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クラスメイトからの依頼、の形

「お疲れ様。それでどうだった? 誰か引き受けてくれそうな先生は見つかったか?」


「「っ(ビクッ)⁉」」


 ――察し。


 俺が部室に入っていつもの挨拶とともにそう切り出すと、先ほどまで楽し気に話に花を咲かせていた二人は揃って肩を震わせた。


「……マジ、どうすんだ? これ」


 そんな二人を見て俺は正直な感想をこぼす。


「そ、そういう九十九さんこそどうだったんですか? 心当たりを当たってみると言っていましたが……」


 気まずそうな皇の言葉にコクコクと頷く一ノ瀬。そんな彼女ら二人の問いに俺はそっと目を逸らす。


「甘地先生は生徒会の顧問だから掛け持ちできないんだと」


「「「………」」」


 俺の言葉を最後にそれきり誰も口を開かなくなった。

 あれだけ守るとかっこつけておいてこの(ざま)な俺に、彼女たちを責めることはできない。むしろ責められないだけありがたい。


 重苦しい空気の中、俺は何とか解決策を考える。

 けれどもこればっかりは仕方がない。そもそも知っている先生がいない上に、先生たちからしたら顧問を引き受けるだけで責任や面倒が増える。流石にみんながみんな甘地先生のように生徒思いではないだろう。どこまで行っても、結局は仕事としてお金をもらう対価でしかないのだから。



 コンコンコン


 と、そんなことを考えているとドアをノックする音が聞こえた。


「はい、開いてますよ」


 また生徒会の瀬上さんか、もしかすると甘地先生が誰か引き受けてくれそうな先生を紹介してくれるのかと思ったが。


「し、失礼します」


 そう言って入ってきたのは、まったく知らない女子生徒だった。





「ええと、今日は何のご用でしょうか?」

「………」


「あのー」

「っ! す、すみません」

「え、いや、別に怒ってないから」

「は、はい……、すみません」

「………」


 とりあえず着席してもらって話を聴こうと思ったのだが、この子、なかなかの人見知りらしく、一向に話が進まない。


「ちょっと、相談があるのなら早く話してもらえないかしら」

「ちょっ⁉ バ――」


 苛立った一ノ瀬が早速きつい言葉を浴びせる。


「すっ、すみません……」


 言ったものの、彼女は俯いてしまい余計話が聞きづらくなった。


「よし、分かった。とりあえず一ノ瀬はお口チャックだ。いいか、絶対しゃべるなよ? お前の対人スキルは口撃に全振りだからな。こういうことにはまったく向いていないんだ」


 とりあえず障害を取り除こうと試みるのだが……。


「それは聞き捨てならないわね。そもそも何故部長の私が部下であるあなたに指図されなければならないのかしら? ……あなた、別に私と話すのが嫌なわけではないわよね?」

「ひいっ……は、はい、すみません」


「「…………」」


 一ノ瀬の言葉がとどめとなったのか、彼女はビビりまくって若干体が震えている。


「今「ひいっ」って言ったぞ? ……なんかライオンを前にした小鹿並みに震えてるし」

「そ、そうね。まさかここまで怖がられるとは思わなかったわ」


 ひそひそと話す俺達。

 流石に思うところがあったのか、一ノ瀬は少し慌てている。


「その、さっきは――」

「っ! す、すみません、話します。すぐ、お話ししますから」

「………黙ってるわ」


 何とかしようと頑張った一ノ瀬だったが、これ以上なく怯える彼女を見て、これはもう無理だと悟ったようだ。中々に哀愁漂う一言だった。


 しかし今一ノ瀬が黙ったからと言って、もう既に彼女は緊張しまくっている。生憎と俺もコミュ障だ。こういう時どうすればいいのかなど分かりはしない。


 そうして俺がどうしようか迷っていると、突然、横で椅子を引く音がした。そして皇は席を立って一ノ瀬の前に座る彼女の下へと歩いて行くと、


「こちらこそ驚かせてしまってすみませんでした。一ノ瀬さんも悪気があったわけではないんです。ただ少し不器用なだけで……。何か相談したくて来てくれたんですよね? 少しずつでいいのでよかったら話していただけせんか?」


 そう言って彼女の隣の席に腰かけると、俯く彼女に微笑みかけた。

 ……こういう時、普段は妹のような皇が今はどちらかというと優しいお姉さんに見えるな。隣で羨ましそうに彼女を睨む一ノ瀬を見ていると尚更思う。

 ……というかもう、しばらく一ノ瀬さん外に出ててもらえませんかね?


