栃木収録ロケ・2日目
朝日がカーテンから差し込む前に目が覚めた。暖かいと思いながらも肌寒いとも思える二律背反の体感によって目が覚めてしまったらしい。
眠気眼なまま目を薄く開けると、目の前に真紀さんがいた。そのことに驚いて一発で目が覚めて、状況を確認して、昨夜のことを思い出した。思い出して一気に体温が上がりつつ、お互いに抱き合って眠っていたために身体を離すこともできなかった。
色々と処理をしたためにそこまで散らかってはいなかった。どうにか片手を動かしてスマホを確認すると6時前。いつもの習慣で目が覚めたのか、逆にイレギュラーすぎて起きてしまったのかわからない。
目の前の真紀さんはまだぐっすり寝ているので、起こさないようにアラームを確認する。朝ご飯をホテルで食べるので、その時間に間に合うように一番早いアラームを解除して準備をしても遅れない時間のものだけ設定する。
ベッドから出るわけにもいかなかったのでそのまま真紀さんの顔を見つめる。可愛い寝顔だ。昨日のことをバッチリ覚えていたために無理をさせてしまったんじゃないかと不安になるが、今の寝顔は健やかだ。
最後は疲れて寝てしまったけど、案外最低限の整頓はしてから眠ったようだ。ちゃんとゴミ箱に色々な物を捨ててあるし、ベッドにゴミがあるわけでもない。この掛け布団をめくったらどうなってるかわからないけど。
真紀さんの体温を感じながら待つこと40分ほど。真紀さんの瞼がゆっくりと開いていく。
「んぅ……?」
「おはようございます、真紀さん」
「おはよう……。ん……?ゆうご、くん……?」
「はい。あと20分くらいなら寝ていて大丈夫ですよ」
真紀さんが離してくれたのでベッドから出て服を着る。ベッドの周辺も散らかっておらず、このままで大丈夫そうだ。朝風呂をやっているか確認したけど、そもそもこのまま真紀さんに一度部屋に戻ってもらってから着替えなどを用意して大浴場に向かわせるのは時間が厳しいか。
俺も汗でベタベタしてるから部屋にあるお風呂を沸かそう。バスユニットのある部屋で良かった。
朝ご飯の前に真紀さんを部屋に戻さないといけないし、流石に2人が一緒じゃないとスタッフさんにも怪しまれるだろう。ご飯を食べたらすぐに出られる準備を進めていくと、真紀さんがガバッと起き上がった。
「あ、覚醒しました?」
「〜〜〜〜〜〜〜っ⁉︎ゆ、夢、じゃない、よね……?」
「夢じゃないですねぇ。おはようのキスします?」
「……………………………………やめておく。昨日、恥ずかしいこと言ってなかった……?」
「うーん、どうでしょう?昨日の真紀さん、終始可愛かったので」
「…………祐悟くんのえっち。ん、んんっ?け、結構身体痛いかも……?」
「立てますか?汗をかいているので、お風呂入るかなと思って沸かしてますけど」
「……入る。祐悟くん、服着るからちょっと外見てて」
「了解です」
障子で仕切りのある、椅子が2つと机が置いてある窓際のこの空間。ホテルとか旅館によくあるけどいつもこの空間のある意味がわからないんだよなあ。ここで夜景を見ながらお酒を飲むのが楽しいのだろうか。
その空間に入って、障子を閉じて真紀さんが着替え終わるのを待つ。着替え終わった後、常備されているバスタオルを出す。ツインの部屋だからか2人分あるのは都合が良かった。
「祐悟くんは身体痛くないの?背中とか、思いっきり爪立てちゃったし……」
「爪は、まああれくらいしてくれないと割に合わないというか……。他は痛くはないですけど、少しけだるさはありますね。……やっぱり痛かったですか?」
「多分この痛さ、初めてだからじゃなくて回数のせいだと思うけど……?」
「うっ……。そう言われると何も言えないです……」
「罰としてお風呂まで連れて行って」
「お姫様抱っこします?」
「普通に連れて行ってくれればいいから!」
とはいうもののお姫様抱っこの方が早かったのでお姫様抱っこで連れて行った。真紀さん軽いなぁ。
真紀さんがお風呂に入っている間に陽菜ちゃんへのモーニングコール兼もうすぐ真紀さんを送り届けるという連絡をする。陽菜ちゃんも起きたようで返事が返ってきた。
