栃木収録ロケ・3日目と緊急雑談
強い言葉がありますので注意。
朝は特に何もなく、アラームで3人とも起きる。寝巻きから着替えて朝の準備をして、スタッフさんたちと食堂で合流。大浴場もあった施設に行ってそこの食堂でモーニングを食べる。バイキング形式ではなく普通の注文式だったのでピザサンドのモーニングセットにした。
サラダとドリンクが付いてくるやつだ。ホットウーロン茶にしてささっと食べてしまう。朝から撮影があるので急いでまた動物園に行かないといけないのだ。忘れ物がないことを確認して、荷物を全部車に詰め込んで出発する。
星空さんにも何もなかったことを陽菜ちゃんが証明したので、特に変な雰囲気になることもなく撮影の準備は進む。
那須動物皇国に着いて、大黒さんと合流してファームエリアへ。ここには羊や馬に牛など、一般的な動物園や牧場をイメージした時にいる動物たちがいた。
「皆さん、おはようございます。では早速ですが、このファームエリアの名物になる乗馬体験に行きましょうか」
「乗馬!すっごく上品な感じがする!」
「昔はお馬さんに乗れることがステータスなところがありますから、そういうイメージもあるでしょうね。乗馬とは銘打っているのですが、馬の他にもラマとラクダにも乗れますよ」
「へー!大黒さん、ポニーはダメですか⁉︎」
「ポニーは人間を乗せられるほど丈夫じゃないので……。申し訳ないです」
大黒さんの説明で、誰がどれに乗るか決める。陽菜ちゃんがラマがいいとのことで、真紀さんがラクダ、俺が馬になった。
順番的にラマから。ラマはアメリカラクダとも呼ばれていて、コブがないラクダ、という感じだろうか。写真でも見たことがなかったということで陽菜ちゃんは選んだ。鞍もつけられていて、専門の飼育員さんが手綱を握りつつ乗れるようだ。
「へぇー!すっごく高い!パパママ見えてるー?」
「見えてるよー」
「大人しいんだね。人に慣れてるのかな?」
「結構穏やかな動物ですから。人と共生もしているので、上に乗るくらいはさせてくれますよ」
大黒さんの説明を聞きながら、陽菜ちゃんの頭にヘッドカメラをつけて乗った時の視線も映像として撮る。乗馬体験も初めてな陽菜ちゃんは大はしゃぎ。途中で飼育員さんが手綱を陽菜ちゃんに渡して1人で走らせた時はハラハラしたものの、そもそも走ってもそこまで速度が出ずに柵の中をぐるっと一周したら戻ってきた。
続いては真紀さんの番。ラクダはコブとコブの間に鞍馬をつけて乗る。真紀さんは乗馬経験はあってもラクダは初めてとのこと。ラマと違って走ることもなく、ゆっくりと飼育員さんと一緒に乗って終わりだった。
そして俺の番になるんだけど。
「う、馬?」
「ばんえい競馬って聞いたことがありませんか?北海道で主に行われる、大きなソリを引かせてする競馬なんですが、そのばんえい競馬の引退馬になります。普通の馬よりも大きいので乗馬体験でも特に人気なんですよ」
真っ黒な毛並みの、それこそ太さも大きさも普通の馬の3倍くらいはありそうな屈強な馬。聞くところによると競馬でもかなり勝ち上がった有名な馬らしい。競馬好きからも愛された馬なのだとか。
馬が大きすぎて乗るには台に乗らないといけない始末。乗ってしまったら安定感が半端ない。人間と凄く重いソリを引っ張っていたばんえい馬からすれば人間1人を乗せるのは簡単なことらしい。
俺も乗馬は初めてだけど、明らかに視座が高い。車でもそれこそトラックとかと同じくらい高いんじゃないだろうか。
ばんえい競馬は走るというよりも引く、という競技のために走るのはそこまで得意ではないらしい。そのため走るのではなく散歩といった感じだ。
