15マモ ルールを決める時は抜けがないかご注意を
このショッピングモールダンジョンのルールは人間相手ならば、さぞかし強力なルールであることは、想像に難くない。
問題はルールを狭めすぎて『人』を対象にしたことだ。たぶん人族系統はカバーしてるのだろう。エルフとかドワーフとかハーフリングも。
でも、残念かな、マーモットとマ族は獣類に入るのだ。そのため、ルールの対象外となって、ダンジョン側としては、デメリットだけ残ってしまった。人に見られていないため、紙装甲の魔物ばかりとなったのである。
なので、俺たちにとっては非常に相性の良いダンジョンとなっていた。
「おらおらおら! まもまもまも!」
「射殺するであります」
群れをなして襲ってくるマネキちゃんたち。マネキンたちが走る様子はシュールであり、ホラー映画並みの怖さを見せている。
タタタ、タタタタタ
しかし冷静に銃を撃ち続けるアミの前に次々と砕けていく。アサルトライフルの弾幕は強力だ。紙装甲では耐えられないどころか、貫通して後ろのマネキンすらも粉々にする威力を持つ。しかし、ショッピングモール内なので、アミの弾幕を抜けて、こちらへと迫る敵もいる。それらは俺の相手だ。
二つ足で立ち、短い足を摺り足にて滑らせると、肉薄してくるマネキちゃんへと爪を繰り出す。狙いはマネキちゃんの脚。抵抗感なく爪は突き刺さり、発泡スチロールのように砕け散った。
「はあっ!」
ピギーと鳴くと、倒れていくマネキちゃんの横を通り過ぎ、次のマネキちゃんへと向かう。
「カエカエカエ」
よく分からない鳴き声を上げるマネキちゃんがナイフで突き刺そうとするが、その速度は遅すぎる。攻撃される前に飛び上がると胴体へと蹴りを喰らわして打ち倒す。
「楽勝だ。この俺の動きについてこれないだろ!」
スタッと床に飛び降りると、鋭い爪を光らせて、ユラリと手を構えて嗤う。凶暴なるマ闘士マーリンだ。
傍目から見たら、2本足で立つマーモットが前脚をゆらゆらと上げてラブリーにしか見えないがマーリンの脳内では凶暴なる戦士に変換されていた。
ルール外の敵には数で押してくるようで、マネキちゃんたちは数百匹と駆けてくるため、アミが銃弾が尽きてリロードをする隙を狙い、ケラケラと嗤い、殺そうと迫る。
でもそうはいかない。アミは倒されると初期化されてしまうし、もう大切な仲間なのだ。群れをなして暮らすマーモットには仲間はとても大事なのだ。
「近づけさせるかよ。マーモットの真価を見せてやるから、光栄に思えよ!」
後ろ脚に力を込めて、前脚をつけると猛然と駆け出す。マーモットの真骨頂、それは四つ足でこそ、その速さを発揮できるのだ!
「2本足の時は技を。四つ足の時は力を。マーモットの恐ろしさ、とくと味わえ! 四つ足闘法一式突撃!」
グンと加速されて、俺は敵の集団に突撃する。人を超えたステータスが小さな身体に凝縮されて、その走りは風となった。
テテテテテテテテテ
可愛いマーモットの走り。しかし、その走りはチーターもびっくりするほどの速さで、肉体は凝縮された筋肉と魔力障壁の防壁の力で、鉄塊よりも硬い。
ピギー
一声鳴くと、マネキちゃんに突進する。マネキちゃんの足を抵抗感など感じずに砕き、右前脚にて踏み込み鋭角に曲がると次のマネキちゃんを砕く。
(速いし、強い! 俺はこんなに強くなったのか。ガブが大剣をまともに受けても傷一つ負わなかったことと、大剣ゴブリンとの戦闘では苦戦らしい苦戦はしなかったから強いとは思ってたけど、ここまで強くなってたのか)
全力で走ることで、ようやく自分の体の強さに気づいた。頬が風圧を感じ、ぷよぷよの毛皮が押される。
マネキちゃんがナイフを突き出すが、その動きがはっきりと見えていた。ナイフを振り上げるところから、突き出すところまで。その軌道すら理解できる。
(遅い。敵の動きがスローモーションに感じる。これがゾーンとかいう、プロスポーツ選手が入る世界か)
ノロノロとしたマネキちゃんの攻撃。掠ることすら許さずに、テチッテチッとステップを踏み躱しながらマネキちゃんを砕いていく。
まぁ、マネキちゃんの動きは実際に遅いんだけど。
考えて欲しい。マーモットは四つ足走行となれば背丈は十センチほど。人間の大人と同じ背丈のマネキンの攻撃はナイフのみ。
その場合どうするかというと、腰を屈めてしゃがみ込んでナイフを振るうのだ。そんな腰に力の入っていないヘロヘロの攻撃が矢のような速さで走るマーモットに命中するだろうか。
否、否である。達人だって難しいだろう。しかも鉄塊のような硬さ。ボーリングのボールが飛んでくるようなもので、マネキちゃんは哀れボーリングのピンのように倒されてしまうのだった。
マネキちゃんの強みは、他の魔物と違い、痛覚はなく、恐怖を感じることもないところだ。自身が傷つくことを恐れずに、命取ったらぁと攻撃してくるので、ベテランの戦士すらその攻撃を防ぐことは難しい。
しかしその程度の利点では、マーモットの利点には勝てない。通り過ぎてゆく暴風の如きマーモットはマネキちゃんをスクラップへと変えてゆく。砕いたマネキンたちの残骸が通路を埋め尽くし、━━十分も経たずに、300匹近い魔物たちを俺たちは殲滅するのであった。
◇
「お見事です、ボス。敵の殲滅を確認しました。ここらへん一帯の敵は全滅したと思われます」
『ありがとう、アミ。でもこれは相性が良かったからであって、本来はここまで楽勝じゃなかったかもね』
マネキちゃんの残骸の山を前に、おひげをプルプル震わせて、ニヒルに笑う。たぶんニヒルな笑い。マーモットのニヒルな笑いって、(可愛)じゃないよね?
