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一ノ瀬の決意、の形

 テスト週間前の部活動最後の日。

 今日も今日とて暇をもて余している俺たちは、誰がどうみても部活中には見えない。


「そういえばもう聞いたかしら? 明日から一週間、テスト週間で部活動は停止だそうよ」


 おもむろに読んでいた本から顔を上げ、思い出したように言う一ノ瀬。先ほどから一向に呼んでいるページが進んでいなかったのは、そのタイミングをうかがっていたからだったようだ。


「え? テスト週間って明日からなんですか? てっきりあと一月は先だと思って、見て見ぬふりをしていたのですが……」


 一ノ瀬の言葉にすぐに返事を返したのは、先ほどから構ってもらえず暇そうに持参したらしい文庫本を読んでいた皇だ。


「いや、見て見ぬふりしてたんなら確信犯じゃねえか」


 そんな彼女にお約束とばかりにツッコミを返した俺だったが、……妙に皇の陰るその表情には真実味があり、何となく嫌な予感が頭をよぎる。


「……なあ、ひょっとしてお前、相当まずい?」

「うっ……。い、いえ、その……どう、なんでしょう……ね?」


 俺が何気ない感じで探るように聞いてみると、もう本当にああ~あ、と思うくらい分かりやすくそっと目を逸らす皇。手元の本を開いてパラパラとめくる動作は、どう見ても読んでいるようには見えない。というか慌ててめくって落としているし。


「っ――あ、あの、その、別にそこまで言うほど不味いってわけではないんですよ? ……多分。十回受ければ、半分くらいは赤点を取らずに済むと思いますし……」

「おんなじテスト十回も受けて、そんなに赤点取る方が難しいだろ。……なあ、もしかして冗談じゃないくらいヤバいんじゃないか?」


 言って俺は一ノ瀬に目を向ける。

 と、俺たちの話をしっかりと聞いていたらしい一ノ瀬は、この場の誰よりも慌てふためいていた。


「す、皇さん? その、……じょ、冗談でしょ? ……冗談なのよね? ね?」

「…………(フイ)」

 目を逸らす皇。


「っ……そ、そう。……どう、しましょうか……?」


 本当に困った様子の一ノ瀬は言って俺に問うてくる。その不安に染まり切った瞳はいつもの凛々しい表情とは違い、どこか弱弱しさすら覚えた。


「…………(フイ)」

 目を逸らす俺。


 視線リレーで一ノ瀬から渡されたバトンを回りまわって皇に帰す。

 こいつ、今にもバトンを投げだしそうなほどに目を合わそうとしない。


「……はあ、とりあえず前回の中間テストの結果を見せてもらえるかしら?」


 視線をさまよわせる皇を見かねて、すぐに落ち着きを取り戻した一ノ瀬はそう言って皇にテスト結果を取り出すよう促す。


「は、はい。ですがテストの入ったファイルは教室の机の中に入れっぱなしにしているので、少し待ってください」


 言って部屋を出て行く皇。

 その背中に目を向けながら小さくため息を吐いた一ノ瀬に、ふと気になったことを尋ねてみる。


「なんだ一ノ瀬。やけに乗り気みたいだな。お前が見てやるのか? 皇の勉強」

「おかしいかしら?」


 珍しく裏表のない表情で首を傾げる一ノ瀬。ナチュラルにやると可愛いな。


「いや、おかしいというか。ただ、お前が頼まれたわけでもないのに自分から何かしようとしていることに驚いただけだ」


 この部はボランティア的なことをするための部だが、それは誰かから依頼を受け、それを引き受けるという形であり、あくまでも頼まれたからするというものだ。皇に勉強を教えてほしいと頼まれたなら分かるが、何も頼まれる前にこいつが自分から関わろうとしたことに驚いた。


「? ……まあ、そうね。確かに他人ごとであれば、依頼でもないかぎり気にもとめないでしょうね」


 と、そこまで言った一ノ瀬は何故だかもにゅもにゅと口元を歪ませ、


「けれど………いっ、妹の勉強を見てあげるのは姉の役目でしょう?///」


 若干恥ずかし気に目を逸らして言う一ノ瀬。

 ああ、なるほど。


「要するに、たまには皇にも姉らしいところを見せて、サス姉されたいってことだな?」

「っ……ま、まあ、否定はしないわ」


 否定しないらしい。つまりはそういうことだ。

 確かにここ最近、こいつの優等生らしいところを見た記憶がないからな。大体俺を罵っているか皇にデレデレしているか。ツンデレはツンデレでも俺はツン専門、皇はデレ専門なのだ。それは差別とどう違うんだ?

