新人とコラボカフェと外ロケと
新人2人がデビューした。2人とも初配信の際に料理動画を見せて本当に料理人というのを見せていた。頑固一鉄さんはボロネーゼとサラダのセットを作って、ドグマ・樹林さんはマンゴーの果肉から作るマンゴーパフェを作っていた。
それを社長に振る舞って、お互いの料理を食べて品評し合うという動画だった。お互いの作成過程を動画にして自身の初配信で流していたんだけど、ドグマさんの声が頑固さんの動画内で初披露になったためにドグマさんのコメント欄では話した直後に「聞いたことのある声」というコメントで溢れていた。
2人はしばらくコラボとかせずに個人で配信して、それか2人でコラボ配信をした後に俺たち先輩とコラボをすることになる。実はもう誘われていて月末にはコラボをする予定だ。
配信をこなしつつ金曜日の夜。例のコラボカフェのプレオープンで関係者だけを呼ぶ日にFORで集まるために秋葉原に集まっていた。他の先輩方は来られる人はお昼とか夕方に来ていたようだが、夜に行くのは俺たちだけらしい。陽菜ちゃんが学校終わりに制服から着替えるために俺たちは夜に来ることになった。
五反田マネージャーと一緒に行くことになっており、駅から少し離れた場所で集合した。駅の周りだとファンが居そうという話で、駅近くの公園で待ち合わせする。
秋葉原に来たのは久しぶりだけど、いつ見てもカルチャーの街って感じだ。電気街はジャンクパーツとかも扱っている古き良き商店街って感じなのに、ビルや看板などにはアニメキャラクターがデカデカとポスターとして貼られていいる。メイド喫茶とかコンセプトカフェの店員さんらしき人たちがコスプレをしたまま呼び込みをしている。
日本人も外国人もコンテンツを楽しもうとしているのか、様々なお店に行ったり来たりしている。カードショップか仕事以外で来たことないからこんな感じだったなと感慨深くなってしまう。
全員と合流して、カフェのあるビルに入っていく。小さなビルの1フロア丸々借り切っているようで、外側はエクリプスの立ち絵がたくさんありながらデコレーションされている。こういうのは珍しくてついスマホで写真を撮ってしまった。
そのままスタッフ専用の扉から入る。五反田さんはこのカフェの内装などを俺のマネージャーということで何回か見に来たり企画担当者として口を出しているようだ。
「ええー、めっちゃ可愛い!緑中心になってる!みんなもいっぱいいる〜!」
壁や扉はもちろん、テーブルや椅子にも様々なエクリプス要素があった。イソラ先輩のよくわからない名状しがたき存在が隠れキャラみたいに店内に散りばめられてるのはどういうことなんだか。外からは見られないようにシャッターは閉じられているので、気兼ねなしに内装を写真を撮っていく。
一通り撮影が終わった後、4人でテーブルに着いて何を食べようかとメニューを見ていく。陽菜ちゃんが反応したのは俺のコラボメニューの、〆鍋だ。
「鍋くらいいつでも作ってあげるのに……」
「リリちゃんの味が再現できてるか気になるんだよ!あとボイス欲しい!」
「あの時食べたのは霜月さんでしょ……。霜月さんはどうします?」
「亜麻井先輩の実験カレーにしようかな……。リリくんと五反田さんはどうされます?」
「俺はポラリス先輩の軍隊式パエリアにします。これなら皆と分けられるでしょうから。五反田さんはどうします?」
「そうだなぁ。リリ君の鍋は散々食べたし、ハピハピさんのパンケーキセットにするよ」
「えー、五反田さんずるいっ!それあたしも食べたかったー!」
「水瀬さんが良いなら少しあげますよ?」
「わーい!」
全員が陽菜ちゃんに甘すぎる。それからドリンクも決めて、全員の注文が終わる。こういうコラボカフェで働いている人の特徴なのか、それともホールの人だからかわからないけどだいぶ若い人が多い。男の人に注文を頼んだ。
陽菜ちゃんが俺の鍋と、唄上先輩のトロピカルサマードリンク。真紀さんが実験カレーとネムリア先輩のスケッチ付きチャイ。俺がパエリアとKP7先輩のエネルギー補給エナジードリンク。五反田さんがパンケーキとメルト先輩の全部吹っ飛ばせウィンナーコーヒー。
ドリンクも込みだと全部で10種類。頼んだ商品のライバーと同じグッズが手に入るんだけど、このコラボグッズは事務所にあるから今回は受け取らないことになった。今度事務所で好きなだけ持って帰って良いと五反田さんに言われたのでそうする。
