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クーデター、開始!【SoF】#8

 3Dお披露目が終わって、次の朝。やっぱり最新作はさっさと進めないとネタバレを喰らうとわかったので今日も今日とて『SoF』をプレイすることにする。昨日の夜は真紀さんと陽菜ちゃんとご飯を食べに行ったりしていたこともあり、朝配信は8時過ぎに始めた。

 『SoF』の公式から秘密にされていたキャラクターのCVが発表されて、それを声優の間宮光希君が引用して呟いて、間宮君をフォローしていた陽菜ちゃんがその情報をキャッチして。そこから声優繋がりということで思いっきりネタバレを喰らったというわけだ。

 普通にやっていたらイージーモードからやるだろうし、発売から2週間ほど経ったのでこの辺りで少しずつ情報を小出しにしていって更なる集客を望もうとする運営側は商売的には正しい結果だ。実際これで陽菜ちゃんが興味を持っている。


 陽菜ちゃんは真紀さんの配信を見ることでシナリオを知ろうとしている。本人的にもアクションゲームが苦手で、プレイしようと思ってもクリア出来なさそうという理由もあって見ることにした。お世辞にもアクションゲームが上手いとは言えないからな、陽菜ちゃん。

 俺は食事の場で言葉を濁したけど、イージーモードにあの騎士団長が出ていて助かった。まだハードモードのアルビオンはキャラクター紹介すら公式ページにすらなかった。パーティーキャラなのにキャラ紹介がないとか、ハードモードはかなり情報が隠蔽されている。

 ハードモードなんて主人公のフォイルと、ギルド長のバルドフ、それに既に亡くなったAランク冒険者のヴェーラーくらいしかキャラ紹介がない。幼い少女の厳しい人生を追体験しようという文言とそれくらいの情報しかないのでハードモードは自分で体験してこそと運営が言っている気がする。


 イージーとノーマルはそこそこ情報が解禁されている。まあ、核心には迫っていないらしいけど。

 声優繋がりとはいえ、アルビオンと騎士団長ドライグが同一人物と確定したわけではないだろうし。もしかしたら家族とか血縁の可能性もある。

 ただ、騎士団長のドゥーンがいて、ドライグという人物は現状シナリオに出ていない。確実にイージーやノーマルとは時代が違いそうなんだよな。

 今日のフォイルたちの正教に対するクーデターが成功したらその辺りもわかるだろうか。

 配信を始める。


「皆さん、おはようございます。絹田狸々です。昨日の3Dお披露目、見に来てくれた方はありがとうございました。その振り返りを少ししてからゲームをやっていきますね」


『リリちゃんおはよう!』

『昨日のお披露目良かったぞ!』

『あれ、スパチャできない⁉︎』

『このゲーム、スパチャ禁止なんで……』

『スパチャは雑談とか他のゲームの時じゃないとダメよ』


 朝だけど日曜だからか、それとも3Dお披露目をしたばかりだからか、同接がそれなりに多い。

 3Dお披露目のことで話したいこともたくさんあったのでそれぞれ話していく。

 宗方先輩と殺陣をやったのはそれこそ宗方先輩のお披露目の際の焼き直しと、自分の身体でどこまで殺陣が再現できるか見てみたかったから。激しい動きをしても問題ないとわかれば今後の3D企画で激しい動きをしても大丈夫だと思ったので、検証も込みで早めに調整したかったという理由がある。

 映像を振り返ったけど、大きなブレもなく小さな身体に最適化されて動きはしっかりとしていた。俺の身体を比率で縮めて投影したのでまあそこまで変な動きはなかった。トラッキング技術もかなり精巧で手から剣が離れているということもなかったのは凄いことだ。


 コメントに聞かれたのは、どこからがアドリブだったのかという話。お披露目のこの時間から宗方先輩のアドリブでガンガン木刀もどきを叩き合っていたことを伝える。

 あの人、多分戦いたいって気持ちが強すぎて予定を超えて戦いたくなっちゃうんだろうな。陰陽師の難波君の関係者だろうし、宗方先輩にも何か秘密がある気がする。本人が話さないなら追求したりしないけど。

 続けて、カードゲームをやりたかったのは配信中にも言った通り、あえて2Dでやりたかったから。あと『フレストオーダー2期』の新規カードが使いたかったものの、アニメと同じような条件で1対2を再現したら1側がかなり不利になったのは受け入れるしかない。


 ああいうのはアニメのご都合主義に結構守られてどうにかなっているんだなと再確認した。実際のカードを使ったらよっぽどデッキパワーに差がない限りはあんな感じで人数が多い方が勝つ。相手の動きを妨害できる数に限りがあるから仕方がない。

 というか、アニメでも大体複数人側が主人公陣営のことばかりだ。凄い強いラスボスに複数人で戦って勝つというのは案外事実に即してバトルは構築されているのかもしれない。


 次にピアノの演奏について。ピアノソロで且つ演奏しても問題ないのは自分の曲だろう。今回は自分のお披露目だったので真紀さんと陽菜ちゃんには歌ってもらわなかった。

 今回は、ね。

 で、オリジナル曲についてだ。歌詞の意味の解説はしない。各々で好きに解釈してもらった方が俺も楽しい。全部英語にした理由だけは話す。


「あれ、霜月さんの発案なんですよ。というかFORのための曲でどんな曲が良いですかってヒアリングをしていたら英語の歌とかカッコよくない?と。で、水瀬さんが賛同してこんな感じ?って作って確認をしてもらったら2人が歌えないって言って。多分ソロの方が見栄え良いよということなのでせっかくだからと今回のお披露目で歌った経緯ですね」


『エリー発案なの?』

『まあ、英語オンリーの歌とかカッコいいよな。実際カッコよかった』

『提案したのに歌えないんかいw』

『難しそうではあった。イメージに合うかって問題もあるし』


 こういう機会でもないとソロ曲とか出さないだろうし。

 あと、途中の『CrownClown. 』とハモリを入れてもらったのはリスナーの予想通り真紀さんと陽菜ちゃん。関係者として、同期として関わって欲しかった。だからここだけ歌ってとお願いしたら他の部分の『Ah~』『la~』などのハモリなども入れてくれた。

 大変ありがたい。


 ライブバージョン以外で改めて配信する予定はなく、今回のライブバージョンを切り抜いて別の動画として配信する予定はあるものの、今はその準備をしている状態でまだ出せるとも決まっていないのでそのことは話さない。

