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この度、僕も3Dになりました【3Dお披露目】#絹田狸々3D

 土曜日の18時前。1人の女性がパソコンの前で待機をしていた。

 彼女はこれから始まる絹田狸々の3Dお披露目配信の枠で待機していた。彼女は最初期からのファンで、元々エクリプスのファンだったことから初配信も見ており、最推しになったという女性だ。元々はドロッセルが話題だったので見始めたエクリプスの配信だったが、最推しと呼べる存在はおらず、それでも面白い集団だったので興味があった配信は見る程度。

 だがリリを知って、ちょうど世間的に男女のあれこれが話題になっていたこともあってデビューする前から炎上しており、その炎上をいなしたことでファンになった経緯がある。動物型の企業勢Vtuberが変わり種ということもあったが、その低い声と可愛らしい容姿。そして同期が大好きでちょくちょくかっこいいことをさらりとやってしまうことからずっと配信を追っていた。


 夕飯はお披露目配信の後に見ようと思っていたので、まだ食べていない。飲み物とお菓子だけ用意して待機していた。待機場でも既にお披露目が楽しみなのかチャット欄はコメントがかなり残されている。既に2000人が待機しているが、始まったらもっと数が伸びるだろう。直近の【SoF】の配信でもアクティブ勢は4000人を超えている。

 リリの中の人騒動があっても、ボヤがあっても推し続けているファンだ。何回か他の人の配信で黒子の姿で出ているし、中の人が成人男性だということもわかっている。コラボカフェで盗撮されたことで容姿もなんとなしに知られていて、前世というか配信者になる前に何をしていたのか、その時の芸名などもある程度知られ渡っている。

 それでも配信では狸として、リリとして振る舞ってくれる彼を推しているのだ。


 リリとして同期の女の子2人に甘い様子を見て萌える。自分がもしそのどちらかだったらと思いながら妄想をすることもある。女性ファン用のコミュニティもあり、そこで夢小説を書いたり、イラストを上げたりするようなこともしている。彼女もそのコミュニティに参加して、リリへの愛をぶちまけている1人だ。

 たまにガチ恋勢と、FORを一種の擬似家族として見ている勢が衝突したりもしているが、リリを推していることには変わりない。コラボカフェに行った同志もいれば、グッズ類を全部手にしている者も、それこそ毎月最高額のスパチャを投げている猛者もいる。

 ファンと言っても一言で言えない、どちらかと言うとガチ恋勢の彼女は時間を気にしつつ、蓋絵が外れて配信が始まった瞬間、奇声を上げた。


【バァ!配信初っ端から顔面特大ズームでお届けしました!みんなー!今日は3Dお披露目配信に来てくれてありがとう!様式美としてね、ちゃんと挨拶しようかな。秘境の里にようこそ、歓迎しますよ。エクリプス3期前半組、FORの絹田狸々です!3Dだー‼︎】


「無理無理、可愛スギぃいいいいいいい!」


『初手ガチ恋距離かよ⁉︎』

『めっちゃリアルな顔じゃん!技術班すげえ!』

『顔以外サムネにあったけどさ!いきなり顔見せてくるのは卑怯だろ⁉︎』


 画面いっぱいに映るリリの顔。顔しか見えずに背景などが全く見えず、そこで今まで配信でもやって来なかった脅かすというコンボを喰らって彼女以外のガチ恋勢もパソコンやスマホの前で発狂した。

 今日も推しが可愛いのと、サプライズで心臓が止まるかと思ったと掲示板のスレッドやSNS、それに配信のチャット欄にコメントが残されていく。

 カメラが引いていき、リリの全身が見えるようになる。二足歩行で立っている狸だが、その質感はかなりリアリティがある。元々の絵を3Dにして、毛などもかなり繊細に気を遣ったのがわかるモデリングだ。背景はエクリプスではよくあるスタジオの背景で、専用のものではない。企画やお披露目でよく使われる、収録スタジオのような場所だ。


【他の方の配信を見てくださっている『お客さん』ならサイズ感わかるかな?どうどう?ちっちゃいでしょー。僕の身長は75cm、多分女性の先輩方の半分くらいしかないんじゃないかな?】


