黒歴史を……見せ合おうじゃないっすか……!with真崎、音無、???
今月はオフコラボが多い。また事務所のスタジオに集まって配信の準備をする。少人数のオフコラボならお互いの家でやったりするようだけど、俺もあんまりやったことない。KP7先輩とやったくらいだろうか。
今日は会社のお金で新しいおもちゃを買ってもらえたので、それを試すという意味でもオフコラボを承認。配信で試す前に自分でどんなことができるのか説明書を見ながら試してみる。事前に勉強していたとはいえ、新しく触るものはやっぱり説明書は読んでおきたい。
ある程度操作に慣れてきたところで配信が近くなってきたのでスタジオに移動して準備を進める。今日は4人でのコラボだ。
「よーし、配信始まったな!というわけで今日はオフコラボ!タイトル通り黒歴史ノート公開配信をやっていくっすよ!ガキの頃に書いた痛小説を公開するという何重の意味での黒歴史配信だって感じだオラー!今日の司会は宗馬メルトがお届けするぞ。同期はこの企画にかなり消極的なんでなんかお鉢が回ってきたっす」
『お、おおぅ』
『この配信何で決まったんだっけ?』
『酒の席で決まってじゃあやるかって感じだったはず……』
『そういう経緯?』
メルト先輩が簡単な説明をしてくれる。俺の参加していなかった飲み会で昔小説とか書いてたかどうかの話が出て、実家に戻ったらそのノート発掘したから配信にしたら面白いんじゃないかと飲みの席で言ったら、リスナーがそれをやらないのとせっついたようだ。
その声が大きかったので、じゃあネタとして面白いしと今回やることになったらしい。
俺はゲスト的な立ち位置だ。
「えー、メルトさんの同期の真崎杏です。まさか実家から黒歴史ノートが発掘されるとは思ってなかったので参加となりました……。結構憂鬱なので司会はメルトさんに任せます……」
「うお、こんなテンション低い真崎は初めてだな……。まあ、黒歴史ってより、夢小説みたいな感じだろ?」
「それでも嫌なものは嫌なのー!」
「ははは!飲み会で口を滑らせた罰だ!じゃあ、最後の生贄、自己紹介よろしく」
「生贄扱いなんですね……?エクリプスが誇る名探偵とはワタシのこと!音無ケイン参上!男子なら誰だって幼い時にオリジナルカード描いたり厨二病ノート作成するよなぁ‼︎」
『おう、黒歴史抉ってくれてありがとう!』
『オリジナルカードはやめろぉおおおお!』
『絵心がないためによくわからんドラゴン描いてたわ……』
『最強の自分になりたいモンだよな、漢なら!』
『いや、文才なかったからそんなことしなかったわ……。完全に読む専』
『中学の暇な授業で別のノートにストーリー書いてないの⁉︎みんなやってるもんだと思ってた!』
『ペラペラ漫画描いて時間潰してたわ。たるい授業』
メインの3人の自己紹介が終わると、ケイン先輩の発言に同意したり共感できなかったりというコメントが流れる。皆不真面目でまともに授業を受けている人はいないのか。
まあ、俺も嫌いな先生だと台本を読んでたから人のことは言えないけど。
「今日は3人の黒歴史ノートを読み上げていって、まあ爆笑しようっていう回っすね。こんなことあるあるだよねって、共感してもらって皆にも恥ずかしい思いをしてもらうのが主目的で……。あ、版権物はまずいと思って二次創作は除外してるんでよろしく。あと、ついでに黒歴史の重ね塗りをしようと思ってゲストも呼んでるんだよなあ」
『そういやこの約束してたの、この3人なのに???がいるんだよな』
『もう1人黒歴史発表してくれる人がいるってこと?』
『あの時飲んでたのって誰だっけ?』
『てんてぇとハピちゃん。てんてぇは絵を描いてて、ハピちゃんはゲームやりまくってたから書いてないってことで不参加のはず』