ここにある物だって数に限りがあるだろうから、在庫を減らすわけにはいかないんだろう。
順番に到着する料理。それぞれ少しずつ取り分けて全員で食べる。鍋の味だけど、元々使ってたものが分かりきっていたからちゃんと味が再現されていた。
「良いじゃないですか。これも五反田さんが監修したんですか?」
「だってリリ君が任せますって言ったんじゃないか。あの時のレシピをそのままにして出しただけだよ。ここ3ヶ月で何杯食べたかな……」
「もしかして任せっきりもまずかったんですか?」
「うーん、出社の回数も増えるからどうなんだろうね。ポラリスさんは材料の指定だけで、一回味見をしたらOKを出してたから自分が納得すればどっちでもって感じかな」
「リリちゃんこの鍋美味しいよ!こういうスタンダードな味で良いんだよ!」
「それは良かった」
最近はコラボカフェでも味がどうとか冷めてたとかかなり言われるようで、そういうのは本当に気を付けているらしい。気にしているだけあってどれも美味しかった。値段は、グッズや場所代、許諾料などもあるから相応だけど、コンセプトカフェなども似たような値段なので秋葉原では特段高いということはないらしい。
試しに人気のメイドカフェのメニューを見たらメイドさんからサービスがあるとはいえオムライスが2500円とか書いてあった。グッズ付きと考えるとドリンクは置いておくとして料理については結構良心的なのかもしれない。
実験カレーは野菜がゴロゴロしつつもピリッとした辛味で美味しかったし、パエリアも魚介類がたくさん入っていてご飯がパラパラで美味しかった。ドリンクは、まあ普通。利益を出すならこのドリンクなんだろうな。
食べ終わった後、スタッフさんたちにコラボカフェの営業頑張ってくださいと伝えると何人かはファンなんですと言ってくれた。特に陽菜ちゃんが人気で、女性にちっちゃくて可愛いとか言われていた。霜月さんも男性人気が高いようでどの配信を見ているかなんて話をしていた。
俺なんてある男性スタッフに拝まれたし。
「リリ様、どうにか運を分けてください!今やってるガチャでどうしても欲しいキャラがいるんです……!」
「いやあ、俺、別に他人に運を分けたことはないので……。ないよね?」
「リリちゃんがそれ言っても説得力なくない?」
「うん。わたしたちも結構恩恵に授かってるし……」
「いっそ今回してあげたら?写真とか動画はダメだけど、ガチャ代行くらいならこっちもとやかく言わないし」
「それで良いんですか、五反田マネージャー……」
なんかガチャを回すことになった。しかもモニターに映して。スマホをパソコンに繋げて、パソコンからモニターに繋げてモニターでゲーム画面を見ることになる。本来だったらエクリプスの宣伝用の映像を流すためのモニターなのに。
知らないゲームだ。スマホゲームでジャンルとしてはRPGらしいけど、見たことがない。
「あ、『平安合戦・陰陽師サバイブ』だー。みーちゃんが出てるから名前だけ知ってる」
「みーちゃんって、『ソラソラ』でアセム役やってる間宮光希君?」
「そうそう。武士役で出てたはず」
陽菜ちゃんがそんなことを言う。間宮君も色々なキャラを演じてるよな。ズァーク以外にもたくさんのアニメやゲームに出演しているらしいし。
今回のキャラは九尾をモチーフにした妖怪のようだ。着物のはだけ具合が凄いけど、ここまでゲームで許されるんだと驚きながらガチャを回す。10連では出ずに、20連目で黄金色にガチャ画面が光る。
「おお、最高レア確定演出!」
とのことだったけど、目当てのキャラではなかったようだ。別のピックアップキャラだったらしい。最高レアリティのキャラを3人纏めて同じガチャでピックアップってかなり露骨なガチャではと思ってしまう。
最後の10連でもう1人のピックアップ対象を引いてしまう。30連で2人引いたことは凄いらしいけど、目当てのキャラじゃなくてごめんなさいって感じだ。
「い、今から追加の石を買って……」
「いやいや、課金は……。俺のためにしないでください。なぜだか俺の配信の時に回すとガチャ運が良いらしいので、今度とかにしましょうよ」
