11マモ マ闘士のちからっ!
大剣ゴブリンが迫りくる。狙いはマモット特殊部隊だろうけど、そうはいかない。
その前に立ちはだかるのはマ闘士の俺たちマーモットだ!
「さぁ、こい、魔物野郎!」
ピギーと鳴いて構えをとるガブ。その背丈は50センチ程。対して大剣ゴブリンは2メートル半程の巨漢だ。まるで大人と赤ん坊の戦いに見える。
「ナンダコノエサハ? ジャマダ」
大剣ゴブリンは逃げることもせずに、ピギーピギーと鳴くマーモットを見て、怪訝な顔となるがゴミでも片付けるように、大剣を軽く横薙ぎに振るう。
その勢いは大木すらも断ち切り、人ならば一太刀で殺せる怪力から放たれる一撃だ。普通ならば、マーモットなどゴルフボールのように簡単に吹き飛ばされるだろう。
ガシッ
だが、ガブが大剣に突き出した左手はその強力な一撃を受け止めて、吹き飛ばされることもなく、体幹が揺らぐこともなく、立っていた。
「厶!? キサマ、タダノケモノデハナイナ!」
その様子を見て、大剣ゴブリンは顔色を変えて、バックステップで間合いを取る。そりゃそうだ。あんな大剣を防げる小動物がいるはずがない。
「へっ、今頃驚いても遅いぜ! このガブ様の力を見せてやる!」
「コシャクナァァ! コンドハホンキデユクゾッ!」
にやりと笑うガブに大剣ゴブリンは上段に振り被ると、鋭い振り込みで大剣を振り下ろす。
「ゆっくりに見えるぜ。真剣白刃取りだ!」
対して余裕の笑みでガブは両手を上げて、大剣を受け止めようとする。
ガン
「いて」
ガンガン
「いてて」
だが、マーモットの手は短いため、ガブの頭より上には哀しいかな伸びなかった! マーモットの弱点だ。顔の前でパンパンと柏手を打つだけのガブ。大剣ゴブリンの大剣はガブの頭をガンガンと叩きつけていた。
「カタッ! ナンダコイツ、イシアタマスギルダロ、ハグレメタルカヨ!」
杭を打ち続けるように大剣を何回も振り下ろす大剣ゴブリン。ガブは足元のアスファルトが崩れて埋まっちゃいそうだ。
そりゃそうだ。俺たちマーモットは小さい分、ステータスが凝縮されている。この身体は高ステータスの塊なのだ。多分鋼鉄の塊みたいになってるはず。
「うぉ~い、埋まっちゃうよ〜。たーすーけーてー。パンパン」
諦めずに柏手を続けるガブ。なんか杭を打つ合いの手をしているようにも見えるぞ。その熱意は買うけど、俺たちマーモットには使えない技だから、そろそろ諦めてほしい。
「しょうがない、今度は俺が相手になってやるよ!」
ガブがカブになりそうなので、仕方ない。四つ足になり、魔力を込めて踏み出す。グンと身体が押されるように自身が前に出て、高速の動きは周囲の動きをゆっくりに変えてしまう。
「厶! コノハグレメタルハオイテオク。マズハオメエカラダッ」
半分程埋まっちゃったガブを放置して、大剣ゴブリンは俺へと構え直す。ユラリとオーラを揺らして見せるので、マナにより身体能力を高めたのだろう。
「ゴーブ!」
オーラの籠った一撃。ガブへ繰り出した一撃よりも遥かに強い威力なのがわかる。身体をひねり、左下からの掬うような攻撃。小さなマーモットを狙うために、全力ではなくコンパクトな振りで命中させることに力を込めたようだ。高速で走る俺にしっかりと合わせたところから、大剣ゴブリンの技術は高い。
「だけど、マーモットは普通の動物と違い、2本足で立てるし、前脚を手のように使えるんだぜ」
四つ足を踏ん張り急停止。キキィッと砂煙を上げながら停止すると、2本足で立ち眼前に迫る大剣へと片手を上げると、そっと下から掬い上げて、僅かに軌道を崩された大剣は俺の真上を通り過ぎ、巻き起こす突風で毛皮がサワサワと揺れる。
「グッ! ナニヲシタ!?」
俺が受け流したことを理解できなかったのだろう。まさかマーモットが体術を使うとは、たしかに誰も想像しない。
だが、あり得なくとも、それが真実だ。
「ナニヲシタ!?」
左足を引き、構え直すと、表情を真剣に変えて、大剣ゴブリンは上段に振りかぶる。マーモットの弱点、真上の攻撃に対して、手が届かないというところを突いてきた。
あり得なくとも、なにか嫌な予感はしたのだろう。その選択肢は考えられたものだ。
「でも、俺もガブの姿を見て、その弱点を克服する方法を考えたんだよ!」
両手を上げる。もちろん頭の下にしか伸びないので、頭上から振り下ろされる攻撃に無防備となる。だが、ここからが違うんだ。
限界まで背伸びをして首をもたげる。反った身体に突き出されたお手々は前に出て、頭上の攻撃も━━。
「こうだ! ギュイーン!」
反った身体のまま、お手々を添えると、そっと左に受け流す。空振った大剣はアスファルトにめり込み、地面にヒビを作る。
「みたかっ! これぞマーモット闘士の秘奥義『ギュイーンの構え』! これなら頭上からの攻撃にも対処可能となる!」
「リスガオレノケンヲウケナガス!? ソ、ソンナワケガナイッ。ソ、ソンナワケガッ!」
真実を見据えることができない大剣ゴブリンが、大剣を引き戻し、全身に力を込めると、呼気を放つ。
「ヌォォォォ!」
「無駄無駄無駄無駄!」
横薙ぎ、袈裟斬り、突きから切り返しての左右からの剣、そして、力を込めた頭上からの振り下ろし。50センチ程のマーモットに対して、本気で大剣ゴブリンは連撃を繰り出していた。
