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兄妹デートの形

 土曜日。俺はリビングで妹のまなみの支度が終わるのをスーパー戦隊の活躍を観ながら気長に待つ。今日はまなみと映画を観に行く予定だ。


 CMの間、一家に一台の決まり文句を聞き流しながら俺は一ノ瀬達のことを考える。

 結局あの日は殴られてそのまま教室から追い出されたためそのまま帰った。次の木曜、金曜も部室へ行っても追い返されてしまったのであれから二人とはろくに話もしていない。唯一した会話と言えば、

「性犯罪者は私達の三キロ圏内に近づかないでもらえるかしら? でないと今すぐ通報するわよ」

 である。誰の言葉かは言うまでもないだろう。その後、本当にガラケーを取り出したものだからもう俺は全力で逃げたね。あまりにも急いで走ったものだから廊下で盛り上がっているカップルたちを無意識に引き放していた。でもしょうがないよね。無意識なんだから。そう、「記憶にございません」はどんなときでも通じるのだ。ついでに「全て秘書の独断です」もセットでついてくる。ハッピーセットだな。

 皇ともあれから顔を合わせていない。ただでさえ部室に入れないのにクラスも違うのだから会う機会もない。

 というか俺、これは本気でクビかな? 三か月のお試し期間を一週間でクビになるのはマジでびっくりだ。また新しい伝説を作っちまうよ。……来週もこのままだと流石に冗談ではなくなるのだが。


「はあ~~。……どうしたもんかな~」


「おまたせ、お兄ちゃん♪ ……ん? どうかした? ため息なんて吐いて」


 俺のため息が聞こえたのか、ご機嫌スマイルで、ソファーに座る俺の膝に飛び乗ってきたまなみが興味深そうに聞いてくる。……くっついてくれるのは嬉しいが、せっかくおめかししたのに汚れないのだろうか? お兄ちゃん心配だ。

 まあ、もっと心配なのはこれを俺以外の男にもしていないかということに他ならないがな。もしそうだとすれば、俺はこの手を世界中の男の血で染めなければならなくなる。そうなったら当然、最後に残った俺は俺を切ります。


「いや、ちょっと学校でいろいろあってな……」

「学校で? 珍しいね。お兄ちゃんがそんなこと気にするの。というか私にそんな話するのも。私、お兄ちゃんが悩んでるのなんて初めて見たよ」


 そういえば俺は今まで学校でどんなことがあったなどと家族に話したおぼえはないな。母さんにはよく聞かれるのだが、大抵、

「いや~、モテモテで困っちゃうよ」

 と、正直に事実を話すだけだ。……ほら、あんまり心配かけたくないじゃん? いくら俺でも家族に学校でクラス一の嫌われ者やってますなんて言えない。


 まあそれは置いておくとしても、今までは誰かに話すほど困ったこともなければ悩むほど人と関わったこともなかったからな。たとえどれだけの人間に嫌われても、悲しいとは思うが困ることはない。むしろそんなことを言って家族を困らせるほうが困る。だからこれまでは特に誰かに相談するようなこともなかったわけだが………今回はいつもと違う。


 何しろすべてが初めてのことである。部活も、友達も、女の子との気安い会話も、その失敗も。どれも俺がこれまでの人生で経験してこなかったことばかりだ。

 どうせこのまま俺一人考えたところでどうしようもないかもしれないが……。


 ふと、この間鈴宮鈴宮(すずみや)に言ったことを思い出す。


『変化が欲しいのなら人を使ってみるのも一つの手だと思うぞ』


 俺なんかが人を使うだなんてとてもおこがましいことだ。そもそも俺はこれまでまなみたち家族にたくさん迷惑をかけてきた。そんな俺が相談なんてしていいものだろうか?


「……いや、いいわけないな」


 俺は俺以外の他人に頼ってはいけない。頼る資格を持っていない。与えることもできない俺が人に何かを望むことなんてただの甘えでしかなく、それが許されるのは赤ん坊だけだ。もう立派なマウンテンを持っている俺はその対象ではないからな。


「? なんだか分かんないけど、ほんとにいいの?」


 俺が思考にふけっているとまなみが心配そうに聞いてくる。どうやらいつもと違う俺を不審に思ったようだ。


「ああ、別にそんな大したことじゃない。ただ、あまりにもモテモテで誰を選んだらいいか分からないだけだ」

「アハハ、……それはもう私一択しかないよ。それ以外の選択肢なんてありえないし許さない」

「お……おお」


 適当にごまかそうとしたがなぜか妹の目が一ノ瀬並みに鋭くなった。おかしいな? 