『ユークリムだったら書いてたんじゃないかなあ。ってことでユークリム』
『ネムリア先生がイラストを描いてくれるとかでは⁉︎』
『コウスケも厨二病だからワンチャン』
ゲストという言葉に皆が予想を立てていく。俺のリスナーだったら今日の夜は配信がありませんって伝えておいたから察してるかもしれない。自己紹介した後にSNSでわざとらしくゲストって誰だって言いながら引用すれば良いだろう。
「というわけでゲスト、自己紹介よろしくっす」
「皆さんこんばんはー。絹田リリです。今日は観客として皆さんの過去の遺物を聴きにきました」
『リリっ⁉︎』
『お前さんも恥ずかしノートがあるのか⁉︎』
『そういうの書いてるイメージないなあ』
『いいよ、晒して見せろよ!それを歌詞にしようぜ!』
俺の黒歴史ノートを期待しているようだけど、そんなものは存在しない。あくまで出力するようになったのは作曲をし始めてからで、それまでは劇団で演技することばっかりだったから創作を自分でするっていう考えがなかったんだよな。
今日の俺の役割を教えるために、目の前にある物体を操作してみる。
流れるのはレトロゲームなどでありそうなピコピコ音。それが俺の指の動きに合わせて出力される。テレッテッテーくらいは簡単に鳴らせた。
「というわけで僕は音楽担当ですね。皆さんの音読に合わせて音を鳴らすBGM係です。僕は授業中もっぱら演劇用の台本を読んでいたので書いていたものはありません」
「賑やかし役ってことよ。正直ただオレっちたちが読んでいても辛くなるだろうから、そこを音楽でカバーしてもらおうと思って。今日はシンセサイザーで茶々を入れてくれるらしいっす」
「シンセサイザーって面白いですね。というわけで皆さんの過去を愉しみにしてます」
「わ、わーい……」
「リリ君、お手柔らかに。ホントにね?」
どうするかは内容次第じゃないだろうか。面白そうだったらガンガン音を入れるだろうし、無音だったら配信が死んでしまうのでそこでも音を入れるだろう。
それから順番を決めて、ケイン先輩から読み上げることになった。本当にノートを持ってきていて、そんなノート使ってたなあと懐かしくなりながら内容を楽しみに待つ。
「じゃあワタシから。タイトルは『最強チート能力を3つ貰って異世界無双した件』」
「ブフっ!ラノベにありがちな単語混ぜ合わせてる!」
「しょうがないでしょ!こういうトレンドに乗ろうとするものだから!」
『普通にラノベにありそうなんだよな……』
『異世界とチート。ありがちなやつやね』
『ケインって結構若いって話だし、まさしくそこがトレンドだったんだろうな』
もうメルト先輩が爆笑している。アニメとかラノベはあんまり読んでないけど、そんなの流行ってただろうか。俺とケイン先輩って同い年のはずだけど、やっぱり趣味の差が大きそうだ。
無音なのもどうかと思って、普通にピアノで俺の作った曲を流しておく。
「第1章転生。俺の名前は佐藤ヨシキ。トラックに轢かれて死んだら目の前にハゲがいた。知ってるぞ、これ神様転生ってやつだ。貰ったチートは『超速再生』『魔力無限』『成長速度100倍』だ。こうして俺は異世界に旅立った。第2章──」
「ちょ、待ってwwwもう第2章⁉︎最低限過ぎないっすか⁉︎」
「貰った能力もありきたりというか……」
「中学生の頃の語彙と文章力なんてこんなものでしょう⁉︎だから黒歴史なんですよ!リリ君もゲームの旅立ちっぽいBGM流さないで!」
話の展開が早いのは良いことだと思う。テンプレになっているのは省略するのもテクニックだ。劇の台本でもお約束はカットするのが常識だし。