「いーや、目の前にリリ君がいる時の方が絶対運が良い!」
クレジットカードで課金をして、更にガチャを回させられた。人のお金で回すガチャとか責任が持てないから怖いんだけど。
そう思ってたら50連目で目当てのキャラが出た。良かった良かった。
「ほらぁ!やっぱり教祖様は格がちげえ!」
「そんなにこのゲームの星5って出ないんですか?」
「もー全然!150連で1人星5確定なんですけど、それでも3人からランダムなので確定じゃないんですよ!結果的に3人とも引けたのは運が良すぎる!」
「そういうものです?」
確率とかはよくわからないからな。本人が喜んでいるなら良いだろう。
お店を出る時に改めてお礼を言って、駅に戻る。明日の朝も早いのでこのまま全員家に帰って明日に備える。3連休なんだけど、この3日は撮影のためにFORは誰も配信をしない。
そして次の日。朝8時に小岩に集合して、撮影の準備をしていた。俺はそれより前に来て色々と準備をしていたので真紀さんと陽菜ちゃんを待っていた形だ。スタッフさんも準備が整ったので、撮影が始まる。
「えー、皆さん。おはようございます。今日はこれからFORの皆でドライブに行きたいと思います。3Dの身体をいただいたということで一回はやってみたいと全員で話していて。つまり外ロケです!」
「やったー!みんなでお出かけだー!」
真紀さんの語りで撮影が始まる。駐車場で撮影を始めて、このままカメラ付きでレンタカーで遠出だ。
3Dの身体を貰った前提で、撮影をしつつ後から俺たちの身体を3Dアバターに変えて動画にするようだ。時期的に冬に車で出掛けるのは運転する俺的にも嫌だったので秋の今に撮影になった。
実は3D配信についてもう決まっている。KP7先輩たち2期後期組の3D配信は終わっているので来月は俺たちの番ということだ。1周年前には余裕で間に合ったが、これだって俺たちの番でようやく間に合っているだけで、1期後半組なんて全然間に合ってなかった。
3D技術のノウハウがかなりできたことと、慣れたことで間に合っただけ。あとは人数が減ったから間に合い始めただけだろう。俺たちFORとかチェリーさんたちは早めに3Dが貰えそうだけど、先輩たちは遅かったと言えるだろう。1期前半組で若干力尽きて、そこからブラッシュアップなどをしていたら結構後ろズレになってしまったのだとか。
「ではでは、今回の行き先を発表しましょう!リリくん、フリップお願い」
「はい。今回は〜……栃木県、那須塩原に行きます!」
「栃木ー!」
「有名観光地ですね。じゃあ早速出発しましょうか。リリくん、運転お願いね」
「了解です」
全員乗り込んで、カメラなどを動かしてもらって出発する。休みの日に車を借りて軽く運転をしたけど、首都高なんてカーナビがないとわからない。真紀さんを助手席に、陽菜ちゃんが後ろに乗って、駐車場から出る。
「いやあ、ペーパードライバーだから首都高が怖いよ……。シートベルトちゃんと着けてね」
「合点承知!リリちゃんがんばれー」
「ナビ係、お願いしますね?霜月さん」
「はーい。首都高さえ出ちゃえば大丈夫だよ」
真紀さんの案内で近くの首都高に乗る。後ろにスタッフさんのワゴンがいることを確認しつつ、グネグネと曲がる首都高を運転していく。3連休だからか、朝8時台なのにかなり車が多い。トラックがかなり見えるからもしかして純粋に仕事だろうか。
曲がるところと合流するところをかなり気を付けて、埼玉方面へ抜ける。首都高さえ抜けてしまえばほとんど直線だ。出口もわかりやすいので一安心する。
「ふー……。緊張したぁ。とりあえず首都高で迷子にならなくて良かったよ」
「お疲れ様。あれだけぐちゃぐちゃしてたら迷うよね」
「首都高なんて意識して見てなかったけど、出口も多いしカーブ多いし、こんなの私だったら絶対に無理!リリちゃん凄い!」
「霜月さんのナビがあったからだよ。1人だったら多分変な方向に行ってた自信がある……」
雑談とかも編集しつつ流すらしくて、ほとんど一本道になったので会話もしながら高速を運転していく。ただシルバーウィークということもあって交通量が多く、渋滞に引っ掛かってしまった。
3連休だもんな。家族連れとかだと出掛けもするか。
「うわあ。1時間15kmだって。ゆっくり進もうか」
