表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/137

終業式、の形

『――……で、あるからして、長期休みとはいえ不摂生な生活にならないよう、日頃から規則正しい生活を――』


 やる気のあるのかないのかよく分からない男性教員の『夏休みの注意』のプリントを上から下に読んでいるだけというなかなかに無駄な時間。


「ああ~も~、マジあいつの話長くね? てか休みなんだからほっといてくんねえかな?」

「ほんとそれな。それよかお前、夏休みどうすんの? なんかでかい予定とかある?」

「いや、マジでなんもねえわー。……多分一日中ゲームして終わりってパターンじゃね?」

「おおっ、俺とまったくおんなじじゃん! ならちょっと空いてる日遊ばね? 海とか」

「ああ、いや、いいんだけど。でも男同士で海って……」

「っ……ま、まあ、言われてみれば……」

「そういやお前、今度岡田さん誘うって言ってたのはどうなったん?」

「っ、あ、あれはその、まだっていうか……」

「なんだよ、結局ヘタレたのかよ……」



 一学期最後の登校日の今日。

 教室の大掃除を終えた俺たちは、本校舎から少し離れた場所にある第一イベントホールにて終業式を行っていた。

 皆で集まって一斉にとかではなく、ホームルーム終了後に割り当てられた席に現地着席で点呼がとられるという出席方法であったため、クソ暑い屋外を密集した状態で列をなしてちまちま進むという拷問に耐えずに済んで本当に良かったと思う。しかも中学のときはエアコンなどなく、大型の扇風機を数台と窓を全開にしただけの体育館に集まっていたが、この学校のそういったイベントはこの第一イベントホールで行われるため、エアコンが効いていて凄く涼しい。収容人数約二千人というビッグなこの施設は学校外にも貸出されることもあり、たまに有名なアーティストの演奏会やよく分からない講演会などが開かれていることもある。


 そんな恵まれた設備のおかげか、ふかふかの椅子に腰かけ、ただ黙ってよく知らない生徒たちが表彰されている姿や長い長い校長の話などを眺めているこの時間も、俺は特に不快には感じない。

 しかし明日からの夏季休暇を楽しみにする生徒たちにとってはそれすらも面倒な時間なようで、先ほどから俺の周りではそのような夏休みの計画や、友人との遊びの約束など、教員の話など眼中にないとばかりに楽し気な会話が繰り広げられている。


「――へえ、ならやっぱ夏休み中には……ってかんじなのか?」

「ああ……でも、やっぱ一回話しただけのやつに夏休み呼び出されるとか、きもいとか思われねえかな?」

「いや、そんなこと………うん。思うな確かに」

「っマジそうなんだよ~。……やっぱやめとこうかな」

「バッカ、お前。きもがられたら謝ればいいだけだろ? むしろ好感度の低いところからの逆転劇は物語のお約束じゃねえか。主人公になれよ。……それに、お前の気になってる岡田さんはそんな人なのか? 彼女のどこが好きなのか、もう一度考えてみればおのずと答えはでてくるはずだぜ」

「っ……好きなところ。……顔と身体だな」

「……男だな」


 途中までは青春だなと思って聴いていたが、最後で台無しだった。ていうか片方いい奴すぎんだろ。むしろお前の予定がゲームしかないってところに驚きだよ。


 そんな愉快な連中の話を盗み聞きして暇を潰していると、やっと先ほどの教員の夏休みの諸注意の朗読が終わった。

 書いていることを読むだけなんだから別にやらなくてもいいと思うんだけどな。一応みんなに言って聞かせたという事実が大切なのだろうが、極論やるやつは何言ったってやる。時間の無駄だ。


『ええ、では最後に理事長先生。お願いします』


 淡々としているが、意識して聴けば俺達聴き手が聴き取りやすいよう一言一言にまで気を配った丁寧なものであることが分かる声。

 進行役を務める生徒会書記の瀬上先輩の声は、先ほどまでざわざわとしていた生徒たちの空気を一変させた。声音一つで聴衆を魅了する先輩は流石だ。


 コツ、コツという革靴が床を叩く上品な音を伴って舞台に上がった理事長。

 数日前に会ったばかりの彼はお決まりの挨拶と夏休みについてのあれこれを語った後、


『――では皆さん、有意義な夏休みをお過ごしください』


 そう言って締めくくった。

 去り際、ふと客席全体を見回した彼と一瞬目が合った。ニコリと笑顔を向けられたので軽く首肯して頷いておく。


『理事長先生、ありがとうございました。では、これにて終業式は終了となります。――起立』


 ――礼。


 瀬上先輩の指示に従って式は終了し、俺たちは来た時とは反対に、出口に近いクラスから順に退席する。

 明日から夏休み。

 まなみ達との時間が増えるのが楽しみで仕方ないな。





「すまない万才。少し時間をもらえるかい?」


 曇り夜空の下、外灯の光がお互いの表情を隠す。

 この間の月はあれほど見事だったというのに、今日は雲の中に隠れてしまっている。この様子では明日は雨かもしれないな。


「珍しいな、わざわざ話しかけてくるなんて。もちろん構わないぞ。遅くなるようなら家に連絡を入れたいから少し待っててくれ」

「っ……あ、ああ、分かった」


 俺が呼び出したにも関わらず白々しい言葉。それに鈴宮は一瞬驚いた後、すぐにそういう体で続けるんだと察したのか、フッと口元を少しだけ緩めて承諾した。


 俺は一旦離れてポケットからスマホを取り出し、今日も夕飯を作って待っていてくれるだろう妹に電話をかける。

 ……二コールで出た。話が早くて助かるな。


 遅れる旨を伝える。

 男友達と話すだけだと伝えると、思いのほかすぐに許しが出た。



「……それで、話ってのはなんなんだ?」


 電話を終えた俺がそう尋ねると、鈴宮は「とりあえず座らないか」と外灯の下のベンチに腰掛けた。俺もそれに人一人分ほどの間隔をあけて座る。

 夏は虫が多いから苦手だ。


「っ……ああ、その……」


 この期に及んでなにを躊躇しているのか、なかなか話を切りださない鈴宮。

 普段のこいつからは考えられないその様子に、俺は今日の出来事を思い出していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