悲観するほど悪い出来ではないのでは?と思ってしまう。パンパカパーンという音の後は適当なBGMに変える。ファンタジーっぽい感じがいいだろうか。
シンセサイザーって簡単に音色が変えられるから楽しいものの、設定を弄ったり調整をするのが難しい。
「続けますよ。最初の街に向かうと女の子が魔物に襲われていた。俺は魔法を使って女の子を助ける。『ありがとう、あなたは?』『俺の名前は佐藤ヨシキ。無事だったかい?(キラリ)』」
「キラリ!カッコキラリカッコ閉じ⁉︎ウッヒー、たまらねえっす!」
「全体的に描写不足で状況がわかりにくいですね……」
「真崎先輩やめて、冷静な分析しないで⁉︎ワタシもあなたの時にめちゃくちゃ言いますからね!喧嘩を売ってきたのはそっちだからなぁ!」
『やべえ、この配信めっちゃ楽しい』
『ワイン持ってきて正解だったぜ。めちゃくちゃ美味い』
『ギスギスバカおもろいw』
『リリもやったぜ、みたいな音鳴らすな。戦闘勝利じゃないんよ』
『共感性羞恥がゴリゴリと……!』
『苦しむより楽しんだモン勝ちだな、こりゃ』
小説ってより、台本みたいなんだよな。ト書きがめちゃくちゃ少ない台本。あれもあれで誰が話しているかわかりやすいんだけど、ト書きというか状況説明の地の文が少ないと状況確認ができないというのは真崎先輩の指摘通り。
中学生の時に書いたならそんなものかと思うけど。
「うぐぐ……。『ヨシキ様……。かっこいい、好き……』『金髪で長い耳、君ってエルフ?』『はい!わたくしはエルフの王女、アリシア=イム=フォレストです!一生あなたと添い遂げます!』……!胃が、胃が痛いぃ……!」
「素晴らしい急展開!異世界行って速攻伴侶ゲット!このスピード感がまさしくって感じ!」
「え?助けただけでプロポーズするんですか?どうして?というか王女様なら婚約者とかいそうなものですけど……?」
「2人とも、後で覚えておきなさいよ!どうせ同レベルの恥を晒して後悔するんですから!」
『い、イテェwww』
『たった3つの会話で結婚したぞ、こいつ』
『これが噂のニコポナデポか!』
『ヨシキは撫でてないからニコポだな。文章付け加えてたら撫でていたかもしれん』
『ケインの性癖は金髪エルフの王女と。メモメモ』
『幼女も加えとけ』
流石に結婚式のファンファーレみたいなものを流すのはやめておいた。ギャグかなと思うような速攻で進む話だけど、多分これが中学生の限界なんだよな。
演技でもできてしまうことは言葉で出力できないとよく聞く。天才は指導ができず、凡才こそがちゃんとしたやり方を通して成功したからこそ指導できるという話だ。多分中学生くらいって文章力の問題もあるけど、自分の脳内のことを出力しなくても伝わると思ってしまうんだろう。思春期だし。
天才の全能感のようなものが備わっていると錯覚することが厨二病とかなんだろうし。解釈合ってるか分からないけど。
そこからも短文でどんどんストーリーが進む。なんだかヒロインがめちゃくちゃ増えて全員とイチャついて?文章量がないからよく分からないけどそんな感じで魔王と戦うらしい。
「ヨシキが魔王に向かって必殺技を使う。『究極氷結絶大魔法・エターナル・スノウ・ブリザード!』『グあああああ⁉︎』魔王はヨシキの魔法によって粉々に砕け散った。『さすがヨシキ様ですわ!国王に報告をしてわたくしたちのことを世界に祝福してもらいましょう!』ヨシキは世界を救った勇者となり、妻たちと末長く暮らしました。おしまい……。本当におしまいだよ!くそう!」
「いや、お疲れっす!マジ良かったっすよ!ちゃんと綺麗に纏まってた!」
「ハーレム?そういうのに音無さんも興味があったんですね……」
