1マモ 平和な日本が崩れる時
俺は転生者である。いきなりのカミングアウト。他人が聞いたら、最近は異世界転生物とか溢れてて、題名に異世界転生をいれると、有象無象の中に埋もれるよねと、この人少し疲れてるのねと思って話をすり替えるだろう。たしかにそうだけど異世界転生はまだまだ需要があるんだよと俺は声高に反論したい。
とはいえ、冗談でなく転生したのは本当なのだ。前世は独身で平凡な会社勤めで、老後に備えてお金を貯めないとなぁとぼんやりと生きていた覚えがある。死んだ理由は不明。トラックに轢かれた記憶もないので心筋梗塞とか脳卒中であっさり死んだんじゃないかなぁと思ってる。
ただ俺は異世界に転生したわけではない。日本に転生した。普通の日本だ。魔法があったり、超能力が存在したり、ヒーローが空を飛んでたりとかもない。魔物が湧き出すゲートもないし、宝が眠るダンジョンもない。
極々普通の日本だ。なら俺も普通の家庭に生まれて普通に生活を送っていたかというと違う。
両親の顔は知らない。赤ん坊の頃に攫われたらしい。その後に助けられて同じ立場の子供たちと暮らすこととなった。
始まりは波乱万丈。悲惨な境遇からのスタートは俺自身の力では決して抜け出せなかっただろう。泣いて過ごす一生だったかもしれなかった。
だが、今は幸せだ。同じ境遇の仲間と共に暮らしている。お腹が空くこともないし、寒空の下で震えて寝ることもない。殴られることもないし、死を意識したこともない。のんびりと暮らしている。これは幸せと呼んで良いと思う。
◇
ビルの一室。掃除の行き届いたフローリングの部屋にて、俺は窓の外をぼんやりと眺めていた。今は師走。聞き慣れたクリスマスソングがどこの店でも鳴り響き、どこも12月に入ったばかりなのにクリスマス一色。楽しげなクリスマスソングと裏腹に寒そうにコートの襟を立てて足早に歩いている通行人たちが見える。
「外は寒そうだなぁ。こういう時は部屋の中でオヤツを食べながらゴロゴロするのが一番だよ。サラリーマンの皆さん、頑張ってね」
ふわぁと欠伸をして、独り言る。肌寒い今日この頃。窓から漏れ出る寒気が体を震わす。暑いか寒いかといえば、寒い方が好きだ。もちろん、暖かい部屋の中に限るけど。
「おい、マーリン。暇そうじゃねぇか。俺と力比べしないか? 今日こそお前に勝ってやるからよ!」
「なんだよガブ。今日はお客もいないし、パフォーマンスはしなくて良いよ。疲れちゃうだろ」
荒っぽい声音に振り向くと、仲間が気合十分に立っていた。俺たち仲間の中で一番大柄な男で、いつも自分の力を確認しようとしている脳筋な奴だ。
名前はガブリエル。あだ名はガブ。キラキラネームだけど、これはいわゆる源氏名のようなものだ。俺は仲間たちとカフェで雇われてるんだけど、他のカフェと違い俺たちがパフォーマンスを見せているのだ。
「マーリン! 力比べはパフォーマンスで見せるだけじゃないだろ! 常に鍛えておかないといざという時に困るぞ!」
「ガブは力比べをしたいだけだろ。ルーとかに頼めば良いじゃん」
プンスカと怒る短気なガブだけど、今日はお客もいないし、のんびりとしても良いのでは。
「やれやれ、貴方たちに付き合う時間があれば僕は走ってます。足の速さこそが、全ての決め手です」
インテリっぽい言い方をして、走っているのはルシフェル。通称ルー。仲間の中で一番痩せてて、走るのが大好きな男だ。
「ほら、あいつはいつも走ってるからつまらねーんだよ。いくぞ、マーリン!」
「仕方ない。それじゃ俺の力を見せてやるとするか!」
ガブが俺が拒否しているにもかかわらず、両手を掲げて組み付いてくるので、こちらもがっしりと掴んで力比べ開始。俺よりもガブの方が身体も大きいし、力も強いけどこっちは技で勝負だ。
「ぬぉぉぉ!」
「おりゃぁぁ!」