「今日の目的地について話してなかったから、そこから話そうか。まずは那須に行って、地元のラーメン屋さんに行きます。そこで食事を摂った後、那須大社という大きな神社に行ってお参りをして、最後に有名な滝に行って1日目は終わりです。2日目はテーマパークに行くんだけど、そこは着いてからのお楽しみ」
「テーマパーク!思いっきり遊ぶぞー!」
「そのテーマパークで1泊して、3日目はお土産屋さんに寄って帰りかな。そんな行程で行きます。じゃあここで初日に行くラーメン屋さんの紹介をしますね。ラーメン屋さんの名前は『羽原』。お店は8年目で、ご夫婦で営業されているそうです。郊外にあるお店なんだけど、その味を求めて車で向かう人が多い人気店なんだって。県外からのお客さんも多いみたいだよ」
今回の初日のコースの担当はほとんど俺、というか知人のオススメのままにルート設定をした。軽い気持ちで那須に行くんだとしたらどんなルートがいいって聞いたら、なら実家に顔を出しなよと言われて行程が送られてきた。
撮影許可とかこっちで取っておくからということで、事務所でも許可を貰って連絡をしたらまさかの本当に一発OK。市役所の観光課とかにも話が通っていて、1日目の日程は本当にスムーズに決まってしまった。
地主の子とは聞いていたけど、高校生で市役所とかにまで話を通してるのはどうなってるんだ。地主の子ってそんなにその地域で権力があるんだっけって困惑したくらいだ。
渋滞を抜け切って、一度休憩を挟むことにする。パーキングエリアに停めてトイレ休憩だ。水分とかも買っておく。その際にスタッフさんにカメラを回されながらインタビューをされた。
「運転どう?」
「いやあ、気を遣いますよ。運転がお世辞にも上手いわけじゃないので。それに渋滞も初めてでしたから。栃木って案外遠いですね」
そんな軽いインタビューも挟んで運転再開。
そこからは渋滞に引っ掛かることもなく、目的の出口まですんなり行けた。あとは下道をゆっくりと間違えないように進むだけ。麺屋羽原は結構わかりやすい場所にあったので迷うことなく着くことができた。スタッフさんが何時頃着きそうだと連絡をしてくれたおかげで着くとすぐに取材のために営業終了としてくれたようだ。
スタッフさんと店長らしき男性が段取りの確認や営業を停めてしまったことへの謝辞など伝えて、全員がお店を出るのを車で待つ。人気店だったようで全員が捌けるまで少し待ったが、渋滞の影響もあってお昼営業終わりとそこまで時間は変わらなかったらしい。
時刻は14時過ぎ。撮影の準備などをして席に着く。まだ20代らしき若い夫婦で営業をしているようで、お店自体は昔懐かしいラーメン店という感じでどこか古臭いがそこが返って味を出している。それと面白いことに小さな社があって、そこに供物をしているようだった。
店主は優しい顔つきの、少し若めに見える方で陽菜ちゃんが速攻イケメン判定を出していた。奥さんは綺麗系でこれまた陽菜ちゃんが反応して「美形夫婦!」と叫んでいた。それだけ顔面偏差値は高かった。
「はい。栃木県那須塩原市の麺屋羽原に到着しました。リリくん、運転お疲れ様」
「ありがとー、リリちゃん」
「いえいえ。そうしたら早速、麺屋羽原についてご紹介させていただきますね」
店主ご夫婦を交えてお店紹介をしていく。一緒のNPO団体で働いていたところ、気が合って若くして結婚。主人の実家が飲食店だったため父親に弟子入りをして料理の基礎を学んで、那須塩原の自然に惹かれて移住。元々好きだったラーメンで食べていこうと決心してラーメン屋を設立。
郊外ながらも車があれば通える距離で、しかも丁寧な味付けをしたラーメンが地元民と観光客から話題となり一躍有名店になり、栃木県のラーメン雑誌の名店100選に5年連続で掲載されているとのこと。
お店の名前は奥さんの苗字から頂いたようだ。
「へー!なんかそういうの素敵!奥さんから見て旦那さんってどんな感じなんですか?」
「キー君ったらおうちではすっごく優しいんですよ。お店の時は厳しいけど、こう見えて昔暴漢から助けてくれたこともあって。料理は上手だし、言うことないです」
「渾名で呼び合ってるなんてラブラブだー!ええー、なんかすっごく羨ましいー!」
「照れますね。高校生の時に初めてツユさんと出会って、そのままずっとゾッコンなので周りの方々にすっごく揶揄われましたよ」