 というかまなみ一択って、そりゃ確かに俺は妹のためなら一生結婚しないで養っていく覚悟だが。


「まあそれはもういいだろ? それよりもう準備はいいのか? まだ少し早いからもう少しゆっくりでもいいんだぞ?」

「ううん、もう準備万端だよ。だってこの一週間毎日今日のことを考えて生活してたからね♪ 何をどうするか完璧にシミュレーション出来てるよ。今日着ていく服から映画館のトイレの構造までもう完璧♪」

「そ、そうか」


 その能力を勉強にも活かせられればいいのだが。

 というかトイレの構造って何? こいつ映画館で何を想定して準備してんの? これでいつ地震が起きても安心だね。


「それじゃ、ちょっと早いけど先行って席取っとこうよ♪」

「そりゃいいけど、どうせもうネットで予約席確保しているんだろ? それにあんまり早く行っても混んでるだけじゃないか?」

「んも~~っ! なんでそんなこと言っちゃうの⁉ ちょっと早く行って映画が始まるまでのプチデート気分を味わいたいっていう可愛い妹の妹心、分からないかな~? ……分からないよね。だってお兄ちゃんだもんね」


 自問自答とはこういうことを言うのだろう。当然そんな高度な乙女心理が俺に分かるわけもないが。というか分かっていたら俺は部活を追い出されたりしていない。


「それは悪かったな。お兄ちゃんは鈍感系天然主人公を目指しているからそんなこと分かる必要はないんだよ。というか分かったらいけないまである」

「はあ~~。……まいっか。どうせお兄ちゃんだし」


 どうやら許してくれたようだ。こういうところがやっぱり俺との付き合いの長さの差だな。『諦める』という選択肢があるかないかが一ノ瀬達とまなみの違いであり、それがあるということが俺のどうしようもなさを物語っている。


「んじゃ、行くか。今日も俺が華麗にエスコートして見せるぜ(キリッ)」

「お兄ちゃんにそういうことは全く期待してないけど、うん。行こ♪」


 最後の最後まで俺は期待されていなかった。

 玄関を出ると眩しい朝日に俺の目が悲鳴を上げる。そんな俺を見て、

「お兄ちゃんってほんと吸血鬼の役似合うよねー」

 と笑う妹を見ながら思う。


 これって完全にデートですよね?



 *



 映画。それは原点にして頂点である。

 その歴史はテレビよりも遥かに古く、その魅力は時代をも超える。

 今から百年以上も昔、映画は連続写真の発想から出来上がった。中でも有名なものが彼の偉大な発明家、トーマス・エジソンが考案したキネトスコープだ。ただしこれは箱をのぞき込んで動画を鑑賞するというもので、現在のように劇場にて干渉されるようになったのは、リュミエール兄弟がシネマトグラフ・リュミエールで公開した『ラ・シオタ駅への列車の到着』や『工場の出口』などの計十二作が人類初の映画である。まだその当時は映画と言っても今のように声や音は入っておらず映像のみの無声映画だったが、その後アメリカの映画都市ハリウッドが誕生し、それを皮切りに世界各国で映画祭が開催されるようになった。

 日本では、1951年、巨匠、黒澤明が監督を務めた『羅生門』がベルリン国際映画祭にてグランプリを受賞するなど、その熱狂は世界中に広まっている。

 そんな映画だが、残念なことに現在、インターネットの普及等に伴い若者の映画館利用頻度が低下し、その姿を減らしていると聞く。つい最近は鬼の映画や、呪いの映画、海賊の映画などで盛り返していたが、それでも全体的にはその映画への熱狂は低下しているといえる。

 まあ、確かに家でアプリ契約しておけば観たい映画をいつでもどこでも誰とでもスマホ一つで観られるのだ。というか、新作映画だって少し待てば金曜日にテレビで観られる。わざわざ時間をかけて人でごった返す映画館に足を運び、席を取り合って負け、周りのカップルのイチャイチャを観ながらポップコーンをコーラで流し込む作業に没頭するなどといったおよそ地獄ですか?と疑いたくなるような思いをしてまで大画面で映画を鑑賞するなど相当なドMでなければ不可能だからな。そうなるのも分かる気はするが。

 だが、それでも映画館に足を運ぶ人間はいる。

 カップル席に一人で座った時の周囲からの冷たい視線に耐えながらも、床にポップコーンをぶちまけて申し訳なさと恥ずかしさで死にたくなりながらも、一人で少女向け映画を観に行って周囲の女の子たちとその親御さんにひそひそひそひそされようとも、それでも映画館にはそれらの犠牲を払ってでも観に行く価値があるのだ。(涙目)

 それはなぜか? 簡単だ。

 つまり、映画は物語を観に行くのではない、ということだ。

 あの熱狂、あの臨場感、そしてその迫力とは真逆のあの静寂。

 それららは決して一個人では味わえない映画館ならではの魅力だ。


 と、ここまで映画館について簡単に調べたことを語ったが、俺が言いたいのはこんなことではない。

 俺が言いたいのは、

『なぜカップルのデートと言えば映画館なのですか?』

 ということだ。

 恋人とのデートで行くならどこがいいですか? と聞いたら大抵遊園地、水族館、ラブホとならんでその名を連ねるのが映画館であるが、ではなぜこの映画館というものがデートで選ばれるのか。

 一度上映が始まるとせっかくのデートなのに恋人と話すこともできず数時間は拘束されてしまう。映画が終わって外へ出るともう既に日が暮れていたりすることだってある。バイト代を必死でためて課題を死にそうになりながらこなして、ようやく手に入れた好きな娘との休日デート。シフト変更を願い出た時バイト先のマネージャーからは嫉妬に狂った目を向けられ、学校の友達からは嫌がらせに間違った時間割を教えられる。それらに耐えて耐えて耐え抜いた先、ようやく行けたデートだ。それを数時間ただ椅子に腰かけて時間をつぶすだけで満足できるのか?