「ハーレムなんて男女どっちでも好きでしょう!女性だって逆ハーレムの作品たくさん作ってるし!メルト先輩もリリ君もハーレムに興味ありますよね⁉︎」
「いやあ、金かかりそうで別にっす……」
「僕も愛するなら1人の女性を愛したいかなって」
「この裏切り者ぉ‼︎」
「メルトさんの理由はともかくとして、リリさんならそう言うと思ってました」
ケイン先輩の辱めの刑は終わったようだ。ハーレムなあ。そういうの演じたこともないからよく分からない。たくさんの女性にモテることと、実際に付き合ってハーレムを形成するのは別だろうし。そういうゲームとか漫画とかにも触れてこなかったからあんまり分からない感覚だ。
ケイン先輩が読んでいたというラノベとかはそういう展開が多いんだろうか。けどハーレムは誠実じゃない気がしてやっぱり忌避感が強い。
あと真崎先輩はちょっと怖いのでボソリとでもそんなこと言わないでください。
「じゃあ次は真崎で。よろしくっす」
「はーい。えー、タイトルはありません。そんなの付けてなかったので」
『あるある。タイトルない殴り書き』
『次は真崎かー。女性でこういうのって、夢小説?』
『昔は携帯小説とかも流行ったから、そういうのかも』
『携帯小説?投稿サイトとかじゃなくて?』
『↑グアアアアアアアア⁉︎』
『ジェネギャで死んだヤツおって草』
『スマホ世代にはガラケー時代の携帯小説なんて過去の遺物だろ……。俺もコメント見てその存在を思い出したくらいだし』
なんかコメント欄がジェネギャか何かで騒がしい。携帯小説ってなんだ?さっきからめちゃくちゃその単語が飛んでるけど。携帯で読める小説?電子書籍、とかだろうか。
今だと小説投稿サイトがかなりあって、そこに投稿したものをスマホで見るのが一般的だとか。そんな話を誰かから聞いた。本って言われると紙のイメージが強いけど、漫画だって電子書籍になってるし、そういう時代なんだろうな。実際に場所を取らないから電子書籍の漫画めちゃくちゃ便利だし。
「はじめます。私はある日、学校に行く途中で妙な動物に出会った。ピンク色の、20cmくらいの小さなウサギのような生き物だった。その生き物はシェイピと言って、私に魔法少女として戦って欲しいと言ってきた。昔から憧れていた魔法少女になれるならと、私は二つ返事。世間を陰から守るなんて素敵と思って私は怪物と戦っていく」
「え、めちゃくちゃ文章しっかり書いてるじゃん。さっきのケインっちとは大違い」
「比較しないでいただけます⁉︎あの、真崎さん?これ書いたのっていつです?」
「それこそ13歳くらいじゃないですか?」
「13でここまでしっかり文章書けるんですか⁉︎作家にでもなった方が良いですよ!」
「えー、この程度じゃ作家とかクリエイター側にはなれないですよ。精々がボイス台本くらい?300ページくらいの本を作るってとんでもない労力でしょうから、本当に好きでもないと続けられませんよ」
クリエイターはなぁ。何歳からでも慣れるとはいえ、なってからが大変な仕事だと思う。締め切りとかクオリティとかそういうのが求められて、売れなかったら生活が貧窮する。芸能人や俳優も同じだ。演技が好きだったから生活が苦しくても頑張れたけど、好きでもないことはそうそう長くは続けられないだろう。
「変身はちょっと恥ずかしいけど、これも平和のため。毎日毎日戦う日々。それでも充実感を覚えていた頃、私は初めて苦戦をした。魔法少女としての力は絶大で、その力を使えば倒せない敵はいなかったのに、その日の怪物はなんと魔力のよる攻撃を吸収してしまう能力を持っていた。魔法少女の攻撃は全部魔力を使うもの。私の力は魔力がなければそこら辺の女子学生と変わらない。そんな絶体絶命のピンチだった」