「本当にちっちゃいいいい!ギャン可愛なんだけど⁉︎」


『椅子と同じくらいの背丈しかないじゃん……』

『物があるスタジオだから比較しやすいな。マジでちっちぇえw』

『尻尾も動いてるじゃん。ユークリムで実験済みか』

『表情もよく動く。ニッコニコなの可愛いねぇ』


 スタジオで動き回るリリ。走ったり、スライディングしたり、ジャンプしたり、くるっと回ったり。

 お尻を見せてくれとコメントが大量に流れて、不満げにお尻をフリフリしてくれたことには彼女は鼻血が出そうだった。

 これがオスのやることかと。あざとすぎて体温が上がっていることがわかった。

 こういう推しの姿を見るために生まれてきて、毎日仕事を頑張っているのだと実感できた。

 最初の内はコメントを拾ってくれてやってほしいポーズなどが募集されて、ここぞとばかりにスパチャが飛んだ。彼女も小分けにすべく少額ながらもリクエストを送る。スパチャしたからってそれの通りにするつもりはありませんと宣言したものの、スパチャが飛びまくって困惑する推しの姿が見れただけで十分だ。


 何故か腕立て伏せがコメントで優勢になって、腕立て伏せを30回やることになるリリ。腕がしっかりと曲がりつつ、パパッとやってしまったので実はリリって運動神経が良いというか、実は運動できるバリバリな人なのではという推論が立つ。

 そもそも彼は宗方と殺陣をやるような人で、元俳優だ。動ける部類の人ではある。

 そこから運動系のリクエストが多く、反復横跳びや縄跳びなどがオーダーされる。縄跳びはKP7もやったことからこれ以降も3Dお披露目の定番になるかもしれなかった。


 モデリングも動きもおかしなことはなく、腕が変に曲がったりせず、リリの動きに追従しているようだった。そこからスクショタイムになり、椅子に座ったり、ソファに寝そべったり、昔のアイドルがやっていたようなぶりっ子ポーズを要求されたりと、僕をなんだと思っているんだと言いながらもやってくれる推しに感謝のスパチャが飛んだ。

 ここで準備があるからと蓋絵になる。そして開けたら、宗方とコウスケが戦う殺陣が始まる。だがそれは見覚えがあり、宗方のお披露目配信でやった内容と同じものだった。どう変わるのかと思ったら、宗方が声をかける。


【リリ殿、本来の姿で戦おう。コウスケ殿の姿はやりにくかろう?】


【じゃあお言葉に甘えて】


 コウスケの身体から煙幕が出て、リリの姿が現れる。ただし武器はそのままコウスケの使っていた大剣だ。

 リリはそれを構え直すと、宗方へ突撃。身体に似合わない大剣の振り回しをしつつも、その動きはコウスケの時よりも速く、宗方が楽しみながら応酬を交わす。

 楽しくなりすぎたのか、宗方のお披露目の時のようにハイテンションになっているようだった。


【ハハハハハ!リリ殿は本当に強いなぁ!もっと、もっと戦いたく!】


【宗方先輩、台本に戻って!この動き、リハーサルでやってない!】


【本当の戦場に予習などない!ここの枠は結構長くもらっているとすたっふさんからもお墨付きをもらっておるのは確認済み!とことん死合おう‼︎】


【だ、誰か止めて!宗方先輩の尺は広めに取ったけど、殺陣の時間は増やそうなんて思ってない!あ、ちょ⁉︎本当に怪我する⁉︎何でこの先輩ずっと本気なの⁉︎】


【あの時の決着を、いざ!】


 どこまでが台本なのかわからない殺陣を見させられて、おそらく宗方の演技力的に全部が本当だったのだろうとコメント欄が察しつつ、後日本当に台本から外れていたことが公式から明言されて宗方のファンがリリのファンに謝るという珍現象が起きていた。

 スタッフ数人がかりでストップが入り、スタジオに戻って改めて宗方を紹介するリリ。


【というわけでゲストの宗方先輩です。殺されるかと思った……】


【大袈裟な。真剣でもあるまいし。それと今回はげすとであることを事前にバラさなかったことを褒めて欲しいくらいなので候】


【それは本当にありがとうございます。では、2人揃ったところであの時のそっくり企画やっていきましょうかね。あ、コウスケ先輩はモデリングを借りただけで本人の出番はありません。ファンの皆様、ご了承ください】


