彼女と私の馴れ初め
「私と友達にならない?」
私が彼女と出会ったのは高校に入学してすぐの頃。
友達が出来たことのない根倉な私は盛り上がる周囲から離れ、1人隅っこで本を読んでいた。
羨ましいな、私も混じりたいな、と毎年思うもののそんな勇気はなく、今年も1人ボッチの1年になることにソッと溜め息を吐く。
私は読み掛けの本に目を落とそうとし、ふと影が差す。
「ねぇ、何の本を読んでいるの?」
「えっ」
心臓が飛び出るかと思った。
見上げた先、そこに居たのはとびきり美人な女の子。
根倉な私とは比べるのも烏滸がましい程だ。
そんな子がどうして私なんかに、真っ先に浮かんだのはそんな疑問。
罰ゲームだろうか。もしそうなら悲しいな。
心が締め付けられ悲鳴を上げる。耳を防ぎたくなるその声に蓋をし私は口を開く。
「み、ミステリーしょ、しょしょ小説でしゅ!」
噛んだ。恥ずかしい。
きっと彼女から見た今の私は顔が真っ赤になっていることだろう。
顔を見られたくなくて咄嗟に本で隠す。
何を言われるのか怖かった。笑われるのか、バカにされるのか、考えただけでも背筋が凍る。
ビクビクしながら彼女の言葉を待つ。
「どんな内容か聞いても良い?」
「え?……笑わないの?」
「笑う?どうして?笑うところあったかな?」
「わ、わわわ私っ!か、噛んじゃったん……だよ?」
本から少しだけ顔を出して私は言った。
「誰にだって噛むことはあるよ?それに一々目くじら立てていたら身が持たないって」
あっけらかんと彼女は語る。
その言葉に偽りはなく、本当にそう思っているのが伝わってくる。
彼女が眩しかった。私と違い、自由な彼女が羨ましかったのだ。
嫉妬はなかった。抱くのが烏滸がましいほど差がありすぎたのだ。
「もし良かったら、私とお話しない?」
「こ、こんなわ!私と話すより、ほ、他の人と話した方が良いんじゃ……」
私なんかと話をしようとしてくれたのは彼女が初めてだった。
そんなチャンスを逃してしまうのが悲しくはあったけれど、根倉な私のために彼女の時間が奪われるのが申し訳なかったのだ。
それに、周囲から向けられる視線に耐えられそうにない。
気落ちする思いに釣られ、顔が下がる私の目の前に指が突き付けられる。
「私が誰かと話すかなんて他人に決められる覚えはないよ!」
「ご、ごごごごごめんなさい!!」
私は慌てて頭を下げる。
確かにそうだ。他人に決められる謂われはない。
やらかしてしまったと慌てる私に彼女は語り掛けてくる。
「ちゃんと謝れて偉い!ちゃんと謝れた貴女には撫で撫でをしてしんぜよう!」
「わわわわ!」
わしゃわしゃと頭を撫でてくる。
縦横無尽に撫でられ私は地震にでも襲われた気分だ。
「ふぃ~、やりきった~。どう、スッキリしたでしょ?」
「へ?………う、うん。スッキリした、かも?」
さっきまであった焦りが消えていることに言われて気付く。
まさかそれが狙いだったことに驚きつつ、改めてスゴいなと思う。
人の機微に気付くなんて到底私に出来そうにない。
それを当たり前に出来てしまうのだ。
尊敬しかない。だからこそ、どうして私と話してくれるのか分からなかった。
「あ、あの!どどどどうして!!わ、わわ私に話し掛けてくれたん……ですか?」
言ってすぐ失礼なことを聞いてしまったかと考えてしまい、最後は小声になってしまう。
伺うようにして彼女を見上げる。
「特に理由はないよ。強いて言えば、気になったから、かな?それじゃ駄目?」
左右に首を振る。
「ぜ、全然!む、むむしろ話し掛けてあ、ありがとうって言うか!?」
自分で何を言っているのか理解できなかった。
必死に否定しようとして焦り過ぎたのだ。
「えっと」とか「これは」とか、慌てて訂正しようとして――笑い声がした。
「アハハハハ!!そんなに慌てなくても気持ちは伝わったから安心して。でも、良かった~。嫌がっていたら申し訳ないなって思ってたからさ」
そんなことはないと否定する。
彼女から話し掛けられて嫌がる人なんていない。
それを必死に説明すると彼女は苦笑する。
「それは流石に言い過ぎ、かな?でも、まさかそんなに嬉しく思ってくれてたなんて意外だったよ」
もしかして重かった。そう思う私に対して彼女は言う。
「でも、嬉しかった!もし良かったらさぁ」
彼女はそこで1度言葉を切る。
ニコリと笑みを浮かべて彼女は言った。
一生忘れないだろう言葉を。
「私と友達にならない?」