九十九家の姉弟、の形
「姉さん、明日って生徒会の仕事ある?」
鈴宮との話を終え帰宅した俺は、風呂と食事を終え、まなみの勉強を見る途中、まなみがプリントの問題を解いている間に姉さんの部屋の前に立つ。
もちろんあの姉さんが俺を部屋になど入れてくれるわけもなく、ドアをノックし俺が入出許可を求めるため声をかけると、慌てた様子で部屋から出て来た。その後乱れた髪や勉強中に着けていたのだろう眼鏡姿などを思い出し、無言で再び部屋に入ると、五分ほどして出てきた。
髪を整え、服を露出を控えたものに着替え、眼鏡を外した姿だったのは言うまでもないだろう。急ぎすぎたのか息を切らして若干頬を赤らめる姿は、我が姉ながら可愛らしいと思う。
もちろんその理由はみんなが想像しているような色っぽいものなどではなく、大嫌いな俺に弱みを見せたくないというものだが。それもまたキュンとくるものがある。
「……あるけど、あんたには関係ないでしょ? というか、あんたに構ってる時間ないんだけど? 無駄な時間取らせないでよ」
流石姉さん。会話がすべて俺を拒絶している。惚れちゃいそうだな。
「ああ、ごめんね、姉さん。ちょっと頼みたいことがあって」
「……あんたが私に頼み事? まなみの勉強のことなら今更話すことはないわよ?」
俺の言葉に姉さんは怪訝な顔をする。
「いや、まなみの勉強の件は確かに俺じゃ力不足だけど、幸い姉さんが基礎は固めてくれていたからなんとかなってるよ」
「っ、そう。……ならなんの用があるっていうのよ?」
素直に言うと、姉さんは少し声を詰まらせた後、怪訝な表情を崩さずに俺を睨んで言う。さりげなく持ち上げておいたのが功を奏したのか、話くらいは聞いてもらえるようだ。
「生徒会書記の瀬上先輩って人に伝えておいてもらいたいことがあるんだけど」
「……別に一言二言伝えるくらいはかまわないけど、……あんた、飛鳥と知り合いだったの?」
そういえばそこら辺のことについて姉さんに伝えてはいなかったな。というか、そもそも姉さんと話すこと自体がほとんどないから当然か。大抵拒絶されているか罵倒されているかだからな。一ノ瀬の身内版(純度百パーセントの拒絶)みたいなもんだ。
ちなみに俺は姉さんの身の回りのことについては大体把握している。まなみも然りだ。そのためにいろいろと情報網を作っているし、万が一のときは対処できるように気を配っている。家族の安全を守るのはお兄ちゃんの義務だからな。流石に母さんの仕事についてはどうしようもないが。
「ああ、前に顧問の件で知り合って以来ちょくちょく話す機会があったから。……あ、ちなみに明日って生徒会の仕事って午後もある?」
大事なことを聞いていなかった。
「いや、ないわね。明日は一学期の残りの仕事を終わらせるだけだけど、もうほとんど残っていないから。二学期の予定決めなんかはまだ早いし、明日はほとんど夏休み中の計画を伝えるだけ。午前中には終わると思うわ」
良かった。鈴宮には午後に時間をとってもらうよう伝えていたが、もし午後も生徒会があるようなら頼めないからな。
「なら、明日瀬上先輩にもし用事がなければ時間をとってもらうよう伝えてくれないかな? 場所は俺たちの部だって言ってほしい」
確認も取れたので本題に入る。
「……べつに構わないけど、その用事ってなんなの? 変なこと考えてるんなら通報するわよ?」
わーお。犯罪者でも見るような目だった。お姉ちゃんからの信用のなさに泣きそうだ。
「そんなわけないって。……ちょっと話があってね。部活動の一環だよ」
言うと姉さんは不思議そうな顔をするも、
「……まあ、それならいいわ。瀬上さんに伝えておけばいいだけでしょ? その代わり、これは貸しだから。ただで頼みをきくわけじゃないわよ?」
そう言って承諾してくれた。不思議と姉さんに生殺与奪の権利を渡してしまったような気もしなくはないが、とりあえずは良かった。
もし姉さんに断られても一応他に策はあったが、久しぶりに姉さんと話す機会も欲しかったからな。万事うまくいったといえるだろう。
まだ勉強するつもりのか、話を切り上げて部屋に入っていく姉さん。「おやすみ」と一声かけると、姉さんからは、
「……一生寝てなさい」
と返ってきた。
今日は少し機嫌がいいな。