ついでに五反田マネージャーにFOR全員起きましたと連絡を入れる。朝食の会場で合流しましょうと伝えておく。
真紀さんがお風呂から上がって、2人の部屋に送り届けた。迎えてくれた陽菜ちゃんは何も言わずにニマニマした笑顔で真紀さんを中に入れてしまう。聞き出すような真似をしないと良いんだけど。
部屋に戻って、俺も風呂を入って着替えて改めて2人を迎えに行く。3人で朝食の食堂に向かう途中で陽菜ちゃんが唐突にボソリと俺を刺しに来た。
「パパってケダモノだったんだ……」
「ぶっ⁉︎……何も言い返せない。というか、真紀さん話したんですか?」
「ううん。ただ歩きづらくしてる様子から当たりをつけただけだよ。真紀ちゃんは何も言ってないから。ふふ、スタッフさんにはなんて言い訳しようねー?」
「昼夜逆転がきつくてだるいって言うよ。それで良いよね?祐悟くん」
「多分……。バレませんよね……?」
「星空ちゃんにはバレちゃうかも?めっちゃあたしたちのことに敏感だから」
2人のマネージャーかぁ。女性だし気付きそうなんだよな。というか真紀さんが俺のことを好きっていうのは割とスタッフさんの中では確定事項らしい。社長に教えてもらった。
ウィザーズ&モンスターズの開封配信前後でそういう風潮はずっとあった。大人なので揶揄ったりしてこなかったが、そういう視線は事務所で何回か浴びた。担当マネージャーがわからないはずもないだろう。
付き合ってるとバレたらバレたで言うだけだろうか。その時は五反田さんにもちゃんと伝えよう。
食堂に着いて、バイキング形式なのでまずは席を確保してから各々ご飯を取りに行く。スタッフさんたちが一塊になって席を確保してくれていたので、軽めにサラダやパン、ソーセージに目玉焼きなどを取って食べる。真紀さんも軽めだったが、陽菜ちゃんは山盛り持ってきていた。
「お昼食べられなくなっても知らないよ?」
「若いから食べられるんですー。それに食べ放題だし、食べないと勿体無くない?パパとママが少なすぎるんだよ!」
「いや、朝っていつもこんなものだけど……?」
「わたしは朝ご飯食べないことが多いし……」
「それは健康に悪いよ!」
「朝昼一緒にそれなりに食べてはいるんだよ?朝は食べてもヨーグルトとかそれこそトースト1枚で充分だし……」
陽菜ちゃんが真紀さんの食生活に怒っているけど、深夜帯に配信をすることが多い真紀さんはお昼と夜に食べて朝まで配信をしてお昼まで寝ている、というサイクルだから朝ご飯をあまり食べないと言っていた。こういうのって生活サイクルで違うからな。
俺とか陽菜ちゃんは朝から起きてるから朝もお昼も夜も食べてるけど、それは朝配信があったり、学校があるから。俺も朝配信が休みで前日に夜遅くまでコラボ配信とかしていたら朝を抜く日もある。
朝を抜いたからといってお昼にそんなに食べられるわけでもないんだよな。人体って不思議だ。
やっぱり歩き方がぎこちなかったからか、真紀さんは星空マネージャーに心配されていた。予定通り朝が辛いみたいな感じで誤魔化していた。深く追及されなかったのは良かっただろう。
10時にチェックアウトして、また俺の運転で今日の目的地に向かう。
今日の目的地は1つだけ。那須動物皇国という名前の動物園兼レジャー施設だ。3連休の真ん中だし、那須でも人気のスポットなのでかなり混んでいることが予想されるが、一応コースが組まれていてその通りに行くので何も見られませんということはないはずだ。
道はそこまで混んでおらず、駐車も問題なくいけた。ADさんが入場口で事情を説明して俺たちは中に入ることができ、今日のツアーを担当してくれる方も来て撮影が始まる。
「はい、皆おはようー!本日FORの栃木旅行2日目はこちら、那須動物皇国にお邪魔してま〜す!」
「「わ〜」」
今日は陽菜ちゃんが進行をしてくれる。こういうのも経験だし、動物園だからそこまで堅苦しい説明も要らない。ツアーガイドさんもいるのでわからなくなったらガイドさんに聞けばいいと、お膳立てはできている。
那須動物皇国と書かれた看板をカメラで抜いていく。その周りにいる俺たちも撮っているんだろう。
