召喚された日本人は大陸各地の街に振り分けて召喚するため、各地の領主はしっかりと準備をすることと勅命が下っていた。
日本人の力と血を帝国に組み入れて、さらなる力を手に入れる計画だった。婚姻により魔力量は増え、固有スキルにより、強くなる。一つの民族を手に入れての壮大な計画であったと言えよう。
しかし、ヴェア男爵は気楽なものであった。事前情報では伯爵以上のレベルの街に振り分けられると聞いていたのだ。溢れても子爵の街に召喚されて終わりだろうと言われており、領民が二百名程度の男爵の中でも最底辺のヴェア男爵領には縁はないと考えていた。
自分たちには関係ない話。あるとしたら寄親の伯爵たちの結婚式などが増えて、お祝いの品を贈るための費用に頭を痛めるだけのはずだった。その程度の認識だったのだ。
(だが違った。恐らくは我々の考える少数民族や小さな島と、日本人の認識している内容に大きな誤差があったのだ)
三日前、ほとんど娯楽らしきものがない男爵領なので、お祭りよろしく、屋敷にある通信用水晶前に、領民全員を集めて見学していた。
そして、起こったことは━━。
召喚が発動してすぐに召喚を行っていた皇帝陛下や皇子たちや宮廷魔法使いは歪んだ空間の渦に飲み込まれて、消滅するのが見えた。そして、大きな壁が全てを押しつぶす光景が映り、次の瞬間に恐らくは世界が震動した。その震動により最新の魔道具に使用される魔法水晶は粉々砕けてしまった。遠く離れた辺境の男爵領にまで、その震動は届いたので、逃れた場所はないだろう。
屋敷はビルに押しつぶされて、急いで外に出ると村は家屋も畑もほとんど潰されており、ビル群に覆われていた。もしも領民が屋敷に集まっていなければ、きっと多数の死者が出たのは間違いない。
(辺境の男爵領でもこうなのだ。恐らくは帝都も高位貴族の街も全滅している可能性がある。きっと日本人は帝国人と同じくらい、いや、それよりも遥かに多い人口だったのだ。しかし、このようなことをアミ殿にはとてもではないが言えぬ。一つの民族を拉致しようなどと、確実に怒りを買う)
今だって怒り狂ってもおかしくないのだ。それなのに食料や衣服を配布してくれる優しい女性なのである。ここでそのような話をする勇気はなかった。
(それに日本には魔法が存在しないとの話も平民たちが知らなかっただけなのだろう)
アミ殿は銃を持っている。だが、あれが銃ではないことをヴェアは知っている。
━━なぜならば、この世界は日本とは法則が異なるからだ。
日本人の口にする知識の中でも有名なのが『火薬』、『電気』、『石油』の取り扱いだ。それらを使う品々はたしかに素晴らしい。
銃があれば魔物を簡単に駆逐できるし、『電気』があればネットワークも形成しやすく、パソコンなどの使用も可能だ。そして石油やガスなどがあれば自動車を始めとする様々な物を作れる。
ヴェア男爵は『日本人』の知識の一つとして、子供の頃に教わった。この世界においては『誤った知識』との内容で。
まずは『火薬』。火の精霊の餌として有名であり、火属性の魔物の餌にもなり、火薬を作ればすぐに火の精霊により爆発するので使えない。
『電気』は一定の帯域を保てなくては使えないが、雷の精霊やイタズラ好きの妖精、そして空中に存在するマナにより、常に変化しているため使えない。無線も同じだ。なのでパソコンなどは作れなかった。辛うじて通信水晶や記憶用水晶などは作られたが、一つが貴族の屋敷程の値段もするため、普及には程遠い。
最後に『石油やガス』は死せし者の瘴気が存在し、周囲の死者をアンデッドにしたり、器物を魔物化させたりするため、そもそも禁制の物であった。魔法水晶を使用して似たようなシステムで作った自動車や飛空艇はあるが、高位貴族でもなければ手に入れることもできない。
なので、日本人が自慢する武力は何一つ使えない。━━筈であるのに、アミ殿は銃を使用し、自動車を使用している。そして、銃にも自動車にも薄っすらとマナを感じることから、『火薬』や『ガソリン』を使わず、マナを使用する魔道具なのだろう。
今まで召喚してきた者たちは平民と聞いている。きっと力ある貴族たちは、魔法を使っていたのだ。そして、彼女はその中でも強力な魔法使いに違いない。その証拠は『銃』だけではなく、『帝国語』も流暢に使えることからも分かる。恐らくは『言語読解』の魔法を使用しているはず。
この3日間で、時折日本人の避難民と遭遇したが、誰も『帝国語』を話せないで、離れていったことからも、彼女の素性は大体推測できていた。
なので、騙している感じもして罪悪感は沸くが、家族や領民を守るためにも、怒りを買うわけにもいかないので全てを伝えることはできなかった。
「夜も寒くなります。バギーは暖房が効いていますので、子供たちだけでも車のなかで寝るようにお勧めするであります」
「それは願ってもない。ありがとうございます。この寒さでは寝るのもきついですからな」
突然アミ殿に声をかけられて、ビクッと肩を震わせつつも、礼を言う。バギーの後部が開いており、マーモットたちが体を寄せ合って寝ているのが見えた。
「ニニーはまーちゃんとねりゅね! きゃー、あたちも混ぜて〜」
ニニーヴが大興奮でバギーによじよじ登り、身体を寄せ合って寝ているマーモットにダイブする。ピギーと鳴くマーモットを気にせずに隙間に入り込み、マーモットを抱くと、嬉しそうに寝始めるのであった。
子供のことまで気遣ってくれる善良な女性に、ますます感謝をするヴェア男爵であった。
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