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オリンピック(野球)決勝戦

トップページに唄上さんを強化したエクリプス学院を改めて載せました。

そちらも確認いただけると嬉しいです。

『とうとうオリンピック野球の決勝戦です!日本も決勝まで勝ち上がったので全力で応援します!ちなみに今日の装備はこれ。日本頑張れー!萩風さん頑張れー!』


「これでよし、と」


 日本代表の帽子とユニフォーム、それにタオルを写真で撮って、それをSNSにコメント付きで載せた。もちろんユニフォームとタオルの選手の名前は萩風さんだ。

 今日の決勝は日本対アメリカという割とよく見る対戦カードだ。アメリカは野球発祥の地だし、日本は何故だか国際大会でとても強い。そのため決勝リーグで結構見るカードだったりする。

 早めに家を出て、東京ドームの物販や様子を見ておきたかったので入場時間よりもかなり早く会場入りする。電車もかなり混んでいたことと、外国人がめちゃくちゃいた。当日券を買おうとしている人たちは長蛇の列だ。当日券ってそこまで数を用意していないはずなのに。


 あ、チケットの転売で男の人が警察官に連行されていった。ダフ屋なんて今でもいるんだ。日本の決勝戦となったら見たい人は多いだろうけど、まさか会場で呼び込みをするなんて。今回のオリンピックは転売周りはかなり厳しくされているのに。

 ドーム周辺の施設も大盛況のようだった。飲食店や屋台、それにショッピングモールのような場所から人がたくさん入ってたくさん出てくる。バッティングセンターにも渋滞ができてる。今日の試合を見ながらお酒を飲めるフードコートは満席って出てるな。

 オリンピック効果凄い。東京ドームなんて前に1回だけ来たけどここまでの盛況っぷりじゃなかったぞ。


 物販を見ようと思ったけど、人がごった返していて入れそうになかった。物を盗まれたら困るから入らずに東京ドームの周りを散策することにする。

 今日のスタメンでも発表されてないかなとスマホを見るが、予告先発投手だけだ。日本は宮下智紀さん。今メジャーで一番活躍している日本人投手を決勝の舞台に当ててきた。メジャーリーガーだからこそ相手が知っている投手で不安じゃないかという声もちょっとだけ出たが、それ以上に結果を残しているためにむしろ安心感すらあるという声が大半だ。

 SNSに来ていた俺の投稿に対する反応へ返事を打って時間を潰して、入場時間になる。ゆっくりと進む列に沿いながらドームの中に入り、レフトスタンド側の外野席に進む。席を探し当てて少し休憩しつつ、両チームの選手たちの練習を見ていた。


 日本とアメリカは仲が良いのか、ユニフォームが違うのに交流をしていた。その様子は笑顔だ。メジャーリーガーを中心に交流を図っているらしい。打撃練習をしながら緩やかな空気がグラウンドに流れている。

 宮下智紀さんが打撃練習をするようだ。この人は投手なので本来だったらDH制で今日は打席に立たないはずだが、打てる投手はDHを解除して打って良いことにルールが変わった。投手として降板してもDHに残って打撃には出場できるという制度だ。オリンピックは球数制限もあるので今日は先発として投げた後にDHで残るのだろう。

 その宮下さんが打撃練習を始めた途端、アメリカの選手が頭を抱えてオーバーリアクションで「No~~~~~!」とでも言っているような表情をほぼ全員が見せていて、日本人選手は笑っていた。早くから入っていた観客もその様子を見てカメラなどを向けつつ同じような表情を浮かべる。


 宮下さんの持つバットが一塁線方向に落ちていたのだ。それは有名な、宮下さんがゾーンに入っている時の証拠。ベストパフォーマンスをする時の特徴として野球ファンには広く知られていた。球場アナウンスでホームランボールに気を付けてくださいと流れた直後、宮下さんはバックスクリーンに向かって特大弾を放っていた。

 打撃はもちろん、投球でもかなりの精度の良さを見せつけるのでアメリカの選手はヤバいと感じたんだろう。実際あの状態で完封やノーヒットノーランをやっているんだから。

 何枚か写真を撮った後に、もしかしたらボールが来るかもと思ってグローブをつけておいた。身構えていないまま当たって怪我をしましたなんてことにならないように備える。とはいえ軟式用のグローブだから、実際に捕球したらかなり痛いだろうけど。


