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一徹秀隆の形

 

「では、念のため自己紹介をしておきましょうか。私は部長の一ノ瀬、こちらが皇さん。それから……あなた誰? 部外者は出て行ってもらえるかしら?」


 真面目腐った調子で言っていた一ノ瀬が意地悪く頬を緩めながら言う。何とも懐かしいくだりな。結構気に入ってんのか? 自己紹介の度にやっている気がするが、この部の伝統にしていくつもりだろうか。もし何年か先にも後輩がいて俺みたいな扱いを受けていたら、ちょっと申し訳ないな。


「部長の愛人の九十九万才だ。こんなこと言ってるが裏ではつっくんって呼ばれてる…ってごめんて。そんな怒るなよ」


 ちょっと毛色を変えて言ってみると、それはもう不機嫌な顔になった一ノ瀬がさっそく戦闘の準備に入ったため、急いで距離を取って間合いから外れる。何が気に入らなかったんだ? あれか? 愛人だったからか? でもそのポストは甘地先生に空けとかないと後が怖いから。


「二人とも、初対面の人の前で失礼ですよ。皇きら……ら、です。どうぞよろしくお願いします」


 そんな俺たちのやり取りに困惑している空手部の二人とは違い、慣れた様子で窘めつつ皇が丁寧に挨拶する。うーん、やっぱり名前はちょっと恥ずかしいんですね。いいと思うけどな、キララ? 流星でキララって、結構珍しいんじゃないか? それが恥ずかしいのか。


「……ウっス。一徹秀隆(いってつひでたか)っス。理事長の娘さん……っスか?」


 そんな俺たちの適当極まる挨拶にも広い度量でもって挨拶を返してくれた彼は意外にも話題まで振ってくれた。うーん、まずいな。部長(代理)としても一生徒としても、俺達よりいくらか格上だ。というか声がいいな。いかつい見た目通りの渋くて深い声だ。

 俺が秀隆って名前チョーかっけえなあ。俺の名前と何が違うんだろう? あ、全部か。俺の名前、半分冗談みたいだもんな。なんてどうでもいいことを考えながらなんとかアイディンティティを保とうとしていると、


「ええ、まあ、そうね。それが何?」

 ………。

 さすが我が部の部長様。せっかく場の空気を和ませようと一徹が話題を振ってくれたのに、モグラ叩きかってくらい一瞬で叩き潰した。

 少しは前進したと思ったが、気持ちの在り様が変わっただけでそもそもコミュニケーション能力は始めから無かったな。やはり引き続きコミュニケーション教室は継続していこうと思う。


「っと、ええと……」


 まさかそんな風に返されるとは思っていなかったのか、困惑した様子で苦笑いを浮かべる一徹。


「おい、少しは気を遣え。あくまで取材に来てる立場なんだから」

「そう言われても、なんと言っていいか分からなかったのだから仕方ないでしょ?」

「それでももう少し言い方ってものがあるって話だ。おべっかだよおべっか。わ~、一徹さんカッコいい~♪ 筋肉かた~い~♪ ……とか、お前の姉ちゃんが得意そうなやつだ」

「っ……私にそれができると?」

「そうだな、ごめんな。冗談だから許してください!」


 向けられた凍てつくような視線に息が詰まりそうになり、慌てて取り繕う。怖いよ。そういうところは全く衰えていないどころか絶対零度の限界突破まである。(スーパー)だな。


「……てか、聞こえてんだけど。あの、これほんとに生徒会の取材っスか? それにしては変っていうか、そもそも育才部なんて部、聞いたことないんスけど」


「「「「っ」」」」


 悪ノリが過ぎたせいか、怪訝な表情で疑いの目を向けられた俺達。高校生にしては少し老けたというか大人びたというか、濃い日焼け顔の眉間に皺を寄せた一徹の疑るような視線に声を詰まらせる俺達。うーん、顔とか低い声だけで判断すると、こいつ刑事とか向いてそうだな。一歩間違えれば真逆の道に進みそうでもある。ちょっと怖いんだよな。