「おお〜、あるある。絶対の力が通用しないとか、序盤のピンチ的な演出だよなー。先が気になるっす」
「リリ君、真崎先輩のものが普通に面白そうなので音楽で妨害してください!これじゃ黒歴史にならないですヨ!」
「そこ、妨害しようとしない!リリさんもいきなり電子音全開に変えないでください!」
ハッ!リクエストされたら応えないとというサービス精神が。電子音でしばらくBGMにしようと思ったけど似合わなそうだからやめよう。
その代わりゴートン先輩に提出したファンタジー系の危機感を煽るBGMをピアノモードで弾こう。
『リリ、幅広っ』
『普通に文章うめえ。こんなのと比べたら中学生のワイ、カスやんけ』
『掴みは本当に良いな。これボイス台本にしようぜ』
『実質今がボイス台本みたいなものでは?』
『真崎も滑舌がはっきりしてるから聞きやすいなりぃ』
女性だから女の子が主人公なんだろうか。同性の方が描きやすいとかあるのか、創作界隈にあまり詳しくないのでよく分からない。台本は読んでも小説はあまり読んでなかったからなあ。台本だとどっちの性別とか関係なく作ってた印象しかないけど、それはあの人たちがプロの脚本家だったからだろうか。
「魔力が効かない相手に、その人は突然現れた。金髪ブロンドで蒼い目をその仮面に隠した長身の人。筋肉質なその身体から繰り出される、衝撃波を発生させながら届いたキックは近くのビルも揺らした。怪物は轟音を立てながら地面にめり込んだ。私よりも頭2つ分は違う長身、筋力が腕にも足にも付きながらバランスの取れた黄金比の肉体美。漆黒のタキシードを身に纏いながら決して損なわない美しさ。仮面で隠しきれない左目の下の泣き黒子。──そこには、絶世の美男子がいた」
「ヒーローの描写、冗長じゃありません?」
「オレっちたちがヒロインの描写に拘ってるって思えば納得じゃね?」
「ああー」
恋に落ちてそうな描写なのでちょっと甘めの音楽に変えてみる。少年少女の恋愛ならムーディーじゃなく、緩いリズムで高い音を使ったメロディにすべきだろう。で、時々跳ねちゃうように高い音を混ぜたり低くして心の浮き沈みを表現してみる。
こういう誰かのストーリーに沿って曲を作るのも楽しいかもしれない。ゴートン先輩の時のようにストーリーを貰ってから当て嵌める作曲が好みかもしれない。今までは曲を作ってから作詞をしてもらってたけど、俳優の頃も作曲するのは台本があってそこに当て嵌めるような曲を作って、という感じだった。
この順番の方が俺には合ってるのかもしれない。それに気付けただけでこのコラボに参加して良かった。
いや、おかしいとは思ってたんだ。そうじゃないと数日で何曲も作れない。こっちに適性があったというだけの話だ。作詞が苦手ということもあって、下地となるものを膨らませる方が得意だと分かっただけ良いだろう。
「彼は一息の間に怪物を退治してしまった。私の方を見て、すぐに立ち去ってしまう。名前も声もわからなかった。けど私のように戦ってくれる人がいるんだと思えたら心が少し軽くなった気がする。次の日、友達と他愛のない話をしていて好みのタイプの話になった。私は昨日の人を思い出しながら、筋肉質な人と答えてしまう。友達に揶揄われながら、今日は転校生が来たようだった。先生に紹介されて入ってきた人は黒髪でほくろなんてどこにもない、細身の繊細そうな薄幸の美少年然とした少年だった。『赤城宗弥です。よろしくお願いします』その声変わりをしたばかりの声にクラスの女子は甲高い声を挙げていた。私のタイプじゃないなぁ。美少年よりもカッコいい人が好きかも。私は件の彼がこっちを見ていることに気付くこともなく昨日の人を思い浮かべていた。おしまい」