 3Dお披露目の話はそこまで。『SoF』を始めていく。

 前回は正教が世界の裏側で人間を魔物化する実験をしていて、その実験で最終的に神の器を用意しようとしているということに気付いたフォイルが、正教を内側から変えて犠牲者を減らそうと決意して、不本意ながら影響力のある聖女になろうとしているところで中断した。

 始まる前にSNSでの呟きのこともコメントに書かれていたので触れることにする。


「イージーモードで現れる騎士団長のキャラがCV間宮光希君なんですよね。アルビオンと同じですが、あんな老人のキャラではないわけで、同一人物とは思えないんですが関係はありそうです。どういった人物なんでしょうね、ドライグさん。間宮君も幅広い演技ができるので、ただの兼役のミスリードかもしれませんけど」


『あー、公式の発表ね。どうなんだろうなぁ』

『みーちゃん演技凄いよね。青年役とかもやってたし、アルビオンで幼児やって老人も今回やってるわけでしょ?』

『どっからあの声出てんねん』

『あれで高校二年生?というかゲームの発売時期を考えたらこの収録って下手したら一年生の時にやってたりしない?』

『収録時期と発売時期はズレることが多いからな。全然あり得る』

『最近の高校生はすごいなぁ』


 間宮君は多分子役だったということを引き抜いても演技力が高い。カメレオン声優というか、クレジットを見ないと彼だと判断できなさそうだ。子役の頃から割とそんな感じの演技だったんだよな。顔を見たらわかるけど、演技を見ると全部のキャラがバラバラに見えるという。

 昔女装男子の殺人鬼の役もやってたっけ。アクションもできる天才子役として知られていたけど、中学一年生で学業に集中するからと引退。その後割とすぐ声優としてアニメやゲーム作品に出ているようで、しかも陽菜ちゃん情報だと足を怪我して走れないらしい。片腕もあまり動かないらしく、激しい運動も苦手なのだとか。


 怪我をして俳優として動けなくなったから声優になったとかありそうだ。声優なら音楽ライブとかに出演しなければそこまで身体を張ったりしないだろうし。

 間宮君の話はそこまで。パーティーのステータスを確認しつつ、シナリオを開始する。聖女と騎士団長がいないということで聖女の次に偉いという大司教の元へ向かう。聖女は回復魔法がメインであり象徴であるために、正教の実質的なトップは実務的なことを考えたら大司教になるようだ。

 その大司教の部屋を訪れる。


【おや、エレシア。どうかされましたか?】


【カテゴリーHについて。どこまであなたは知っていますか?】


【授業で教えたでしょう?我々も不明点が多いのです。特別なギフトを持つ者に判別をしてもらっているだけで……】


【コアキメイル。そこでの人体実験。特定のギフトを与えて、神の器を求める。失敗作は特殊な首輪をつけて飼うか、放流して人類の敵として処分する。これを、あなたは知っていましたね?】


 立場的にフォイルを様付けで呼ばないほど偉い大司教が、コアキメイルや神の器という話をしたら顔色を変えた。なぜ知っているのかという表情をしている。

 正教が関係していて、聖女の指示で動いていた実験場だ。大司教の彼が知らない道理はない。

 フォイルが光を出して剣を取り出し、後ろにいたアルビオンも槍を抜く。嘘は許さないと武力で訴えていた。


【知っていることを話しなさい。あんな非道な実験を繰り返して、あなた方は良心が痛まないのですか?】


【……半年前のコアキメイルの放火騒動。そういえばあの時期にグランベルへ訪問していたな。あの時抜け出してそのことを知ったと。……あなたも聖女候補なら、神を降臨させることに全てを捧げるべきでは?】


【その犠牲を、主がお許しになると?実験の被害者も、カテゴリーHが在野に流されて出る犠牲も、許し難い数の被害が出ているでしょう。もしそれで聖女候補がいなくなったらどうするのです?それは逆に主を愚弄する愚行だと思い知りなさい】


「うわ、欠片も思ってないことで正論詰めしてる。正論パンチだけど、絶対そんなこと思ってないだろうに……」


 宗教、神の名前を出せば何でもやっていいのかという倫理の話をしている。それで犠牲になったフォイルからすれば到底許されない行為だろう。

 フォイルは正論以外にも様々な資料を出す。コアキメイルでの実験の資料に、他の地方でも同じように神の器を作成するために行われている非道な実験の資料のようだ。


【文章としても記録が残っています。わたしは失望しました。これが民衆にバレたら信仰など失われる。誰も主を信じようとしないでしょう。それこそ我らの存在意義を崩壊させる一手です。即刻止めるように指示を出していただけますか?この紙が風に吹かれて誰かの目に留まる前にあなたが全体に一言告げれば済む話では?】


【そうはいかん。この実験を止めるには私と騎士団長、そして聖女3名の宣言が必要だ。私1人では止められないのです】


【罪悪感もなし、自身の意志でやっていると。これは困りました。わたしは悲劇を止めたいのです。そこに聖女としての権限が必要となると、仕方がありません。わたしが聖女になりましょう。となると、今の聖女と騎士団長が邪魔ですね。大司教は脅せば良いとして……。アルビオン。騎士団長になってくれますか?あなたのような存在を産み出さないために、必要な措置なのです】


【もちろんです。僕は、あなただけの剣なのですから】


 お、おお。フォイルが聖女になったら必然的にアルビオンが騎士団長になるんだろうけど。これイージーモードに出てくる聖女と騎士団長はやっぱりこの2人なんだろうか?

 声優繋がりということもあるけど、イージーモードの聖女もCVが???のままで公式発表もなし。

 もしかしてもしかするかも。


【随分と猫を被っていたようで。根っこは冒険者の頃から変わっていないようですな】


【人の根幹なんてそんなに簡単に変わりませんよ。──地獄を見た。その地獄を人間が組織立って意図的に産み出していて、それが自分の所属する組織だったなんて受け入れられるほどわたしは人間を辞めていない。わたしからすればこの正教は狂人の巣窟だ。頭の中を主とやらに弄られて妄信的になっているのか?】


 ドスの効いた声で脅すフォイル。その声と圧に大司教は後退りをする。演技で圧を与えるというのは本当に凄い。

 それに聖女候補なのに神様を信じていないというカミングアウト。大司教からすればありえないものを見たかのような表情をしていた。


【主すら信じていないだと……⁉︎それでどうして回復魔法を、【天使(ミカエル)】を与えられている⁉︎】


【さあ?それだって主の考えなんじゃないの?あなたたちが主に見限られたんじゃない?】


【そんなはずはない……!回復魔法こそ主との唯一の繋がりのはず!貴様、何者だ⁉︎】


【エレシア、って名前じゃないことだけは確かだね】


 自分の常識が崩れたからか、大司教は机の上にあった魔道具らしきものを使う。それは緊急事態を知らせるベルだったようでアルビオンも懐からジリジリと鳴るベルを取り出す。これで騎士に何かあったと伝えるものなのだろう。