 宗方の3Dお披露目でもやった、どっちの動きが本物のリリでしょうという企画が始まる。今回は宗方がリリの姿になり、お題の内容をこなしていく。

 だがここで宗方の天然が出てしまったために、アンケートの結果リリを毎回当てられる事故が発生。何をやっても宗方とリリの動きが違いすぎたことで企画としてはどうだったのかという内容になった。宗方の動きがもう広く知られ渡っていることと、動く前に話してしまうなどのチョンボがあってある意味嘘のないリアルタイムの映像で失敗ではないもののリリは不完全燃焼といった感じだった。

 宗方の出番はそこまで。続いて同期の霜月と水瀬がやってくる。彼女たちは3Dは来週だったので2Dの姿を映したパネルを持ってきてリリの隣に置かれた。

 そして同期特有の気軽さで弄られていく。


【り、リリくん本当にちっちゃいね……!】


【パパこーんなくらいしかないの?私の腰くらいしかないよ!手振りが通じないのが残念!】


【いつもの配信でも立ち絵で小さかったでしょ】


 同期が揃ったことで、やることは何故か『ウィザーズ&モンスターズ』の紙を使ったバトル。しかも1対2という変則バトルで、リリが2人と纏めて戦うというお披露目で何をやっているのかという内容だった。

 これにはコメントも、呼ばれた2人も困惑していた。別に2Dでできることを3Dでやる意味もないはずなのだから。


【あえて、ですよ。僕だってできたら3Dでエフェクト付きでそういうのをやるのも良いかなぁと思ったんですけど、逆に言えば他の企業勢の方が似たようなことをしているじゃないですか。それを見てしまったから逆に2Dでスタッフさんに手伝ってもらうのも面白いかなって】


【そう?……リリくん、本音は?】


【企画を提出した段階で間に合いませんってマネージャーに断言されました。唄上先輩も早くってせっついてるみたいですけど、汎用性がないって。3D班がカツカツらしくて、暇を見て作っているそうですけど、進捗は40%くらいだそうです】


【あ、作ってはいるんだ?パパとかオーちゃん先輩がやりたいから?】


【箱内大会ができるくらいプレイヤーはいるからね】


 3Dでやれなかった赤裸々な理由も話しつつ、準備が整う。ルールの説明をして、リリのライフは通常通りに8000だが、霜月と水瀬のライフは半分の4000。特殊バトルかつスタジオが使える時間も決まっているのでそういうルールになった。先攻もリリで、2番手が水瀬、3番手が霜月になった。

 画面を縦に二分割して、左側にスタジオの様子。右側にスタッフさんに動かしてもらうバトルの様子が映り始める。霜月は『フレストオーダー・ノアの方舟』デッキ、水瀬は『楽園』デッキと、エクリプスの箱内大会で使ったデッキだ。

 霜月はリリに貰ったものを改造したデッキ。水瀬は唄上からデッキを借りて戦っているのだが、それを使うスタッフがデッキのカードのレアリティが高すぎてプレイする手が震えていたのが印象的だった。

 そしてコレクターを自称するリリの使ったデッキは。


【え、それ知ってる!『フレストオーダー』の2期だ!リリくんそんなデッキ持ってたの⁉︎】


【持ってるんですよね、これが。最近強化が来たので使いたくて。アプリの方ではまだ実装されていないので、だから紙でのバトルに拘った形です】


【え、エリー。あれって強いの?私知らない……】


【最新弾で強化されたから強いかも……?あたしも詳しくない】


 手札誘発もなく、リリはとにかく展開しまくる。その動きをリリとコメント欄が説明するが、どうにもたくさんカードを使っている割にはどうなんだという盤面だった。一応それなりの盤面ができて、2番目のプレイヤーである水瀬の動きは妨害しまくってほぼ何もできないまま霜月に番が回る。