お互いに全力で力比べをする。俺は体の位置を変えて、こちらに有利なように組み付くので、力で勝つガブだけど、俺には勝てない。
「やめなよぉ。危ないよぉ。マー君もガブ君も力比べ禁止!」
弱々しい声音で間に挟まって止めようとしてくる娘。気弱そうな女の子、ミカエルだ。通称ミカ。俺とガブが力比べをしているといつも仲裁をしてくる良い子だ。
それでやめる俺たちじゃないんだけどね。
「やめなって!」
「うぉぉぉ! 今日こそ負けないぜ!」
「こっちだって負けるわけには行かないな」
「うぉぉぉ」
「でやぁ~」
「え~い!」
懸命に力を込めるが、力比べは中々決着が付かない。俺とミカは力比べを続ける。いつの間にか相手が変わっているように感じるが、負けられないのだ。ガブは興味をなくして、寝そべっていた。
「貴方たち、本当に元気ねぇ。私ならごめんだわ。ご飯の時間まで昼寝一択ね」
妖艶な声音で俺とミカの力比べを見て、呆れたように言ってくるのはリリス。通称リリー。のんびりと寝ながら興味なさげに欠伸をしていた。サボるのが好きで、お客が来ても知らないフリをしてこっそりと昼寝をする女の子だ。
俺こと、マーリン。通称マー君と、ガブリエル、ルシフェル、ミカエル、リリスがこのカフェの従業員である。評判は上々でその中でも一番人気は俺だと思ってます。この先は歌って踊れるアイドルを目指しても良い。写真集をだしても良いよ。
まぁ、このままのんびりと俺たちは暮らしていくのだろう。そう思っていた。
━━それは突然の大地震で崩れることとなったのだけど。
◇
そろそろクリスマスだろうか。ケーキが食べられるかなと、ソワソワと日々を過ごしていた昼時だった。
ビルが突然大きな揺れに襲われた。身体が浮くような感じ。いや、実際浮いていたと思う。ズガンと大きく揺れて、俺たちは床を転がった。
「な、なんだ? なにが起こったんだ?」
「走るんだ。走るんだよ!」
「いったぁ。頭打ったぁ」
「私のベッドがめちゃくちゃよ! なに今の?」
仲間が突然の大地震にそ混乱を見せる。皆立ち上がって、キョロキョロと辺りを見渡している。
もちろん俺も慌てた。
「今のはかなりでかいぞ! 縦揺れだから皆余震に気をつけろよ!」
こんな地震、前世でも感じたことがない。見るとビルが傾き、窓ガラスが割れている。カフェのテーブルや椅子はめちゃくちゃで、不思議なことにさっきまでいたはずのホール担当の人はいない。天井は何層も崩れたのだろう。上の階まで瓦礫となって崩れている。
「縦揺れってなんだ? 余震ってなんのことだ?」
「また揺れても混乱するなよってこと」
ガブたちが混乱して俺を見てくる。たしかに余震と言ってもピンとは来ないに違いない。しかしこれは危ないところだった。俺たちも瓦礫に押し潰されていてもおかしくなかったのだ。命があっただけでもめっけもんだ。
じっと待つが余震はなさそうだった。ビルは揺れることなく、外からは車の防犯ブザーや人々の騒然とした叫びが聞こえてくる。かなりヤバいことになってそう。
「こんな時は落ち着いて助けを待とう。きっと助けが来るはずだから、おとなしく待つんだ。助けが来たら、おとなしく助けられるんだぞ? 喧嘩を売るなよ? 特にガブ?」
「マーリンは相変わらず細かい奴だな。ったく、おとなしくすれば良いんだろ。……でも、あれどうする?」
「あれ? なにを……なにあれ?」
ガブが視線を向ける先、俺も釣られて視線を向けて言葉を失う。
ズリッ
ズリッ
半透明の粘体が床を這い出て来ていた。単細胞生物。核を中心に持つ細胞にも見えるが、こんな化け物がこの世界にいるはずがない。
俺たちと同じくらいの大きさで、床にてらてらとした粘液を残しながら俺たちに気づいたのだろう。徐々に近づいてきてる。
「か、隠れよう! あんなの見たことないぞ!」
「え、えぇそうね、皆隠れるわよ!」
「皆集まってぇ」