「揶揄われたのは告白が私からだったからでしょー」
そんなご夫婦のイチャツキも見ながら陽菜ちゃんがラブラブっぷりに黄色い声を上げる。質問してても楽しそうだったもんな。
このラブラブっぷりも人気の一つらしい。仕事は至って真面目にやっているのにふと見せるちょっとした会話が常連さん的には堪らないのだとか。唄上先輩とか但馬さんとか近くにあったら通いそうだ。
「えっと、気になってたんですけど、あそこの小さい社は……。何かを祀ったりしているんですか?」
「ああ、あれはこの辺りで一番大きい神社の、那須神社の分社というかミニチュアです。この辺りの人ってほとんど那須っ子で、しかも那須大社は家内安全と豊穣を司っているので商売的にもあやかりたいお店が多いんですよ。お店だけじゃなくて、一般邸宅にもスーパーとかにもあったりしますね」
「へ〜!この辺りの文化ってことですか」
「そうなります。私たちは移住してきた身ですけど、実際商売も安定していて家族も元気にやれていますので、毎日営業を始める前にお供えしてますよ」
店内に社がある理由がこの地域の文化だったとは。しかも結構認知されていてむしろ当たり前くらいの感覚で置いているのかもしれない。
店内の紹介も終わって、事前に決めておいたメニューを注文する。スタンダードな醤油ラーメンと味噌ラーメン、それにまだ秋なのでやっているさっぱり冷やし中華そばだ。俺が味噌、真紀さんが冷やし中華、陽菜ちゃんが味噌にした。
先に冷やしだからか、中華そばから来る。
「わー、トマトとレタスとレンコン?水菜も入ってて野菜たっぷり!半玉の味付き玉子と鶏チャーシューも美味しそう!じゃあ、お先にいただきます。……んんっ、味付けすっごいさっぱり!醤油ベースなんだけど、野菜と絡み合って全然濃くなくて、麺がもちもちで美味しい!」
「へー!一口一口!」
「はいはい、どうぞ」
真紀さんが食レポをした後、陽菜ちゃんも食べたがってお皿を渡す。陽菜ちゃんも美味しい美味しいと食べていたら俺たちのラーメンも来た。
「お待たせしました。味噌ラーメンと醤油ラーメンです」
「もやしで山ができてるー!待ってました!」
「うわー、美味しそう……。醤油が透き通ってますね。そこに金色の鶏油が輝いてて……。トッピングは海苔とチャーシュー、メンマだけってシンプルですけど、これが良いんですよね」
「味噌はチャーシューとメンマともやし。で、もやしの上に胡麻がちょっと乗ってる。食べたい食べたい。いただきまーす」
「いただきます」
物撮りは同じものをスタッフさんも食べるので、その時に撮ると言われた。だからこっちは気にせず麺を掴む。細麺のストレート麺がこれまた美しい。
「あれ?リリちゃんと麺が違う?こっち太麺のちぢれ麺だよ」
「あ、ホントだ。全然違う」
「麺は2種類あって、太麺のちぢれ麺と細麺のストレート麺を用意しています。冷やし中華と味噌ラーメンは太麺で、その他のラーメンは基本細麺です。つけ麺だけ太麺をちぢれさせずに茹でてますけど同じ麺ですよ」
「こだわりが凄い……」
奥さんに説明をされて改めて食べると麺はパツパツ、スルッと飲み込めて、かつ細麺ながらスープもしっかりと絡んできて醤油の甘さが舌に残る。
「甘い系の醤油ですね。麺は喉越しがいいというか、スルッとお腹に消えていって……。え、美味しいとしか言えない……」
「味噌はかなり濃厚!でピリッと辛さもあるんだけど、すっごくポカポカするというか……。麺はコシがあって食べ応えすっごい!美味しいです!」
「それは良かった。味噌の方は生姜がちょっとだけ入ってるんですよ。それで身体の血の巡りを良くしてくれます」
「生姜……!味噌の濃さとすっごく合ってる!リリちゃん、細麺も食べたい!」
「どうぞ」
店主の説明も聞きながら、それぞれ交換して食べる。あ、冷やし中華の醤油、これ別物だ。わざわざ別で用意して、太麺や野菜に絡ませた時のことを計算してタレを作ってるんだ。
すごく手間が掛かってるように見えるのに、本当に2人でお店を回してるんだろうか。となるとこのお2人、かなりお仕事ができる方々なのでは……。
「皆さんとても仲が良いんですね。配信とかもたまに見てますよ。お好み焼き食べてるの見ました」
