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頼れる友人、の形

 メールの内容はこうだった。


『俺に任せろトレーナー! ……こんなポ○モン嫌だな。

 朝からお前の家の前でストーカーしてたんだが、今、先輩が飛び出てくるのを確認した。

 ただお前が今追いかけて行って続きを話したところで、結果は見えている。

 とりあえず先輩のことは俺……姉さんに任せて大丈夫だ。メチャクチャ土下座して頼んだからな⁉ マジで感謝してほしい‼ 

 とりあえず身支度を整えて出てきてくれ。

                           by お前のツクモン』


 ……なんでこんなにボケ豊富なんだろう。

 とはいえどうやら今日のこともいろいろと万才が手をまわしてくれていたみたいだ。ストーカーとか無許可で?とかいろいろと聞きたいことはあるが、正直助かった。どうしたらいいか不安だったけど、不思議と彼が関わってくれるのならなんとかなりそうな気がしてくる。

 俺はそれに『分かった。すぐ行く』と簡素な文面で返し、すぐに支度を整えて玄関を出る。

 少しだけ、心が軽かった。





「お、早かったな鈴宮。この間ぶりだな」


 玄関を出てすぐ、門の横に立っていたラフな私服姿の万才が気安い調子で言って手を上げてくる。何も持たない手ぶらだった。


「ああ、おはよう万才。……今日はすまない。この話し合いでけりをつけるつもりだったんだけど、……どうにも姉さんと対面するとうまくしゃべれなくて」

「ああ、いや、俺も悪かったな。あの時はあれで終わったつもりだったんだが、あの後先輩の心境を考えたらまずいかもって思ってな。とはいえそのままで片が付く可能性もあったから、こうして黙ってストーカーしてたんだが、一応お前に伝えておけばよかったと思ってる。下手に気を遣わせるのも悪いと思って姉さんにしか伝えなかったんだが、驚かせちまっただろ?」


 妙に説明口調で言って万才は冗談っぽく笑う。この場にいる説明も一緒にしてくれたのだろう。


「いや、……まあ、少し驚いたけど、それでも感謝してるよ。ありがとう。このまま俺一人じゃどうしていいか分からなかったからね。君がこうして手を打ってくれたおかげで、何とかなりそうな気がしてきたよ」


 俺は素直な感想を伝える。


「そうか。それはよかった。なんとかストーカーの口実ができたな」


 万才はゆっくりと歩き出しながら、いつもの調子で言って笑う。

 その様子に俺は気づいた。これはきっと万才なりの気遣いなんだと。

 きっと彼は――



「このまま俺たちは先輩を追いかけるわけだが、急いで行って追いついたところで意味はない」


 歩きながら万才はそう言ってポケットからスマホをとりだす。


「今、姉さんが先輩を追いかけていて、このスマホでその位置情報は確認できるからとりあえずは安心してくれ」


 これは俺の焦りを心配してくれたのか。

 相変わらず分かりづらいその気遣いに、俺はふと笑ってしまった。


「……なぜ笑っているのか分からないが、バカにするのなら陰でしてくれ」


 と、俺が笑ったことを勘違いした万才は、ジトリとした目で言って俺をみつめる。

 というか偶に思うんだが、彼は昔どんな目にあっていたのだろうか? 被害妄想かなんなのか分からなくて反応に困る。


「はは、いやごめんごめん、そういうんじゃないんだ。……それより、姉さんの位置が分かってもどうするんだい? 時間が経てばそれなりに姉さんも落ち着くかもしれないが、でもそれは結局同じことなんじゃないのか?」


 自分のことなのに万才に頼り切りで申し訳ないとは思いつつ、この後のことを尋ねる。


「うまく話を逸らしたな……。それについては俺じゃなく、姉さんにまかせてある。お前たちのことを勝手に伝えるのは悪いと思って何も伝えずに追いかけてもらっているが、多分なんとかなるだろう。いい感じになったらメールがくるだろうから、俺たちは姉さんの位置情報を確認しながらのんびり追いかけよう」

「……物凄く適当な作戦なのに、君が大丈夫だと言うと本当に大丈夫そうだから不思議だね。……本当に大丈夫なんだよね? あ、いや、君のことを信じていないわけじゃなくて、その……気を悪くさせたらすまない」


 姉さんのことになるとつい心配性になってしまう。頼りきりの立場で言えることではないのだが、つい疑うようなことを言ってしまった。俺はすぐにそれに気づいて否定する。

 しかし万才は気にした様子はなく、


「いや、気にしなくていい。お前の立場なら今の説明じゃあ不安になって当然だ。俺のほうこそまた適当なことを言うタイミングを間違えたな。悪い」

「っ」

「だが安心してほしいってのは別に適当に言ったわけじゃない。お前は姉さんに会ったことがないから不安もあるだろうが、俺なんかよりも姉さんの方がずっと頼りになるからな。俺が保証する」