『でも、お決まりの『魔石』とか体内には無さそうだなぁ』
スンスンと鼻を近づけて残骸を爪で分解していくけど、期待した便利アイテム『魔石』はなかったのでがっかりしちゃう。『魔石』ってクリーンなエネルギー源として活用できるんだよ。どうやって活用しているかを書いた小説って、ほとんど見たことないけどさ。
「ですが、この残骸は錬金に使えるのではないでしょうか? ゴーレムの身体は素材の塊と聞いたことがあります。なにしろ魔力を内包させた素材でなければ、ピクリとも動きませんから、結果的に高価な素材を使わないとならないのです」
『そういえばAIアシスタントさんもそんなことを言ってたなぁ』
残骸を手に持って、プラスチックとかと違う感触に目を細める。魔力が内包しており、内部からエネルギーを感じるのだ。なるほどたしかにただのガラクタではないようだね。
『とすると、これらを全部アイテムボックスに━━』
『経験値4000を使用しアイテムボックスレベル2を取得しました』
『経験値4000を使用し念動力レベル2を取得しました』
『アイテムボックスレベル2︰1400キロまで保管できる』
『念動力レベル2︰14キロの物を同時に14個まで操れる』
わぁい。また勝手にAIアシスタントさんがスキルを勝手に取得してくれたぞ? 怒って良いかな? いいよね? ピギー。
『痒い背中に届く孫の手のようにプレイヤーを手助けする、第9世代型AIアシスタント。その名は『ナイン』と申しま、あだっ、ちょっと叩かないで、痛いじゃないですか、わかりました。━━アーアー、バグっていました。修正終了。第4世代型AIアシスタント『62』通称『レイ』とお呼び下さい、プレイヤー』
『だいぶ世代下がってるんだけど気の所為かな? どこかの傭兵みたいな名前だけど?』
本当にAIアシスタントなのだろうか。声の後ろで殴るような鈍い音と叱るような少女の声も聞こえた気もするけど。まぁ、そんなことよりも気にしないといけないことがある。
『これからは俺の命令があるまではスキル取得は禁止! 俺だって計画があるんだからさ』
『命令を受領しました。プレイヤーのご指示を善処致します。また、今回のスキルはプレイヤーに最適と思われたため取得しました』
『鶏肋という言葉を送っておくよ。とはいえ、結局はこのスキルを取得したと思うけどね』
『三国志かぶれって、たまに物知り顔して名言を言ったとドヤ顔になるから面倒くさいです』
『ピギー!!!』
言い得て妙な返しをされて少し恥ずかしい。もう無視して行動に移ろうっと。
アイテムボックスの保管能力が10倍になったのは驚いたが予想内だ。予想外だったのは『念動力レベル2』。操れる重量が上がると思っていたら、操作可能な物が増えるとはね。
ピギーと、その瞬間『理解』する。
『念動力レベル2』は罠だ。恐らくはデフォルトでは10個操作可能なのだろう。けれども人間は同時に10個を操作できない。新人類にでも進化しない限り無理だと。
人間の脳では限界なのだ。複数を操ろうとすると、統合失調症となる可能性がある。良くて3個くらいだろう。取得しても使いこなせない残念スキルだ。
(マーモットなら問題ないけどさ)
マーモットの脳なら可能だ。常にマーモットは複数のタスクを考えている。『敵を警戒する』『キャベツ食べたい』『お散歩したい』『昼寝したい』『ギュイーンしようかな』等々、常に複数の思考を持っている獣なのだ! しかも、基本はのーんとしたのんびりとした性格なので、脳に負荷もかからない!
なので、早速念動力を使う。なにをするかと言うと、簡単な話で、品物をしまうのだ。服屋の吊るされている服に念動力を使う。もちろん同時に14個だ。まるでお化けの服のようにフワリと浮くと操作してアイテムボックスへと仕舞える。
『うん、問題ないな。それじゃどんどんしまっていこう。狙い目は服や小物用品、食料だ。アミも手伝ってね』
「了解であります。それでは自分はキャンプ用品を中心に確保いたします」
火事場泥棒? マーモットに人間の法律は当てはまらないんだよ。猫が魚を盗んでも刑務所には入れられないでしょ?
マーモットサイコーと、ピギーと鳴いてどんどん仕舞う。ヴェア男爵には悪いが、早いもの勝ちだ。
調子に乗って、俺は扉を開けてバックヤードへと入り込み━━。
「カエーッ!」
「まだ生き残りがいたのか!」
扉横に隠れていたマネキちゃんがナイフを振り下ろしてくるのだった。
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