 だが、妨害をほぼそこで使い切ってしまい、霜月の展開は止められなかった。そして彼女も最新のカードである儀式のエースを召喚する。

 新旧の『フレストオーダー』のエース対決は霜月の新エースに軍配が上がった。コメントはお披露目側が負けるのかよというコメントでいっぱいになる。


 こういうボードゲーム系は仕込みをしてお披露目側が勝ったり、そもそも途中から最後まで展開を決めていて台本通りに動くことが多い中、普通にガチバトルをやっていたのがなんともまあという感じだった。

 FORの出番はここまで。来週には2人の3Dお披露目もあるのでそちらもお楽しみにと宣伝をしつつ、準備があるからとまた蓋絵になる。

 蓋絵が開けた先は、歌配信などで使われることのあるライブ会場のようなスタジオ。それを見てリスナーの期待値はMAXになった。

 今まで滅多に歌わないリリが、こんなイベントでは歌ってくれるのだと。

 だが彼はマイクを持っていなかった。むしろピアノの前に座っていて、座ったまま話し始める。


【歌うと思いました?残念、ピアノ演奏です。『風とファンファーレ』と『ミツバのクローバー』のメドレーです】


 彼が作曲した歌をピアノ独奏で弾き始める。その細かな指の動きと足の動き、そして優しいメロディーに3Dになってくれてありがとうと、歌ってくれなくても十分だとコメントが流れ続ける。歌って欲しかったが、強要するものでもない。そしてお披露目配信だからって全員が歌うわけでもないのだ。

 リリはそれで良いだろうと納得し始めた頃、独奏が終わってリリがマイクを持って前に立つ。その姿にボルテージが一気にぶち上がった。


【さっきはあんなことを言いましたけどね。折角のお披露目ですし、やっぱり最後は歌で締めようかなと。僕としては歌に自信はありませんし、どんな歌が合うのかイマイチわからなかったので、卑怯ですがオリジナルを歌おうかなと。これなら下手だとバレないですし】


「歌ってくれるの⁉︎リリちゃんサイコー!」


『ピアノだけじゃ終われねえよな!』

『オリジナル⁉︎』

『リリ作曲⁉︎作詞は⁉︎』


 今まで様々な曲を作曲したり作詞しているためにここで新曲が来るとは思わず、リリの性格的にも歌わないまま終わるものだと思っていたのでこのサプライズにコメントが増えたのはもちろん、スパチャも増えていった。

 生歌とはいえ、バンド隊がいるわけでもなく、録音した演奏に合わせて歌うだけだ。


【それでは、聞いてください。『Clown.Crown.』】


 メロディとしては洋楽チックな、今までのリリのレパートリーではないようなロック調だ。画面の中央に『Clown.Crown.』と題名が出て、作詞・作曲・編曲全てが絹田狸々と表示されていた。全部やったのかと拍手の絵文字だったり、ペンライトの絵文字がコメントで羅列される。


【Did you see the moon in the cloudy sky?(曇天の空に月は見えたかい?)

Even if I try to complain and get excited, it won't make things any brighter.(口うるさくはしゃいでみたとしても、ちっとも晴れやしないじゃないか。)】


 まさかの全部英語の歌詞。ロック調で低音が多い中、リリは両手でマイクを持ちながら腹から声を出して叫ぶように歌い始める。

 オリジナルということもあり、すぐに評価できるものではなかったが無理に低音や高音を出しているわけでもなく、自然な音域で歌っているために不自然な感じはしなかった。

 画面に英語の歌詞と翻訳が同時に表示されて、歌詞もスッと入ってくる構成になっていた。


【This is like a fool.Look at me more.(これじゃまるで愚者さ。もっと僕を見てよ。)

The hustle and bustle of the city is so loud. Let me hear your voice.(都会の喧騒がうるさいな。君の声を聞かせてよ。)】


【I'll always wear the crown and make you laugh.(僕はずっと王冠を被って君を笑わせるから。)

Hey, would you like to wear too?(ほら、『君』も被るかい?)】


【Put on a little extra stuff and say goodbye to yourself.(ちょっと余計なものを被って、自分とはおさらばさ。)

Look, now you're a worthy king.(ほら、これで君も立派な王様さ。)】


【I'm still immature, so even if I throw everything away, you won't smile back at me.(未熟な僕じゃ、全てを捨てても君は笑みを返さない。)