「……は、はい。えっと――」


 皇の言葉に緊張が和らいだのか、彼女は少しずつ話し始める。


「こ、ここは育才部、ですよね?」

「ああ、生徒の抱える問題を解決したり、頼みごとを聞いたりするための部だな」


 俺がそれに答えたことに少し驚いた様子の彼女だが、言葉の意味を理解したのか、ホッとしたように胸をなでおろす。


「そ、そうですか。……あの! わ、わたし、相談したいことがあって、」

「はい、どうぞ何でもお話しください。構いませんよ、慌てなくて、いつまででも待ちますので」


 勇気を出した彼女にすかさず告げる皇。……ペットのしつけって確かこんな感じだったよな?


「まあ、時間はあるからな。どうせ、暇だし」

「なっ⁉ っ……」


 『私は暇ではないわ』とでも言いたげに俺を睨んでくる一ノ瀬だが、俺はそっとそれから目を逸らす。こいつらは二人で話して楽しいのだろうが、俺は構ってもらえないので暇なのだ。俺がいつも感じている孤独感を少しは味わってもらおう。


「では、まずあなたのお名前からお願いできますか?」


 待つと言っくせにしっかりと話を少しずつ進める皇。そういうところは綾さんに似ているな。


「い、一年四組の村崎翠です」


 ……ふざけているようではないのでそれが名前なのだろう。俺はそっと、

「ムラサキミドリ? ああ、紫緑! どんな色なんでしょう?」

 みたいなことを聞いている皇に目配せする。


「あ……、じょ、冗談ですよ? 彼の名前はもっと変わっているので、安心してくださいね?」


 そう言って俺にぱちりとウインク(ただのまばたき)する皇。

 俺は「お前の方が変な名前だろ!」という言葉を何とか飲み込んだ。その代わり今度絶対外で会った時にこいつの名前を大声で呼んでやろうと心に誓う。


「い、いえ……、慣れているので大丈夫です」

「あ……、ア、アハハ………」


 乾いた笑いが皇から漏れる。

 少し皇と村崎さんの距離が遠のいた気がした。


「あれ? 一年四組? そういえば九十九さん、確か一年四組でしたよね?」

「え……」


 言われて気づく。

 ただ、俺がそれを覚えているかというと……。


「……まあ、九十九さんが覚えているはずありませんけど」


 考え込む俺にそんな失礼なことを言う皇。


「ちょっと待て! 確かにさっきまでは知らなかったが今は覚えているぞ!」

「それは当たり前ですよ。さっき村崎さんが自己紹介したんですし」


 俺が適当にごまかしているのだと決めつけている皇は呆れたように言う。

 まあ、こんな言い方ではそう思われても仕方がないか。


「いや、そうじゃなくて本当に思い出したんだ」

「はい……?」


 俺の言ったことに不思議そうな顔をしている皇。


 俺は村崎さんをもう一度観察しながら考える。

 おとなしそうな雰囲気に長い髪。背はあまり高くない。よく見ると顔はとても整っている。


 ――……なるほど。君か。


「……確か君は出席番号二十三番の、中庭側の窓側から見て三番目、前から三番目の席だよな? 左隣の席のやつは沢田優斗(さわだゆうと)、右隣は柳春奈(やなぎはるな)だ。リア充たちに挟まれていつも居心地悪そうにしている。休み時間はいつも本を読むふりをしてこっそり鈴宮の方を覗き見ているピュアガールだ。血液型はB型、スリーサイズは上からゴフッ」


