学んできたもの、の形
『――真さん。笑顔を忘れてはダメよ。誰かと話す時は、常に笑顔を保ちなさい。一人にならないために、己を守るために笑いなさい』
たった一年早く生まれただけの姉さんは、昔から俺なんかよりずっと大人びていた。
姉さんはいつも優しくて、弱い俺を守ってくれた。
俺はそんな姉さんの背中をずっと見て来た。たくさんのことをその背中から学んだ。
姉さんはどんなときにも一人になるなと、常に俺に言い聞かせた。俺は弱いから、一人では生きていけないから、どんな人間にも好かれるようになれと教えられた。
「それを姉さんが言うの? 俺は姉さんが笑ったところ、ほとんど見たことないよ?」
能面、というわけでもないが、昔から姉はあまり感情を表に出す人ではなかった。
俺がどれだけ学校や習い事で優れた成績を収めても、十数枚に及ぶ表彰状の束とともにそれぞれのメダル、トロフィーを自慢げに見せたときも、姉は俺を手放しに褒めたことはない。
いつかの姉さんの誕生日、こっそり貯めたお小遣いで姉さんがふと好きだと漏らしていた、美味しいと評判のケーキ屋のショートケーキを買えるだけ買ってプレゼントしたときも。
小学生の時、日々の感謝を手紙で伝えるというイベントで、姉さんに何十枚にも及ぶ量の感謝の手紙を送っても。(この時、三十枚目を超えた辺りで軽い腱鞘炎となり、指が動かなくなったため断念した。数日間の安静を言い渡され、むしろ姉さんに凄く叱られた)
俺は昔から、姉さんの笑顔が見たかった。
『私はいいんです。私は一人でも強いですから』
俺は姉さんからたくさんのことを教わった。
勉強、運動は言うに及ばず、人との付き合い方。嫌われない方法。一人にならない方法。誰かを助ける方法。
決して裕福ではない家で、俺がこれだけの経験をし、技能を身に着けることができたのはすべて姉さんのおかげであり、俺という存在は姉さんがいなければ成り立たない。
俺にとって、姉さんだけが世界の全てだった。
……だから俺は少しだけ、誰かのために茨の道をあえて選んで、素足で歩こうとする彼のその不敵な生き方に、ほんの少しだけ憧れた。