 これでしっかりと反逆者扱いされたわけだ。

 騎士が急いで大司教の部屋に入ってくる。そこで聖女候補のフォイルが剣を大司教に向けていることから緊急事態だと把握したのか騎士も剣を抜いていた。


【大司教様、エレシア様……⁉︎これは一体どういうことですか⁉︎】


【我らが聖女に仇なす異教徒だ!我らが主とは異なる者から与えられたギフトの可能性がある!】


【なんと……⁉︎】


【なるほど?やっぱり神様も複数いたみたいですね?その辺りのこともマルっと教えていただきましょうか?──邪魔をするなら、殺しますよ?】


 全員に殺気をぶつけて、戦闘開始。大司教バラハムとも戦うようだ。騎士が3人一緒だったので騎士から倒していくが、大司教バラハムはバトルフィールドの外にいるのか攻撃できなかった。

 のくせにフィールドには様々なトラップを撒いたり、騎士へ回復薬を使うサポートをする始末。めんどくさいな。

 バラハムを攻撃できないためにどうしようと思っていたら騎士のお代わりが来た。一定数騎士を倒せばイベントバトルが進むだとかだろうか。

 ものの試しでターゲットを固定しないでマニュアル操作で魔法を使ってバラハムを攻撃してみる。雷の槍を投げ飛ばしたが、ダメージエフェクトも出ないままバラハムの身体を貫通していった。


「うーん、完全にエネミー扱いじゃなくギミックシンボルみたいな感じですかね?素直に騎士を倒すかぁ」


『鬱陶しいのはわかるけど……w』

『魔法は貫通するんだな。さっきから麻痺罠とか投げてくるの厄介すぎるだろ』

『異教徒って考え、あるんだ?』


 増援で来る騎士をひたすら倒していく。すると特にきっかけがあったとかではなく戦闘が終了。戦闘のリザルト画面でタイムがきっかり5分になっているから時間経過系のイベントバトルだったんだろう。結構な数の騎士を倒したからか、経験値が美味しかった。

 床に転がる騎士たち。ただし息はあるようで身じろぎはしている。殺さないって前回言ってたもんな。結構な数の騎士をたった2人で倒したからか、バラハムは腰を抜かしながら後退りしていた。


【波も引いたようですね。さて、興味深い言葉もありましたが、まずは組織改編です。あなたクラスの人を用意するのはわたしの伝手では無理なので、あなたはわたしの言い分を全て了承していただきます】


【わ、私のことはどうでもいい……!聖女様をどうするつもりだ⁉︎】


【殺しますよ?カテゴリーHの実験の責任者でしょう?大量殺人の指示を出した人間を、高々珍しいギフトを持っていただけで崇めるなんてバカなんですか?世間的には病死とかにしておきますよ。それとも地方で魔物と勇敢に戦って名誉ある戦死?世間への言い訳はあなた方に任せます。さあ、様々な実験の記録が残されている場所に案内しなさい。嘘をつけばわかるので、そのつもりで】


【読心術ができるギフトだと……⁉︎貴様は本当に、なんなんだ⁉︎】


【あなたたちが産み出した怪物だよ。見た目が人間なだけの、理不尽な暴力そのもの。カテゴリーHよりも強い、ただの怪物】


 そう言って魔法でも使ったのか、金縛り状態のバラハムを空中に浮かせるフォイル。そういうこともできるのか。

 騎士は放置で、バラハムだけを案内役にしているようだ。バラハムの執務室で悪事の証拠を手に入れて、他にもカテゴリーHに関係する実験をこのアンジェリカの正教本部地下でやっていると吐いたので、一度も行ったことがない地下へ向かうことにする。

 執務室を出ると『ヴァルハラ・スローン』のように騎士がシンボルエネミーとして出ているようだった。こちらを見かけて追いかけてくるんだから確実だろう。


 避けられそうにない相手だけ倒しつつ、教会本部を探索。とはいえダンジョン化していない状態で探索はしているので新しいアイテムなどはないと思う。途中でアルビオンからの提案で聖女の部屋を漁ってみようと言われたので、聖女の部屋を守護している騎士を戦闘で倒して彼女の部屋に侵入。

 調べた結果、カテゴリーHに関する実験の報告書がわんさか出てくる。まだ行ったことのない場所で実験をしている証拠も集まったので、糾弾するには良い資料だろう。それ以外にも子供を誘拐した証拠や、人身売買のリスト、更には世界中の子供たちの初期ギフトの一覧があって、有望な人物のリストアップをしていた。


 これを使って騎士や神父の才能がある人物を囲い込み、たとえその道に進まなかったとしても将来的に大成しそうだということでその後の人生などを追跡していた。貴族制度の悪用もしているようで、貴族を優秀な駒にするためか、最初のギフト授与の際の資金援助までやっているらしい。

 これ、孤児のフォイルからすれば受け入れられないようなお金の使い方ではないだろうか。彼女は与えられなかった側なんだから。


 聖女の部屋を後にして、目的通り今まで行けなかった地下へ向かう。罪人への正当な教育を施しているため、聖女候補の肩書きを持つフォイルは不浄な場所として立ち入れなかったが、クーデターを起こしてしまえば問題ない。

 結局地下にあったものは。


【はぁ……。ここでも実験ですか。大司教様?随分と耳障りのいい言い訳ですね?罪人を閉じ込めているために立ち入り禁止とは。人の身体を保っている人が誰もいないではないですか】


 牢屋の中に入れられたのは首輪と鎖で繋がれた魔物の姿。できるだけ人間の形を保ちたかったのか人間くらいのサイズに収まっている魔物もいれば、逆に大きくなりすぎて牢屋にも入っていない魔物もいる。

 ……違うな。顔だけは爬虫類っぽい紫の巨大な魔物、多分死んでる。動かないから無防備な研究者のような白衣を着た人間が無遠慮に触ったり解剖したりしているんだろう。

 資料によると各地方で様々なアプローチをしていて、その中でも特に効果のあった内容の実験を本部でも試す。聖女の回復魔法も合わせて使ってみたら変化はないかという実験のようだ。


