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8/10

夜10時の電話、再び

再び訪れた、MICOプロダクションの会議室。前回よりも豪華な顔ぶれに、プレゼン前に腰を抜かして不戦敗になりそうだ。



マネージャーの葉山さんその他、スタッフ2名、メンバーからは、ケイタ、ジュン、コウキの3名が揃っている。




それに、今日は和泉さんが不在。私と小山君の2人でなんとかしなきゃ。



「あら、和泉さんは?」



簡単な挨拶を済ませると、葉山さんから質問が入る。小山君は緊張からか、額の汗をふきながら答えた。



「和泉も伺う予定でしたが、急遽、予定が入ってしまいまして」


「急用、ですか」



表情が曇る。うちの仕事より大事な仕事がそちらにあるのか?と、言いたそうだ。曖昧な回答は好まないタイプだろう。



「和泉の息子さんが体調を崩してしまい、今日は伺うことができませんでした」


「お子さん?」



意外そうな表情をした。



「いいじゃん、別に。小山さんと杏菜さんが、しっかり話してくれたら問題ないでしょ」



ケイタが言った。



「早くはじめようよ。ボクたち、この後は歌番組の収録あるしね」



部屋に入ってから、1度も私を見ない。


あの日の夜、あんなに弱々しく泣いていた少年が、今はこんなにも感情を隠し、冷静さを装っている。どちらが本当の顔なんだろう。



しっかりしろ。いまは仕事に集中だ。和泉さんに『絶対決めてくる』と豪語したんだから。



「こちらのサンプルと同じ品質が保てるのであれば、中国と日本、どちらの工場でも構いません」



葉山さんは、試作品のペンライトやアクリルスタンドを手にしながら言うと、小山君がすぐに切り返す。



「品質と納期厳守には自信があります」



和泉さんが不在なため不安はあったが、小山君は思った以上にしっかりと受け答えをしていた。新卒の時の、頼りなかった印象はもうない。


葉山さんは軽く頷く。



「ゲンキライブさんに頼んで良かった。最後にそう思えることを期待しています。どうぞよろしくお願いいたします」



はじめて笑顔を見せた。



「よろしくお願いします!」



私と小山君が同時に立ち上がり、頭を下げた。



「 はは。すごいね。2人とも息ぴったりですね」



ジュンが笑いながら言うと、コウキも頷いた。



「俺たちもそうだけど、何かを作るには、チームワークが大事だからな。ケイタも異論はないだろう?」


「うん、いいんじゃない」



ケイタは面白くなさそうな表情をしている。



「はい!自分は杏菜先輩と一緒に仕事ができて、幸せです!」


「ちょっと、小山君。そういうの、場所をわきまえてちょうだい」



さっきまでのピリついた空気から一転し、会議室は和やかな雰囲気に変わっていた。ただ、1人を除いて。


ケイタが小山君に視線を向けた。その瞳はガラスのように色が無い、冷たさを感じさせた。



その後 少しだけ雑談をして事務所を後にした。



みなさんにエレベーター前まで見送ってもらう。ひとり仏頂面の顔をしていたケイタは、 最後まで、私を見ることはなかった。




◆◆◆




最終プレゼンを終え、大成功の報告を会社に持ち帰った。

みんなが大喜びだった。社長が隣のスーパーで人数分のビールを買ってきて、仕事を中断してお祝いをした。


和泉さんにも電話で報告をするととても喜んでくれた。お子さんの体調も良くなったそうで一安心だ。



この数日の疲労からか、みんな酒の回りが早かったようだ。ほろ酔いで早々に仕事を切り上げて帰って行った。



「杏菜さん、まだ帰らないんですか?」


「報告書を書いたら帰るので、気にせず先に上がってください」



残業していた経理の方を見送ると、社内には私だけになった。



久しぶりに軽い足取りで家に帰れそうだ。


さあ帰ろう。そう思った時だ。



またしても、会社の代表電話が鳴る。



まさかね。いや、でも、きっとそうだろう。 電話に出ずに 帰るという選択肢もあるが……。



「 お電話ありがとうございます。ゲンキライブ企画です」



『……杏ちゃん』


「ケイタ?」



頭の中では、圭太君なのかケイタなのか。



『杏ちゃん、助けて』


「どうしたの?泣いてるの?」



声が震えていた。それは、あの日聞いた怯えた少年の声に思えた。



『この前のお店にいるから、来てよ』


「六本木のお店?」


『会いたいんだ。杏ちゃんに。会いたくて、会えないと、死んじゃいそうだよ』



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