13マモ 冷やかし禁止のショッピングモール
話は理解した。理解しただけで現実は追いついてないけど。日本列島を召喚したとかスケールがデカすぎる。それでも、それが真実だとわかる『理解』のスキル効果が恨めしいよ。
多分異世界人のイメージする少数民族と日本の少数民族とのイメージの差異があったんだ。てか、日本人は少数民族じゃないのに、誰がそんなイメージを……あぁ、始祖皇帝だな。その頃は室町時代か江戸時代か? 人口は数百万人のはず。間違ってはいないか。
そして始祖皇帝の認識は変えられることなく、今回の騒動に至ったんだろう。日本列島がなくなって、さぞ地球は混乱しているだろうなぁ。
『日本列島の喪失により惑星の中心核まで傷ついた地球は崩壊しました。人類は絶滅しました』
『……教えてくれてありがとう、AIアシスタントさん。そうか、そうなっちゃったのかぁ』
テンプレストーリーである元の世界に戻るぞルートはないらしい。地球滅んじゃったかぁ。惑星の核まで傷ついたら自転も止まるんだっけ? それだけでも致命的な上に、他にも色々と発生しただろう。異世界に日本列島はよく普通に融合できたな。それだけは助かったよ。
まったく悲しくなかった。それが酷く悲しい気もするけど、特になにも思わなかった。俺はマーモットなので、のーんと生きるだけだ。この世界で生きて行こうっと。マーモットは楽観的な精神性なのである。
……でも、これは日本人が異世界人に対して強烈な恨みを持ってもおかしくないな。そして異世界人も日本列島が融合したせいで大勢死んだと。どう考えても嫌な未来しか想像できない。お互いマーモットならギュイーンで平和に方を付けるのにな。
となると、大規模な騒乱が発生する可能性がある。巻き込まれちゃう可能性を考慮すると、自身の身を守るためにも行動しなきゃならない。このショッピングモールはうってつけの拠点だ。
……でも、皆はなんで正面玄関に集まってるんだ? 奥には行かないのかな? こういうのはアミに尋ねさせよう。
「皆さん、このショッピングモールに辿り着いたのに、なぜ奥には行かず、ここで座り込んでいるのでありますか?」
「……実は召喚事変の際、不可思議にも空間が揺れました。その影響か、魔法水晶を利用した魔道具は全て壊れてしまったのです。今は昔の世代に使われていた自身の魔力を使う魔道具のみがなんとか使えるだけでして、その威力は弱く、先程のようにホブゴブリンたちと戦うのが限界です」
「それとショッピングモールに入らない理由は関連してると?」
「はい、あの看板を見てもらえますか?」
ヴェア男爵の指さす先。正面玄関を少し進んだ通路に、なにやら看板が置かれていた。
『冷やか死禁シ。当ショッピングモールはカい物客ダケの来店をユルします』
なにこれ? なんというか、ものすごくホラー風味の看板だね?
◇
ショッピングモールはホラー風味の怪しげな施設に変わっていた。なにこれ? どういうことなのかな? 蛍光灯により明るい店内、BGMが施設内を流れていき、崩壊したはずなのに、棚に飾られている品物も落ちていないし、内部はとても綺麗だ。
もう既にそれが怪しい。
(マ探偵マーリンの出番だ。このショッピングモールの真実を暴いてやる!)
『冷やか死禁止〜。ウィンドウショッピングをする罪人は永遠に見ているが良い〜。冷やか死禁止〜。ウィンドウショッピングをする罪人は永遠に見ているが良い〜』
さり気なく流れているBGM。その歌の内容が怪しい! マ探偵マーリンはお手々を握りしめて、迷推理を見せちゃうぜ!
迷推理を見せようと張り切るのに、皆は俺を無視して話を進めていた。ちょっぴり哀しい。
「この施設は恐らくはダンジョン化していると思われます。悪意の想念を持つボスモンスターが成長して施設をダンジョンに変えてしまったのでしょう」
「ダンジョンでありますか?」
「はい、我らの世界はそちらと違い、負の想念がマナと融合し、魔物を作ります。負の想念とは、自然の中で普通に生まれるもの。ですが、人間の持つ悪意、即ち憎しみや嫉妬などは特に強力な魔物を生み出し、生み出された魔物は時にその力でダンジョンを作り出すのです」
ヴェア男爵の説明……。多分自然の摂理が違うのだろう。マナの存在する世界にはマナを浄化するシステムがあるということだ。
でも、悪意の想念とな……。その想念がボスモンスターを生み出す?