ルーたちが不気味な化け物を見て恐怖で隠れようと、隅っこに身体を寄せ合ってブルブルと震えている。あれで隠れたつもりなのが少し哀しい。
だが、あれでは駄目だ。ここは逃げ場がない。倒さないとヤバい。なんであんな化け物がいるかは分からないけど、とにかく倒すのが先決だ。粘体はテーブルと俺たちの舞台を分ける透明の敷居にへばりつくと、ナメクジのように這いながら登ってくる。
「オラァ、かかってこいやぁ。ガブ様の鉄拳を味わいたかったらな!」
ガブはルーたちを守るべく、両手を挙げて、粘体を威嚇する。その声が粘体の注意を引いているけど、どちらにしてもこちらに向かってはきただろう。
「ガブ気をつけろよ。あれはたぶんだけどスライムって奴だ! 捕まったら溶かされて食べられちゃうぞ!」
「スライムだがなんだかは知らないが、俺様は仲間を守るためにこれまで戦闘の練習してきたんだ。ここで一歩も引く気はねぇ!」
なんだかんだ言っても、仲間想いの熱い男だ。その強い意志は俺の心にも勇気の炎をつけるよ。俺がガブの勇気に感動してると、目前に迫るスライムに、ガブは飛び込むように襲いかかる。
「オラァオラァオラァ! あれ、こいつ手応えないぞ! こいつめ、こいつめ! なんだこいつガボガボ」
カブは振り上げた拳を叩きつけるが、ぷにょんと拳がめりこむ。慌てて噛みつくがやはりぷにょんと覆われてしまう。
どうやら、スライム相手にパンチや噛みつきは通用しないようだった。包まれてしまい暴れても抜け出せそうにない。
(やっぱり駄目か! でもこのままだとガブが死んじゃう! しかし俺が飛び込んでも同じだろう。……なにかなにかないか?)
焦りを覚えて周りを見て━━。
(これだ! これならいけるかも! スライムが見た目通りの弱点を持っているなら!)
床に転がっていたトングを両手で持ち上げる。幸運なことに置きっぱなしとなっていたやつだ。
「ガブ、今助けるぞぉぉ! 喰らえーっ!」
全力でトングを持つと、体当たりするようにスライムに突進する。槍のようにトングを突き出して、狙うは核だ!
グニャリと反発が返ってくる。トングを押し返そうとしてくるのを感じる。俺の力では跳ね返されるかも……。
「ここで負けたら、ガブが溶かされちゃうだろ! そんなこと、させるかぁぁぁっ!」
だが、これまで俺も戦闘の訓練をしてきたのだ! ここで負けたらガブに笑われる!
気合を入れて突き出すと、トングの長さはスライムの核まで無事に届く。プシュと風船が割れたような音がするとあっさりと核は潰れた。あんまり硬くはなかったようだ。粘体は核が潰れた途端に粘度を無くし、水のように崩れるとガブを解放するのだった。
「ゲホッゲホッ。助かったぜ、マーリン。お前凄いな。そんなのを使うなんて」
濡れてはいるが、溶けてもなさそうで安心する。酸性で包まれた途端に溶かされていたらと思うと肝が冷えるよ。
「倒したのかい? なんだろこれ?」
「匂いはしないわねぇ」
「少しベトベトしてるぅ」
ルーたちも脅威が去ったと見て、隠れるのをやめて近づいてくるが、俺はそれどころではなかった。
なぜならば、目の前に青い半透明のボードが浮いていたから。
『おめでとうございます! 貴方は異世界で初めてモンスターを倒しました! 経験値千取得。しかも小動物なのに道具を使うという歴史上初の快挙です。そのため、貴方に特別に経験値一万点と固有スキルを差し上げます!』
名前:マーリン
種族:マーモット
信仰する神:なし
経験値:11000
マナ:12
筋肉:11
敏捷:18
器用:11
魔力:10
固有スキル:マ王、小動物の加護
スキル:なし
小説では古典的な良きシステム。即ちステータスボードが浮いていたのである!
あ、俺の今世はマーモットです。
ピギーって鳴いて可愛いよ。
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