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プロローグ
記憶とは――……すべてである。
人は記憶するから人であり、その積み重ねが人を作っている。
人は記憶することで認識し、記憶することで世界を存在するものとして感じている。
つまり記憶とは存在のすべてであり、生のすべてであり、記憶がなくなることはすなわち“無”を意味する。死でもなく、生でもなく、“無”である。
けれど人は忘れる生き物だ。
記憶し、忘れ、そしてまた繰り返す。
人を記憶し、物を記憶し、世界を記憶する。
人を忘れ、物を忘れ、世界を忘れる。
そうして人は生を受け、記憶し一を得て無とし、最後には死んでいく。
人とはそういう生き物だ。
記憶とは、すべてである。
つまり、記憶をあやつる彼は、人ではない何かなのだ。




