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テスト後のバカ騒ぎ、の形

 キ~ンコ~ン、カ~ンコ~ン


「よし、そこまで。後ろから順に答案用紙を回収して来てくれ」


 テスト最終日。担任の甘地先生の指示とともに答案用紙が回収される。

 張りつめていた空気が弛緩し、脱力した生徒たちが『終わった~』と各々声を上げる。

 俺は最後列であるため、後ろから順に彼らの答案用紙を回収し、前に提出しなければならない。


「……おい」

「ん……っと、悪い」


 すっかり緊張がとけ、机に突っ伏し解答用紙の上に覆いかぶさったり、近くの友人たちとどこが難しかっただのと会話に興じる奴らによって行く手を阻まれてしまったので声をかけると、軽くよけてくれた。その隙に机の上の答案用紙を回収し教卓に向かう。


「どうぞ」

「ああ、ありがとう。九十九」


 俺だけでなく、一人一人に礼とともに名前を返す先生はやはり教師の鑑だ。


「……はあ」


 席に戻ろうとして後ろを振り向くと、やはり先ほどの生徒たちが同じように談笑している。また声をかけるのも面倒なので、別の道から机に戻る。

 その途中、少しだけ目が合ってしまった生徒たちが忌々し気に目を逸らす。

 しかし鈴宮だけは笑ってどうだったかと聞いてきた。


「多分、前回と同じだな」


 それだけ返して自席へと向かう。

 良く分からないといった表情で「ははは」と空笑いを返すハンサム君に、俺も軽く手を上げて返した。


 席に戻って頬杖をついて目を閉じる。

 聞こえる生徒たちの談笑。

 テスト製作者に対しての愚痴に、なぜか俺の名前まで混ざっていた。





『お疲れさまでした~!』


 それから数日後。

 テスト返却が終了し、来週末にはいよいよ待ちに待った夏休みが始まるだろう今週の金曜日。

 俺たちはいつかの喫茶店で、『テストお疲れ様会』と称した打ち上げを開催していた。

 参加者はテスト勉強会に参加した、俺、皇、一ノ瀬、村崎さん、村崎先生の五人と、何かといつも世話になっているのでたまには感謝の気持ちをと甘地先生も呼んでいた。

 六人掛けとなると席が足りないので、特別に四人掛けの机を二つくっつけて座っている。

 何度も集まりのたびに利用し、すっかり常連となった俺は、この喫茶店の店長とも連絡先を交換する仲だ。その特権で、今、この店は俺が事前に貸し切りにさせてもらっている。もちろん前に三島たちと話した時の様に誰にも伝えてはいない。流石に何時間も店を貸し切りにするのは結構な費用となる。せっかくテストを頑張って、楽しい集まりである日の最後に、アホみたいな額の割り勘をしなければならなくなったら覚めてしまうからな。俺は泣く泣く自腹を切ったのだ。

 打ち上げに喫茶店?と思わなくもないが、俺たちは先生たち以外未成年なので、先生たちが飲まなければ問題ないだろう。


「まったく、たかがテストが終わったくらいでよくもまあそんなにはしゃげるわね」


 皇の乾杯の挨拶とともに、事前に注文しておいた料理に舌鼓を打つ俺達。

 そんな様子を見て、俺の隣に座って紅茶とともにサンドイッチをかじりながら、一ノ瀬が言う。しかしその言葉とは裏腹に口元には笑みが浮かんでおり、喜色を孕んだ声音だ。

 始め誘った時は渋っていた一ノ瀬だったが、皇が一言頼むと二つ返事で了承していた。まったくもって単純なのか難しいのか分からないやつである。


「テストが終わったことだけじゃなくて、こうしてみんなで集まって騒いでいることが嬉しいんだろ」


 お前もそうじゃないのか?というニュアンスを込めて言うと、


「……まあ、否定はしないわ」


 そんな素直じゃない返事が返ってきた。





「それにしても、まさか君がこんな集まりを企画するとは思わなかったぞ。いつから考えていたんだ?」


 一息ついたところで、今度は俺の対面に座る甘地先生がフライドポテトをかじりながら聞いてきた。ハムハムとポテトを咀嚼した後、細くしなやかな指についた塩をぺろりとなめとる。……エロい。俗にいうエロティシズムをビンビンに感じました。