 笑止千万。Cは無理でもせめてBぐらいはやってしまいたいのが男心だ。

 手が握れる? ちょっと触れ合っただけで胸がバクバクドッキドキ? バカめ、それは漫画の中だけの話だ。実際にそれをやると何時間も女の子とずっと触れ合っているわけだから緊張して手汗ダラダラ。映画が終わるころにはふやけてしまっている。ある意味嫌われないかドッキドキだ。

 ではここでもう一度問おう。

 なぜ、これほどまでに非効率であるにもかかわらずデートに映画館が選ばれるのか。

 長年一人で寂しく映画館に通い続け、その過程で幾人ものカップルたちを観察してきた俺は遂にそれについてある一つの回答を導き出した。もう論文を出せるレベルである。

 つまり、彼らの本当の目的はデートはデートでも夜のデートなのだということだ。

 漫画やアニメに出てくるピュアなカップルたちの場合こうだ。


 デート

 ↓

 好きな人と一日お出かけ///

 ↓

 手繋げちゃった♪

 ↓

 幸せ♥


 が、実際のカップルたちの思考はこうだ。


 デート

 ↓

 恋人と出掛ける

 ↓

 早くホテル(で)イキて~

 ↓

 一々機嫌とんのめんどい

 ↓

 あ、映画館なら話さなくても座ってりゃいいじゃん♪

 ↓

 きもてぃ~~‼ ♥♥♥


 (注意:個人の意見です。)


 そう、世の中少し手が触れあったくらいでドキドキバクバク発情するようなピュアピュアなカップルなどごく少数しか存在しない。大抵は相手と自分との釣り合いを気にして相性を気にして、友達と愚痴るネタにするような奴らであふれている。自我拡張という言葉を聞いたことがあるかもしれないが、人が自分の持ち物まで含めて自分だと認識すること。要は家柄、学歴、職業、そして友人、恋人など、自分の価値を付属品で形にすることで自尊心をアップアップさせるというような意味だ。いいものを身に着けると自信につながる。金持ちが宝石を指にごろごろはめてドヤ顔しているみたいなもんだな。まあ、金で買える自信や自尊心に一体何の価値があるのかは分からないが。それと同じようにカッコいい友人、美人な彼女、大企業の社長と友達、などなど、人間関係というのもまた同じようなことが言える。皆からの需要が高い人間が知り合いにいると誇らしいと感じるのはそういうことだ。


 何が言いたいかというと、大抵のやつは心のどこかで恋人と言っても純粋な好意というよりもそのブランド効果で自分の価値を高めて、より自分は優れた人間なのだと安心を得るためのアクセサリーのように思っているものだ。ブランド効果というのは容姿、家柄、おしゃれ、経済力、社会的立場(学校ならクラス内でのヒエラルキー)といったその人間の客観的価値だな。あの人いいなと思っていても友人にあいつブスじゃね?なんて言われるとすぐに覚めてしまったというようなことはあるだろう。まあ、行為という意味では純粋かもしれないがな。それを本物の愛だと言うのなら構わないが、どれだけ高いブランド品でも経年劣化はするし、トレンドが変わって皆が飽きたら同じような価値を感じなくなるということは忘れてはならない。

 故に結論。


 デートで映画館を選ぶ奴は話がつまらないので、ホテルには行っても式場には入らない方がいいですよ。

 (注意:ここまですべて個人の意見です。()()()()()、個人の意見です)



 閑話休題。


 長々と語ったが、俺は今、妹と大型ショッピングモールに併設された映画館にプチデートに来ている。

 そう、もしこれが妹ではなく恋人であった場合、俺はさっき自分で言った話のクソつまらない結婚してはいけない男にドンピシャである。


「ふむ、これはピンチだな」

「ん? 何が?」


 映画館内のカップルシート。一際真っ赤に塗られたその席は世に言うところのいわゆる勝ち組、休日に恋人と出かけられるという幸福極まりない特権を持った者の聖域であり、持たざる者は決して近づけない聖なる場所。……聖域と聖なる場所って被ってるな。

 そんな特権階級御用達の右をみても左をみてもカップルばかりの暑苦しい空間で俺は妹と二人肩を寄せ合ってドリンク(俺はオレンジジュース、まなみはカルピス)を飲んでいた。画面のなかでは奇抜な格好をした仮面の紳士が優雅にフラメンコを踊っている。


