12マモ 異変の正体を尋ねるよ
ヴェア・ベドリバントというおじさん。グレーの髪色と渋い顔立ちのナイスミドルのおじさんだ。剣も鎧も使い込まれており、戦士としての強い雰囲気を持っていて、その目つきは鋭い。こちらを警戒しているようだ。
当然だろう、軍用ライフルは強力極まりない武器だ。避難民を一瞬のうちに皆殺しにできる武器だからね。
『経験値1万を使用し、固有スキル『ネームド』を取得しました。サポートも完璧なAIアシスタントです。感謝の言葉はいりません』
『ネームド:召喚時のマナ消費量分のマナを最大マナから永遠に削り、召喚獣に名前をつける。名前を付けられた召喚獣は自己成長と自我が芽生え、ステータスが2倍となる。倒された場合、全ての能力は初期化される』
いきなりスキルを取得させられた。むむむ、必要なスキルというわけか。それが『理解』できる自分が恨めしい。感謝の言葉は言っておくよ、ありがとうね! でも勝手にスキルを取得するのはマーモット権利を侵害してると思う!
『デビルアーミーの名前をアミにする! これから君はアミだ。凄腕の女性軍人アミね!』
『デビルアーミーにアミと名付けました。あなたの最大マナが永久に5減りました』
『アミ:レベル2召喚獣。下級マ族』
まぁ、マナの最大値が5減るくらい別に良いか。名付けをした途端に、アミの身体がブルっと震えると雰囲気が少し柔らかくなる。どうやら魔族からマ族になったらしい。きっと下級マーモット族のことだよね? マーモットに変化はできるのかなぁ。
「こんにちは、ベドリバント様とお呼びすればよろしいか?」
「いえ、皆さん言い辛いのでヴェアで結構です」
フェイスカバーを外して、ゴーグルを額に引き上げると、アミはヴェアに軽く頭を下げる。その顔立ちは人間の女性そのものだ。声音も厳しいが少女のもので、その声を聞けば、顔立ちも予想できる涼やかな耳に染み入る声だった。
黒髪が風に靡き、切れ長のきつそうな目つきの美少女が顔を見せる。その美貌は人間の中ではアイドル並みだ。マーモットとなった今でも美しさはわかる。
でも、ヴェアはアミの美貌に眉をピクリと動かすだけで、ポーカーフェイスのままだった。社交的な笑みを浮かべて、再度頭を下げる。アミの美貌を見ても態度を変えないとはなかなか油断のできない人かな? にしても、言い辛いからって、それで男爵は良いのかな?
俺が警戒心を見せて目を細めるが、マーモットなので誰も気にしなかった。少し悲しい。ここは2人の視線がぶつかり合い、各々で油断できないとシリアスなシーンになるんじゃないかな? マーモットが目を細めても駄目なのかな。
がっかりして肩を落とすマーモットだけど、アミに指示は出すよ。
「では、ヴェア男爵。なぜこのような状況になったか、貴方は知っているようだ。教えてもらいたいと提案します」
「畏まりました、魔法使い殿。では、あちらで話し合いを行いたいと存じます」
やけに堅苦しいセリフ。なんか軍人ぽいねと、アミと共にテチテチとついていく。
「皆はどうする━━」
振り向くと、ミカたちはバギーの中へとよじ登る最中。
「さむ~い。もうおうちにもどろ。ミカの毛が抜け替わりそうになっちゃうよぉ」
「そうそう、キャベツ炒め食べよーぜ。大剣ゴブリンとの激戦で腹減っちまった」
「ふふふ、天才たる僕は人参をこたつの上に置くと、美味しくなると閃きました」
「隅っこは私に任せなさい。誰にも譲らないわ」
駄目だった。仲間たちは冬の寒さに耐えられなくなり、バギーへと戻っていた。仕方ないなぁ。たしかに、この寒さはマーモットにとっては辛い。冬眠する寒さだもんな。
一応警戒しながら、テチテチと歩く。神目線だと、2本足で立ったマーモットが短い足を振って、ヨチヨチ歩きだ。頭を上げて鼻をひくひくと蠢かして警戒している姿がとってもラブリー。
となると、どういうことになるかというと━━。
「かーいいっ! きゃー、おっきいリスしゃん! こんにちはリスしゃん。どこから来たの?」
「むぎゅう」
こんな可愛らしいマーモットを見逃すことなどありえなく、集団の中から幼女が飛び出てくると、俺を抱きかかえるのであった。ぱっちりおめめに健康そうなモチモチの肌、髪の毛はブロンドで長く伸びているのをハーフアップにして纏めている。5、6歳くらいだろうか、背丈は1メートにも満たない。
幼女はむぎゅうむぎゅうと強く抱きしめてきて頬ずりをして、もうマーモットにメロメロだ。
「危ないだろ、マーモットに噛まれると、とんでもなく痛いんだから、無防備に抱きしめては駄目だよ」
ペチペチ叩いてピギーと警告してあげるけど無駄だった。ますます目を輝かせて幼女は俺を強く強く抱きしめてくる。
「もふもふリスさん、こんにちは! 寒いからあたちが抱きしめて温めたげる!」
少し上等そうな服を着ているが、冷たい風が吹き凍えそうなほどの真冬の今は寒そうで、幼女は鳥肌が立っていた。そんな様子を見るとちょっと可哀想だ。
「やれやれ、仕方ないから俺の毛皮で温めてやるよ」
モテるマーモットは辛いねと、そっと両手で幼女を包んでやる。ペット好きな幼女にそんなことをすると、どうなるかというと━━。
「しゅごい慣れてう! パパ、この子、とっても良い子でしゅよ。ふわぁ、もふもふ〜。おねーさん、この子のお名前はなんてゆーんでしゅか?」