ただ歩くたびにドシンドシンとお腹に来る振動がこの馬の重量を知らしめて、なんとも言えない快感があった。屈強な馬が大地を踏み締めているというか、侵略しているような感覚は乗ってみないとわからない。
それなりに時間をかけた乗馬体験が終わって、俺が語彙を失って凄かったとしか言えなかったことに興味を持って、彼に餌やり体験と触れ合い体験をさせてもらった。毛並みはフサフサなのに、その下にある筋肉に男としての強さを感じた。
これでツアーはおしまい。大黒さんとも別れて、最後にお土産コーナーでお土産を選ぶ。これも宣伝になるので自分たちのお土産と事務所用のお土産を買うことになる。全員別れて、何を買ったのかは最後に発表という形だ。
俺も専属のカメラマンさんと一緒にお店を巡る。特別に開けてもらったので俺たち以外にお客さんはいない。だからゆっくりと商品を見ていく。
記念皿やロゴ入りのフォークやスプーンなどの食器類。あとはタペストリーやパズル、カレンダーなどのお土産らしい品。後はたくさんの食料品。作りたてのチーズやミルク、ソーセージなどのここで作成した加工品もあれば、クッキーやチョコレートなどの工場で作ったようなものまで。
後は冷蔵必死だけど、お肉も売っていた。バーベキューで味を知らしめて、ここで買って帰らせるとは商売上手な。アイスなんかもあった。
地元のお土産屋さんや商店と提携しているのか、地産土産としてお酒や工芸品など動物園には関係ないものまで売っていた。ここでギリギリまで遊んでいても栃木のお土産は纏めて買って帰れるという設計なのだろう。
「お、これ良さそう。男性陣にはこれで良いんじゃないかな」
カメラが回っていることもあって声を出しながら買い物をする。自分用にほろほろ牛肉の牛しぐれというご飯に乗せて食べる瓶詰めのおかずを、事務所用に酒飲みも多いからとお酒に合いそうな個包装の燻製肉を買うことにした。女性でもお酒を飲む人は欲しいだろうし、普通におかずにしても大丈夫そうだ。
もっと女子向けのものは2人が買ってくれるだろう。
というわけで買ってきたものの紹介。
「リリちゃんお肉ばっか〜」
「いや、美味しかったから。それにこれなら個包装だから分けやすいかなって」
「んもう……。私はね、自分用にミルククッキーでしょ。で、事務所用にマスコットキャラのライガル君特大人形!」
「これ、事務所に置くのかぁ」
陽菜ちゃんは60cmほどの巨大なライオンのぬいぐるみを買ってきた。那須動物皇国でCMやポスターの最前線にいる二足歩行のライオンだ。これはこれで、行ったことを思い出せるから良いだろう。
真紀さんは自分用も事務所用も同じ物。全てをこの動物園で作ったミルクガレットのようだ。全ての材料をこの那須動物皇国で賄っている、100%自家製のミルクガレット。
保存も効くし、この動物園でしか食べられないものという意味では良いチョイスだろう。
撮影としては後は帰りの車の中で話している内容を撮るだけ。そのためここからが俺の仕事とも言える。事故がないように安全運転で行かないと。
帰りは陽菜ちゃんが席の隣にライガル君を乗せてシートベルトで固定していた。そういうのもありだろう。
3連休の最終日だからか、車はお昼前なのに結構いた。これから遊びに行く人、俺たちみたいに帰る人、両方いるからだろう。
高速に乗れたので、道案内も終わった真紀さんが切り出す。
「今回は那須だったけど、2人は他に行きたいところある?」
「北海道!雪の降る観光地行きたい!」
「えー、冬の北海道は雪が凄すぎて観光に向かないよ。行くなら秋か夏が良いんじゃない?」
「そうなの?」
「場所によるけど、降るところは本当に降るから。札幌とかも凄く降るし、めちゃくちゃ寒いよ。観光したいなら雪がないタイミングの方が色々できると思うけどな」