「ここは栃木県で一番面積的にも動物の数的にも大きな動物園なんだって!ここにマップあるけど、セントラルパークにアクアパーク、ファームパークに皇国エリアの4エリアに広がるとっても大きな動物園です!1日で巡れるか不安なんだけど、ここに心強いお姉様が!お願いしまーす!」
「はーい。ツアーガイドの大黒と申します。今日はFORの皆さんを案内させていただきます。よろしくお願いしますね?」
「「「お願いします」」」
緑色のパンツスーツというか、よくバスガイドさんとかが着ているような格好のお姉さんが今日は案内をしてくれる。普段は飼育員とツアーガイドを半々で仕事をしているようだ。
大黒さんが那須動物皇国の紹介をしつつ、何で皇国なんてつけたのかを話してくれた。どうやら動物園はナントカ王国が溢れかえっており、創始者が被りを気にしてオンリーワンな名前にしたかったようだ。そこで皇国はつけている動物園がなかったので採用したとのこと。
馴染みがないからこそ、皇国と言ったらここ、と認識されたのは宣伝的に大きく、最初の内から入場者数はかなり好評だったらしい。
さっくりと行程を話されて、早速ツアーが始まる。まずは入場口から最も近いセントラルパークだ。
「このセントラルパークは小さい動物が多いですね。たくさんの小屋を用意して複数の動物さんたちが出迎えてくれる玄関口と言っても良いでしょう。それこそたくさんの動物さんがいるので、ここだけで1日が終わってしまうお客様もいらっしゃるようです」
「あ、猿だ!リスもいる!えー、可愛い〜!」
「水瀬さんが見ているのはジャングルエリアですね。木の上にいる動物さんがたくさんいるエリアですよ」
ナマケモノにキツツキ、様々な鳥にカメレオンなど、珍しい生き物も多かった。ハムスターの小屋などもあり、そこではお触りもできるということで真紀さんと陽菜ちゃんがハムスターと触れ合ったり抱いていたりととても可愛らしい画が撮れていた。
犬や狐などもいて、スナ猫やレッサーパンダなどもいた。レッサーパンダは立ち上がることはなかったが、一時期立ち上がるレッサーパンダが人気だったためにレッサーパンダの柵の周りは結構人だかりができていた。リリちゃんに似てるねと陽菜ちゃんに揶揄われたりもした。
確かレッサーパンダってレッサーパンダだけで科とか目とかを形成しているんじゃなかったっけ。色合いとか姿は似ていても狸とは動物の分類的には結構別だったはず。
狸ってイヌ科タヌキ属だから実は犬の近縁種だったはず。
セントラルパークの次は隣のアクアパークへ。ここは海洋生物がたくさんいるエリアだった。水族館のように水槽の中で泳いでいる生き物は少なかったが、外でも歩いていられる生き物が多かった。
「あ、カバ!カバってあんな大きいんだ!」
「カバは3.5m、重さが1500kgくらいが平均ですので、大きさも重さも凄いですよ。それに動きはゆったりしていますけど走り出したら突進の威力も凄いので触れ合いはなしです」
「倍以上大きいんだ……。しかも1500kg?私何人分だろう……?」
「30人以上じゃない?夏希、身体薄いし」
「薄いって言った⁉︎エリーだって軽いこと知ってるんだからね!」
「まあ、身長からしてね?太ってはないと思うし……」
体重の実数値を言うことなく、カバを遠巻きに見て。ワニやカピバラ、カワウソやビーバーなど動物園でしか見られないような生き物が多かった。それらを見つつ、アクアパークのメインステージに到着する。
水族館などでも一大スポットになっている、ペンギンエリアだ。レッサーパンダ並に人だかりができていてフラッシュも焚かれている。
そんなペンギンももちろん撮影したいのだが、今回はツアーということもあって特別な対応をされる。
「本日はツアーということもあって、ペンギンさんたちの裏側を案内します。こちらは事前予約のプレミアムツアーを申し込んでいただければFORの皆さんと同じようなルートを通ることができますよ」
「申し込みは那須動物皇国のHPから!もしかしたら大黒さんに案内してもらえるかも⁉︎」
宣伝もしつつ、表の観覧エリアではなく飼育員さんたちがいる小屋の方に案内される。そこでは表に出ておらずに小屋で寝ているペンギンや、飼育員さんたちにお世話をされているペンギンがたくさんいた。