「おしまい⁉︎ここで⁉︎続きは⁉︎」
「ありませーん。書いてる途中で似たような少女漫画をなぞってるだけって分かったから終わりにしたの。真似っこしてるだけのものをオリジナルにしたって意味での黒歴史。終わりです」
『まあ、ありきたりなガールミーツボーイではあるか?』
『だって助けてくれた彼、絶対転校生でしょ?』
『一緒に怪物退治をしながら喧嘩したり仲違いしたり正体がバレたりして、最終的にはくっつくと』
『ああ、俺らが簡単にオチまでわかっちゃうようなものは作品って呼べないってことか』
『筆を折る理由もわかる。多分過程に微妙な変化があってもオリジナリティがないんだ』
創作って難しいなあ。演技も上達するには上手い人の真似が一番上達するけど、コピーになるだけだから息の継ぎ方や歩き方とかで差を付けろって言われたな。声が違おうが、顔が違かろうが、その人の真似をしているだけじゃその人にしかなれないって。その目標にした人のお手本がなければ何もできなくなるって。
だから良いところは吸収しつつ、自分の演技を確立して一人前と言われた。そうなれたのかはわからずじまいで俳優を辞めてしまったのは残念だ。今更どの顔をして先輩方に話に行けば良いのかって話だし。同じ事務所じゃない先輩方や先生たちには申し訳なくて顔も出せないな。
「次はオレっちだな!タイトルは『設定集その3』だ!」
「……ん?どういうことです?」
「そのままの意味だけど?オレっちが中学時代にこういう話あったら面白いんじゃね?って思った設定の殴り書き」
「それが黒歴史ノートなんですか⁉︎物語じゃなく⁉︎」
「それも確かに黒歴史と呼べるでしょうけど……」
メルト先輩の出してきた案に、ケイン先輩が怒鳴りながらそれってアリなのかと問い詰めて、真崎先輩もそういう形できたかと困惑していた。
俺としてもどうBGMをつけたら良いのか。いっそ開き直って「polar night/Luna」を流しておくか。
「リリっちー!設定に合ったBGMくれ!FORソングじゃなくて!」
「無理です。即興に何個も何個も作れません」
『否定入ったw』
『オリジナル曲流してるんじゃないよ』
『やるなら歌えー!』
『誰が歌うんだよ。2人ともいないぞ』
思い付いたら気分で変えてみよう。そうじゃなかったらこのまま「polar night/Luna」を流し続ければ良いだろう。というか、思い付いたってすぐに次の設定に行かれたら間に合わない。
まさしくBGMということで下手に手を出さない方が良いだろう。
「じゃあ1個目なー。14歳で国民は全員ボックスっていう機械を受け取って、それに適応したら超能力を使えるようになる世界。適性試験で不合格だった主人公の女の子は、怪しい女の子に渡されたパンドラというボックスに似た機械を渡されて無能力者じゃなく、それこそ国で一番と言われるくらいの実力者となって人助けの夢を叶えていく。けどそのパンドラは寿命を削る悪魔の兵器で、最終的に死の寸前まで行ってヒーローに助けられる。結末としては介護が必要だけどヒーローと一生を添い遂げるか、無能力者としてやれることをやっていくようになるかは不明って書いてあるな」
「え、面白そう」
「骨子だけなら王道のバトルアクション青春劇にでもできそうですけど……。中身がないんですね?」
「そう。話を膨らますのが無理で。こんな感じの設定がめっちゃある」
『超能力ものってことはローファンタジーか?』
『膨らませれば普通に読んじゃいそうな内容ではあるか……。原案チャンスでは?』
『ここから膨らませて面白くするのが難しいんだよ。短編としては面白そうではあるのは認める』