All I can give you is a crown.(僕が渡せるものなんて、王冠くらいなのに。)】


【If I'm the star, it's a carnival of applause.(僕が主役なら、拍手喝采のカーニバル。)

I'm sure you'll be crazy about me on the stage too.(きっと君も、舞台の僕に夢中のはずさ。)

Even though I know that won't happen.(そうはならないと、わかっているのに。)】


 Bメロまで終わってサビに入る頃には誰もがリリの歌に夢中になっていた。コメントは熱狂するようにキーボードを叩き、あるファンはペンライトを速攻用意してモニターの前で振り、あるファンは声にならない絶叫を続けていた。

 リリは歌って踊るみたいなことはできないようで、ほぼ中央から動かずに力強く床を踏み締めたり、声を出すために身体を揺らすくらい。だがそれが見事なトラッキング技術によって些細な動きも全て捉えていた。


【CrownClown. You're so lovely.(君は素敵さ。)

I'd trade anything except my life.(命以外でなら交換してやるよ。)

CrownClown. You're so sneaky.(君はずるいね。)

I didn't want to find out I couldn't have you.(もう二度と、君に会えないなんて。)】


 サビが終わり、間奏が入るがそれもわずかな時間。

 すぐに2番に入り、またAメロに戻っていた。


【Did you see the stars in the clear sky?(晴天の空に星は見えたかい?)

Even if you put on a silly face, the starlight won't reach you.(おどけて見せたとしても、星の光は届きやしないじゃないか。)

This is like a fool.Look at me more.(これじゃまるで愚者さ。もっと僕を見てくれよ。)

The audience's applause is so loud. Let me hear your voice.(観客の拍手がうるさいな。君の声を聞かせてよ。)】


【I'll always wear a mask and make you laugh.(僕はずっと仮面を被って君を笑わせるから。)

Hey, would you like to wear too?(ほら、『君』も被るかい?)

Put on a little extra stuff and say goodbye to yourself.(ちょっと余計なものを被って、自分とおさらばさ。)

Look, now you're a worthy protagonist.(ほら、これで君も立派な主役さ。)

I'm still immature, so even if I throw everything away, you won't smile back at me.(未熟な僕じゃ、全てを捨てても君は笑みを返さない。)

All I can give you is a clown.(僕が渡せるものなんて、道化役くらいなのに。)

If I'm the king, it's a ceremony of applause.(僕が王様なら、拍手喝采のセレモニー。)

I'm sure you''ll be crazy about me on the throne too.(きっと君も、玉座の僕に夢中なはずさ。)

Even though I know that won't happen.(そうはならないとわかってるのに。)】


【ClownCrown. You're so lovely.(君は素敵さ。)

I'd trade anything except my life.(命以外でなら交換してやるよ。)

ClownCrown. You're so sneaky.(君はずるいね。)

I didn't want to find out I couldn't have you.(もう二度と、君に会えないなんて。)】


 『ClownCrown』の部分だけ可愛らしい声が聞こえた。その声が誰かと、コメント欄でほぼ確定だろうと女性ライバーの名前が上がる。

 2度目のサビも終わってギターとドラムのテンポが上がり、Cメロに突入していく。それは観客が盛り上がることを組み込んだ音圧の上げ方だった。

 この辺りはいくつも曲を作っていたからこそ、ライブでぶち上げるための演出としてライブバージョン用に若干音圧を上げているというアレンジもしている。


【I wonder what I'm lacking.(僕に足りないのはなんだろう。)

Let's study more so you can laugh.(もっと勉強しよう。君が笑えるように。)

Let's try harder so you can laugh.(もっと努力しよう。君が笑えるように。)

So that someday we can laugh together.(いつか、笑い合えるように。)

So that someday we can cry together.(いつか、泣き合えるように。)】


 Cメロ直後にサビに移る。リリは汗をかきながら、それでも精一杯、できるだけの声を張り上げた。その様子をスタジオの袖で見ていたスタッフも、霜月も水瀬も心の中で頑張れとエールを送り続けながらペンライトを振り続ける。


【CrownClown. You're so lovely.(君は素敵さ。)

I'd trade anything except my life.(命以外でなら交換してやるよ。)

ClownCrown. You're so sneaky.(君はずるいね。)

I didn't want to find out I couldn't have you.(もう二度と、君に会えないなんて。)

