初仕事(仮)
貝塚 兎安 身辺捜査課の先輩。テンションが変わりやすい。
御笠川 龍 身辺捜査課の新人。
貝塚の話す量に押され少し無口気味。本当は話したい。
一通り挨拶を済ませていざ部屋に入ろうとしたその時
貝塚が慌てて止めた。
「少し、本当に少しだけ待っててくれ!」
そう言って貝塚は素早く部屋に入っていった。ドアの向こう側から貝塚の足音が忙しなく聞こえてくる。おそらく片付けているのだろう。
(多少散らかっていても気にしないんだけどな)
ガチャ
「待たせた、入ってくれて構わない」
そう言われ、さっきの忙しない足音を思い出し、嫌な予感を感じながら部屋に入り、絶句した。片付けたのか怪しい程に汚かった。気にしない、なんてレベルでは無い。床にはグチャグチャに丸められたシャツやタオル。それに書類らしき物が数枚ある。来客用であろうソファーには着替えが積まれている。机の上には、とんでもない量の空の缶コーヒー。
(どこを片付けたんだ…?)
すると貝塚がぎこちなさそうにヘラヘラしながら
「まぁ、言いたい事はあると思う。一先ず初仕事として一緒に掃除をして欲しい」
そう言われ了承した。いや、了承するしかなかった。こんなに散らかっている場所で仕事などしたくないからだ。そんな事を思っていると貝塚が手をパンッと叩きながら言った。
「そうだ、事前に説明されていると思うが一応仕事内容を話さなければな。まぁ、掃除しながらで良いか」
良くない。確かに事前に説明されたが、そういう事では無い。
(仕方がないとりあえず掃除するか)
僕は渋々掃除を始めた。
「あっ、そうだ仕事中に嫌悪感を感じたらすぐに言ってくれ」
と真面目な声で貝塚は言った。
(嫌悪感…倦怠感の事か?)
「それって倦怠感の事ですか?」
棚の上を掃除している貝塚は、動きを止め少し考える様な仕草を見せてから返事をした。
「そうそう、それ倦怠感、倦怠感」
と少し面倒くさそうに答えた。ここまでの会話で分かった事。貝塚という人物は、だらしがなく、面倒くさがり屋で変わり者だ。後、おそらく「まぁ」が口癖
(変な人が上司になってしまった)
そんな事を考えながら掃除機をかけていると貝塚が
「今から身辺捜査課の仕事内容を説明しまーす」
と、なんだか妙に緩く話し始めた。なので僕も掃除しながら緩く聞く事にした。