そういや、ブラックスライムとかデカゾンビとか、普通じゃなかったな。もしかしてもしかしなくても、日本の負の想念も召喚された? 日本人の悪意の想念も来たということは……。なるほど、多分そこら中に魔物は生まれてるだろうね。日本人の悪意の想念なんて、大量にあるに決まってる。
「そのボスモンスターが居座っているから、このショッピングモールには入れないということでありますか」
正面玄関に座り込む疲れ切った様子の異世界人らしき人たちは二百人はいる。大量の物資を前にして手に取ることができないのは拷問に近い。
「我らも数人の兵士を送り込んたのですが……一人を残して全員死亡してしまいました。このダンジョンの敵は厄介な『制約』を持っているらしいのです」
『制約』とはなにか? ヴェア男爵が説明してくれて、俺はニニーヴにほっぺをもちもちされながら聞いたところ、ある条件を付けたダンジョンのこと。
たとえば、物理攻撃しかできないダンジョン。その場合魔法攻撃をすると反射されるとか、魔物がパワーアップしたりする。他にも攻撃する時はダンスをしながらでないと攻撃が無効化されるとか、アイテム使用禁止とか。その代わり、ルールを守れば魔物は弱くなる、といったダンジョンの独自ルールだ。
この世界のダンジョンというものには、そういった『制約』のある物が多いらしい。ほっぺをむにーんと伸ばされながら聞いたよ。
「このダンジョンの『制約』は、敵を見ている間は攻撃できないようなのです。ご覧ください、あのマネキンたちを」
指さす先、店内に置かれている何台ものマネキン。ヴェア男爵が目を逸らし、すぐに戻すと━━マネキンたちは数メートルは近寄っていた。不気味なことに、短剣を手にして走ろうとする態勢で固まっていた。
「お分かりですかな? あの人形は見ている間は動きませんが、目を離すと近づいてきて攻撃してくるのです。ですが見ている間に人形を攻撃しても、攻撃は無効化させるため、視線を外しながら攻撃をしないといけない難しいダンジョンなのですよ」
なるほどね。人が見ていない間に迫るマネキンか。たしかに面倒くさそうだ。
「わかりました。では自分がダンジョンを攻略しましょう。どなたか一人、兵士を貸していただきたい」
アミが平然と宣うと、ヴェア男爵たちは驚いた顔をする。
こういう難しいギミックのダンジョンは前世で数多くクリアしてきた。ゲームだけどね。だから安心してくれ。
だから、このマ探偵マーリンにお任せください。ふふふふふ。
◇
ヘンリーはヴェア男爵の騎士の一人だ。男爵の騎士の中では一番の怪力を誇り、大猪を槍の一撃で殴り殺した剛の者である。
しかしながら、その剛の者でも、ダンジョンは命懸けで入るところと認識している。そのうえ、このダンジョンは不気味すぎて恐怖していた。
「ほ、本当に大丈夫なのでしょうか? こういった『制約』のあるダンジョンは数十人で攻略するべきダンジョンだと思うのですが?」
なにせ、見かけは大きな街にある百貨店のように綺麗な建物なのだ。城のようにきらびやかで、かつ物が溢れていた。これがダンジョンでなければ喜んで入っただろう。
だが、ここは油断していなくてもあっさりと命を落とすダンジョンなのだ。いつもの村の警備や弱い魔物を狩るだけの仕事とはわけが違う。
それなのにダンジョン探索に加わったのはヴェア男爵様が行くと言ったからだ。二百名足らずの小さな村の領主とはいえ、お貴族様はお貴族様。それなのに彼はいつも村人のことを気にかけてくれるし、凶作の時は私財で穀物を買ってくれたり、重病の者がいれば大きな街に行き、病気を治す薬を買ってきてくれる。
今回だって、皆が混乱している中で率先して助けてくれたのはヴェア男爵様だった。
その恩を今返さずに、いつ返すというのか。
(いさとなったら、俺がヴェア男爵様の盾になって、男爵様だけでも助けてみせる)
槍を強く握りしめて、心のなかで決意しつつ、先頭を歩く。
「皆油断しないでください。マネキンたちを見つけたら絶対に視線を外さないように声を掛け合いましょう」
「そうだなヘンリー。私も気をつけるから慎重に行こう」
「後方より援護をします」
「あい! ニニーも気をつけましゅ!」
そうして警戒しつつ、先を━━先を━━んん?
「お嬢様!? 駄目ですよ、ついてきちゃ! 皆と一緒に待っていてください!」
ヴェア男爵の娘であるニニーヴお嬢様がついてきていたので、血相を変えてしまう。ニニーヴお嬢様はデブいリスを抱えて、ふんすふんすと鼻息荒くポテポテとついてきていた。
「あたちも一緒にいきゅの! まーちゃんもあたちと離れたくないって。だから一緒にいきゅの」
抱えているリスが手足を振って逃れようとしているが、ニニーヴお嬢様は頑として離さないどころか、離れたくないと実に幼女らしい我儘を言う。
「ニニーヴ、ここからは本当に危険なんだ。アミ殿の使い魔を離して、皆と一緒に待っていなさい」
ヴェア男爵様も言い聞かせようとするが、ニニーヴお嬢様は、ひょぉぉぉと大きく息を吸い込む。まずい、これまでもあれは見たことがある。
「いやぁぁぁぁぁ! まーちゃんと一緒にいるのー!!! 今日からずっと一緒だよって、まーちゃん約束してくれたもん。ベドリバント家の家族になったんだもん! 夜も一緒に寝るんだもん!」
幼女の秘奥義『ギャン泣き』発動! どんな攻撃よりも恐ろしい秘奥義だ。後悔しても時すでに遅し。ニニーヴお嬢様の脳内では、デブいリスは家族の一員になったらしい。
びぇーんと大泣きして、嫌だと我儘を言うニニーヴお嬢様。すっかりデブいリスが気に入ったらしい。躾が行き届いて、人懐っこいからだろう。無理もない、どことなくひょうきんで、2本足で立って人間くさいところも可愛らしい小動物なのだ。子供なら一発で魅了されるのは間違いない。
苦労してニニーヴを置いて、一行がダンジョンに入るのは、1時間遅れるのであった。
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