大黒さんによると、表に出ていくペンギンは半分くらいのようで、変わる番こで観覧エリアに行ったり、ショーステージの方に行ったりしているようだ。1日に何回かあるショーステージで動く子たちはショーの時間以外はこの裏で休んでいたり、好きに観覧ステージで遊んでから帰ってくるなど割と自由らしい。
寝ているペンギンたちの気の抜けた姿に起こさないように真紀さんと陽菜ちゃんがデレデレな声を出しつつ、餌をあげたり撫でたりと特別な体験をしていた。特にこのペンギンたちのリーダーたる一回り大きなペンギンは威厳もあり、踏ん反り返るその堂々とした姿に2人は餌をあげるだけで撫でることはしなかった。
あげた餌もバクバクムシャァ!という効果音が聞こえてくるほど豪快に大量に食べる姿に、陽菜ちゃんが慄いていた。
「さ、さすがペンギンさんたちのリーダーのマルオーさん……。どうしてこの子だけこんなに大きいんですか?」
「生まれつきみたいです。最初から大きくて、食欲も旺盛で気付いたらこんなに大きく……。ショーになると人一倍働くので飼育員も甘やかしてしまったんです。そろそろショーですので、舞台袖から見られますか?」
「見る見る!じゃなくて、見ます!」
ショーのお姉さんがホイッスルを吹くとその音に釣られて結構な数のペンギンが起きてゾロゾロとついていく。その姿だけでも愛らしかったのに、これからショーと呼べるくらいの劇を見せてくれるのだ。
統一感がある中、ペンギンたちはお姉さんに誘導されるままステージに上がる。全員一列になってついていって偉いなと思っていたら、1匹のペンギンが「遅れたぜ!」とでも言いたげに走って追いついてきた。その姿に会場で爆笑が起きる。他のペンギンはゆっくりと歩いてきたのに、彼だけ急いで合流している姿が面白かったのだろう。
アナウンスのお姉さんもそのペンギンを弄ってるし。
ペンギンショーでは好き勝手水の中に飛び込んだり、ボール遊びをしたり、ただ寝っ転がっていたり。
そしてアップテンポな音楽が流れ始めると合図だったのかステージに集合し始めるペンギンたち。その音楽に合わせてショーのお姉さんが旗を振ると振った方向にペンギンたちが移動する。お姉さんの旗がクルクルと回ると、そこでペンギンたちもクルクルと踊り始めた。
その中でマルオー君はキレッキレのダンスを観客目線で踊り始めたので、そのキメ顔もあって笑いが起きる。どれだけファンサービス満点なんだ。モニターで見てるこっちに目線を向けてくるなんて、ショーに慣れすぎだろう。
お姉さんの振る旗に合わせて移動したり踊るペンギンたち。結構統制が取れていて見応えのあるものだった。音楽が変わると終わりだとわかったのかショーのお姉さんの誘導に合わせてペンギンたちも帰ってくる。ペンギンたちはそのまま誘導のままにさっきの休憩部屋に行って、各々の場所に戻っていった。
途中で抜けて観覧ゾーンに行く者もいれば、飼育員の餌に群がる様子もあった。マルオー君は定位置に戻って寝そべっている。完全に定位置が決まってるのが凄いな。
ペンギンの裏側ツアーも終わって、食事に。ご飯はジンギスカンセットで、ラム肉やマトン肉と野菜が専用の焼き鍋に用意されていた。
「ラム肉とマトン肉って何が違うの?」
「ラムが子羊で、マトンが大人の羊の肉だね。どっちも羊の肉だよ」
「そうなんだ。羊のお肉って初めて〜」
ジンギスカンを楽しんだ後は、手芸工房に案内された。那須動物皇国には手作り体験ができる場所があり、ソーセージ作りができる場所と、俺たちが体験するレザークラフトだ。動物たちの毛や革から様々な物を作るという体験会。
講師の人に教えてもらいながら3人で小銭入れを作成した。カラーリングや、ワンポイントを入れるためのワッペン、紐や刺繍など様々なアレンジができ、まさしくこの世でただ1つの自分の物を作る体験だった。
陽菜ちゃんがピンク色を、真紀さんが藍色を、俺が茶色の物を作成して、物撮りもして体験は終了する。
そして最後。那須動物皇国でも推したいエリアである皇国エリアへ向かった。
ここには大きな動物、獰猛な動物が多く、まさに動物の王様たちがいる場所だった。