 そんな当たり前の疑問にどうしたものかと俺たちは顔を見合わせる。べつに取材だなんだというのは俺たちが一徹と話をする機会を取り付けるための適当なこじつけなので、これ以上それにこだわる必要もない。

 俺と一ノ瀬はお互いに顔を見合わせ一つ頷き、本題に入ることを決める。


「いえ、取材というのは嘘ではないわ。嘘だけれど。あなたに用があるのは本当よ」


「は? ……え? 結局取材は嘘ってこと?」


「ああ、まあ嘘だな。ちょっとお前に聞きたいこと……というか、お前と話がしたくて嘘を吐いた。悪いな」

「ええ、ごめんなさい」


 ごめんなさいがきちんと言える常識人である俺たち。ちゃんとごめんねが言えるようになって偉いな、一ノ瀬。


「……あの、二人とも、謝罪をするときはもう少しきちんと誠意を見せないと」


 そんな激甘判定で一ノ瀬の成長に感慨深いものを感じていた俺だが、不思議なことに心にもない言葉というのは人に伝わるもので、困ったような呆れたような申し訳なさそうな顔をした皇が子供に謝りなさいと注意する母親のように言う。


「いやまあ取材じゃないんならいいんだけど。なら何? 俺と話がしたいって……俺に告白でもすんの?」


 取材じゃないと聞いてぱっと肩の力を抜いた一徹がちょっと荒っぽい口調で言う。怒っているという感じではないので、これが素なのだろう。


「なんだ、さっきまでのはちょっと取り繕ってたんだな?」

「ああー、まあこの学校に入学してから取材とか結構されること増えたし、テレビとかも偶に来るからな。ああいう感じの方が受けがいいんだよ」


 ううーむ。何というか、イメージしていたただの運動部って感じじゃなくて、アスリートの素の部分を見ちゃったって感じだ。万才は見た! ゴロはいいけど、だから何?って感じだな。


「べつにどちらでもいいけれど、やっぱりああいう取材の内容は虚構ばかりなのね。分かってはいたけど、実際に聞くとあまりいい気分はしないわ」


 まあそうだな。学校紹介とかのパンフレットを見てそれをそのまま鵜呑みにして、必死になって受験勉強したのにいざ合格して入学してみたら全然書いてた内容と違ってた、みたいなことはよくある話だ。どちらにしても、あまり気分のいいものではないというのは賛成する。


「何も、全部が全部ウソばかりってこともないだろうけどな。まあ人間、少しでも良いように見られたいってのは誰しもがそうだろ?」

 コンプライアンスを意識した俺が擁護するように言うと、一ノ瀬は少しむっとしたようにきゅっと唇を結んで、

「私は自分を偽ってまで、見ず知らずの他人に評価を受けたいとは思わないわ。それにあなただって、……そうでしょ?」


 同意を求めるように見つめられてしまう。


「っ……まあ、俺たちはな」


 言うと、伝えたかったことを理解されたことが嬉しかったのか、「そ、そう。……うん」と緩みかけた頬を隠すようにふっとそっぽを向いてしまう一ノ瀬。


「なに人前でイチャついてんだ? てか、あんた達みたいな奴の方が少数派だろ」


 苦虫を嚙み潰したような顔で言う一徹。


「「「………」」」


 べつにそういうんじゃないから! ……とツンデレヒロインの様に否定してみたいような気恥ずかしさに駆られる俺達だが、それは流石にそのまますぎるのでちょっと居心地の悪さを感じつつもそっと押し黙った。

 たしかに俺も一ノ瀬も他人から見たらかなりおかしい部類だろう。人間なんてどうせ変わりゆくのが宿命みたいなものだ。わざわざ()()()()()なんて不確かなものを問い続けようとするなんて、正気の沙汰ではない。そんなあるかどうかも分からない曖昧なものを必死になって求め続けて、目の前にありふれている幸せを平気で手放すなんて、愚か者ここに極まれりだ。