「マーリンであります」
「マーリンしゃん! あたちはニニーヴでしゅ、これからよろちくね!」
もう大興奮である。ふんふんと鼻息荒く抱きついて、もう絶対に離さないぞとお目目をキラキラと輝かせていた。俺の手を掴んでブンブン振ってご満悦だ。
「んと、クッキーたべう?」
「食べるよ! クッキー大好き!」
ポケットからクッキーを出してくれるので、ちっこい手を突き出して、両手で受け取り、カリカリと齧る。
「おいし〜。クッキー、ミカも大好き」
「俺様も好きだ!」
「このサクサク感はクッキーにしかありませんよ」
「もう少し寄越しなさいな」
もちろん食べ物と聞いたら、すぐに感知するミカたちがバギーから降りてきて、俺のクッキーを奪おうとするので、激しい戦闘となるのでした。こら、反対側から齧るなよ。
ちなみに俺たちの話はマーモット以外にはピギーとしか聞こえてません。
「リスしゃんいっぱい! ニニーヴでしゅ。あたちの名前はニニーヴでしゅ! きゃぁ~、もう無いよ〜」
しがみついてクッキーを強請るマーモットへと楽しげにニニーヴは抱き返すのでした。
◇
マーモットたちのモテモテイベントはおいておいて、ヴェア男爵は正面玄関に座ると、深刻な顔となる。答えを知っているが言いにくそうな様子。
推定異世界人であるのに、日本を知っていることから、事の経緯を知っているようだ。アミには黙って待つように命じて、様子を窺うと、意を決したのか、ゆっくりと口を開く。
「我がパンデモニウム帝国は超大陸パンゲアを300年の間統治してきた統一国家です。戦いだけはなく、生活にも役立つ様々な魔道具を製作し、優れた騎士や魔法使いを揃え、強力な帝国です」
「それが日本を知っていることと、なにか関係があるのでありますか?」
「はい。パンデモニウム帝国はそれに加えて『勇者召喚』を定期的に行い繁栄してきた国なのです。10年に一度、数人の勇者を『日本』から召喚しておりました。彼ら日本人は優れた魔力を持ち、その知識も遥か先まで進んだものだったからです」
「『勇者召喚』……ようは拉致していたということでありますね?」
「……そのとおりです。言い訳をすることもできません。パンデモニウム帝国の始祖は召喚された日本人であり、300年間続いていた習慣でした。日本人は常人よりも高い身体能力と優れた知識を持ち、通常よりも早く戦闘技術を覚えるため、帝国貴族の血縁を強化するにも必要だったのですよ。かくいう私の家門の先祖にも日本人はおります」
ふむふむ、『勇者召喚』とは古臭いストーリーだこと。でも、拉致はいけないよ、拉致は。
自然と睨みつけるように視線を向けるアミに、肩身が狭そうに縮こまるヴェア。俺も腕を合わせて睨んだんだけど、ニニーヴが俺の鼻をツンツンと触るだけだった。マーモットは貫禄がないなぁ。
「ですが、必要とも言えませんよね? しかし『勇者』をしてきたことは理解できました。それと今の状況になにか関連があるのでありますね?」
「はい。パンデモニウム帝国は強力な国家でしたが、それでも一つの厄災に悩まされておりました」
「一つの災厄?」
「厄災は自然現象でもありました。世界の負のエネルギーが一定以上集まりマナと結びつくと魔物を生み出してしまいます。街中などなら神官が負の塊に気づいて、魔物となる前に浄化するのですが、世界全体となるとそうはいきません。常に我らは強力な魔物たちにより苦しめられてきました。パンデモニウム帝国は強大ですが、それでも1年のうちに、街や村が魔物に襲われて壊滅したニュースは必ず数件ありました」
普通の生態系ではないのが魔物なのか。ンンン? なにか嫌な予感がするぞ?
「そこで業を煮やした皇帝は思いつきました。大勢の日本人を召喚すれば良いのではないかと。彼らを召喚して、世界各地に配備すれば守り切れるのではと。日本人は少数民族であるが、それでも数万人はいるだろうからと」
話が核心に迫ってきて、俺はゴクリと喉を鳴らすと、ニニーヴにクシャクシャに撫でられる。
「『通信水晶』にて、皆は首都の儀式場で行われる『勇者召喚』を観ておりました。そして、魔法陣が輝き、召喚されたと思ったら、急に目の前が真っ暗となり地震が起きて、気づいたら、このビル群で倒れておりました。そうして村の皆を集めて、ここに移動してきたところ、ゴブリンたちに襲われたというわけです。最後に見た映像は全てがなにかに潰される光景でした」
長い話が終わり、背負っていた罪悪感が無くなったかのように息を吐くヴェア。まぁ、自分がやったわけではないからだろう。
とはいえ、言いたいことは『理解』した。
(召喚対象を『日本』にしたんだな! だから……え、えぇぇ、日本列島を召喚しちゃったのか? 列島が大陸と融合してしまったのなら……大変なことになっちゃった!)
この推測は多分当たってると、壊れたショッピングモールを見て、俺は身体をブルリと震わしてしまうのだった。
それが恐怖からなのか、絶望からか、武者震いかはわからない。
でも、もう元の生活には戻れないだろう。予感ではあるが確信でもあると俺は嘆息するのであった。
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