「いやな、映画館に行くとは聞いていたがまさかこんなビップ席を予約していたとは思わなかった。もう少しお財布に優しい席だと思っていたんだが……」


 このビップ席、前に一度まなみからせがまれたときに見た値段だと確か一人数千円は超えていた気がする。

 俺の本当の(それなりに入っている)財布は基本まなみに預けっぱなしなので一々確認などしていない。というか俺よりもまなみの方が俺の財政事情には詳しい。将来きっといいお嫁さんになるね。まあ絶対に俺は許可など出さないが。

 なので少ない方(いつも俺が持ち歩いている方)の財布の中身しか見ない俺としてはそこのところどうなのかとても不安になってくるのだが。……まあ、まなみだしその辺はしっかりしていることだろう。何せうちの妹は学校の成績は酷い(俺よりは良い)が要領はいいのだ。うちの家計簿だってまなみがつけている。ほんとお兄ちゃん形無しです。

 それにしてもまさか兄妹でカップルシートに座ることになるとは。財布のことはまあ、割かしどうでもいいのだが、どちらかというと精神的に来るな、この席。

 周囲を見渡せばすっかり二人だけの世界に入って、映画そっちのけでイチャイチャイチャイチャ鬱陶しいカップルたちばかりだ。更にそこから視線を外に向けるとこちらに殺意のこもった視線を向けてくる一人ぼっちのヒューマン達。

 正直言って俺の財布も精神もズタボロである。


「ふふ、大丈夫だよ。お兄ちゃん♪ この前来た時にもらった割引券使ったからそれほどお金かからなかったし。それにカップルだけじゃなくて兄妹で来る人も結構いるらしいよ? 私の友達もこの前お兄ちゃんと行ったって言ってたし。……まあ、福引で当てた商品だったらしいけど」


 どうやら俺のこざかしい考えなど賢い妹にはバレバレのようだ。


「そ、そうか。いや、別に金のことはどうでもいいんだけどな? けどほら……な?」

「ふふ、それも大丈夫♪ 今お兄ちゃんが恥ずかしいのは私たちが周りから浮いちゃってるからなんだよ。つまり私たちも周りに負けないくらいイチャイチャすれば恥ずかしくない! 『木を隠すなら森の中』作戦だね♪」


 ふふんっ♪ と薄い胸を張る妹だがどうやら上手いこと言えたと思っているらしい。言いたいことは何となく分かるがそれを言うなら『郷に入っては郷に従え』だと思う。まあ、可愛いから何でもいいが。


「なるほどな、理解した。けど、それはそれで恥ずかしいんだが」


 シスコン疑惑が拭えない俺でも流石に公衆の面前で妹とイチャイチャするというのは気が引ける。


「そんなに難しく考えることないよ? ほら、将来恋人ができた時の練習だと思って」


 言ってまなみはひじ掛けにかけていた俺の左手をとって指を開かせると、自らの左手の指に絡めていく。俗にいう恋人繋ぎというやつだ。

 妹とはいえ公衆の面前で可愛い異性とこういった状況になっている。普通なら緊張やなんやらを感じて照れたり慌てたりしてしまうのだろう。けれどこの時、俺はただ放心したように繋がれた手を見つめていた。