 しかし、それはそれとしてバカで愚かな俺達だが、それでも譲れないものはある。


「まあ、弱い人間はそうだろうな」

「「「っ」」」


 言った瞬間、全員が言葉に詰まって俺を見た。


「……あ?」


 言葉の意味を理解した一徹がドスの利いた声で睨みつけて来る。


「言葉通りの意味だ。俺は確かにそれを諦めたバカな人間だが、一ノ瀬は違う。痛みの中にあっても己を曲げず、決して易きに流れない。弱さを知って涙を流して、それでも諦めずに強くあろうとするこいつは、少なくとも偽物を受け入れて己を問うことを諦めた連中より、よっぽど強くてカッコいいぞ」


 瞳に力が入る。知らず、一徹の目を真っすぐ見つめ返していた。


「そ、そんなこといちいち言わなくていいわよ!」

「ふふ、さすが九十九さん。本当に一ノ瀬さんのことが大好きなんですね」


 耳を真っ赤にして俺のブレザーの裾をぎゅうっとつまむ一ノ瀬を温かい目で眺めながら、からかうように皇が言うので、グッと勢いよくサムズアップしておいた。


「お前……。まさかあの時のっ」


 そんな俺たち……というか俺の目を見た一徹が、衝撃を受けたようにその場に固まる。


「? 俺にお前みたいないかつい幼馴染はいないしいらないが」

「――うん。たぶんそうだと思うよ。一徹くんが言ってた人は、たぶん九十九君だよ」


 よく分からないがとりあえず適当ぶっこいて煙に巻こうといつものようにバカなことを宣っていた俺の声を遮って、さっきからずっと静かに俺たちの話を聞いていた矢渡先輩が確信に満ちた声で一徹に告げた。


「そんなっ……まさか同じ学校にいるなんて。先輩は知ってたんスか?」

「ううん。僕も初めて九十九君に会ったときに君の話を思い出して。修行の相手をしてもらってるときになんとなくだけど、不思議と確信したんだ。君が前に言ってた、紅い瞳の異常に強い同い年の少年は、たぶん九十九万才くんのことじゃないかなって」

「っ……こいつが」


 さっきまで気だるげにというかその気になればいつでも俺など組み伏せられるような舐め腐った目で俺を見ていた一徹の目が大きく見開かれ、見目麗しき同級生にさえ一切の意識もむけずに、ただ俺の紅い瞳を凝視する。奥の奥のずっと深いところ、まるで何かの記憶と結びつけるように呼び起こすように、俺の目を睨みつけて来る。


「あの、先輩。これは一体どういう……」


 困惑しつつ先輩に尋ねる。


「えと、じつは――」

「先輩!」


 矢渡先輩が何か言いかけたその時、重低音の骨に響く声にその先の言葉は遮られた。


「それで、あんたたちは俺に話があったんだろ? それとも、やっぱり告白か?」


 なんともわざとらしく、一徹は話を逸らした。



 *



「部長のいる意味……だと?」

「ああ。空手部を実質的にリーダーとしてまとめているのはお前だと、先輩は感じているらしい。ぶっちゃけ先輩の実力不足は全員の知るところだろ? 自分に自信が持てないことや()()()()()が、先輩に先輩が部長として空手部にいる意味を、疑わせている」

「っ…ちょっと、九十九さん。もう少し言い方を」

「やめなさい。下手な同情や気遣いは、いたずらに先輩を傷つけるだけよ」

「っ……」


 皇は優しい奴だ。けれど時に不用意な優しさは人を傷つける。それを知っている一ノ瀬はきっぱりとした強い口調で皇の言葉を制した。そんな一ノ瀬を見て、俺の左てに座る一徹が少し感心したように「いい女だな?」と不敵に笑いかけてきたので、俺もちょっと得意げに「だろ? 惚れるなよ」と片頬引いて笑ってやった。「さあ、それは分からないな?」と肩をすくめて言われたので、今度親父さん(理事長)に言いつけておこうと思う。