 本当に酷いな。

 研究者たちは戦う力がなかったようで、フォイルたちが武器をちらつかせて脅したらすぐに降伏した。ここにいるカテゴリーHは暴れる様子も見られなかったので一旦は放置。欲しい資料だけ集めて、ここでのイベントは終わった。

 セーブポイントがあったのでセーブして、また部屋の真ん中にメインストーリーを進めるための星が現れる。多分これを調べたらストーリーが進んで戦闘になるんだろう。


 とうとう聖女との対決かな。

 星に触って、ストーリーを進行させますかの問いに「はい」を選択。

 聖女と騎士団長のドゥーン、それに10人ほどの騎士が正教本部に帰ってくる。だがいつもの活気がなかったからか、ドゥーンが腰の剣に手を当てて教会の扉を開いた。

 祈祷台の前にいるのはフォイルとアルビオン。それ以外の人物も教会でよく見るような長椅子に座っているものの、誰も聖女たちの方を見ない。身体が震え上がりながら、前を見るだけで横を向く者は誰1人としていなかった。これ、フォイルが強制しているんだろうか。


 フォイルは修道女の格好をしつつも、ヴェールを被っていなかった。ヴェールもセットだったために、あの格好で顔を隠していないのは最初のイベントムービー以来だ。

 誰も声を出さず、帰ってきた聖女と目を合わせようとしない。その明から様な異常に、騎士は全員剣を抜いていた。ドゥーンを先頭に歩いて、その後ろから聖女がフォイルに声を掛ける。


【エレシア?あなたが何かしたのですか?】


【はい、でも、いいえ、でも状況は変わらないわ。終わりにしましょう、聖女様?おままごとはおしまい。人形に見立てたモノを抉って焼いて痛みつけて泥だらけにしてポイをする、壮大で見窄らしいごっこ遊びはおしまいよ。あなたが聖女?バカを言わないで。あなたなんてわたしと同レベルの人でなし(・・・・)よ。神様(パパ)から貰った箱庭で遊べて満足?その泥だらけの手で何もかも穢して捨てて、捨てて、捨ててッ!化け物(わたし)を産み出して、満足?幾星霜、数多の人を犠牲にして結果も出せない無能が世界を統べている聖女でいるのが満足ならないの。だから──あなたを殺すわ。聖女メルビム】


 そう宣言したフォイルから聖女を守るように、騎士が聖女メルビムの周りを囲って防御陣営を構築する。その行動の素早さからこの騎士たちはいわゆる近衛隊というやつではないだろうか。

 無手でいるわけにいかなかったのか、フォイルが剣を何もない空間から取り出し、アルビオンも槍を抜く。

 既に問答をする段階を超えているというのに、メルビムは一歩前に出てフォイルに問いかける。


【主の意思を知ったのですね、エレシア。ではなぜにこそ、このようなことを?我らが父をこの世に再誕させる。それこそが我ら聖女の果たすべき使命。そのための犠牲など、全て些事でしょう?】


【些事。そう、些事ね。狂信者は洗脳でもされているのかしら?わたしはあなたのように、大切な人を蔑ろにするような思考に陥りたくない。それともギフトにそういう副次的な効果がある?──なんにせよ、ここで終わりね】


 フォイルは持っていた剣を床に突き立てる。コォーンと軽い音が響き渡ると、フォイルは魔力を解放したのか、修道女の服が破けていつもの冒険者の格好に戻っていた。そして身体の周りから黄金色に光る何かを纏ってそれがドンドン拡大していった。魔力って高まると可視化されるという話はサブクエであったが、まさか巨大な教会を丸々覆えるほどの魔力だったなんて。

 その魔力量に慌てる親衛隊っぽい騎士たち。そんな中でも椅子に座った人たちは悲鳴をあげるものの、立ち上がったりしなかった。足や腰にフォイルが放っている魔力と同じ色の光が見えるために、固定化の魔法でも使っているんだろうか。

 コントローラーもめちゃくちゃ揺れている。BGMもかなり荘厳なものになっていき、パキパキと何かが乖離するような音がし始める。


【ギフト偽装登録解除。【孤児の英雄(ヘスティアー)】全面解放、【復讐者(アン・アガペー)】装填魔力臨界っ!──さあ、孤児(きみたち)に祝福を──『|開闢の雷霆と守護せしホルキアス・ウェスタ』‼︎】


 白滅した画面が戻ると、そこは教会の中のはずなのに炎と雷が交わる幻想的な館に変貌していた。バチバチと雷が紫電を飛ばし、誰かを保護するように優しい焔が辺りを包む。教会から切り離された異空間のようで、その場にいたのはフォイルとアルビオン、メルビムにドゥーン、それに近衛隊の騎士だけ。

 他の観客は全て消えており、そこはフォイルのために作られた安らげる家のような空間だった。


【バカな……空間魔法⁉︎魔法の才ある者が一生をかけて到達すると言われる大魔法だぞ⁉︎】


【エレシアのこの魔力に、この空間……。あの子よ!あの子を素材にすればお父様は降臨なさる!性別なんて些事だわ、あの魔力を封じ込める身体こそ求めていた器!ああ、こんなところにいたのね‼︎我ら3000年の悲願っ‼︎】


「ドゥーンはこの空間魔法?に驚いてますけど、メルビムはフォイルの可能性に狂喜乱舞って……。本当にブレーキのない女性なんですね」


『転移魔法を使えたから、こういう空間の切り取り的な魔法は得意なのかな?』

『そういやギフトが2つあること言っちまったか?でもあれ、ギフトの名前ってわかるかなぁ?』

『雷霆ってゼウス……?ヘスティアの弟だから関係性はあるか?』

『復讐者のギフトってゼウス由来?復讐要素あったっけ?』

『王位簒奪の辺りを復讐とみなす説もあり』

『3000年もかけて結果を残せてないとか、正教って無能では?』


 メルビムの狂信者っぷりにドン引いていると、戦争が始まる。その際に新たな戦闘スキルというか、戦闘で使える要素が増えたようで説明が入る。

 リミテッド・オーバードライブというゲージ消費の一時的な全能力上昇のバフのような効果に、このリミテッド・オーバードライブ状態限定の奥義もあるようだ。今展開している『|開闢の雷霆と守護せしホルキアス・ウェスタ』も奥義の結果で、この状態の奥義はランダムで選ばれるようだ。