「カマクラとかつくりたーい!」
「それは北海道じゃなくてもできるんじゃないかな……」
昔、俳優時代に良くしていただいた俳優さんが舞台を引退するからと全国ツアーの千秋楽を見させていただいた。その最終公演がその方の出身地である北海道だったために行ったのだが、雪は凄いわ、寒いわで大変だった。その方に交通費やホテル代など諸々出していただいたので申し訳ない気持ちもあって最終公演を見に行った。
俺の曲を使っていただいたこともあって関係者席に入れたので、出費が全くなかったが冬の北海道はそういう機会でもないと行きたくないと思うくらい過酷だった。
ちなみにその方、全国ツアーとか長い稽古時間の拘束などがダメで引退しただけで、今でも俳優としては元気にテレビや映画に出ている。俳優を辞める時に声をかけさせていただいた1人だ。
Vtuberのことはわかっていなかったけど、芸能に関わるなら良いと笑ってくれた方だ。こう振り返ると本当に色々な方にお世話になって、あの場所で得たことが血肉になっているんだと実感する。
「東北……も、場所によっては雪が凄すぎるし。冬の旅行ってやっぱり現実的じゃないんだよね」
「じゃあ関西とか?あっちの方はどうなの?」
「あっちも雪は降るけど、東北よりはマシかな。関西だとどこ行きたい?」
「関西はなぁ。修学旅行とかでも行ったし。九州だけど福岡とか?」
「福岡か。九州は行ったことないなぁ。霜月さんは?」
「あたしも基本は東北と関東しか行ったことないから。飛行機も乗ったことないよ」
「飛行機や新幹線だと旅行って感じが凄いよね!船も乗ってみたい!」
「フェリーは今でもあるんじゃないかな。箱根の湖遊覧船とか、横浜から千葉に行くのに船とか出てなかったっけ?」
「川船で良いなら東京でも屋形船とかやってるよ?」
「そうなの⁉︎」
日本は川とか海が多いから船は案外豊富にある。お値段もそこそこするかもしれないけど、近場で全然乗れるはず。
そうしたらあれしたいこれしたいという要望がたくさん出てくる。冬じゃなければできそうという話をしていると、案外高速も空いていて東京にあっという間に着いた。事故がなく事務所まで帰って来られて良かった。
撮影の締めも終わって、俺は給油をしてレンタカー屋に車を返しに行って、事務所に戻る。事務所では社長が待っていた。
「帰ってきたな、リリ。撮影お疲れさん。ここからは対策会議だ」
「了解です。重要な話とかで枠を立てて話しましょう」
ここからするのは身バレの件について。エクリプス側でもコラボカフェの運営会社側でも声明はいくつか発表しているがまだ火は燃え広がっている。当事者の俺が何も言ってないこともあるんだろう。事前に3日間はSNSなどで反応できませんと言ってあるし、社長からも今はFOR誰も反応するなと厳命されていたので何も発信していない。
話すべき内容を五反田マネージャーと、真紀さんと陽菜ちゃんも混ぜて話し合う。方針が決まったので枠を立ててSNSでも話をするということを告げて、スパナによる悪質なメッセージを削除する人間を複数人用意して配信を始める。
「お久しぶりです。エクリプス3期前半組、絹田狸々です。3日ほど撮影のために配信もSNSでの発信もできなかったので改めて、今騒がせてしまっている件について話します」
『リリ!久しぶり!』
『これがあの男のガワね』
『コラボカフェお前のせいで炎上してるんだぞ!どうしてくれんだ!』
『あそこに映ってたの、なっちゃんじゃねえよな⁉︎そうだったらお前を許さない!』
『今回のことで騒いでる奴、ファンじゃないだろ……』
『盗撮だぞ、盗撮』
『FORで出掛けることたくさんあるって夏希ちゃんから言われてるのに、今更発狂してる奴何?』
