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イラストレーターも3Dになる時代のようです

 6月頭。1期生後半組の3Dお披露目配信の大トリとしてネムリアが配信をしていた。最初に見せてスクショタイムを20分ほど設けて、1曲ネムリアがキャラデザインを手掛けた作品のアニメOPソングを歌い、ファンからは喝采を浴びた。

 そしてその後。関連するライバーを呼ぶのがお約束で、ネムリアは同期である4人を呼んだ。ライバー活動をあまりしていないからこその選択だった。

 全員を呼んですぐ、ネムリアも想定していない事態が起きる。


「母上!3Dお披露目おめでとう!」

「ありがとう、ソウくん」

「母上のお披露目なのだから盛大にいかぬと!」

「え、あちょっと⁉︎」


 日向がネムリアを抱き上げ、クルクルとメリーゴーラウンドのように何度も回転させた。服のひらひらがちゃんと動くことと後ろ姿を見せ、その後肩の上に載せるという暴挙に出た。

 男女関係のことについて割と寛容になってきたが、抱き上げるという接触は流石にコメント欄がざわついた。


『それはアウトだろ⁉︎』

『日向、ライン越えwww』

『お目目グルグルてんてえ可愛い』

『そんな表情チェンジオプションあるの⁉︎』

『スタッフナイスぅ!スクショが捗るぜ!』

『日向は怒られろ』


「日向っち、ストップストップ!ネムリアっちが目回してるから!」

「きゅう〜〜〜〜」

「ネムリアちゃん、大丈夫⁉︎」


 宗馬がネムリアを下ろし、亜麻井(あまい)と真崎がネムリアを介抱した。体幹と平衡感覚が強くない人間は数回回されると目が回るものだ。ネムリアは完全にインドアな人間で運動もそうでもないので、人力メリーゴーラウンドはかなりキツかったらしい。

 ネムリアの回復を待つ間に宗馬が宗方を説教したり、スタッフの謎技術に感動したり、そんな会話で時間を費やすことで回復は間に合った。

 そして同期が集まったことでネムリアがやりたいことを提案した。


「かけっこをしよう。私がちゃんとビリになりたい」

「え?ネムリアさん、ビリになりたいんですか?」

「私、身体強くないから、体育とかほとんど休んじゃってて。だからちゃんとダメだってことを知りたいの。今だからこそ、新しい身体を得たからこそ、過去を清算したいの」

「うむ!では走ろう!さあさ、早く!」

「日向ちゃん、本当にネムリアちゃんのこと好きだよね?」

「うん?家族とはそういうものだろう?リリ殿も走らないか?」

「だからお前はすぐにゲストのネタバレをするな!」


『え?リリいるの?』

『同期だけじゃないんだ』

『宗方はさあ……』


 何かとんでもないネタバレが起こり、スタジオがわちゃわちゃになる。

 しょうがなくスタッフが3Dの準備をして予定より早くリリが登場することになった。出場させる用意はあったのでそれを起動してリリがよく見る全身真っ黒の黒子の姿でスタジオに入ってきた。

 マイクなどは緊急でつけたためにわちゃわちゃしていた。


「こんばんは。3期前半組絹田狸々です。この見た目の通り、声も出す予定がなかったので今困惑してます……」

「リリ……。ウチのバカがすまん」

「リリちゃん、ウチらと違って準備運動してないでしょ?ちゃんと準備運動しよ?」

「そうさせてもらいます」


『マジでリリやん』

『男組では出てたけど、ネムリアのお披露目で出てくるとは思わなかった』

『宗方はさあ。リリバレ2回目だぞ?』

『リリバレなんて珍しいことを複数回するな』


 ネムリアがかけっこの説明をしている後ろでリリが屈伸などの準備運動をしていた。走るのは40mくらいでスタジオの長さ的にそれくらいが限度だった。

 他のメンバーは走ることを提案されていたので既に準備運動をしていたので画面上で改めてすることはなかった。

 リリの準備ができた時には全員がスタート地点に立っていた。5人はちゃんとした姿なのにそこに長身の黒子が混ざっている姿にコメントは爆笑しながらスクショをたくさん撮っていた。

 「ネムリア」と一緒にSNSで「黒子リリ」というのがトレンド入りしてどこのアニメキャラだと勘違いされたという裏事情もあったが、かけっこの準備ができた。


「じゃあ、行くよ?よーい、ドン!」

「はぁ⁉︎宗方速すぎだろ⁉︎」

「リリさんも速い⁉︎」


 ネムリアの掛け声で走ったが、身体能力お化けの宗方が独走し、その次に体育会系のリリが速かった。その様子に宗馬と真崎が驚く。

 順位は宗方、リリ、宗馬、真崎、亜麻井、ネムリアの順で、ネムリアはたった40mの短距離走で息が絶え絶えになっていた。亜麻井もそこまで運動が得意ではなかったのだが、それ以上にネムリアが遅すぎた。