 リミテッド・オーバードライブ用のゲージは相手にダメージを与えたら上昇していき、溜まったら任意発動ではなく強制発動になるらしい。今フォイルはこのリミテッド・オーバードライブ状態のようなので、積極的に攻撃を仕掛ける。

 メルビムにドゥーン、近衛隊勢揃いというかなりの数の差があったが、この強化状態が中々強くて簡単に近衛隊を倒せる。

 そう思っていたらメルビムが回復魔法を使って近衛隊を回復させ始めた。


「そういえば彼女も回復魔法を使えるんだった!回復薬とか回復魔法を使ってくる相手もいなかったから、油断した!」


『腐っても聖女ですし』

『事実、性根は腐ってる』

『長期戦必須になるのはキチィ』


「というか!敵とはいえ一度は味方だったドゥーンと戦うの、心理的にキツイんですけど!」


『でもそいつ、聖女に協力してた共犯者筆頭だぞ?』

『権力的に知っていて許可出してるからな。大悪党だぞ、そいつ』

『仲間だったことが異常なカスでは?』


 リミテッド・オーバードライブ状態がもう少しで終わりそうだったので、適当に近衛隊の1人に攻撃スキルを当てつつボタンを長押しして専用の奥義を放つ。

 今まではギフトで固定の奥義だったけど、今度はどうなんだろうか。

 1枚絵のカットインが入るものの、それは今までの1枚絵とは違うものだった。格好は冒険者のデフォルトの姿なのだが、魔力を纏わせた状態なのか、身体の周りに黄金のオーラを纏っていて、剣を床に突き立てたさっきのイベントのような絵だった。


【哭け、刻め、轟け復讐の雷よ!我らが想うは母の愛!我らが謳うは同胞(はらから)の夢!我らが望むは決して届かぬ忘却の彼方!──アンジェラス・アテーナー・クルヌギアス‼︎】


 剣から伸びた雷の多種多様の武器。それらを振り回して敵を切り刻む。5個の武器を使った後は剣を一度収納した後、自力で作った雷の槍を投擲。地面に着弾したのと同時に地面から雷の柱が上空に向かって突き出て、それが相手へのダメージになったようだった。

 奥義中の全体停止が終わって、フォイルも改めて剣を取り出す。さっきの奥義の攻撃で近衛隊は全員倒したようで立っているのはメルビムとドゥーンだけだった。メルビムは遠くにいたことと近衛隊が守っていたからダメージを与えられなかったけど、これで攻撃ができる。


「奥義つっよ!オーバードライブ状態になったら積極的に使っていきたいですね!」


『1枚絵も違うとか、すげえな!金のかけようが違うぜ』

『これはフルプライス2つ買える値段なのも納得だわ……』

『普通にやってたらどれくらいでゲージが貯まるかだよな』

『雑魚一層してるけど、これランダムなんだろ?このフィールドになるのが一番のハズレか?』

『でもフィールドギミックでダメージを与えつつリジェネもかかってるから、長期戦になるボス戦ならこれはこれで死ににくくなるからアリじゃね?』


 回復が面倒だったのでメルビムから狙うものの、AI的にドゥーンがメルビムへの攻撃を庇いつつカウンターをしてくる。これが厄介で、オートガードみたいなことになってほぼ確実にダメージ軽減となるガードのエフェクトが出ながらメルビムへの攻撃を邪魔して、その間にメルビムが魔法の詠唱を完成させて攻撃だったりドゥーンの回復だったりやってくる。

 これ、本当に面倒だなぁ!メルビムを倒さないと千日手になって、でもそのメルビムへの攻撃はドゥーンが全部引き受ける。


 相手の攻撃という意味ではそこまでではないものの、戦術としてはかなり完成されたルーティーンになっている。理想的なタンク役とアタッカー兼ヒーラーだろう。

 相手のMPが切れるのを待つか。というか相手にMPなんて概念あるのか。無制限だったらそれこそどうにかしてドゥーンを突破してメルビムを倒す必要がある。

 一応フィールドギミックの雷撃が相手の詠唱やガードを邪魔して体勢を崩してくれるのだが、雷撃もランダムなので確実にガードを崩してくれるわけではない。ドゥーンの体勢を崩してしまえばメルビムの行動を止めるのもできるのだが、回復が間に合ってしまうと状況が全然変わらない。


 魔法で2人に当たるような広域魔法を使ってみるものの、あまり効力を感じなかった。どうしようと思っていたらアルビオンがオーバードライブ状態になったので、メニューを開いて操作キャラをアルビオンに変える。

 オーバードライブ状態のアルビオンは攻撃がガードブレイク状態になるのか、ドゥーンのガードを崩しまくってガンガン攻め立てる。その間のメルビムの足止めはフォイルがやってくれたので回復魔法で回復されることもなかった。

 そろそろオーバードライブ状態が切れそうというところでアルビオンも奥義を使う。


【ごめん、フォイル。少しだけ解放する……!忌まわしき龍の(あぎと)よ、敵を屠るために少しだけ、僕に力を貸せ……!ドラゴニック・オーバードライブ‼︎】


 誇大化した左腕と、左目から魔力が迸ったのかそこに黄金のオーラというか雷のようなものが描かれた1枚絵の後、3Dモデルのアルビオンの腕も巨大化し、オーラが龍の頭の形をして大顎を開いた状態でドゥーンに突っ込んだ。龍の頭ごと大爆発を起こしてドゥーンとメルビムを巻き込む。

 その攻撃が終わった後、アルビオンは左腕が痛むのか右手で抑えて膝を着いていたが、まだ戦闘が続いているからかすぐに立ち上がって武器を構えた。

 攻撃を受けたドゥーンとメルビムはピヨリ状態という一定時間行動しないスタンのような状態になっていた。


「チャンス!範囲攻撃且つスタン付与とか優秀すぎでは⁉︎」


『オーバードライブ状態だから奥義も特別強いんか?』

『あ、アルビオンのHP減ってる。デメリット付きか』

『誤差レベルでしょ。それにリジェネのおかげですぐに回復しそうだし』

『同じ聖女と騎士のはずなのにタイプが違うよな。メルビムたちはオーソドックスな前衛後衛タイプなのに、フォイルたちは脳筋攻撃特化じゃん』

『このリジェネに目が届いてない⁉︎』

『スキルにしろ攻撃技にしろ戦闘スタイルにしろ、フォイルが攻撃特化の方が強いというのは否定できない』


 こういうのは後衛ヒーラーの方がHP低いよなと思って、メルビムを優先して攻撃する。やはりHPが低かったのか、それとも奥義がよっぽどダメージが大きかったのか、メルビムを先に倒せた。そうするとシークレットミッションクリアと表示されて、そのまま戦闘が続く。