「そこまでよ‼」


 俺が饒舌に語っていると突然、こっそり席を立って後ろから忍び寄っていた一ノ瀬が俺の脇腹に鋭い手刀を落とす。

 的確に急所を突いたその一撃に俺は思わずうめき声をあげる。

 痛みをこらえて彼女たちの方に目をやると、一ノ瀬は女の敵を見るような目を俺に向け、皇と村崎さんは恐怖で震えていた。


「ちょっ⁉ どうしたんだお前ら? 何でそんな痴漢でもされたような目で見てくるんだ?」


 わけも分からず戸惑う俺に皇が震える声で言う。


「なっ、なんでそんなに村崎さんのことについて詳しいんですか? ま、まさか……ストーカー……っ」

「ひいっ‼」

「皇さん、今すぐ警察に連絡よ! これ以上、この男の好きにはさせないわ‼」

「ちょっと待って‼ おかしい! お前らは何か勘違いをしている!」


 皇の言葉に先ほどの一ノ瀬の時以上におびえた声を出す村崎さんと、早速俺を警察に突き出そうとする一ノ瀬。


「言い訳は無駄よ。ストーカーでもなければ彼女のそんな細かな個人情報まで把握できるはずないもの」


 言われて俺は先ほどの自分の言ったことを思い出す。


  …………あ、確かにヤバいな。


「つ、九十九さん……。私、週に一度は面会に行きます」

「違う、ほんとに違うんだ! だから諦めないで信じてくれ皇!」


 優しさの形ってたくさんあるんですね。


「違うというのなら証拠を出しなさい! それか納得できる理由を説明してもらおうかしら!」


 何だか先ほどまで話に入れなかった一ノ瀬が、今は妙に生き生きしているような気がする。……寂しかったんですね。


「俺はさっき皇に村崎さんと同じクラスだと言われて、あらためて思い出したんだ」

「? 思い出したとはどういうこと? あなたの言い分では、始めに彼女に会った時はそもそも覚えていなかったのでしょう?」

「ああ、だから思い出したと言っているだろ?」

「だから、彼女がこの教室を訪ねて自己紹介されるまで名前も知らなかったのでしょう? それなのに今は彼女の個人情報まで知っている。しかも……凄く細かく」

「っ……うう」


 一ノ瀬の言葉に顔を赤らめて下を向く村崎さん。


「……ああ、なるほど、そういうことか。お前たちの言いたいことは分かった」

「? ええ、そうよ。だからおとなしく出頭しなさい」


 そんな一ノ瀬の言葉はとりあえずスルーして、俺の言いたいことを説明する。


「俺は人の名前を覚えていない。クラスメイトの名前も目立つ奴を数人知っているだけで他は知らない。さっき皇がどうせ俺が覚えているはずないと言ったがそれは正解だ」

「で、ではなぜ村崎さんのことを思い出せたんですか?」

「待ちなさい、皇さん。そもそもまだこの男が知らないと決まったわけでは――」

「悪いが少し黙って聞いてくれ、一ノ瀬」

「………っ」


 あまりそう突っかかってこられては一向に誤解が解けないので、少しきつい言い方になってしまった。

 そんな俺の様子に一瞬声をつまらせた一ノ瀬。人に怯えられることには慣れているつもりだったが、不思議と感じる違和感に居心地の悪さを感じつつ、すかさず俺は言葉を続ける。


「傷つけたのなら悪かった。嫌な思いをさせるつもりはなかったんだ。ただ、覚えていると言えばそれなりに緊張が解けるかと思ってな」

「あ……」


 声を漏らす村崎さん。


「俺は少し人より記憶力がいいんだ。それこそ一度見たことをずっと覚えていられるくらいには」

「なっ……⁉」

「信じられないかもしれないがこれは事実だ。さっき思い出したと言ったのは、目を閉じて今日までのクラスの情報をすべて頭の中で思い浮かべたんだ。それで村崎さんのことを見て、君についての情報だけを探した」