おおー、コメントが速い。そんでもって、どんどんコメントが削除されていく。凄いな、今回のことでこんなに俺に怒りのエネルギーを向けるなんて。
不可抗力をどうしたら良いんだって話だ。
こっちとしては事実を淡々と告げるだけだ。
「皆さん、コラボカフェのことが聞きたくて集まっているんでしょうけど。率直に言うと僕から言うことないんですよね。エクリプスからもコーラルブレンドさんからも発表されている通り、あの写真って従業員の勝手な行動じゃないですか。エクリプスとも関係者の写真を隠し撮りしてSNSに上げてはダメ、なんて当然のように禁止事項として契約を結んでいまして。僕としても関係者としてプレオープンで特別優待で行ったら盗撮ですからね。防ぎようがないですよ」
『ひ、開き直った……w』
『それでいいぞ!お前は悪くない!』
『メッセージが削除されました』
『コーラルブレンド側がこっちの過失って言って謝罪してるし。従業員も処分したって言ってるしな』
『というかアイツ、何でリリ狙い撃ちにしたん?』
『リリを炎上させたかったのか、純粋な考えなしだったか不明だもんな』
そう、こっちには過失なんてないんだから開き直ろうという方針だ。
いくつかコメントが削除されているっぽい。ちょっと見たら過激なコメントも目に入る。
あの従業員がどういう目的でSNSに上げたのかはわかっている。目立ちたかっただけだ。コラボカフェの従業員として有名になりたかった。俺なら現状男性の中で登録者数が少ないかつ、注目度もあったのでちょうど良かったとか言っていたらしい。
炎上からも盛り返しや、FPS大会とか豪運のこととか、チャンネル登録者数の上がり幅としては割と格好の餌食だったのだとか。それにタヌキで隠している奴を晒したら褒められると思ったらしい。
要するに、かなりのバカだった。契約書とかもろくすっぽ読まずにサインを書いていた、業界人としては終わっているような人だった。
コーラルブレンドは初日のコラボカフェの営業が終わったら即座にコンプライアンス研修を実施したらしい。次の日の仕込みとか片付けとかあるのに、写真流出の対応をしたりして他の従業員さんたちは気の毒で仕方がない。
「写真に写っていた男性が僕かどうかは明言しませんが、僕がコラボカフェに行った経緯は普通にコラボ商品を出している関係者だからですね。一緒に座っていた人は僕の男性マネージャーさんと、コラボカフェの関係者の方々です。関わっている人なんてたくさんいますし、女性の方も当然いますよ。鍋の味の調整をしてくださった方も女性ですから。
エクリプスに女性マネージャーもスタッフさんもいるので、僕が女性と一緒に食事していたとかで女性へ文句を言って燃やそうとしている人。あとは僕が関わっているからとFORの他の2人やエクリプスのライバーへ誹謗中傷をしている人。全員、法務部が動いています。この3日間でエクリプスからその旨は各所で発信しているはずなのに誹謗中傷をやめない人。即座にやめてください。ゲームが下手とか、失言を咎めるなどは批評・批判なので構いません。ですが誹謗中傷はエクリプスとして認められません。そもそもあの投稿、リリが座っていた席があそことしか言ってなくて、僕だとは言ってませんから。僕だと断定せず、バーチャル配信者の絹田狸々を見てください。僕が皆さんの前に現れるのはこの画面越ししかありません。
──そもそも、僕なんてあんなイケメンじゃないので」
『男女箱ってそういうことだよな。色々耐性がない人が多すぎる』
『メッセージが削除されました』
『プレオープンに関係者はそりゃ来るよな』
『メッセージが削除されました』
『メッセージが削除されました』
『開示請求なんてVでも最近よくあるし。ウン百万払う覚悟があるなら誹謗中傷すれば?』