キリンにライオン、ゾウにトナカイ。トラにバク、バイソン、ゴリラにサイにハシビロコウ、ラクダなど様々な動物がいた。
この中ではハシビロコウだけ浮いていないだろうか。ほとんど動かない鳥が王様で良いのだろうか謎だ……。
でも人気があるらしい。殆ど動かないからこそ、動いた瞬間を捉えたいと思う人が多かったり、SNSでなんとも言えない顔で佇んでいる姿が人気になったのだとか。前までは鳥のエリアにいたようだが、その人気っぷりからこちらへ移動してきたようだ。
そんなこんなで今日のツアーが終了。かなり駆け足気味に来て、しかもまだ1つエリアが残っているために1日で全てを回り切ることは不可能だとこの撮影で知らしめるほどに巨大な動物園だった。
本当に全部を楽しむには2日必要だ。
つまるところ、今日はここに泊まるわけだ。
「はい、というわけでツアーは終了です!大黒さん、今日はありがとうございました!」
「いえいえ、楽しんでいただけましたか?」
「はい!動物さんたちめちゃくちゃ可愛かったし、初めて見る動物も多くて!楽しかったです!」
「それは良かった。でも……まだファームエリアに行ってませんよね?」
「そうなんですよ!お馬さんとかがいるエリアにまだ行ってないの!だから〜……今日はここ、那須動物皇国にお泊まりします!すぐお隣にキャンプ場があって、そこでグランピング!そして明日の朝にファームエリアに来ます!」
「「わ〜!」」
陽菜ちゃんの発表に拍手をする俺たち。巨大すぎて1日で回れないお客が多い中、わざわざ他のホテルに行ってまた戻ってきてというのが面倒だという声が大きかったために那須動物皇国が近隣でキャンプ場も運営し始めた。こっちは動物園に来なくてもキャンプだけを楽しみたい人もいる人にも解放されていて、結構な人が泊まりに来ているようだ。
普通のキャンプもしてみたいけど、企画で来ていることもあって安全面からグランピングになった。
明日も大黒さんに案内をしてもらう予定になっており、動物園の方は一旦解散。車でキャンプ場に向かい、そこで手続きをしてお風呂や売店などがある総合施設を紹介した後に泊まるグランピング用の建物に来た。ロッジというか、普通に避暑地にあるような別荘のような感じだった。円形のドーム型の建物で、その中は昨日泊まったホテルよりも高級そうな清潔感もある内装だった。
「え、え⁉︎高級ホテル⁉︎めちゃくちゃ豪華なんだけど!」
「うわー……。こんな場所、泊まったことない……」
「最近のグランピングって凄いんですね……」
3人とも圧倒されていた。キャンプ場にある防犯などしっかりとした小屋みたいなもの、と説明されていたのに富豪などが泊まるような別荘に案内されたらこうもなる。
これで複数人利用が前提とはいえ、1人頭13000円はかなり安いだろう。東京のホテルと値段が変わらないどころか、場所によってはこっちの方が安い。
撮影はせず、公式HPの映像や写真を使わせてもらえるようだ。そのためここで収録は終わり。スタッフさんも別のロッジに行って休むことになる。
俺たちFORは3人全員同じ場所を使うのだが、男女3人で使うと知られれば問題になる。社長が俺と真紀さんの事情を知っているから大丈夫でしょと認可が出たが、事情を知らない人からすれば不安が残る。
そのため解散の前に2人のマネージャーの星空さんに釘を刺された。
「リリさん、もしもなんてないとは思いますけど、エリサちゃんとなっちゃんに何かしませんよね⁉︎」
「星空ちゃん心配しすぎでしょ。パパが娘に手を出すと思う?」
「うっ……。なっちゃん、寝る場所はちゃんと鍵がかかる方の部屋にしてね!女子はそっち、リリさんはそこの見える場所のベッド!社長もこの条件だから許可したっていうことを忘れないでくださいね!」
「忘れてないよー。ね、パパ」
「水瀬さんに手を出したら刺されるってことくらいわかってますよ、星空さん。本物の女子高生に手を出す成人男性はアウトですから」
「大学生と女子高生のカップルなんていくらでもいるんですからー!年齢的におかしくないから注意してるんですよ!」