 万才はいつもと変わらない声音で、しかししっかりとそう断言した。

 その声には嘘も不安もなにもなく、本当にお姉さんのことを信じ切っているのだと分かった。

 万才のお姉さんってことは俺たちの学校の生徒会長か。


「君がそんなに言うなんて珍しいね。凄い人なんだね、生徒会長は」


 学校に通っていても、生徒会のことを気にする機会はあまりない。というより、入学したばかりの一年生にとって上級生のことなど気に掛ける余裕もなく、面識があったとしてもせいぜい同じ中学の卒業生や、部活動の先輩ぐらいだ。

 それに生徒会役員の顔触れや名前を一々覚えているわけもなく、全校集会や行事の際に進行や挨拶をしていても、それを特に気にすることもない。俺も姉さんが生徒会書記なので少し気にかけてみることもあったが、生徒会長はあまり表に出て挨拶などをすることがないので、万才のお姉さんが生徒会長だと聞いてからも、顔すら思い浮かばなかった。

 なので俺は当たり障りのない返事を返す。


「……ま、とりあえずは任せておいてくれ。きっと悪いようにはならないと思う……たぶん」


 俺の様子にまだ少し不安があると伝わったのか、万才は言って少し歩みを速めた。

 俺はそれに歩幅を合わせて歩きつつ、優しい友人の背中を羨んだ。





 終点の駅で電車を降りてすぐの河川敷の隅、木陰に並んで座って何かを話している二人の女性を見つける。

 一人はとても知っている人で、さっき俺がうまく話せず、傷つけてしまった俺の姉さん。

 そしてもう一人、明るい色の髪に整った顔立ち。姉さんの隣で川の流れに目を向けながら、落ち着いた様子で話す女性。

 あの人が生徒会長……。


「もう少しかかりそうだな」


 駅のベンチに座り、後ろを振り向きながら二人を見る俺に万才は軽い調子で言う。


「あの人が君のお姉さん、生徒会長なのかい?」


 念のため一応確認する。


「ああ、まあ、そういうことになるな。どうだ? 言った通りすごい美人だろ?」

「そうだね、君のお姉さんだから予想はしていたけど、それにしてもすごく綺麗な人だね」


 冗談っぽく言ってきた万才に、俺は素直な感想を伝える。


「………惚れるなよ?」

「はは……。いやいや、それは約束できないなー」


 俺が笑って言うと。


「前にも言ったが、お前を兄と呼ぶのはごめんだぞ?」


 万才も本気なのか冗談なのかわからない声音でそう言って、彼女たちの方に目をやった。

 俺もそれに続いて二人に目を向ける。

 視線の先では二人はお互い川の流れに目をやりながら、ぽつぽつと話している。


「……さっきメールに俺は姉さんにメチャクチャ土下座したって書いてただろ?」


 前に向き直った万才はおもむろに口を開く。


「ああ、そう書いてあったね」


 なんと言っていいか分からず、俺はただ意味もなくうなずく。


「あれな、ほんとは少し違うんだ。俺が土下座したくらいじゃ、姉さんはこんな面倒なことを引き受けてはくれない」


 茶化すように言う万才だが、そんなに自分の土下座を軽く言うのはどうなんだろうか。


「は……はは」


 俺は言葉に困って、空笑いを浮かべる。


「はは……俺が土下座したのは本当だ。お前たちの家庭の事情を俺から話すことはできないから、瀬上先輩をストーカーするのを手伝ってほしいとだけ伝えたんだが。びっくりするくらい一瞬で拘束されて110番されかけてな。俺は全力で土下座したぞ」


 …………。

 助けてもらっているのに申し訳ないが、彼は本当にアホなんじゃないかと思ってしまった。

 そんな俺の様子に満足したのか、万才はふと真面目な目をすると。


「俺がただ土下座して頼んだくらいじゃ姉さんはそんな反応なんだが、その後に瀬上先輩が困っているとだけ伝えると、一も二もなく承諾してくれた。俺の言葉が真実だって保証はどこにもないし、そもそも先輩が何に悩んでいるのかすら知らないのにだ」


 言葉を区切った万才は、まるで宝物を自慢する子供のような楽し気な声で、


「な? 姉さんに頼んでいれば、心配なんてどこにもないだろ?」


 心底愉快気にそう言った。


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