 場所を変えて育才部に移動した俺達は、一徹に事情を説明した。本人の前で事細かに依頼の詳細を伝えるのは憚られたため多少雑な説明になってしまったが、何となく一徹は察してくれたように思う。こいつ自身、そのことについて思うところはあったのかもしれない。


「……先輩が、そう依頼したんスか?」

「っ、……うん。ごめんね」


 隣に座る先輩に視線だけをチラと向けて尋ねた一徹に、申し訳なさそうに言って俯いて身体を縮こまらせる先輩。自然、体格差から一徹が先輩を見下ろすような形になる。


「なんで、謝るんスか……」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……穿った見方をすれば、そういう依頼内容だとも捉えられるからだろ」


「「っ」」


「九十九さん!」


 わざわざ二人が濁した部分をドブを漁るように白日の下にさらけ出した俺に、皇がきつく顔を強張らせる。


「いや、言葉にする必要もないかもしれないが、一応な? 積もり積もったヘドロはいつか、真実までも日の光から遠ざける」


『…………』


「そうね。この際、いっそさらけ出してしまった方が楽かもしれないものね」


 俺の言葉の意味を誰もが疑ろうと思考を巡らせる中、一ノ瀬が言った。


「あなたの言うことはきっと正しい。そうでしょ?」


 問われて一瞬言葉に詰まる。

 今のたった一言で、まさかそこまで読み取られるとは思わなかった。

 これは失敗から学んだ俺たちなりの教訓であり、とれたての果実みたいにフレッシュで少し酸味の強い生傷だ。生兵法は大怪我の基。中途半端に相手を知った気になって分かった気になって、気遣うふりをして偽ったままの心はいつか、取り返しのつかない大怪我の種になる。だからこそ、唾つけときゃ治るみたいな半端な知識と中途半端な優しさで傷を広げるくらいなら、いっそそれ以上の傷をつけ、共に痛みを背負うくらいの方がよっぽどいい。大怪我だっていつかは治る。でも傷つき傷つける覚悟を持つことでしか、人を導き救うことはできないのだ。

 俺たちの取り返しのつかない愚かしい失敗から学んだ教訓を、今こそ活かしてもらいたい。


「痛みを和らげるだけの気遣いは、今この場には必要ない。装って取り繕ったところで、先輩の依頼は果たされない。だから、」


 俺はそこで一つ言葉を区切って、この場で唯一俺の言わんとしていることを察している一ノ瀬に後の言葉を引き継いだ。


「ええ、だからどうか―――……傷つくことを恐れないで」


 先輩だとか後輩だとか、部長だとか天才だとか。嫌われるかもとか傷つけるだとか。そんな優しさという足かせでもって俺たちの仕事を妨げる愚か者どもに、誰よりも脆くて弱い我らが部長は少しだけ声を震わせて、ダイヤモンドみたいに純粋な瞳で言った。



 *



 一ノ瀬の放った一言はやけに静かに育才部の部室に響き、確かに皆の耳に届いた。慰めや忠告と呼ぶにはあまりにも実感のこもったそれはまるで願いにも似ていて、だからこそ、きっと先輩の心を動かすに至ったのだろう。


「っ……ぼくは、」


 絞り出したのは声が先か勇気が先か。胸の奥から湧き上がる疼痛に耐えるように、大切な後輩を身勝手な言葉で傷つける罪の重さを背負うように、己の心と向き合い覚悟と呼ぶにはあまりにも醜いそれを自覚して、それでも先輩は身を切るような痛みに顔を歪ませ、胸に抱えた行き場のない思いを赤裸々に吐露した。