CrownClown. I'm so sneaky.(僕はずるいね。)

I didn't want to know that I couldn't hug you.(僕がちっぽけなんて、知りたくなかった。)

ClownCrown. You're so sneaky.(君はずるいね。)

I can't believe my pranks make you laugh.(僕のイタズラで、笑えるなんて。)】


 最後だけアカペラで、スローテンポだった。歌い終わった途端ライブ会場の電気が消えて暗転する。

 数秒した後に明かりが戻り、リリがまたマイクを握りながら話し始める。

 終わったと思ったので彼女はすぐにスパチャの金額を設定。そしてできる限りの感謝のコメントを打ち込んで送信した。同じような人が多かったのか、チャット欄にはスパチャで赤色や橙色が多く飛び交っている。

 もちろん彼女は最高額の赤で入れた。今月分の上限額いっぱいまでぶち込んでいた。


【──ありがとうございました!スタートがスタートだったので、心配をかけたことが多い僕ですが、こうして無事に3D配信を迎えられました。これもひとえに、エクリプスのスタッフの皆様、先輩後輩、同期の2人、ヴィクトーリアママ。それに、なんと言っても応援してくれるリスナーの皆さんがいてこそです!ここがゴールじゃありません。これからこの身体を使って、様々なことに挑戦していきたいと思います。まだまだ、エクリプスの絹田狸々としてやりたいことがたくさんあります。もしかしたらこの先も皆さんに心配をかけるようなこともあるかもしれません。それでも、僕は僕として活動を続けていきます!また配信で雑談をしましょう。面白いゲームを一緒に楽しみましょう!今日歌った『Clown.Crown.』のように笑い合って楽しんでいきましょう!本日は、ありがとうございました!】


 思いっきり、深くお辞儀をして画面が切り替わる。ライブスタジオでリリが笑いながらマイクで歌っているスクリーンショットにリリの直筆のコメントが書かれている。

 そこには『様々な方に恵まれたと日々感じています。皆様のおかげでこうして3Dお披露目という1つの目標を達成しました。少しは先輩方に近付けたなら嬉しいです。あと!来週には同期2人のお披露目もあるのでそちらも要チェック!』というお礼と同期愛に溢れたコメントがあった。

 チャットに『こちらこそ!』『おめでとう!』『お前は本当に同期のことばっかやなw』というコメントが散見された。彼女もサイリウムを置いてコメントを残す。


 その後はSNSのチェックだ。お披露目配信に集中したかったので他のものは視界に入れないようにしていた。この後はSNSや掲示板などで今日の感想を漁ろうとしていた。

 ハッシュタグで検索をかければ出てくる出てくる。中にはまだアンチ活動をしているようなつぶやきもあったがそれを無視して、エクリプスのライバーのつぶやきにはいいねを押していく。