 俺の内心を占めていたのはまったく別のことだった。


「恋人?」


 コイビト? 恋人ってあれか、今前の席で肩を寄せ合ってるような。


 …………………え? まなみに恋人? 


 ~~~っ‼⁈⁉


「お兄ちゃんそれだけは許しません‼」

「うわっ⁉」


 周りのカップルの姿を将来のまなみと重ねた瞬間、俺の口は脊椎反射で開いていた。

 突然映画館で大声を出した俺に自分たちの世界から強制送還されたカップルたちがチラチラと迷惑そうな視線を向けてくる。

 ………あ。

 我に返った俺はそれらにものすごい勢いで頭を下げながらふと隣を見る。

 そこではまなみが顔を真っ赤にして、

「~~~お兄ちゃん、私に恋人できるの嫌なんだ……へ~………エヘヘ……エヘヘへへ…フフッ……///」

 と、もごもごと何事かをつぶやいていた。

 そりゃいきなり隣の奴が大声出して周りの連中から変な目で見られだしたら同席している奴は恥ずかしくなるよな。

 ここからクライマックスに突入していよいよ待ちに待ったアクションシーンなのだが致し方ない。

 これ以上まなみに恥をかかせるわけにはいかないからな。


「悪い、まなみ。俺先外出てるわ。適当に時間つぶしとくから終わったら連絡してくれ。あと、ナンパには気をつけろよ」


 言って俺はこそこそと席を立つ。


「え? ちょっ……はあっ⁉」


 まなみは優しいから気を遣わないでいいというかもしれないが、それでもこれ以上楽しいデートで迷惑はかけられない。


「じゃ、また後でな」


 俺はもう一度周りに頭を下げて外へ出た。

 勝手に出て行って怒らせてしまうかもしれないがそれはなんとかこの後のデートで挽回しよう。


 俺が腰を低くしながら前を通っているとき、何故だか周囲のお客様たちが「マジかこいつ……」みたいな視線を向けてきた気がしたが、まあ、気のせいだろう。



 ちなみに、俺が出て行った後一人取り残されたまなみが物凄く不機嫌だったため、周りのカップルたちはイチャイチャどころではなく、皆映画に見入っていたと同日最前列で一人、休日返上で映画研究にいそしんでいた映画研究会部長、小田倉正義は語った。

 また彼によるとそのことが影響してかしないでか、その年の興行収入ランキング一位を見事獲得したのはまさかのダークホース、その日万才達が観た映画『フラメンコ男爵の華麗なる休日』だったそうだ。

 めでたしめでたし。



 *



「んもう~~~っ‼ ホント信じられないよ、お兄ちゃん! あの後館内の空気最悪で全然楽しくなかったんだからね⁉ というか私あの映画にそこまで興味なかったし! 大体フラメンコ男爵って何? 舐めてんの?」


「舐めてんの?」と言われても、それは俺ではなく謎の仮面紳士フラメンコ男爵に聞いてもらわなければ分からない。というか、それを言うなら俺だって変な仮面被ったおっさんがフラメンコ踊ってるのなんて観たくない。あれは美しい女性が妖艶に踊る姿が美しいのであって、むさ苦しいおっさんがむさ苦しい恰好で踊ったところでそれ誰得ですか?って話である。まあ、誰かに得があるから上映されているのだろうが(コンプライアンスを意識した発言)。


「悪かったって。でも仕方ないだろ? あれ以上お前に恥をかかせるわけにはいかなかったんだから」


 俺たちは現在映画館から出てすぐ近くのファミレスに入っている。

 あの後、時間つぶしに店の中を適当にぶらついた俺はまなみからの連絡を受けて再び映画館へと向かった。ちなみにその時のまなみからのメールは、

『終わったよ………何もかも』

 である。俺たちが観てたのってホラー映画だったかな? 


 急いでまなみと合流した俺はひたすら平謝りを続けた。この頃俺は誰かと話す度に誤っている気がする。

 全力で甘やかして何とか許しをもらった俺は、まなみを一人映画館に置いてきぼりにした贖罪として、ファミレススイーツ食べ放題の刑に処されて今に至るというわけだ。

「……まあ、ふぉんはいはゆうしてあげるけど……(ごっくん)……次からは絶対ダメだよ? こういうの。というか今日のだって私だから許せるけど、これを他の女の子とのデートでやってたらお兄ちゃん今頃ポイッてされてたよ? それぐらいこれは許されないことなの。そしてお兄ちゃんに彼女ができることも許されないこと。というかむしろそっちのほうが刑は重いね」


 口の周りにクリームの白ひげを作ったまなみは口いっぱいにケーキを突っ込んでモキュモキュしていたかと思うと、先ほどまでの怒りを思い出したのか唐突に俺への説教を始めた。というかそれは食べ終わってからしゃべろうね? 可愛いけど行儀悪いから。


「分かった分かった。というかその話はさっき散々謝っただろ? こうして俺主催のスイーツ食べ放題を奢ってるんだ。そろそろ許してくれよ」


 そう。先ほど言ったファミレススイーツ食べ放題の刑とはもちろん俺がファミレスのスイーツ全種類食べ終わらなければ帰れまテン!というわけではなく、まなみに好きなだけファミレスのスイーツをごちそうするという本当の意味で俺の財布への罰なのだ。