 バッティング練習とはいえ、ホームランになるたびに歓声が沸く。調子良さそうだなと思っていたところ、なんかこっちにボールが飛んできた。これ、俺直撃コースだな。グローブを前に出して網の部分で受ける。うおっ、腕が持ってかれそうになった。それでもちゃんと捕球したからか周りの人から拍手をされる。

 練習球なので近くのスタッフさんに渡す。試合中のボールで記念球でもなければ貰えたかもしれないが、今は練習中だ。これはスタッフさんに返さなければならない。この回収の仕事やってたなあ。返してくれない人も多くて苦労した。

 通路に出て男のスタッフさんにボールを渡す。するとスタッフさんから感謝された。


「ご協力ありがとうございます。返してくれる人も少なくて……。あ、これ協力いただいたお礼として物販でのサインボール引換券になります。帰り際にでも物販に立ち寄ってください」


「すみません、ありがとうございます」


 こういう交換もやってたなあ。もしかしたら怪我をするかもしれなかったために別の物を用意するってやつ。実際これで物販に足を運んでもらってお金を落としてもらえれば球場側としても万々歳だからこういうアフターフォローはしっかりとやっている。

 引換券を財布にしまおうとして、赤子を抱えた女の人がこちらを凝視していた。どこかで見たことのある顔、どころの話じゃない。SNSのアイコンにもなっているために結構な数で見ている。ニュースでも見たことのある顔だ。

 何でこの人が俺のことを見ているんだ。と思ったら他にも見覚えのある日本トップアイドルと、その人に似通った顔立ちの女性が何人も現れるし。


「梨沙子さん、どうしたの?」


「あ、いえ。とても聞き覚えのある声の方だったので気になってしまって。行きましょう」


 女性5人の集団はチケットを見ながら席に向かう。……なんか、俺の席の手前に座ってないかな?

 声をかけて通らないといけないじゃないか。


「あの、すみません。通ります……」


「あれ?タヌキさん?」


「あ、やっぱり?あの、リリさんだったりします?」


 喜沙さんと梨沙子さんに速攻バレる。

 そんなに特徴的な声してるかなぁ⁉︎一応配信活動中は声のトーン変えてるんだけど⁉︎


「…………お世話になっております。エクリプスの絹田狸々です。今は住吉(すみよし)と呼んでいただけると……」


「うっわ。2人の耳どうなってんの?正直ドン引きなんだけど」


「そんなこと言わないの、千紗ちゃん。……お若いですね。もしかしてわたしたちより歳下?」


 観念して芸名を伝えると見覚えのありそうでない2人の女性に顔を見られた。

 喜沙さんの事務所の社長ということで、彼女たちの母である紗沙さんの顔は知っている。曲の許諾を得るために写真を見させていただいたことがあるからだ。

 で、そんな人と喜沙さんと梨沙子さんと一緒にいる女性2人は誰かと言うと。アイドル衣装を着ていた中高生時代の映像しか見たことがなかったが顔立ちと身長から間違えてもないだろう。

 智紀さんの姉妹だ。

 簡単な自己紹介をした後に、純粋な疑問を伝える。


「あの。普通ご家族ってプレミアムシートとかに案内されるものでは……?」


「決勝戦ですから。それに関係者全員あちらには入れませんよ。野球界の方で占有されています。なので選手の家族はスタンドのあちこちに散らばっていますよ。流石に連番の席はもらえましたが」


「なるほど……」


「……あ、映画の前に出てくるマナー動画。電話をしていた人だ」


「っ⁉︎」


 梨沙子さんに説明してもらっている間に、美沙さんに俺のことがバレる。おそらく喜沙さんの映画を見に行くついでで見覚えがあったんだろうけど、格好から何から違ってVtuberと自己紹介したのに気付くものなのか。


「……そんなにわかりやすいですか?」


「気にしなくて良いわよ。美沙の記憶力がおかしいだけだから。普通気付かないし、というか今日はそういうのなしにしましょ。あたしたちもお姉も梨沙子さんも全員一般人。それが球場でのルールでしょ」