「ぼくはずっと君に嫉妬してた! 君みたいに身体が大きくて強くなりたかった。君みたいに実力があったら、そりゃみんなを引っ張っていけるよって、心の中でずっと思ってた! ごめん……っ、ほんとに、ぼくは空手だけじゃなくて心も弱いっ。全然先輩らしいことできなくてっ。……年下の君に嫉妬して、そんな自分をいつも惨めに思ってた……っ」


 吐き出される先輩の暗く濁った感情を俺たちは黙って聞いていた。人の本音とはいつも驚きと痛みを孕んでいる。察していても、実際に言葉にして聞いてしまうと、それは意図することなく誰かを傷つける刃物となる。

 静かに見守る俺達とともに、一徹もそんな部長の姿を眺めていた。隣に座る一徹のその濃い顔には頬骨に筋が立っていて、こいつが何を思って噛み締めているのか、生憎と俺には分からなかった。


「それが、先輩の本音……っスか?」


 心を吐き出しつくし荒く息を吐いて呼吸を整えている先輩に、一徹は低く渋い声で言った。


「……うん。ごめんね、こんな情けない先輩で」

「そっスね」


『っ』


 胸に抱えていた重たい感情を吐き出して少しだけスッキリした顔で、しかし自嘲する様に言った先輩に、一徹は今日初めて先輩に厳しい目を向けた。


「うすうす感づいてはいたんスけど、まさかここまで情けないとは思いませんでした。正直、ガッカリっスね」

「ッ! ちょっと、そんな言い方」

「やめろ。装わず本心を言うように言ったのは俺達だ。それがこいつの本音なら、先輩はそれを受け入れなければいけない」

「っ……で、ですが」


 なおも眉を寄せて悲し気に何か言おうと口を開きかけた皇を、一ノ瀬が首を振って止めた。


「うん。……ごめんね、ほんとに」


 何かを諦めたような、手放すように言った先輩は俺達に向き直ると、


「今までありがとう、みんな。やっぱり、僕のいる意味なんて――」

「待て!」


 先輩が言いかけた言葉を全員が察した瞬間、それ以上の言葉を遮るように、低く重い声が部屋中に響いた。


「……それ以上の言葉を俺の前で言ってみろ。いくら先輩でも、俺は許さねえ」


 強面男子の本気の怒った顔ってこんなに怖いんだな。

 ガタっと勢いよく立ちあがった一徹は先輩に掴みかかる勢いで詰め寄る。


「ッ…い……一徹くん。ごめっ…く、くるし」


 …………。


「おい、その辺にしとけ。流石に暴力は見過ごせないぞ」


 先輩を掴んでいる一徹の手を握って少々握力を込めると、ハッとした一徹はすぐに先輩から手を離して、「……すんません」と気まずげに謝った。


「……お前らは結局、部長のいる意味ってのを俺の口から聞きたいんだな?」


 落ち着きを取り戻した一徹が鋭い眼光で俺達を見て言った。

 先ほどの一徹の行動。不可解な部分や気になるところはあるが、それを今言ったところで話は先に進まない。それに一徹の怒りも分からないわけではない。きっとこいつも長い時間をかけて必死に努力してきた一人だ。身勝手な嫉妬や羨望を抱かれる煩わしさはいつも、持つ者を苦しめる。


「ああ。さっきの話の通り、先輩の依頼は弱さの克服だ。腕力ではなく、それは心も含んだ強さ。目指すべき強さの形を見定めるために、お前に問いたい。現状、空手部で先輩が部長としている意味は、なんだ?」


 すべてを含んだ問いかけだ。

 そんな俺の問いに一徹は間を置くことなく答えた。


「意味はある」

『っ』


 重低音のその声はやけに耳に残る変な魅力があった。

 その先の言葉を期待する俺達に、しかし一徹は期待とは裏腹にまったく予想外の言葉を続けた。


「もしお前が俺に勝てたら、それを話してやるよ」


 俺の紅い瞳を真っすぐ捉えた何とも好戦的なその目はどこか、猛々しい獣のそれと重なった。


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