 まあ、どちらにしろ俺の財布を持っているのはまなみなので傍から見れば俺はものすごい数のスイーツを平らげ続ける年下の女の子に奢ってもらっているヒモ男そのものかもしれないが。将来の予行練習だな。……もしかしてこれも罰のうちに入っているのだろうか? だとすれば俺の妹賢すぎるな。ここまで賢いのにテストのたびに姉さんへの隠ぺい工作を手伝わされるのは不思議でならない。


「……まあ、仕方ないから許してあげるけど。……でもお兄ちゃん、私が本当は何に怒ってるのかちゃんと分かってる?」


 でた。究極の質問。

 私が何に怒っているか分かってる?

 恋人達の痴話げんかでは定番の問いだ。そしてここまで定番の問題なのに具体的な解答例がないあたり、やはり難問と言える。


「ん? そりゃもちろん、俺が映画館で勝手に大声出してお前に恥をかかせてしまったのと、そのあと勝手に先に出たからだろ?」

「……そう。じゃあ、何でお兄ちゃんが勝手に出て行ったことに怒ってるか分かる?」


 何故だか先ほどからまなみの声が真剣だ。まあ、怒られているのに笑って言われてもそれはそれで困るのだが、何もそこまで真剣だとそれはそれで気まずい。あと、怒るときに口の周りにクリームのお髭を生やしたまま喋るのはやめてほしい。声とのギャップで笑ってしまいそうだ。(可愛い)


「ああ、それは………あれ? そういやどうしてだ? 俺が大声出して恥ずかしい思いさせちまったのは分かるが、それ以上恥をかかせないように先に出たのは正しい選択じゃないのか?」


 まなみのご機嫌取りに必死でそこまで考えていなかった。というかしょっちゅう誰かに怒られているのでその意味を考える前に先に頭を下げる癖が身についている。なにせこの間先生に呼び出されたときは話をする前に土下座していたからな。


「はあ………やっぱり全然分かってなかったんだね、お兄ちゃん」


 そう言うと、まなみはお皿の上に半分残っていた苺のショートケーキをグサッとフォークで刺すと、そのままその小さなお口に突っ込んだ。


「アム……っ……んんっ……ごほっ……ヴぉ、を兄ちゃん……み…ず」

「あ、ああ、分かった。ほら、これ、水だ」


 勢いに任せてやけ食いしたは良いものの思いのほかケーキは大きかったらしく、飲み込めないで死にそうになっているまなみに俺は慌てて手近にあった水を差しだす。


「んん……ップハ~~っ‼ ……ご、ごめんね、ありがと、お兄ちゃん///」


 流石に恥ずかしかったのか視線を逸らしてモゴモゴとお礼を言うまなみ。少し頬が朱色に色づいている。


「ああ、でも気をつけろよ? 思いのほかのどに物を詰まらせての事故ってのは多いらしいからな」


 まあ、その大半は消化器官が衰えてくるお年寄りの方か小さな子供なのだが。


「う、うん。……気を付けます」


 言いながらまなみは俺が渡した水のコップをペロペロと舐め回している。……あの、それさっきまで俺が使ってたコップなんですけど。


「で、一体何が言いたかったんだ? 美味しいものでもよく噛んで食べないと危ないよ、とかか?」

「うっ……ち、違くて! え、ええと……そう! ……ああ、やっぱちょっと待って。少し落ち着くから」


 言って、まなみはもう一度俺のコップを舐め回した後、二~三度深呼吸をする。……何故にまた舐めた?


「ん、んんっ。……あのね、お兄ちゃん、さっきから私が怒ってるのは別にお兄ちゃんが大声出して恥ずかしかったからでも、先に出てっちゃって気まずかったからでもないんだよ?」

「? そうなのか? いや、でもだったらなんでさっきから」

「んもうっ! まだ分かんない⁉」


 分かんないかと聞かれればまったくもって分かりませんと答えるしかない。

 分かっているのは、可愛い妹の怒っている理由さえ分からない俺は間違いなくお兄ちゃん失格だということくらいだ。


「……悪い、本当に分からないんだよ。……ほんと、ごめんな、駄目な兄ちゃんで」


 やはり俺にはお兄ちゃんになることなど無理な話だったのだろうか。

 こんなんじゃ、いつかまたみんなを傷つけてしまう日が来るかもしれない。

 だったらいっそのこと――


「スト~~~っプ‼」


 俺がその思考を形にしようとした瞬間、両頬にひんやりとした感触がしたかと思うと、ぺチンという音とともに店中に轟く大声がそれを遮った。

 顔を上げるとまなみが真っ赤な顔で立ち上がって、俺の両頬に手を当てて俺を見下ろしている。

 周りを見れば周囲の客たちが突然大声を出して立ち上がったまなみを、正確にはまなみと、同席する俺を怪訝な顔で見ていた。別れ話とでも思われているのだろうか? ……生憎と今はあまり冗談を言える状況ではない。


「また勝手に勘違いして的外れな結論出そうとしてたでしょ?」

「うっ……」


 まさにその通り。図星である。


「はあ~~。……まあ、これで分かってたらここまで苦労しないか」


 言ってまなみは俺に向き直ると、真剣な声音で言った。


「あのね、私が怒ってたのはね、お兄ちゃんといられる時間が減っちゃったからだよ」

「え?」