「そうですよ。ねー、アキ君」


「たぁ〜」


 梨沙子さんのお子さん、おとなしいな。普通幼児ってこんなうるさいところに来たら泣き出しそうなものだけど。

 なぜか宮下一家と交流をしていると、スターティングオーダーを伝える入場が始まる。選手たちが一人ずつベンチから飛び出してくるのだが、日本チームのスタメンはこれまで1回もしたことがないオーダーだった。

 1番センター荒川アンダーソンさん、2番ライト萩風さん、3番レフト井上剛さん。4番キャッチャー羽村さん、5番サード三間さん、6番ピッチャー宮下さん。7番ファースト篠原さん、8番セカンド灘さん、9番ショート仲島さん。


 26歳以下しかいない、若手だけでのオーダーだ。いわゆる宮下・羽村世代とも呼ばれる今年25歳の人たちが7人、その上の世代が2人というかなり若いオーダーだ。これで総合力が劣るというわけでもなく、むしろ日本を代表する選手ばかりだというのが驚きだ。

 荒川さんはメジャーリーガーとして活躍している人。U-15以降はアメリカで活躍してそのままメジャーになったハーフの人だ。萩風さんは言わずもがな、俺の推し。白新高校からプロ入りしてトリプルスリーも成し遂げた日本を代表するセンターなんだけど、今日はライトらしい。

 井上さんは武蔵大山という西東京の名門で四番を打っていた強打者だ。高校時代から宮下さんを得意としていて彼から何本もホームランを打っているセ・リーグの本塁打王。今年のオフにメジャー挑戦が囁かれている人だ。


 羽村さんと宮下さんは言うまでもないメジャーリーガー。その2人と本塁打王で争った三間さん。高校時代は宮下さんと同じ学校の帝王出身で、打撃能力であれば宮下さんより上だった人。

 篠原さんは本来投手だが、今日はファーストらしい。エクリプス学院で唄上先輩の元となった人。投打どちらでも活躍する人で無名校出身ながらも甲子園まで後一歩というところまで勝ち進み、宮下さんのいる帝王に最後の引導を渡された人。二刀流なこともあって宮下さんとよく比較される人だ。

 灘さんは俺が宮下一家に認知されることになった、天才宮下さんを引いた時に一緒にいた選手。臥城学園出身のスラッガーで小さい身長ながらパワフルな打撃と堅実な守備をする、セカンドの名手とは彼のこと。


 仲島さんは宮下さんたちと一緒の帝王出身のショートだ。走攻守3拍子揃ったユーティリティープレイヤーで、彼もショートという難しいポジションながらトリプルスリーを達成したことのある選手。

 下位打線が下位打線じゃない、恐ろしい打線だ。

 試合は圧巻とも言えた。投手の宮下さんがアメリカを全く引き寄せない抜群の投球で、オリンピックでまさかのノーヒットピッチングのまま降板。球数の関係で7回で降りたが、その奪三振ショーは東京ドームが揺れ続けた。

 打っては強力打線が途切れない安打で点数を細かく重ねていき、トドメのように井上さんのスリーランが試合を決定づけた。


 終わってみれば9-2という圧勝な結果を見せてオリンピック優勝を果たしていた。若い世代でもアメリカに通用するとわかり、これからメジャーに進む日本人が増えそうだという周りの声が聞こえてくるほど日本は強かった。

 試合が終わった後、宮下一家に改めてお礼を言った後、記念写真のカメラマンをやった。

 配信のあれこれやそれこそ歌ってみたでご迷惑をかけていないかと聞いてみたものの気にしていないとのこと。むしろ話題にしてくれてありがとうとお礼を言われてしまった。


 何故か梨沙子さんにサインが欲しいと言われたのでアキ君宛にサインを描く。その後不躾ながらFOR宛にサインをいただけないかと確認を取ってみたらまさかの許諾。野球用にとサイン色紙を持ってきたのに、それが宮下一家(智紀さん抜き)のサイン色紙をいただいてしまった。