『事務所からやめろって言われたらやめるのが普通だろ。文字読めないんか?』
『マジで今回のはただ単にリリは被害者だし』
『メッセージが削除されました』
『Vtuberのリリが好きなんだよ!というかV文化ってのはそういうもんだろ!』
『アニメキャラが好きなんであって、中の声優さんは別物っていうか。Vも同じだろ』
『メッセージが削除されました』
『wwwイケメン全否定www』
『あ ん な イ ケ メ ン じ ゃ な い の で』
『火の玉自虐やめーやw』
『エリサ様と水瀬ちゃん、それに宗馬パイセン公認のイケメンじゃなかったか?お前……』
エクリプスや俺としてのスタンス。それに注意喚起と何だかイケメンだという話が出ているので全否定させてもらった。
イケメンなら顔を隠す必要がなく、普通に配信者をやればいい、という謎理論があるらしい。そうやって活躍している配信者もいるだろうが、俺は前の職業のこともあって顔を隠したかったのでVtuberで良かったと思う。というかそれ以外で配信をする方法なんて知らなかったし。
まあ、そんなVtuberの謎の常識に則って、俺はイケメンじゃありませんよと伝えた。普通に綺麗な方とか、かっこいい方もいるので完全に偏見なのだが、それが一般人の思考ならそれにあやかるだけ。
オリンピックの野球決勝戦で宮下家の隣にいた人物が俺扱いされていたり、住吉祐悟という元俳優がリリ扱いされているのは事実だが、ここで否定しておく。俺が確定させなければあくまで推測でしかない。似通う容姿の人が写真と一致してしまっただけで、世の中には似ている人くらい3人もいるんだから間違えることだってあるだろう。
この言い訳が苦しいのはわかっている。あの球場に行くことは告げていたし、俺の声が俳優の住吉祐悟と似ているというのも既にSNSやブログなどで書かれている。そういう人の中ではそうだと思っていて貰えばいい。
公表さえしなければ確定ではないんだから。
「あとエクリプスで観測した辺り、宮下喜沙さんや福圓梨沙子さんへ突っかかっている人もいましたね。僕の正体を教えろみたいな脅迫が見えました。相手の事務所と、エクリプスに訴えられるだけなので手を引いた方が身のためですよ?あのお2人方の事務所、凄い大きい事務所ですし、二重の誹謗中傷なので金額が凄いことになるので。他の僕の関係者にも問い合わせるのはやめてください。苦労するのは自分ですよ」
『そんな奴までいるのか……』
『メッセージが削除されました』
『示談にしろ何にせよ、めちゃくちゃ金がかかるってわからんのか?訴えられたら前科持ちだぞ』
『他ライバーに突っかかるのもやめろ。プロが情報を言うわけないだろうが』
『ショームに突っ込んだバカもいたけど……。レインボードロップスの法務部はガチだと知らないバカがいるらしい。あそこ誹謗中傷対策のスペシャリストだぞ』
『スターティンクルにも突っかかったバカいたな。そもそもリリ、FPS大会でしか絡んでねーから接点ねえよ』
写真のことは否定しつつ、エクリプスの方針などを言い終えたのであと伝えることは今後のスケジュールだけだ。明日は普通に朝配信を行うと告げて、最後の締めに移る。
「話したいことは以上ですね。今回の騒動で心配とご迷惑をおかけしましたが、これまで通り活動はしていきます。これからも絹田狸々を応援よろしくお願いします。ではまた、明日の朝配信でお会いしましょう。お疲れ様でした」
『乙ー』
『厄介な奴らもあらかた消えたか?』
『至極真っ当な話だった。こういうので良いんだよ』
『メッセージが削除されました』
『また明日!』
配信を止めて、フーと大きく息を吐く。社長に肩を叩かれて、関わってくれたスタッフさんたちにお礼を言う。