 まあ、それはそれとして、そういえば姉さんもよくまなみに勉強を教えているからな。妹からの評判はすこぶる悪いが、俺が教えると甘やかしすぎて勉強どころではないと母さんに言われているので仕方ない。


 ……姉妹、か。


 ふっと音にもならないような笑みが漏れる。

 いいもんだな。


 皇がテストを持ってくるまでの間、気色の悪い薄気味笑い(微笑のつもりでした)を浮かべた俺をひとしきり罵倒した一ノ瀬は、皇のテストを見て、それはもうびっくりするくらい大きなため息を吐くのだった。





現代国語  88点

数学Ⅰ   25点

化学基礎  41点

物理基礎  31点

生物    67点

地理歴史  47点

公民    55点

情報    56点

基礎英語Ⅰ 44点


合計    454点



「これは………酷いわね」


 ここ一カ月。ほぼ毎日誰かのため息を聞いている気がするが気のせいだろうか。

 皇が持ってきたテストを机に広げ、それを見てそっと目を逸らした俺は間違いなく正しいと思う。


「前期中間テストの結果だよな? これ」

「そうね、どこからどうみても前期中間テストの結果だわ。……はあ」


 一年の一学期、その前期中間テストと言えば高校生活で最も簡単なテストのはずだ。


「うっ……、あ、あの、これでも私頑張ったんですよ? 頑張ったんですけど……」


「「「……はあ」」」


 凄いな。誰かが口を開くたびにため息が聞こえる。



「……よし、やりましょう。皇さん」


 ひとしきりの沈黙の後、気持ちを切り替えたらしい一ノ瀬が、そう言って皇の肩に力強く手を置く。


「や、やるって何をです?」


 困惑する皇。

 そんな皇の当然の疑問に一ノ瀬は、


「決まっているでしょう? テスト対策の、勉強会を開くのよ!」


 覚悟を決めた表情で言い切った。





「……で、どうしてあなたの結果の方が悪いのかしら?」


 翌日のテスト週間初日。教室に集合した俺はとりあえず昨日の皇同様、前回のテスト結果をもってくるように言われたのでそれを持参し、一ノ瀬に見せたのだが……。



現代国語  32点

数学Ⅰ   32点

化学基礎  32点

物理基礎  32点

生物    32点

地理歴史  32点

公民    32点

情報    32点

基礎英語Ⅰ 32点


合計    288点



「さあ、……どうしてだろうな?」


 蟀谷(こめかみ)に手を当て、とてもお怒りの様子の一ノ瀬から、そっと目をそらして答える俺。テヘペロっと舌を出してウインクすると、その瞳が一層鋭さを増した。昨日あれだけ皇のテストの結果について言っていたのに、それ以上に酷い結果を見たら当然だな。


「九十九さん、やっぱりあなたは仲間でしたね。そういえば初めてお会いしたときに学年最下位だったと言っていましたが、本当だったんですね……」


「そういえば後輩がどうとか言ってたよな。でも正直、このままだと俺達二人とも、来年も同学年で一ノ瀬の後輩になることになりそうだけどな……」

「ハハハハハハハハ……」

「アハハハハハハハ……」


 同時に笑い出す俺達二人。

 皇の仲間を見るような目はすこぶる心外だが、美少女と仲間だと思うとなんだかハッピーな気分だ。

 もっともそんな俺たちから心底呆れ切った表情で、ため息交じりに目を逸らそうとしている一ノ瀬さんは、俺の目が正しければもう半分諦めているんじゃないかと思った。


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