「でも、……村崎さんのスリーサイズまではどうやって」

「それはもちろん冗談だ。いくらなんでもそんなことは思い出そうとしてもそもそも記憶にない」


 ……まあ、一応服の上からでも分かるには分かるんだけどな。流石にこれは黙っておこう。


「だからほんとに傷つけるつもりはなかったんだ。さっきも言ったように、君の緊張を解ければと思っただけで。だがむしろ君に怖い思いをさせてしまったな、すまない」


「「「…………」」」


 言って俺は頭を下げる。なんか俺、この頃女子に謝ってばかりだな。そんな俺を三人は黙って見つめていた。


「そ、そういうことだったんですね。こちらこそすみませんでした、変に疑ってしまって」

「なるほど……。正直信じられないような話だけれど、でも真剣に考えればあなたがそんなことするとは思えないわね」


 言って謝罪する皇となんとか納得してくれた一ノ瀬が席に戻る。

 良かった。流石に今回は失敗したな。こういう失敗は久しぶりだ。昔は同じようなことをしてしょっちゅう気持ち悪がられていたからな。なんとか誤解が解けたようで何よりだ。


「……あの、もしかしてあなたが九十九さんですか?」


 遠慮がちに言う村崎さん。どうやら彼女にも俺がストーカーではないと伝わったようだ。


「ああ、そうだ。……噂の件なら好きに解釈してくれて構わない」


 そう。俺と村崎さんが同じクラスだということは当然俺の話は知っているはずだ。


「っ、……やっぱりあなたがっ。い、いえ、何でもないんです。……それより、そろそろ相談を聞いてもらっても構いませんか?」


 また嫌われてしまうと思い身構える俺だったが、彼女は意外にも話を逸らした。

 そんな彼女に疑問を持ちながらも俺はありがたく話を進めることにする。


「そうだな。すっかり話が逸れたがそろそろ本題に入らないとな」

「ええ、それでは聞かせてもらえるかしら?」


「……はい、よろしくお願いします」


 どうやらさっきのごたごたで村崎さんも大分俺たちに慣れてきたようだ。会話に加わった一ノ瀬が促しても特に怖がる様子はない。

 怪我の功名というやつだな。もちろん大怪我を負ったのは俺だ。





「私の姉はこの学校で教員をしているんです。名前は村崎菫(むらさきすみれ)。世界史を専門にしていて二年生を担当しているのでみなさんは知らないかもしれません」

「村崎先生といえば生徒指導の先生ですよね?」

「ああ、あの美人の先生か? めっちゃ厳しそうな」


 村崎先生といえばこの学校では甘地先生と肩を並べる美人教師として有名だ。

 そして当然そんな美人を俺が知らないわけもなく、何度か甘地先生に呼び出されたときに先生と話しているのを見た。初めて会った時に、


『そこのあなた、その赤い目はカラコンですか?』


 と叱られそうになったからな。生まれつきだと説明すると謝罪してくれたので嫌な先生ではなかったと思う。むしろ、どちらかというと生徒会の瀬上さんのように生真面目な女性という感じだった。


「はい。私はその妹で、毎朝姉と一緒に登校しています」

「ふむ、なるほど。あなたと村崎先生の関係は分かったわ。……それで、あなたの相談というのは先生に関することなのね?」

「……はい、そうです」


 一ノ瀬の言葉に首肯する村崎さん。

 これはまたしても家庭の事情というやつなのだろうか。


「それはつまりあなたの家庭に何らかの問題があるということかしら?」

「いえ、少し違って……、半分はあってます」


 ? 家庭の事情ではないとすると……なるほど。つまりそういうことか。


「なるほど、君と先生の問題か先生自身の問題、どちらかということだな?」


 そうでなければ先生の話をする必要はない。つまりどちらにせよ先生は関係してくる。


「っ……はい」


 少しの逡巡の後、意を決したように村崎さんは言った。



「……皆さんには、私の姉の浮気調査を手伝ってもらいたいんです‼」



 その声は力強く、その瞳は真剣そのもの。

 そんな彼女の言葉を聞いて俺はただ場違いに、思うのだった。


『やっと部活動らしくなってきたなあ』





「なるほど、つまりこういうことね。少し前からあなたのお姉さん、村崎先生の帰りが極端に遅い。外出することも多くなって、見かけるたびにいつも誰かと連絡している。恋人ができたのかと思っていたあなただけれど、最近の先生の思いつめたような表情や疲れたような態度から恋人とうまくいっていないのかと心配になった。そんな時、たまたま聞いた彼女と恋人と思わしき男性との電話での会話。その時の彼女の言葉、『ちゃんと別れるって言ったじゃない!』等の言葉を聞いて、もしかしたらと考えた。けれど直接聞くわけにもいかず、一人ではどうしようもないと途方に暮れたあなたは、四月のうちに広まった私とこの部の噂を偶然耳にして、勇気を出してここに足を運んだと」