『ドロッセル:ほえ〜。後輩の質感が凄くて空いた口が塞がりません……』

『コウスケ:俺の身体を使ったことは許そう。というかハードル上がるんだって⁉︎』

『ゴートン:可愛い後輩がまたしても可愛くなった。助かる』

『唄上:お披露目で『ウィザーズ&モンスターズ』……!わたくしもやりたかった!』


『宗馬:宗方っち⁉︎お前出るのかよ⁉︎』

『亜麻井:宗方君、今回はちゃんと秘密厳守できたんですね。同期として鼻が高いです』

『真崎:ウチの同期、宗方さんに甘すぎでは……?』

『宗方:斬り合い最高であった……!また斬り合いを所望する!』

『ネムリア:アドリブ全開だったんだって?反省しなさい』


『ポラリス:キヌ、3Dおめでとう!カラオケで一緒に練習した甲斐あったぜ!』

『音無:あ、ポラリスさんが言っているカラオケ、ワタシたちとKP7君の『ぽけけり』で行ったやつです。割と行ってますよ』

『ジョン:かっけえええ!そんな歌えるならオレとも一緒に歌おうぜ!』

『イソラ:うんうん。これでリリも一歩こちらの世界に近付いたね』


『KP7:これは3D企画でコキ使える後輩を手に入れたということ。どこまで無茶振りしていいか企画を投げつけてみよう』

『ハピハピ:多彩な後輩に嫉妬。そんなに歌えるならもっと歌おうよ⁉︎』

『ユークリム:尻尾可愛い〜!尻尾仲間できて嬉しいな!来週には更に増えるって本当ですか⁉︎』


『チェリー:直属の先輩が同期愛をこれでもかと見せつけてくる件について。てぇてぇですわ〜』

『但馬:もっと!もっとそういうの欲しい!やっぱFORの先輩は最高だなぁ!』


『一鉄:これがあざとカッコいいだと学んだ。これで自認だと歌が下手、だと?』

『ドグマ:リリパイセンかっけえ!いつか隣に3Dで立って歌いたいぜ!』


『水瀬:見なよ、ウチのリリちゃんを……(グッドマーク)。パパカッコいいー‼︎』

『霜月:脇から見てました。夏希がずっと脇で自慢してるの笑ってました』


 全部を確認した後に、リリが感謝のつぶやきをしていたのも確認してそれにもいいねを押す。

 その後は掲示板などでライブ中の感想を漁ってそれにも良いなと思ったコメントにはGoodボタンを押したり、感想を言い合いたいために現行のスレッドに書き込みに行った。アーカイブでお披露目配信を再生しながら、別ウィンドウで掲示板を眺める。

 そこで『Clown.Crown.』の歌詞の考察などがあったためそれについて考える。歌詞が全文書き込まれていて、道化と王様がどうしても笑って欲しい人物は誰だという妄想や、実は同じ相手に懸想していて三角関係なのではなどなど、様々な意見が出た。


 歌詞の翻訳も直訳ではなく、微妙に変えている部分などを見て、それをこう訳すのはどういうことだ、なんて書き込みもあって翻訳サイトを使っての直訳との比較などもされていた。

 特に多かったのが、最後のサビの『君を抱きしめられない』が『僕がちっぽけなんて』と訳されているのはリリのロマンチストというか繊細な乙女イズムを感じてなんなんだ奴は、というコメントが多かった。

 気付いたらSNSのトレンドに『絹田狸々 3D』と『Clown.Crown.』がトレンド入りしていたらしい。今日は他に大きなイベントがなかったようで、リリのリスナーが書き込みをしまくったおかげでトレンド入りしたらしい。

 それにリリが反応しているかとSNSの本人のアカウントを確認しに行ったら別の呟きがあった。水瀬のことを引用しているらしい。


『絹田:水瀬さんが『SoF』に興味を持ったようです。このおじいちゃん、声優って間宮光希君なんですね。僕のハードモードでは出てきていないので僕は教えることはできないなぁ』


『水瀬:みーちゃんが高校生なのにこんな激渋おじいちゃん演じてるの⁉︎『SoF』気になる〜!リリちゃんとエリーがやってたからどっちかには出てないかな?』


『霜月:騎士団長のドライグならイージーモードの主人公の上司だから何回か出てるよ』


『水瀬:エリーのアーカイブ見ます!次の配信呼んで、一緒にストーリー楽しみたい!』


 確認してみると『SoF』で秘密にされていた声優が一部発表されたらしい。公式の発表に声優の間宮光希が引用してつぶやき、彼をフォローしている水瀬が光希のつぶやきから興味を持ったという流れのようだ。

 リリのリスナーは『SoF』についてネタバレしないように情報をセーブしていたのもあって、リリより進捗が良くてもネタバレコメントは残さなかった。だがどうやら水瀬のつぶやきでリリはなんとなく察してしまったようだ。

 間宮光希はハードモードでパーティーキャラとして参戦している。わざわざ同じ声優を使う意味とは、というところだろう。

 リリが明日の朝配信で『SoF』をやりますと告知を出していたので、ファンの彼女はそれにいいねを押した。


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― 新着の感想 ―
モフモフ3Dモデルだからコスト高そう それと体格の補正凄いですね 等身大ぬいぐるみを抱えた狸々くん想像して、周りに弄られるやつだってなりました だってぬいぐるみ系グッズ絶対合う
声優が一緒って時点で中々に面白い展開が見えてきたな…。 なかなか考察の余地生まれてくるというか、アーサー王の話とか呼んでたら中々になるほどってなるやつ。
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