「ゼエ、はぁ……」

「母上、大丈夫か?」

「む、無理……。歌う時も、踊れないから、ほとんど動かなかったんだし……」

「ネムリアちゃんの本職はイラストレーターなんだから。歌が上手いだけで上出来よ?」

「そうそう。得手不得手なんて誰にだってあるんだから」


 ネムリアは用意されていた水を飲んで息を整えた後、全員でやる予定だった『お絵かきクイズショー』で1回だけ伝言ゲームをやることになった。

 リリも参加したということでパソコンを借りて仮のアカウントで参加することになった。


『え?3Dお披露目で『オエクイ』やるの?』

『全員座ってんじゃんwww』

『てんてえの絵を無料で見て良いんですか⁉︎』

『¥2500skb代』

『まだ描いてねーよ』

『依頼できなくね?』


 女性陣は全員液タブを用意していたが、男性陣はそこまで絵に本気で取り組んでいないので全員マウスでやることになる。もちろんリリも用意なんてないのでマウスだ。

 6人全員が机に座って絵を描くという3D配信は初のことだったためにこれもSNSで話題になった。

 配信画面の真ん中にネムリアのゲーム画面がデカデカと映る。


「リリくんは絵はどんな感じなの?」

「全然ですよ。中学の時の美術の成績は3でした」

「オレっちも!美術ってどうすれば良いのかわからん!」

「絵を描くなんて考えがなかったのでわからぬ。筆なんて文字を書くためにしか持ったことがないぞ?」

「宗方ちゃんが特殊すぎるだけでしょ……」

「6人になっちゃったから最後が絵になっちゃうけど、まあ良いでしょう」


 伝言ゲームは順番が奇数の人がお題を文字で書いて、偶数の人が絵を描くというシステムだ。そのため同期5人だったら最後は文字で終わる予定だったのに、宗方のせいでその予定はズレてしまった。

 だがそれはネムリアが絵を描く機会が増えるということ。それを喜ぶファンも多かった。


『2枚が3枚になったってことか!宗方、ナイスポン!』

『それはそれとして終わったら説教な』

『答え合わせも楽しみだわ』

『初っ端のお題、てんてえは何にするんや?』

『ピースする亜麻井ちゃん、まあ無難か』

『んで来たお題が……。黒子とリリ?』


「パパッと描いちゃうね〜」

「誰だよこのお題出したの⁉︎」

「うわ、マウスで描ける気がしない……」

「3分で描けないお題を出したのは誰ですか?剣の錆にしますよ?」


 大なり小なり酷いお題が来たようで文句が出ながらも手を動かす面々。

 ネムリアはサラサラっと黒子を描き上げ、リリはディテールも拘って鮮明に描いていったので時間はかかっていたが、並走する黒子とリリをしっかりと時間内に描いた。色まで付けるレベルで、それができた時にはスパチャがまた飛ぶ。

 絵を見てお題を文字に起こす際に、わーぎゃーと文句が出る。


「こんなのネムリアちゃんしか描けないよ⁉︎」

「液タブ持ってるからって無理難題はやめてくださる?明らかに描きかけですし……」

「え、うっま……」

「うん?これは何をしているところだ?」

「まさか内容が伝わらないことなんてあるのか⁉︎」


 絵から推察してどうにか状況を打ち込み、また回って来たお題に阿鼻叫喚しながら描いていく。

 全部が終わって回答をチェックしていくと、ネムリアのお題すら酷い状況になっていた。


「え、これ亜麻井さんだったんですか?リボンもないからネムリアさんかと……」

「絵心なくて悪かったなあ、リリっち!」

「あーもう、めちゃくちゃだよ〜……」

「母上は流石の巧さだ」

「ありがと。まさか自分を描くとは思わなかったけど」


 ネムリアが描いたのは「黒子とリリ」「ピースするネムリア先輩」「刀を構えた宗方」だった。しかも最後のお題については前の繋がりも全無視で宗馬がぶっ込んだネタで、それがピンポイントでネムリアに当たったのは偶然だった。

 他の全員はそもそもお題が伝わらない、時間がなくて描ききれない、画力が追い付いていないなどで一個もお題が正確に伝わらなかった。

 それもエクリプスだよね、と全員で笑って、最後の出し物である準備のために蓋絵にする。その蓋絵は1期後半組でわちゃわちゃ3Dで撮影している様子が映される。

 そして蓋絵が明けた後。

 バイオリンを弾く吹上の姿があった。


『オーちゃん⁉︎』

『バイオリンうっま』

『あ、ピアノ黒子が弾いてる。ってことはあれリリ⁉︎』

『5人も出てきた!』

『なんかのカバー?』

『わからん』


 ネムリアが中心で、5人全員がマイクを持っていた。バイオリンとピアノの二重奏で、他の音はない。それだけの音なのにどちらも力強く、ネムリアが音を加える。


「想像してた世界はまだまだ広がるかな?ここから臨む景色は平面で、最初に色はなかったけど」

「空想してた世界へどこまで歩けるかな?ボクから歩む地平も平面で、最後に果てはなかったけど」

「さあ、杖を持とう。ボクたちの足はここにある。平面なんて蹴飛ばして」

「さあ、剣を持とう。ぼくたちの腕はここにある。立体なんて簡単で」

「さあ、月へ行こう!宇宙の先はそこにある。月面なんて踏み越えて!」


 1人ずつ、パート分けで歌っていく。宗方だけ歌唱力が低かったが、そもそも彼が歌っている姿がレアでありがたがっていたり、ほかの人の歌唱力や吹上のバイオリン、そしてリリのピアノが予想外すぎてコメントでは色々な言葉が飛び交っていた。