 村崎さんの話を聞き終えた後、一ノ瀬がしっかりと要点を整理・解釈して説明する。


「はい、その通りです」


 村崎さんの肯定に俺と皇もうなずく。

 どうやら俺たちの間に認識のずれはないようだ。やはりこういうときの一ノ瀬は頼りになるな。

 ありがちな話だが実際にそんな話を聞くとなんというかこう……。


「……なんだか少しワクワクしますね」

「俺たちはな。けど本人たちは真剣なんだ。それは忘れるなよ」


 皇がこっそりと俺に耳打ちする。今まで興味はあってもこの手の話題を生でしたことはないのだろう。そういう意味では仕方のないことではあるが、皇の事情を知らない村崎さんが聞けば面白がられていると思って良い気はしないはずだ。俺は少し厳しめの声で釘を刺す。まあ、その気持ちは分からないでもないけどな。


「は、はい……。今日の九十九さんは真面目ですね」


 当たり前だ。前にも言ったが悩み事というのはつまりは自分の弱さだ。悩みを相談するということは相手に自分の弱点をさらすということ。それを他人で、しかも同じ生徒である俺達に相談するということは相当に勇気のいることだ。けれど村崎さんは本当かどうかも分からない噂を頼って、ここにこうして座っている。それは彼女の抱える悩みがもう自分一人ではどうしようもなく、いよいよ来るところまで来ているということに他ならない。

 そんな真剣に悩んでいる相手の相談にふざけた態度で接することは不誠実だ。


「それで、具体的に俺たちは何をすればいいんだ? 先生の浮気を確かめればいいのか?」


 そういえば外国のテレビ番組でそういうのあったな。他人事だから笑えるが、もし自分がその立場だったらと考えると笑顔がひきつる。


「い、いえ、そこまでしていただくわけにはいきません。みなさんには私が姉の浮気を調査するときのサポートをしていただきたいんです」


 別に俺たちがすべて請け負ってもいいのだが、流石に今日知り合ったばかりの他人にすべてを任せるわけにはいかないのだろう。


「そうか。……了解だ。お前らもいいか?」

「はい、もちろんです」

「ええ、構わないわ。それに少しでも目に見える成果を出せたなら顧問の件、考えてくれる先生が見つかるかもしれないもの」


 そういえばその問題もあったな。……まあ、それとこれとは話が別だ。とりあえずこの依頼を手伝いながらそっちのほうも並行して考えよう。


「それじゃあ、早速だけどいつするんだ?」

「この前の電話で今週の土曜に姉はその男性と会う約束をしていました。そこをつけようと思っています」

「なるほど。それじゃあそのサポートをすればいいんだな?」

「はい。……休みの日にすみません」

「気にするな。どうせ暇だ」


 それにしても、すっかり会話が成り立つようになったな。

 始めのはやはり初対面で緊張していたからだろうか。それと今だから思うが、これから自分の弱みを打ち明けようとしているのだから、そういう意味での緊張もあったのかもしれない。

 だとすればもう少ししっかりとした態度で接するべきだったな。そこまで考えが至らなかったことに反省だ。



「それで、どうするの? 今からそれについて話してもいいけれど………もう時間になるわ。詳しいことはまた明日にしない?」


 言って一ノ瀬は後ろの壁掛け時計を見る。短針はあと数分で六時を指そうとしていた。


「ん? ああ、そういえばもうこんな時間か。そうだな、俺は明日でいいが、二人はどうだ?」

 もちろん俺と一ノ瀬(知らないが何となくこいつには用事とかなさそう)には何の用事もないため明日だろうが明後日だろうが平気だが、二人は、特に村崎さんの予定が合わなければどうしようもない。

「はい、私も明日で大丈夫です。村崎さんは……」

「私も大丈夫です。すみません、お手数をおかけして」

「気にする必要はないわ。それがこの部の活動だもの」

「……だな」

「ええ」


 久しぶりに部活らしいことができて(というかほぼ初めて)俺達全員テンションが上がっている。

 ただできるなら面倒ごとにならないことを祈るばかりだ。……まあ、浮気という単語が出た時点で十中八九ややこしくなるだろうことは確定だが。



 コミュ障、ボッチ、変人、嫌われ者に人嫌い。


 さて、いったい何ができるのか俺は今から不安で不安で仕方がないぞ。


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