 周囲の視線など眼中にないとばかりに、まなみはその美しい瞳を俺だけに向けてくる。その瞳には困惑した表情を浮かべる、酷く頼りなさげな男の姿が映っていた。


「今日のお兄ちゃんとのデ……お出かけ、私とっても楽しみにしてたんだよ」


 ああ、確か家を出るときもそんなことを言っていたな。てっきり冗談かと思っていたが、割と本心だったのか。


「でもね、それは別に映画が楽しみだったわけじゃないの」

「あれ? でもお前、何週間も前からこの映画が観たいって」

「っ……だからっ! ……だからそれはお兄ちゃんと出かけるための口実なんだってば! 私はね、お兄ちゃん。別に映画じゃなくても良かったの。というか、正直そこまであの映画に興味もなかった。ただあのカップルシートに座りたかっただけで」

「ん? だからどういうことだ? どこでもいいなら家でもいいのでは?」


 いまいち妹の言っていることが分からない。今日のまなみはいつにもまして難しいな。


「っ……! い、家にはお姉ちゃんたちが居てイチャイチャできないし……。……ああっ、もういいよ、率直に言っちゃうけどね、私はお兄ちゃんと二人でいれさえすれば別に周りの視線なんてどうでも良かったの! 誰にどんな目で見られたって、お兄ちゃんのその赤い目に私が映ってさえいればそれでいい‼」


 もはや恥じらいもためらいもなくなった我が妹はこれ以上ないほど真剣に、その想いを伝えようと必死に言葉を続ける。興奮してか徐々にその勢いは高ぶっていく。


「今日ね、お兄ちゃん、大声出したけど、あれって私が、将来恋人ができた時の予行練習だって言ったからでしょ? 私に恋人ができた時のことを想像して、あんなこと言ったんでしょ?」


 言われて思い出す。そうだ。俺はあのとき周囲の恋人たちにまなみとその隣にいる男の姿を思い浮かべて、思わず声を荒げてしまったのだ。


「あ、ああ。あれは本当に悪かったと思っている。お前の将来はお前のものだ。だから俺が口出しするのは」

「ううん、違うよ! 違うよ、お兄ちゃん。私ね、あの時嬉しかったんだ」

「嬉しい? お節介じゃなくてか?」

「うん。だってそれってお兄ちゃんが私の将来の恋人に嫉妬してくれたってことでしょ? 私を渡したくないって思ってくれたってことでしょ? あのお兄ちゃんがだよ? 昔、全然私を見てくれなかったお兄ちゃんが私を見てくれてるってことが分かって、私とっても嬉しかったんだよ?」

「まなみ……」


 そうか。あの時まなみが恥ずかしそうにしていたのはてっきり周りから注目を浴びているからだと思っていたが、そういうことだったのか。

 昔、そう言われて本当に申し訳ない気持ちになるが、それでももしかしたら俺は変われたのかもしれない。少なくとも、昔の俺は妹にこんな嬉恥ずかしいことを言われたことはない。


「……でも」


 ん? でも?

 妹からの思いもよらない告白を受け、何とも言えない喜びに頬が緩む俺だが、突如、先ほどとはまるで違った、言い換えるならこの間一ノ瀬達に胸の話をしてキレられたときと似たような寒気が襲った。


「でもお兄ちゃんは勝手に勘違いして出てっちゃうし、周りはカップルばっかりでうらやま……むかつくし、せっかくのお兄ちゃんとのデートなのに一緒にいられないし、というか映画全然面白くないし――」


 まなちゃん火山大爆発である。

 まなみのたまりにたまった不満。その勢いは徐々に加速していく。


「別に私はお兄ちゃんとさえいられれば映画館なんてどうでも良かったのに、そのお兄ちゃんが途中でいなくなるなんてどういうこと⁉ そりゃ私のことを気遣ってくれたのは嬉しいけど、でもそれなら私も一緒に出たかったし? だいたいいつもいつもお兄ちゃんは勝手に勘違いして変な気遣っていつもどっか行っちゃうし。この間だって遊園地でカップル写真撮ろうとした時だって『自分は入らない方がいいだろ?』とか言って私だけ撮ろうとするし。あと、この前勝手に冷蔵庫の中身使ってその埋め合わせするって言ってたのに結局学校が遅くなるとか言って一緒に買い物行ってくれなかったし――」

「ス、ストップ! わ、分かったから。な? だから一旦落ち着こう、まなみ。というかもう正直俺、これ以上は耐えらんない。俺の気遣いがむしろ迷惑だったってところからもう既に俺のライフはゼロだ」


 さっきの告白にも衝撃を受けたが俺のマックスになっていた妹ゲージは先ほどからガンガン削られている。


「茶化さないで‼」

「は、はい」


 爆発しているはずなのにそういうところは意外と冷静なんだな。まさか妹にマジ説教食らうとは思わなかった。

 これはこれで悪くないな。


「と、に、か、く! 私はね、お兄ちゃん! 今日はずっとお兄ちゃんといたかったの! ずっと離れたくなかったの! だからもう、勝手に変な気使ってどっか行っちゃったりしないでよ! もう二度と、その目から私を消さないで! ……って、そう言いたかったの!///」

「っ……」


 目尻に涙を浮かべて懸命に何かを伝えようと声を荒げるまなみ。

 その真剣な眼差しは驚くほど綺麗で、俺のこんな空っぽの目ん玉よりもはるかに価値があると思った。