だが、俺は身体をメトロノームのように揺らして、ちっこいお手々でそのすべてを受け流す。どんなに攻撃を繰り出しても、全ての攻撃を受け流されることに大剣ゴブリンの顔色は徐々に青褪めていき、力尽きたのか深く息を吐くと、後ろへと蹌踉めく。
「ナ、ナンダ!? ナニガオキテイル? ドウシテコウゲキガキカナイ?」
声も震えて、大剣ゴブリンは俺を睨んでくる。そうだろう、そうだろう。驚いたろう、マーモットがこれだけの力を持っているとは思わないもんな。
だが、それが真実。このマーモットは一味違うんだよ。
「恐れを抱いたな、大剣ゴブリン。それがお前の限界で、敗因となる! 今度は俺の番だ!」
両足に力を込めて、爆発するように踏み込みをする。アスファルトが砕け散り、粉塵が舞う中で、俺は高速で大剣ゴブリンの間合いを詰める。
「チ、チカヅクナァ、コノバケモノメ!」
恐慌状態となった大剣ゴブリンがめちゃくちゃに大剣を振り回すが、鋭角にステップをして、大剣を躱していき、マーモットの間合いへと詰める。
「マーモット闘士流、蹴りっ!」
小柄な身体をひねり、短い足を突き出す。大剣ゴブリンの太ももに蹴りはめり込むと、その衝撃で大剣ゴブリンの太ももを震わす。
「ウウッ」
激痛に耐えられずに膝をつく大剣ゴブリン。俺は突き刺さった足を引き抜くと、大剣ゴブリンの太腿を踏み台に、右足へと飛び、さらに三角跳びで大剣ゴブリンの胴体を蹴り、大剣の目前に飛ぶ。
信じられないと、蒼白の顔となっている大剣ゴブリンへとニヤリと笑って、その顔を掴んでやる。
「光栄に思えよ。これがマーモット闘士流初の奥義!」
掴んだ手を離さずに、俺は背筋を伸ばし、力を込めてめいいっぱい引っ張りあげる。
「いけぇぇぇっ! ギュイーン!」
傍目から見たら信じれないだろう。マーモットが二メートル半を超える背丈の大剣ゴブリンを持ち上げたのだ。ひっくり返されて、空へと浮く大剣ゴブリンを全力で打ち落とそうとする。
「ギュイーンブレーンバスター!」
そして、勢いをそのままに大剣ゴブリンを頭からアスファルトへと突き落とす。脳天から落ちた大剣ゴブリンの肉をグシャリと潰す音がすると、頭がめり込んだアスファルトから血が流れてゆく。
「ソ、ソンナバカナ、コンナトコロデオレガ」
グラリと身体が揺れて、血だらけの頭がアスファルトから抜けて、最後の台詞を吐くとズズンと倒れ、大剣ゴブリンは信じられないと驚愕の表情で息絶えるのであった。
俺はスタンと地面に着地すると、額の毛皮をかき上げて笑う。
「どうやらお前は俺の相手にはならなかったようだな」
そうして、初のマーモット闘士の戦闘は勝利で終わったのであった。
神様視点だと、ピギーピギーと鳴いて大剣ゴブリンにじゃれつくようにしがみついたようにしか見えなかったんですけどね。
◇
ゴブリンたちはアホの集団であり、指揮官のいなくなった奴らは烏合の衆となった。どういうことかというと、まずそうで、強そうな人間よりも、小さくて捕まえやすそうで、美味しそうなマーモットに残りはかかってきた。どうも、マーモットが大剣ゴブリンを倒したように見えなかったらしい。
地面に埋まったガブを見捨てるわけにもいかず、えんやこーらと四人で力を合わせて引き抜く間、デビルアーミーたちに殲滅してもらった。
魔力障壁とやらのないゴブリン達を倒すにはアーミーたちの殲滅力は相性が良く、その後十分も経たずに殲滅を終えたのである。
「支援ありがとうございます、日本の魔法使い殿。お陰で九死に一生を得ることができたこと、感謝の言葉もございません」
そうして、戦闘が終了したら、当然と言えば当然なのだけど、さっきの一番強かった魔法剣を持つおじさんが礼を言いに来たのである。
デビルアーミーに向けて頭を下げて。
おかしいな、助けたのはマーモットだよ。俺だよ。その人たちは俺たちの召喚獣だよ。
なかなか地面から抜けないカブ、じゃないや、ガブを懸命に引っ張って、少し不満なマーモットだ。
とはいえ、正直にマーモットたちがマスターですとは言えないし、言う気もない。なんか人間が来たよと、首を伸ばしてキョロキョロと警戒するだけだ。
『アーミーリーダー。これから俺の言うことを真似てくれ。声、声が……。少し高めにして、人間っぽくしてね?』
こっそりと告げると、小さく首肯しておじさんに向き直る。おじさんの様子を見るに、な~んか古めかしい。恭しく頭を下げるおじさんは日本ではもう廃れた礼法を記憶しているらしく、頭を下げる様子も堂に入っている。
「魔法使い殿、私はパンデモニウム帝国にて男爵を賜っております、ヴェア・ベドリバントと申します。日本の魔法使い殿のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ふむ、魔法使い殿は良いけど、日本の? なんで日本だと思うのか、興味が湧くね。
『おめでとうございます! 貴方は人間を助けました! 経験値千取得。しかも小動物なのに大勢の人間を助けるという歴史上初の快挙です。そのため、貴方に特別に経験値一万点を差し上げます!』
お、経験値も入った。やったね!
え、皆も入ったって? ふ、ふ~ん。
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