「え、嬉しいです。見ててくださったなんて……。ちなみに僕たちVtuberを見るきっかけってなんだったんですか?」
「ウチに来る常連の高校生カップルがいて。その子たちが進めてきたのでFORの方々は見てますよ。あれ見ました。ゲーム大会の泥酔飲み会兼お歌配信」
「あれ見られてたんですか……⁉︎」
このご夫婦、結構俺たちのこと見てる!できたらあの泥酔っぷりは見ないでいてほしかったんだけどなあ。
それにその高校生カップル、なんだか思い当たる人物がいるというか。彼らがここのお店勧めたんだから、そのカップルの片方って地主の彼じゃないだろうか。
ここからはご飯に集中する時間ということでスタッフさんたちもご飯を食べるので一応録画はしているもののほぼ雑談という形になった。もしかしたら使うかも、くらいで食べることに集中する。俺たちは食べ終わって、スタッフさんたちが食べ終わるのを待っていたら来客があった。
「ただいまー」
「あら、おかえりなさい。お母さんたち撮影してるから、上に居てね」
「あ、今日撮影かー。お客さん、父ちゃんのラーメン美味しかった?」
「とっても美味しかったよー!お姉ちゃん味噌食べたけど、すっごい美味しかったー」
「ん?……あれ?なっちゃん?水瀬夏希ちゃん?」
「ほえ?」
来客は小学生低学年くらいの男の子。ただいまと言っていたから息子さんだろう。
その息子さんは奥の席にいた若い俺たちの方が話しやすいと思ったのか、それとも奥が近かったからか俺たちに向かって話しかけてきたので陽菜ちゃんがラーメンの感想を伝えると、陽菜ちゃんの芸名をそのまま言い当てられた。
声でわかったということだろうか。陽菜ちゃんは配信の時とあまり声変えてないどころかほぼそのままでやってるもんなあ。
「えー、なっちゃんじゃん!可愛い〜!あれ?でもゴン様とかタマちゃんっぽくないね?狐のしっぽとお耳は?あ、そっかそっか!ゴン様もタマちゃんも普段は隠してるもんね!なっちゃんも隠してるのかー。学校とかで見せたら大変だもんね」
「え、あ、そう!私たち全員隠してるの!だって尻尾とか羽とかあったらすぐバレちゃうでしょ?いやー、もしかして私のファン?サインいる?」
「え、めっちゃほしー!待って待って、なっちゃんと一緒にいるってことはエリサ様とリリちゃん?うおー!エリサ様も可愛い!リリちゃんは……父ちゃんと俺並にイケメンだね!俺には敵わないけど!」
「君は将来とんでもなく綺麗になりそうだ。僕じゃ敵わないなー」
「でしょでしょ!将来はプロ野球選手になってみんなとコラボしたーい!今日も朝から練習してきたんだぜ!」
「おー、ユニフォームなのは野球チームで頑張ってるからなのか。じゃあ将来プロになったらコラボしよう」
「男の約束だよ!」
なんか色々ありすぎて驚きを隠せないし、凄い約束をしてしまったけど、なんか助かったっぽい。けどご夫婦は頭を抱えたり顔を手で覆ったりしているし、スタッフもどうしようと様子を伺っている。
最悪彼には悪いけど、全カットだろうな、この辺り。
色紙が都合良くあったというか、このお店に置いてもらえる予定だったので予備の色紙を使って彼用にサインを書いていく。真ん中に名前を入れて色紙を渡したらすっごく喜ばれた。
ゴン様はわからないけど、タマちゃん?……まさかね。
スタッフも食べ終えたこともあって、ご馳走様とお店への感謝のことを伝えて、お店を去る映像も撮る。吉幸君も一緒になって手を振ってくれて、お昼ご飯の撮影は終了だ。
息子さんにバレたのはびっくりしたねと話しつつ、次の目的地へ。那須大社に向かい、そこの駐車場に着いて次の撮影の準備をしようと思ったら五反田マネージャーが深刻な顔である爆弾を落とした。
「リリ君が身バレした……。もしかしたらFOR全員かもしれないけど、一番まずいのはリリ君……。顔写真がSNSにアップされた」
「はい?」
え、盗撮?どうやってバレた?声からバレて盗撮でもされたか?
というか、FOR全員かもしれない?それって俺たち全員が写っている写真が投稿されたってこと?
美味しいご飯を食べられたのに、一気に顔から血の気が失われていく。正直3人で出掛けている回数はかなり多い。だからもしかしたらファンが聞き分けて盗撮した可能性は、あるか……?
どうしてこうなった……?