 特にイベントが挟まるということもなく、まずはドゥーンを倒すのが優先のようだ。


「ドゥーンより前にメルビムを倒すとかが条件だったんですかね?これは倒す対象をどっちにするかで達成できない人も結構いそう」


『ヒーラーを先に倒すのは常道』

『でもドゥーンも厄介だったからな。倒しちまえば蘇生はないから、ドゥーンを先に倒そうとするのは人によっては全然あると思う』

『ドゥーンに限らず、最後に倒さなければ良かったとか?』

『条件とか表示されないもんな。さすがシークレットミッション』

『ボスとか再戦できないし、したくもないからシークレットミッション全制覇は難しそう』

『そういうやり込み要素をやる奴は絶対いるんだよなぁ』


 回復がなくなり、遠距離攻撃の魔法も援護として飛んでこない上に人数差も覆した後は正直作業だった。ドゥーンが守る必要がなくなったために攻撃に積極的になったが、逆に言えばカウンターをしてしまえばガードもしてこないためにガードをずっとやられるよりは戦いやすくなった。

 ドゥーンも倒してリザルト画面になる。今までで一番経験値を貰えたので2人ともレベルアップとギフトもレベルが上がった。シークレットミッション用のギフト強化アイテムを20個も貰えたので育成が捗る。


 イベントムービーになり、アルビオンがドゥーンの腹をぶち抜く。喀血しながら大の字に倒れて、その後は目を見開いたままピクリとも動かなくなった。次はメルビムだと2人が武器を向けると、メルビムはドゥーンの死体へ駆け寄った。そして狂ったかのように回復魔法の光を彼に当てる。

 それでも彼の状態は変わらない。さすがに聖女でも蘇生魔法なんてものは使えないのか。


【いや、いやあああ!目を開けて、お父さん!】


【……父親だったの?じゃあ親子揃ってクズだったんだ】


【じゃあどうしろって言うのよ⁉︎私はギフトを貰った時点で聖女の道しかなかった!聖女はこうあるべきと、正教にもお父さんにも教わった!これが私にとっての当たり前なのよ⁉︎冒険者をやっていた粗暴な娘には、正教の当たり前が馴染んでいないあなたにはわからないでしょうね‼︎私からすればあなたの方が異常なのよっ⁉︎】


【知らないわよ。あなたたちのその当たり前でわたしもアルビオンも殺されそうになった。こんなの、ただの防衛本能でしょ】


【正教の教えが世界の常識なのよ!この異教徒どもがっ‼︎】


 メルビムが逆ギレをして魔力を解放して2人を吹っ飛ばした。2人とも空中で宙返りをしてすぐに臨戦体勢を維持したが、メルビムの魔力の奔流は止まらない。

 というか、その2人って親子だったんだ。似ているかどうかはよくわからない。メルビムはずっとヴェールをつけているから顔の輪郭はわかっても顔はそこまでくっきりと見えるわけでもないし。


【これだけはしたくはなかったけど……!主よ、我が我が不届を許したまえ!】


【まさか、ギフトを変えるつもり?対価となる金貨は……】


「あ、聖女もギフト変えられるんだ。神父より上位のギフトならそれもそうかも?にしたってそれって神様に認められたギフトでは?それを捨ててまで何になりたいんだ……?」


 ギフトを得るために金貨が必要なはずだが、その代わりなのかメルビムが持っていた杖が消えた。別に金貨じゃなくても、価値のあるものだったらギフトを得る代わりになるんだろうか。

 ここは異空間のはずなのに、上空から光の柱が降り注ぐ。誰かにギフトが与えられる時の光と一緒だ。その光がメルビムを包むとメルビムの身体が膨張していく。シルエットからして人間ではなくなっていき、下半身は蛇のようになり、ずいぶん太くて長い尻尾が身体全体を支えている。

 上半身は人間のようでありつつ、腕が4本あった。髪のどれもが小さな蛇になっており、その蛇からシューシューと鳴き声が聞こえる。フォイルたちの4倍くらいはありそうな巨体に変化していた。


「なんというか、ゴルゴーンでしたっけ?蛇の怪物みたいですね」


【うわ、醜い。聖女が怪物に変身するなんて、そこまでして死にたくないの?】


【私の人生を否定しておいて……!そう、主の伴侶としての立場は捨てた!今の私は【蛇の女王(ゴルゴン)】!主のためにあなたをここで殺す!】


【殺す動機まで他人任せ。あなたの行動指針は全部他人依存で、あなたという存在がないじゃない。──怪物になったのなら、倒してあげる】


 連続戦闘だ。

 図体がデカいから戦いやすいかと思ったが、小さな蛇を髪の毛から何体も召喚したり、スキルを使うと石化というスタンをしてきた。時間経過で治るものの、一定時間動かせずに集中攻撃を喰らうのは厳しい。フィールド効果のリジェネがなかったら回復スキルや回復薬に頼らなければならなかっただろう。

 小さな眷属が厄介だったものの、フォイルの魔法とアルビオンの攻撃スキルが基本的に広範囲だったために何度召喚されてもすぐにどうにかすることができた。


 ゴルゴンは人間だった頃みたいに後方で魔法を中心に戦うのかと思ったが、今のところ1回も魔法を使っていない。ギフトを変えたからか魔法が使えないのだろうか。回復魔法を使えるギフトはフォイルという例外を除いて【天使(ミカエル)】だけだって話だから、多分回復はできないんだろう。

 回復ができないのならどうにかなるかと思って戦い続けて結構削ったところで、イベントが挟まる。

 戦闘を中断するようなイベントはなんだろうと身構えていると、ゴルゴンが脱皮をした。しかも結構エグめの脱皮でひと回り小さくなるような脱皮だ。ベリベリと剥がれるような、肉を削ぎ落とすような変質で、最初は異形ながら綺麗な顔をしていたのに今やしわくちゃな老婆のような顔になっていた。

 体表も赤紫という毒々しい色に変わり、その変化にフォイルの眉尻が落ちる。


【オエエエエエエエッ‼︎】


【……そこまで堕ちてしまったのね。聖女をしている頃のあなたは美容も気にかけて、それこそ民衆のための象徴でいようという姿勢だけは見えたのに。人のまま殺してあげるのが救いだったかしら?──他人を魔物に変えて生きてきた人の末路としては、因果応報なのかもしれないわね】