「はは……、いえ、単純に急な思いつきですよ。普通の学生はこういう集まりをよくするんでしょう? 放課後に喫茶店で集まって駄弁ったり、テスト明けにカラオケで騒いだり。……そういう普通の体験をさせてやりたかったんです」


 嬉しそうにニコニコと笑い、目の前の料理に目を輝かせる。今が一番幸せだと言わんばかりに、体いっぱいで喜びを表現する彼女。


「……まったく、ほとほと呆れるな。君はいつも自分以外のために動いてばかりだ」

「ふふ、やっぱり素敵よ、九十九君。ますます好きになっちゃうわ」


 先生が俺の視線の先、楽し気に村崎さんと話している皇に視線を向けつつ、本当に呆れたように言う。そしてその隣の村崎先生が俺にそんなことを言ってくる。


「? 何を言っているんだ菫」


 村崎先生の言葉に首を傾げる甘地先生。

 そう言えばその辺の話はしていなかったな。


「……いえ、何でも。少し飲みすぎてしまったみたいです」


 ここは喫茶店なので酒類の提供はしていないのだが。

 甘地先生はそう言って視線を逸らす先生に不思議な顔をしつつ、それ以上は追求しようとはしなかった。


「あれ? 九十九さん、あまり食べてないじゃないですか。ほら、このピザ美味しいですよ? マルガリータです」


 言ってピザの載った皿を掴み俺の方へ必死に手を伸ばして渡そうとする皇。

 俺はそれに苦笑しつつ皿を受け取り、


「お前はカクテル飲んでんのか? ピザはマル()リータだ」

「む……細かいですね。 そんなのどっちでもいいじゃないですか。そんなこと言うのなら九十九さんにはあげません」

「あ……」


 プイッと俺の手に渡った皿を奪い取る皇。

 美味しいというので少し興味が湧いていただけに残念だ。思わず素で変な声が出てしまった。


「確かにカクテルにマルガリータというのもあるけれど、どちらの読みでもいいそうよ? どちらも元はギリシャ語の真珠という意味から来ていて、マルガリータはスペイン語読み、マルゲリータはイタリア語読みなのだとか」


 追い討ちをかけるように得意気に言う一ノ瀬。

 なぜそんな細かいことまで知ってんだ? 博識ぶったツッコミをしたのに恥ずかしいじゃないか。


「ほら、九十九さん。マルガリータでもあってるじゃないですか! ふふ、恥ずかしいですね~」

「うぐっ……」


 だからと言って人から言われるのはそれなりに癪に障る。


「だ、だがもともとピザ自体がイタリア発祥の料理なんだ。つまり正式な読みは発祥地であるイタリア、マルゲリータだろ」

「っ……そ、そういうこと言ってきますか……」


 言うと、悔し気に言葉につまる皇。

 俺がしてやったりとどや顔で見返していると、


「確かにピザという名称がついたのや現在の形に近くなったのはイタリアだと言われているけれど、更にさかのぼってみたらピザのルーツは紀元前三千年の古代エジプトだという説もあるらしいわよ?」


 またしてもいらん知識で皇の味方をする一ノ瀬。


「だとしても、マルゲリータというピザは正真正銘イタリアでできたものであって――」

「はいはい、もういいだろうピザの話は。せっかくの楽しい集まりなのだから、そんなつまらないことで喧嘩なんかしていないで楽しんだらどうだ?」


 俺の更なる反撃を遮るように甘地先生が言葉をかぶせてきた。

 言われて気づく。

 どうして俺たちはこんなどうでもいいことで白熱してたんだ?


「……そうですね」

「……九十九さん、一切れ食べますか?」


 流石に恥ずかしくなったのか、言って皇が先ほどのピザの皿を差し出してくる。というか一切れしか残ってねえじゃねえか。


「ああ、ありがとう」


 …………。

 これこの店のオリジナルピザじゃねえかっ‼


 トマト載ってねえし、チーズと照り焼きのピザだ。どうせ知っているピザがマルゲリータしかないくせに適当言ったのだろう。


「ふふ……、はははは――」


 皇のあまりのアンポンタンさに、俺はなんだかおかしくなってくる。


「……むう、なんだか悪意を感じます」


 むすっと頬を膨らませる皇。俺たちのそんな様子を見て、先生たちも次第に笑い出す。

 なんだかんだ言って、楽しい時間だった。


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