 俺の目を見つめ、決して逃がすものかと俺の瞳の奥の奥を覗き込もうとする妹。

 俺はそんなまなみの瞳を見返しつつ、滴った雫の行方をたどる。

 きめ細やかな肌を滑り落ち、血色良く年若さを感じさせる薄紅色の頬を通ったそれは、湧き出た清水がやがて一条の水の路となるように彼女の形のよい顎からぽつりとこぼれた。


 ……ああ、ようやく分かった。

 俺は今まで間違い続けていたのか。


 ――俺はバカだな。

 こんなに純粋に俺を思ってくれる妹の気持ちに、こんなに嬉しい、もったいないほどの想いに、ずっと気づかないでいたんだから。

 一緒にいてもいい。

 そんな風に思ってもらえているなんて、思いもしなかった。

 勝手に昔の罪を被って、償っている気になって、自分に都合がいい、自分が傷つく方法ばかり選んで、それでまたまなみを傷つける。

 もう二度と、傷つけないと誓ったはずなのに。もう絶対に、家族にこんな顔させないと誓ったはずなのに。

 また俺の目に映る妹の瞳には、大粒の涙が浮かんでいる。

 俺はとんでもないクズ野郎だな。


「ごめんな、まなみ。駄目な兄ちゃんで。……たぶん、俺は怖いんだ。人を知らないから。正直こんなこと言うのは本当に情けないんだけど、俺は傷つきたいんだと思う。償いたいんだ」


 自分が傷つくことで罪を償う。それはとても楽だから。分かりやすいから。

 俺自身のことも、俺以外の誰かのことも、何も知らない俺にとって、その方法しか償い方が分からないから。


「償う? なんでお兄ちゃんがそんなことする必要があるの? お兄ちゃんは何も悪い事なんてしてないじゃん‼」

「そうだな。……でも俺はダメなんだ。それじゃあ、きっと何も変われない」


 だから常に自分を戒め続ける。否定し続ける。

 だってそうしなければ、俺はきっとまた誰かを傷つけるから。


「そんなっ、……そんなのおかしいよ! だって悪いのは――」


 何かを言いかけたまなみだが俺はそれを遮るように言葉を続ける。


「でもな、今日、お前の言葉を聞いて分かったよ。そんなやり方じゃきっとまた失敗する」

「え……?」


 そう言って、俺はまなみの涙をそっと拭った。

 そしてその艶やかで触り心地のいい髪に手を置いて頭をなでる。

 まなみは困惑していたが構わずなで続ける。


「だから、これからはちゃんと探すよ。もっと違うやり方を。誰も傷つけない方法で、俺は必ずお前たちに恩を返す。罪を償う。きっとお前たちを幸せにするよ」


 これは決意だ。

 すぐには変われないかもしれない。いや、きっと変われないだろう。

 けれど、それでも俺はもう間違いたくはない。


「……いいよ、償いなんて」

「いや、でも」

「でも、償いなんてしなくていいから、幸せになんてしなくていいから」


 頭に置いていた俺の手をその小さく可愛らしい両手でぎゅっと握って、まなみは俺に最高の笑顔で言った。


「これからもずっと、私の傍にいてね、お兄ちゃん♪」


『チュ』


「っ⁉」


 瞬間、俺の鼻孔を甘い香りがくすぐったのと、俺の頬に柔らかい感触が伝わったのは同時だった。


「えへへ~、もう離さないよ♪」


 俺がフリーズしていると身を乗り出して顔を近づけてきていたまなみは「にししっ」といたずらが成功した子供のような笑みを浮かべながら言った。

 ………ハハハ

 まったく、これはもうあれだな。妹ルート確定なのかな?


 昔、もう誰も傷つけないと宣言してから二年。

 まだまだ俺はバカなままだけれど。傷つけてばかりだけれど。いつかきっと、みんなを心から笑顔にしたいと思った。



 直近の問題はやはりあの胡散臭い部活の問題だな。

 とりあえず来週なんとか話をする機会を作ってもらえるよう今のうちから土下座の仕方を練習しておこう。



 さて、それはいいのだが、どうしようか?

 さっきから盛り上がっていて気づかなかったが一旦落ち着いて冷静になると店の中がどえらい空気になっていた。

 やべえ、俺今日何回空気めちゃくちゃにすんだよ⁉ 俺の周りには常に空気清浄機を設置するべきかもしれない。

 ウエイトレスのお姉さんが物凄くワクワクとした目でこちらを見ている。

 瞬間、かっちりと目が合ってしまった俺は音速で目を逸らすと、恐る恐るまなみに耳打ちする。


「そ、そろそろ出ようか、まなみ。お昼までには帰るって母さんに言ってただろ?」

「えへへ~、もうちょっとこうしてたい♪」


 駄目だ可愛い……っ!

 妹のデレデレフォームに、ここのところ酷い扱いばかり受けてきた俺が抗えるはずもない。

 その後、正気に戻ったまなみが真っ赤な顔をして店を飛び出し、それを俺が追いかけるまで一時間近く俺はアイスコーヒーを注文し続けた。


 お店での注文なしの長期滞在は迷惑なのでやめましょう。

 今日の教訓だな。


*万才のデート論はあくまで万才個人の意見です。

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