真紀さんと陽菜ちゃんもスパナを渡しているからメッセージを削除してくれたんだけど、酷い暴言が多くて怒っていた。ああいうのって理性で動いてなくて、ただただ感情に任せて暴れ回ってるだけだから、どうしようもないのはわかってるんだけど。
ブロックをひたすらして、そのブロックリストから開示請求に移ると法務部の方々が動き出した。これから先はスタッフさんに任せよう。
運転に撮影に話し合いに配信と。今日はめちゃくちゃ疲れた。
「リリ、お疲れさん。あとはこっちに任せておけ。何かあったらすぐに言えよ」
「わかりました、社長。今日は上がって明日に備えますね」
「えー、じゃあご飯行こうよ。お腹空いちゃった」
「事務所の場所って公表してるからなぁ。配信のすぐ後に3人で歩いていたら怪しまれない?」
「そこで、わたくしの出番ですわ!」
「オーちゃん先輩⁉︎」
なんかいきなり唄上先輩が現れた。ジョン先輩とユークリム先輩、チェリーさんもいる。この後コラボ配信でもあるんだろうか。いきなりの登場に陽菜ちゃんが驚いてるし。
「男性1人、女性2人で歩いているから問題なのです!ジョン様!」
「はいよ。んー……。リリ君、君髭生えにくい体質だね?しかも元俳優なだけあって肌の手入れは完璧と。行けるぜ!オーフェリア先輩!」
「任されました!と言うわけでリリ様、今からあなたを女の方にして差し上げます!」
「……強引すぎません?」
と言うわけで洗顔や手足の脱毛などをしてきて、ユークリム先輩によるメイクを施されて、ジョン先輩にはウィッグをかけた状態で今のメイクに合うようにウィッグをカットされ。唄上先輩とチェリーさんのコーディネートの服に着替えて出来上がったのは。
股下がずいぶん広い、ダボっとした女性用のズボン。胸元とまではいかないまでも鎖骨は見せるようなインナーに、その上から着る長袖の薄手のこれまたダボっとした長袖のボタン付きカーディガン。更にその上に羽織った、というかこれに意味があるのかと思うような薄い生地の袖なしの黒いベストもどきを前を閉めないまま着させられる。
その姿を見て、真紀さんが机を叩き、陽菜ちゃんは大爆笑していた。他の女性陣はやってやったぜと感慨深く仕事をやり切った後の表情を浮かべている。
「わたしより可愛いの何……⁉︎」
「あははははは⁉︎リリちゃんそれはないって!似合いすぎ!これじゃあパパって呼べないからお姉ちゃんって呼んであげようか?」
「これなら背の高い女性だと思われるだけでしょう。会心の出来ですわ。皆様、ご協力ありがとうございます」
「いやー良い仕事しちまったぜ。リリ、もし他にもウィッグ欲しかったら用意しとくよ」
「うんうん。これなら大丈夫でしょ。あ、ハピちゃんにも見せたいから写真撮っていい?」
「私も撮りたいです〜。リリ先輩、立派な女性ですよ〜」
「……まさか、社長。今後これで事務所来いなんて言いませんよね?」
「身バレ防止のためにそうした方がいいんじゃね?お前、元俳優だったからこれくらいのメイクできるだろ。化けるもんだなぁ」
この服はありがたくいただくことにして、今後女性の服が欲しかったら真紀さんと一緒に買うことにした。なんで事務所に行くために女性の服装を買ってクローゼットに入れないといけないんだ。
ちなみにその後、ジョン先輩によってウィッグは4種類に増えたし、女装のままご飯に行ったけど誰にもバレなかった。声も意図的に高くしたら本当にバレずに、そのことで帰り道でも陽菜ちゃんに爆笑された。
後日女装して事務所に行ったらKP7先輩に本気で驚かれた。こんなところで前職のスキルを発揮したくなかったなぁ。
なお、女性ライバーには見事に写真が出回って普通に受け入れられたのは解せない。