「まあまあ、星空さん。リリ君が誠実だって会社でも結論が出たじゃないですか。そもそもあんなに炎上を恐れてるリリ君がそんな愚行しませんって。ほら、帰りますよ」
「何かあったらすぐ呼んでね!飛んでくるから!」
五反田マネージャーや他の女性スタッフに掴まれて星空さんは回収されていった。それを笑顔で手を振りながら見送る陽菜ちゃん。
今回3人で泊まるのは陽菜ちゃんの要望だ。愛着障害の可能性がある陽菜ちゃんを慮ってこの提案を通した。この事実を隠し通せば炎上もしないし、俺のことを信頼してこうなった。
星空さんには信頼してもらえなかったが。
「うーん、やっぱり星空さん的には反対だろうなぁ」
「というかあたしに手を出す前提なのがおかしい。パパが手を出すならママ一択なんだから。あとはアレかなー。女子高生に手を出すのは世間的にアウト、大人と大人の恋愛ならセーフみたいな?まあ、あたしよりもママの方がパパと年齢差あるんだけど!」
「ちょうど全員4歳差だから実は年齢差ないよ」
「陽菜ちゃん……。わたしを上にした?それとも祐悟くん下にした?」
「あれ?」
まあ、世間の問題だろうなぁ。
というか星空さんも真紀さんが俺のことを好きらしいなんて話くらいは聞いたことがあるだろうから、それを聞いた上で陽菜ちゃんのことを脅すのは、むしろわかっていて言ってる?
もしくは、真紀さんのことが事務所で把握されているほどに有名なのに付き合ってるという話が上がってこないから俺が真紀さんのことを興味なくて、陽菜ちゃんを狙っていると思ってる?
それは甚だ遺憾なんだが。
荷物を置いたら大浴場の時間が決まっているためにお風呂へ。お風呂が終わったら明日も早いということでさっさと就寝の準備をする。少しだけロッジの中の探検をしたが、凄い豪華ということだけわかっても探検するほどのスペースもなかったのですぐに終わってしまった。
寝る準備はベッドをくっつけることだけ。2つを強引に大きな1つにして、ここで3人で寝ようとする無茶をする。
しかも何故か、真ん中を俺にしようとしてくる陽菜ちゃん。
「真紀さんを真ん中にしよう。それが全員的にも安全だと思う」
「ヤダヤダー!パパが真ん中、これは絶対!それかあたしが真ん中!」
「それもそれでなあ……。真紀さん、どう思います?」
「陽菜ちゃんも譲らないし、祐悟くん真ん中で良いんじゃないかな?わたしは気にしないよ」
「決定!」
多数決で負けた。仕方がないかと電気を消して寝る準備に入る。右腕側に陽菜ちゃん、左腕側に真紀さんという並び。どうしてもこの並びにしたかったのは2人はお泊まりをしたことがあっても、俺が一緒なのは初めてだかららしい。
彼氏でもないのに、異性を泊めるのはまずいだろう。こんな機会でもなければ絶対にそこは拒否していた。
「ふふ、大人数でのお泊まり!しかもパパ付き!」
「修学旅行とかあったんじゃないの?異性はいなかっただろうけど」
「学校のお泊まりって、好きな人だけで泊まれるわけじゃないでしょ?それで毎回ギスってて。なーんにもないお泊まりってこんなに楽しいんだ!」
「わかるなぁ。わたしも修学旅行とか隅っこで寝てたもん……」
お、おお。2人とも良い思い出がないのか。男子なんて適当に馬鹿騒ぎしておしまいだった。仲が普通の相手でも同じ行動をしていれば3日もあれば仲良くなっていたし、致命的に嫌いな人物とは一緒の班にならなかったからどうとでもなったけど。
特段面白かった、とまでは言わないが嫌な思い出でもない。学校行事なんてそんなものだろうと思ってたけど、それは俺が学校に良い意味で無関心だったからなんだろうな。
真紀さんは嫌なことだらけだっただろうし、陽菜ちゃんも特別楽しいと思えるほど余裕がなかったみたいだし。
陽菜ちゃんが演劇ってどうやってるのかという話を振ってきたのでこういう役目の人がいて、こういう準備をしてこんな段取りでという話をしていたら疲れたのか話の途中で寝てしまった。俺の話がつまらなかった可能性もある。起こしてまですることではないので、そのまま眠っていてもらおう。
「真紀さん、おやすみなさい」
「おやすみ、祐悟くん」
俺たちも寝る。アラームに起こされるまで、3人ともぐっすりだった。