 ちゃんとFORと、俺たち3人分の名前が入っているという豪華っぷり。一般人の千紗さんと美沙さんも描いてくださったけど良いのだろうか。

 6人を関係者用の通路まで送ってスタッフさんにお願いした後に別れて、帰るまでにSNSで今日の感想を簡単に書いた。試合内容だけで宮下一家のことは全部なかったことにしたんだけど、SNSを更新した後に水瀬さんから電話がかかってきた。


「リリちゃん、めちゃくちゃTVに切り抜かれてたけど大丈夫⁉︎なんかカメラが福圓梨沙子さんと宮下喜沙さん見つけちゃってリリちゃんもめっちゃ映ってたよ⁉︎」


「げ。テレビ局って本当に……」


「というか思いっきり隣だったよね⁉︎偶然⁉︎ずるいずるい!」


「偶然だね。あの人たちのサイン貰ったからこの後事務所に置いていくよ。事務所に寄ったら見てみて」


「あ、今事務所にいるよ。皆で同時視聴配信してたから。じゃあリリちゃん追加で。どれくらいでくる?」


「40分くらいかな」


 電話の後、折角チケットを貰ったからと萩風さんのサインボールと交換し、ついでにオリンピック限定の日本代表グッズをいくつか買った。ここを逃すともう買えないからか、終わった後だというのに結構な人が物販に来ていた。そのせいで買い物に少し時間がかかってしまい、電車に乗るのが遅れた。

 東京ドームから事務所が近かったので、まだ終電まで時間もあったから事務所に寄ってサインを寄贈した。サインには色々な人が興味津々で宮下一家のことは根掘り葉掘り聞かれることとなる。試合中に話していたわけでもないので身バレした以外に特に話すこともないんだけど。

 それでも有名人たちの隣の席というのはやっぱり羨ましいものらしい。赤ちゃんが可愛かったと話したら宮下2世と会えたのが羨ましいという話に。どうせ向こうは覚えてないんだからそこまで気にすることでもないのに。


 流石に宮下一家も俺と会ったことは公表しないでいてくれたようだ。そこは芸能事務所の社長がいたためにコンプライアンスはしっかりしていたんだろう。

 事務所にいたライバーと一緒にファミレスに行き、そこで今日の試合について話し合った。俺はずっと萩風さんの活躍を話していたら今日は智紀さんの話じゃないのかと呆れられた。

 参考記録でノーヒットノーランは確かに凄いんだけど、それよりも推しの話をしたいだけだ。

 ライバーとしての話をしなかったためにファミレスでもそこそこ楽しめた。水瀬さんが居たために深夜まで駄弁るのはなしでそこそこに解散。


 次の日の朝配信でも主に萩風さんのことについて話していたら本人がコメントを残すわ、宮下夫婦が不貞腐れるわで大変だった。確かに大活躍だったのは認めるけど、推しは推しなわけで。

 智紀さんは今日ゆっくりしたらすぐにアメリカに帰るらしい。オリンピックが終わればすぐにレギュラーシーズンがやってくる。オリンピックの閉会式まで待つことなく自分たちの世界に帰る選手は多い。日本が拠点じゃない選手はそこまで長くチームを離れられないから仕方がないだろう。

 パラリンピックが始まることもあるし、野球選手は全員がチームの中核だ。長期離脱は困るだろう。全員怪我がなかったことはとても喜ばしいことだ。


 これから俺も月末に向けての準備がある。色々と決まっているスケジュールに合わせてやっておきたいことが色々とあった、スケジュール表を見るとやっぱり来月は忙しそうだ。詰め込みすぎたかなあとも思うものの、趣味の時間もちゃんと確保しているから大丈夫だろう。

 やることを粛々とこなしていったら、案外すぐに約束の花火大会の日になっていた。


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― 新着の感想 ―
宮下長女、宮下夫妻にバズって認知されてるとはいえ声だけでバレるし顔バレもするし、楽曲提供の間接的な面識やらその後のバズ含めて宮下一家とやたら縁があると言うか、運勢どうなっとるんって感じ。 しかも次女三…
一応オリンピックの野球ルールではDH採用していますので戦術的DHしないの描写が必要かも?
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