 そんな哀れみの言葉と、BGMがオルゴール調の物悲しいものに変わって、戦闘が再開される。

 もう眷属を産み出す力はないようで、ゴルゴン単体との戦いだった。動きも先程よりもよっぽど遅く、攻撃頻度も多くない。イベント戦みたいな感じだ。

 さっきの脱皮は生き残るための最終手段だったんだろう。苦戦することもなくどんどん攻撃を加えて、普通に攻撃スキルを使っただけなのにフォイルの普通の奥義を放つ時の1枚絵が表示された。


「え、奥義?なんで?」


【もう、おしまい。あなたは悪だったけど、この終わりは予想してなかった。もし次があるのなら、ちゃんと反省してね。──『ウェスタの(ほむら)』‼︎】


 剣から巨大な炎を出してそれで一閃。【孤児の英雄(ヘスティアー)】をメインのギフトにしている時の奥義だ。それがトドメだったようでゴルゴンの断末魔と共に戦闘が終わる。リザルト画面に移ると無音になって、フォイルたちも何も言わないままただ結果だけが表示された。

 イベント戦闘っぽかったものの、経験値はしっかりと貰えた。奥義を使わずに強制的に発動したことをリスナーに伝えつつ、戦闘後のイベントを見る。


 倒れ伏すゴルゴン。カテゴリーHなら魔物の身体が分解されて人間の姿に戻るのだが、一向に姿は戻らない。この異空間の維持が限界だったのか、魔法を解いて元の教会に戻る。

 戻った教会で突如として現れる騎士たちの死体と、見覚えのない蛇の魔物の死体。ようやく動けたのか教会にいた者たちがいきなり現れた死体たちとフォイルたちに悲鳴を上げていた。そんな中でも大司教のバラハムがフォイルへ近付いてくる。


【騎士団長も、近衛騎士も……⁉︎エレシア、聖女をどこにやった!この蛇の魔物はなんだ⁉︎】


【それが聖女だけど?自分でギフトを変えて襲ってきたから殺したわ。おかしいわね、カテゴリーHは殺したら人の姿に戻るでしょう?異空間魔法を使っていたから?それともギフトを与えたのが自分だったから?対価が金貨ではなく杖だったから?……なんにせよ、聖女はいなくなったわ。聖女が本当は悪人で魔物に変貌するような化け物でしたって世界に発表するのと、魔物との戦闘で悲しくも殺されてしまった。どっちが良いと思う?】


【そんなもの、後者しか選べないではないか……!騎士団の評価が落ちようが、聖女そのものを悪とするよりはマシだ。そうしてあなたが正教を統べると?】


【ええ。バカな実験を全て止めるわ。前時代の負の遺産なんて要らないの。聖女をやってあげる。世界も少しはマシに運営することを誓ってもいい。わたしは純粋に、人を食い物にすることが許せないのよ。指示を出したのが神であったとしてもね】


【……承知致しました、エレシア様。我ら司祭はあなた様を聖女として認め、これから従いましょう。ですが騎士団の取りまとめはあなたがすべきです。トップ層全てをあなた様が殺戮してしまいましたからなぁ】


【良いでしょう。妙な素振りや、実験をしているような組織への援助を続けたらあなた方もすぐ首が落ちると思っていてくださいね?従順なフリをする愚か者は新しい正教に必要ありませんから】


【…………肝に銘じておきましょう】


 バラハムは一応頷いたけど、これ普通に裏切りそうだな。それにフォイルも新しい正教を受け入れられずに離反者を出すこと前提に話している気がする。

 まあ、カテゴリーH関連の実験に関わっている者をフォイルなら殺そうとするだろうし、今までは正当化されていた仕事を突然の方向転換でスポンサー側から殺されることになったらその理不尽さに彼らは怒り狂うだろう。

 離反者を出さないなんて無理だろう。それくらい正教が腐っている。


 アンジェリカの街並みを俯瞰するような、上空から見下ろすアングルになり、時間が経つかのように季節が移ろっていく。それに合わせて街の形も変わっていき、暗転。

 突如としてAD762という表記が現れる。そして1つずつ数字が増えていくようにダイヤルのように数字が転がっていく。1の桁だけ進むわけではなく、とうとう10の桁が変わった。数字のカウントは進んでいき、AD782を表示したところで回転がストップ。


 20 years laterと表示されて、ボタンを押すように促される。確かAD782が他の主人公のプレイ開始の年号だったはず。騎士団長ドライグの声優が間宮君だったからハードモードは過去なんだろうと思ってたけど、まさかそんな前だったなんて。

 スタートが唯一子供時代があるって時点で過去なのは予想できたけど、そんなに前のことだったのか。

 でもそれならアルビオンがおじいちゃんになっていることに説明が付かないような。


「20年一気に時代が進みましたね……。一応他のモードのスタートがこのAD782だったはずなので、時代が追い付いた形なのかな?」


『ここまでが幼少期だったってこと?』

『ん?多分あのままフォイルが聖女になったんだよな?イージーモードの時、聖女の名前はエレシアでもフォイルでもなかったはず……』

『あれ、フォイルちゃん30歳⁉︎マジ⁉︎』

『ギリ30手前じゃね?』

『5歳スタートで3年と半年は確実に年数が進んでいて、それ以外の時間経過については詳しい描写がないから、ギリギリ29歳の可能性が高い』


 ボタンを押して、正教本部の部屋にズームアップしていく。天蓋付きのベッドに1人の女性が寝ていた。その部屋に誰かがノックもなく入ってくる。全身鎧を着たドライグだ。白髪の年老いた男性ながらも一本芯があるような、騎士団長とは、と言われたら思い描く人が多そうな正統派のビジュアルだった。公式HPにキャラ紹介として載っていたから間違いない。

 そのドライグがベッドへ腰掛け、ゆっくりと掛け布団をどかして女性の顔を覗き込む。


【おはよう】


【ん〜……。アルぅ?もう朝……?】


【ああ、朝だよ。この部屋だから良いが、今の私はドライグで君はデメテルだ。それともこちらの名前で呼ぼうか?────】


【本名はダメだよ……。うん、目が覚めた。おはよう、ドライグ。今日もお髭がダンディで素敵だね】


【君も麗しい寝ぼけ眼だとも。そのままだとサフィラに何事かと怒られてしまうぞ?】


【ふあ〜ぁ。あの子は真面目だからねぇ。今日は残党狩り?それとも聖女としての公務?】


【慰労のための訪問があるから今日からしばらく遠征に行くと昨日話しただろう……。窮屈で退屈な馬車の旅だよ】


【面倒だねえ、転移魔法で一瞬なのに。騎士皆は連れて行けないから仕方がないか。じゃあ、着替えましょうか】


 暗転してすぐ、フォイルは白を基調とした修道女のような服装に変わる。カソック、と呼ぶんだろうか。顔はやはりヴェールで隠していて、武器も前のように隠しているからパッと見は無手だ。