『パンドラってギリシャ神話か。最後に希望は残ってるのかね?』
『それがギリギリ助かるってとこなんじゃね?』
代償がある代わりに凄い能力を前借りするって少年漫画っぽくて良さそう。だけどあくまで設定だけで話にはなっていないのか。話にするのが難しいんだもんな。
脚本家とか小説家なんてあんな何万文字も書いて本にするんだから本当に頭が下がる思いだ。ああいう人たちが言葉を文章にしてくれるおかげで俳優とかは食べて行けたんだから。
「2つ目。幼い頃に家族を失った少年が大きくなって病院の先生になる。どんな事故に遭っても助けられるようにって勉強を頑張った結果。新米ながら仕事に慣れてきた頃に、どこか見知った少女が突然現れて馴れ馴れしく話してくる。主人公はその人物が誰かわからなかったが、その人は死後を対価にして会いにきた、主人公の死んだ姉だった。バッドエンド確定。姉の死後の転生はなし。しかも弟に会いにきたのに、その弟は奇跡の一日を覚えていない。これだけで満足しちまった。付き人の設定とか閻魔大王の側近とかにしておくか?これバッドエンドでしか思いつかねー。終わり」
「まあ、バッドエンドですね……。せめて弟さんはお姉さんに会ったことを覚えていられるようにしなかったんですか?」
「当時のオレっちはしなかったみたいっすね。なんかバッドエンドの物語が流行った頃で、バッドエンドの話書きてーって思ってとりあえず書いたっぽい。とにかく重い話ってことで初っ端天涯孤独にしようって書いてあるっす」
「おお……。人の心がなかったんですね。中学生の頃のメルト先輩」
これも流行りに乗っかった形なんだろうか。バッドエンドが多かった時期とかあるんだ。1つヒット作ができると似たような話が氾濫するみたいな現象は確かにある。既視感を覚えてこんな話前にもやってなかったっけって思うことはあるんだけど、演劇業界だと台本の使い回しが当たり前だから見たことあるって感覚にかなり鈍い。
世界的に著名な演劇作家の脚本なんて世界的にやってるし、再演とかもあるのが舞台だ。そもそも同じ劇を期間中はずっと演じるんだし、インスパイアを受けたのかなと思うくらいだ。あとはにていると思ったら脚本家の人が同じだったなんてこともある。
流行りに乗るというのは芸能界でもよくある話だったから、それが創作界隈でも似たような流れになるのもおかしな話じゃないんだろう。
それからメルト先輩は3つほど設定を語って終わった。最後の方はシンセサイザーで遊んでいたけど、怒られなかったから良かっただろう。
そのコラボから3日後。3人にボーカロイドに歌わせて3人の黒歴史を纏めた歌を送り付けたら全員が反応してくれた。歌詞は3人の配信での発言と黒歴史ノートからの抜粋だ。
『宗馬メルト:リリっちから突然歌のファイルが送られてきたんだけど……。歌えってこと?』
『真崎杏:仮歌が付いているのでこれレコーディングすればすぐ動画として出せてしまうのでは?』
『音無ケイン:3日でネタ曲を仕上げる後輩が純粋に怖いです』
『絹田狸々:歌詞皆さんでネタ曲なので早かったです。配信中に思い付いたメロディで大部分が構成されているので作曲よりも整えて打ち込む方に時間がかかりました。作業配信で作った、リスナーとの合作をご賞味あれ』
SNSでそんな感じで戯れていたらマジで歌っていいのって来たので了承の返事をする。というか本人たちに歌ってほしくて作ったんだし。
その日には同じくネムリア先生から3人の設定の内容のイラストがSNSに上がっていた。俺は何故かシンセサイザーを弾いている姿だった。俺のは無しで大丈夫だったのに。お礼を告げて画像はしっかり保存した。メルト先輩だけ2つも設定の内容を絵にしてもらってずるい。