 ABメロが終わってサビに入る。ここからは男子と女子で歌詞割りをしていた。


「「君が数歩進んだら振り返るよ。独りでソラはつまらない」」

「「「見え方なんて好きでいいよね。そこには僕たちのロマンが残ってる」」」

「カニかな?」

「女の子だよ」

「獅子だ!」

「ウサギでしょ?」

「正解なんて好きにしちゃえ。言葉で、絵で、ぼくたちは繋がれる」

「「名付けようか、あの満ち欠けを」」

「「「ぼくたちの、合言葉」」」

「ステッローネ・ディタリア」

「今日はそんな気分さ」


 最後は真崎とネムリアが決めて、少しの後奏と共に終わった。

 誰も知らなかった曲ではあるものの、満足感で満たされたコメント欄は「888」や「良かった!」というコメントが流れる。

 5人とスペシャルゲストである吹上が近付いてきて、6人で並びネムリアがお礼を言った。


「ということでサプラズゲスト、吹上さんでした。バイオリンありがとう」

「いえいえ。皆様、3Dおめでとうございます。素敵な場の一助になれたのでしたら幸いですわ」

「もちろんだよ。リリくんもありがとう。本来だったらここで紹介する予定だったんだけど……」


 リリはマイクが音を拾わないように外していたので、ピアノでさっきの曲の前奏を軽く弾いて返事にしていた。

 作曲するついでに楽器を触っておけと言われてキーボードとピアノは弾いていたためにできる特技の1つだった。

 それを弾いて見せたことで黒子が実際にリリだったと証明していた。


「今の曲は『五芒星』という、オリジナル曲です。ただお願いしたのが随分急だったので1番しかない歌です。吹上さんとの練習時間とかもあったので2番の歌詞を書く余裕がなくて……。作詞はソウくんを除く同期でやってます」

「作詞なんてできぬ。宗馬殿も亜麻井殿も真崎殿もよく言の葉が浮かび上がるものだ」

「宗方っちにはその辺りは期待してないから」


『いい歌だった』

『最近のエクリプス、オリジナルソング多くない?』

『歌路線いいぞ。歌でバズるとかもあるし』

『結構バラバラ気味の1期後半組で歌ってるってだけで尊いからそれだけで価値がある』

『霜月エリサ:リリくん、ピアノ弾けたんだ』

『意外なことばっかりだぜ』


 歌の詳細情報はこの後この配信の概要欄に加えるということで、そこに詳細情報は書くためこの場では紹介はなかった。改めてゲストで呼んだ2人にお礼を言うと2人ははけて、同期だけが画面に残る。


「最初、人数不足でライバーにさせられて。社長さんも無茶言うなあって困ってたんだけど。ただソウくんのイラストを描くだけの関わり方じゃこんな友達のような関係を築けませんでした。配信はちょっとしかしないし、コラボとかも全然できてないけど、同期のみんなとは裏で本当に仲良しで。この1年くらいは様々な出会いも増えて、今までにない経験をたくさんさせていただきました。イラストレーターをしていただけでは見られない景色を、感情を、ありがたさを知れました。だから私はこれからも、このみんなと一緒に末永くライバー活動を続けていきます。ファンのみんなも、同期のみんなも、こんな引き篭もりを愛してくれて、声をかけてくれてありがとう!先輩にも後輩にも恵まれて私は世界一幸せなイラストレーターだ!だから社長、無茶振りしてくれてありがとう!でもこんな強引な手は金輪際しないようにしてね!だから、うん!纏められないから解散!」


「それでいいの?ネムリアちゃん」

「母上らしいではないか」

「次も3Dで何かしましょうね」

「グダグダなのも俺たちっぽいってことで一つ」

「じゃあね〜!」


 ネムリアの言葉で配信が終わる。

 その後更新された概要欄には知らない作曲家の名前が記載されていたが、それはリリの俳優時代の作曲家としての別名義。自分の曲だからあまり練習せずに弾けたわけだ。

 配信後、宗方に謝られたリリだったが、もうそういうキャラだとわかっていたので別に気にしなかった。無茶振りという無茶振りではなかったので身構えておけば十分対処できるからだ。

 この曲の提供のこともあって今月のコラボを通して1期生とは前半組とも後半組ともよく関わった。そんな貢献ができていることをリリは喜びつつ、自分の同期からピアノの件で詰められながら電車で帰っていった。


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作曲分はキチンと別枠で請求するんやで
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