 ヴェール越しに見てフォイルは割と30歳と言われたら納得するような綺麗な顔をしているからこそ、フォイルよりも歳下だったアルビオンがこんなに歳を取っている理由がわからない。

 着替え終わったようで、自由に操作できるようになっていた。マップの案内的には下で遠征に合流しようと出ている。目的地も出ているのでそこに向かうとイベントが進むのだろう。

 まあ、気になることはさまざまあるけど、まずはこれを突っ込みたい。


「なんか、フォイルとアルビオンの距離が近くありません……?なんですか?さっきの新婚夫婦のようなやり取りは」


『この20年で何があった!!!!!』

『その過程を、見せろおおおおおぉぉぉ!』

『マジで結婚してるんじゃね?知らんけど』

『聖女って結婚できるんか?一応神様の伴侶みたいなもんだろ……?』


 リスナーも気になるようだ。この後のストーリーで解説されるだろうか。メニュー画面を開いて状況を確認する。レベルなどは据え置き。ステータス画面の1枚絵は今の姿に変わっており、名前もフォイルは『聖女デメテル』になっていて、アルビオンは『騎士団長ドライグ』になっていた。

 スキルなども変化はなし。あとは気になったキャラクター図鑑に行ってCVを確認しに行く。公式から発表があったとはいえ、ドライグを高校生が演じているとは思えなかった。それほどまでに嗄れた老人の声を再現しつつもフォイルへの慈愛のような感情も乗っているのだ。

 本当に間宮君なら、彼の才能はどうなっているんだ。

 どこに追加になっているかわからなかったので上から順番に見ていって、気になったというか気付いたことがあったのでデメテルの前にあるキャラクターで止まる。


「あ、聖女メルビムって声優さん、高芒(こうのぎ)琴音(ことね)さんって方なんですね。前までは情報隠されていたのに。確かドロッセル先輩たちの1周年の劇に出ていた声優さんだ。『ソラソラ』とかに出ていましたっけ?」


『コトちゃんやん!マジか、わからなかった!』

『『ソラソラ』には出てなかったはず。でも有名なアニメとかには出てるよ。売れっ子って言っていいレベルで仕事はやってる』

『リリが見てるアニメってズァークくらいだろ?ズァークには出演なかったはず……』

『その人、アルビオンの声優のみーちゃんの事務所の先輩。みーちゃんと並んで事務所の稼ぎ頭だよ』

『間宮君と同じ事務所の人なんだ』


 へー。皆声優さんに詳しいなぁ。それに間宮君と同じ事務所なんだ。彼のことは気になったことと、陽菜ちゃんの推しだから軽く調べたけど、大手事務所所属じゃなかったはず。結構小規模な事務所だったような。

 多分フォイルというかデメテルとメルビムをミスリードさせたくてCVの表記はなかったんだろう。デメテルの方は幼女の頃からも結構演技も声も変えているから、俺みたいに声優さんに詳しくなかったらわからないまま同じ人が演じていると思うかもしれない。


 次の人物はフォイルだったけど、名前は『聖女デメテル』表記だった。CVは変わらず東條春香さん。エレシアの名前はあくまで聖女見習いの時の洗礼名だったということで聖女に就任した時に名前を変えたようだ。正教の改革は進んでいるものの、クーデター直後で前時代の慣習を全て撤廃できず、名前を変えることは渋々受け入れたようだ。


 その次は『騎士団長ドライグ』。思いっきりアルビオン本人と書かれているけど、【龍化(ドラゴニア)】による身体の変化が急速すぎて成長が早く、すでに老化が始まっていると書かれていた。龍の力は人間には過ぎた力であり、このギフトを与えられつつ人の姿を保っているのは類稀なる精神力のおかげらしい。

 そして一気に歳を取る人間は不審がられるために、アルビオンは死んだことにして一時期仮面を被って騎士として働き、壮年の身体まで育ったところで仮面を外してドライグと名乗るようにしたと記載されていた。


「あっ、半年後に一気にフォイルちゃんと背丈が並んでたのって成長が早かったからってこと⁉︎実年齢25歳でこの見た目って、ギフトというより呪いでは……⁉︎」


『やっぱ碌でもないな、ギフト』

『カテゴリーHの他の人たちもそんな感じだったんだろうか?』

『あの外道神父もう1回ボコしてえ……!』

『もう喰われて死んでるぞ』


 見た目が変わっていることに納得して、区切りとしてはちょうど良いのでセーブポイントでセーブをする。色々と変わった20年後の世界も見てみたいものの、今日も長時間配信をしたのでこの辺りで終わらせよう。


「キリが良いのでこの辺りで終わりにしましょうか。これで公式からのネタバレを気にしなくて大丈夫かな?ドライグのことは若干ネタバレを喰らったので、やっぱり最新作はできるだけ進めた方がいいですね」


『ドライグってイージーモードの上司だから、ただ声優が発表されるのは問題ないのよ』

『普通はイージー、ノーマルの次にハードやるはずだからな。ハードでもアルビオンが加入するのは結構遅いんよ』

『ネタバレがネタバレだと気付かない可能性はある。それに人によってはもうハードもクリアしてるからネタバレ回避した勢もいるだろうし』

『というか、こんなお爺ちゃんを高校生が演じてるなんてわからんて……。そっちの方がビックリだわ』

『女性プレイヤーの枯れ専の方々がSNSでメロついていて声優の予想をしてたけど誰も当たらずにこの前の声優発表で阿鼻叫喚だったらしい。高校生で、しかも今まで演じたことのない老人役だからなぁ。それもそうなる』

『終わりね、了解!』


 今日もかなり話がコロコロ進んだな。

 それにしても、さっきのドライグでの演技を陽菜ちゃんが聞いたらメロついて悶えるんじゃないだろうか。あんなにストレートにフォイルを褒める老人の演技なんてここが初出だろうし。

 とりあえず陽菜ちゃんには真紀さんのイージーモード配信を見終わるまで俺の配信は見ないように言っておこう。一応最後のストーリーだから他のルートのネタバレが多いよと言っておけば良いだろう。


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