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それでもリサ・ホーネットは食したい

 もうじきホームルームも終わる。

 時計を見ながら空想にふけっていると、担任が長話を終えて教室を出ていった。

 さてと、部室行くか。


 通学カバンをとって立ち上がる。

 突然、クラスメイト数人が出入り口の方を見た。さっきまで仲睦まじく話していた気奴等は「あれだれ?」「一年生? 小さーい、かわいー」などと口にしだす。

 気に留めることもなく教室を出ようとすると、ドアを出たところでだれかにぶつかった。

 出入り口の周りでたむろってんじゃねえよ、邪魔だろうがクソリア充めが、という思いを込めて睨みつける。すると、相手の小動物っぽい女子は「え、え」とおどおどびくびく声を詰まらせた。


 ていうか瀬良だった。

「せ、先輩! すみません……呼びにきたんですけど、ホームルーム終わってなかったから待ってまして……」

「……おお。お、あー……や、すまん」

 てっきりドアの周りでくっちゃべってる手合いかと思ったか、そうか待ち伏せか。じゃあ仕方ない。

「……行くか」

「はい!」

 部室へ向かって歩くと、瀬良がてとてとついてくる。

「で、なんか用?」

「はい……えーっと、ちょっと助けて欲しくてですね」

 いまいち容量を得ないので言葉の続きを待つ。

「実はその……鶏、買ったんですけど、私たちじゃどうしようもできなくて……とりあえずオカ研の部室来てもらえますか?」

 ……俺に絞めろと?


ーーーーーーーー


 オカ研の部室は旧校舎の二階、かつては理科室として使われていた場所にあった。

 部室はごてごてとした飾りがつけられており、遮光カーテンが締め切られているせいで陽は差し込まず、あちこちに置かれたろうそくがぼんやりと室内を照らしている。

 部屋の中には瀬良、リサたん、みっくん、堺の四人と俺。真ん中には鶏がゲージの中で暴れていた。

「……鳥だな」

「鳥です」

「おいしそう……」

 リサたんは食べる派らしい。俺もだ。

「なあ、瀬良。お前、刃つぶしたダガー持ってたろ」

「はい。それがどうしました?」

「家から砥石持ってくるから、ちょっと待ってろ」

「ええ!? 食べるんですか!?」

「ああ? 心配すんな『儀式用の鶏はあとでスタッフがおいしくいただきました』とかテロップ入れとけば大丈夫だ」

「ここはテレビ番組じゃないです! 現場です! 事件は現場で起きてるんです! テロップもモザイクも入れられません!」

「他にどうしろと……」

「そうですよ、ゆいゆい。私、ニッポンに来た時からペキンダック食べたかったのです」

「北京ダック、日本の料理じゃねえから。北京って中国だから」

「そうなのですか!? てっきり東京や京都の近くにあるのかと……」

「似てるの字面だけだから。東京と京都も近くねえし」

「ていうか! なんで食べる前提で話進んでるん!? やめとこうや! 命大事にしよ」

 リサたんとしゃべっていると、堺が割り込んできた。

「? 真波ってビーガンだっけ?」

「びー……なんなんそれ?」

「ベジタリアンみたいなもんだ」

 リサたんがビーガンの説明に窮していたので助け舟を出す。

「そう、それそれ。野菜しか食べない人」

「ちゃうよ」

「ですよね。今日だってあんなおいしそうにカツサンド食べてました。だれかがぶっ殺した牛は食べるのに目の前で鳥が死ぬのをかわいそうと思うのなぜですか?」

「正論パンチやめたれ」

 さすがゲルマン人。たくましい。いや、赤毛はケルト系だっけ?

「まあ、お前らの言いたいことはわかった」

「先輩……」

「じゃあ、おいしくいただきましょう!」

 堺が嘆願するように見つめてくる。リサはテンションぶち上げでフォークを準備する。

「調理室借りてさばいてくるから、お前らは食器の用意でもしてろ」

「あ、私一緒に行きまーす。先輩、さばいたことあるですか?」

「ないけど。ユーチューブ見ながらやってみる。たぶんいけるだろ」

「オーケー。じゃあ私は北京ダックの作り方調べます」

 ケージを持ってリサたんと部屋を出ようとすると、後ろからぐいと裾を引っ張られた。

「待って! 待ってください! やっぱり校内鶏惨殺事件はちょっと!」

「ぶふっ!!」

 思わず吹いた。なんだ校内鶏惨殺事件て。

 リサたんも腹を抱えて笑っている。

 だが瀬良は笑うどころかいたって真剣な表情。

「あー……。わかったよ。じゃあ生かす方向でいいんだな」

「はい!」

 瀬良は満面の笑みでうなずいた。

「うぅ……お昼ご飯抜いてきたのに……」

 どんだけ楽しみにしてたんだ、リサたん。

「けど、食べないならどうするですか? 部室で飼うですか?」

 リサたんの問いに、三人は口ごもる。瀬良が俺のほうを見た。

「あー……あれだ、売店の近くに鶏飼ってる柵あったろ」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ。たしか生徒会が管理してたはずだ。だから生徒会行って、この鶏もそこに入れてもらえないか聞いてみよう」

「……めんどうごと、押し付けた……」

 みっくんがぼそっと呟く。賢いガキは嫌いだよ。


 だが他に賢いガキはおらず、代案も出ないので、5人そろって生徒会室へ行くことになった。


ーーーーーーー


 生徒会室はここ、旧校舎の4階にある。扉をノックすると、かっこいい系の美人が出てきた。

「はーい……ってなに、鶏!?」

 そりゃそうなるわな。

 即座に弁明すればよかったのだが、カーディガンの上からでもわかる胸部のふくらみに目を取られていたせいで反応が遅れた。まちがいない、先輩以上だ。


 生徒会女子はずざっと後ろに下がって身構える。

「まさか……コカトリスの召喚に成功したオカ研が殴り込みに!? まずい、今ここには私しか……。会長が来るまでの時間は稼ぐ!」

 なんでそうなる。突っ込むまもなく、リサたんが前に躍り出た。

「ふはははは! どうやら生徒会長キング・オブ・スカラーはいないようだな。副会長のなぎ姉なんて私ひとりで十分だ!! 闇の炎に抱かれてs——」

 なぎ姉っていうのか。よし、覚えた。美人で胸が大きくてノリのいいお姉様とか最高でしかないのでは?


 リサたんとなぎ姉のバトルが終わるのを待ち、俺たちは生徒会のソファーに腰掛けた。なぎお姉様がお茶を出してくれる。

「それで、リサたちはなんのよう?」

「この使い魔をくれてやるです!」

 さすがに訳がわからんかったらしく、なぎ姉は思案顔になる。

「あー、こいつらがクリスマス用に鶏買ったんすけど、実際に生きた鳥見たら殺せなくなったらしくて。生徒会の飼育してる鶏と一緒に飼わせてもらえないかと」

「あ、あなたは日本語通じる人なのね。よかった」

「お前らどんな扱いされてんだよ」

 問うと、日本語通じない系の四人は「えへへ」と苦笑い。

「もちろん餌やりとか清掃とかはさせますんで。こいつらに」

「え!? 先輩は?」

「あ?」

 部外者の俺に鶏の飼い主探しだけじゃなくそのあとの世話までさせる気かお前ら、そんな感情を込めて睨むと、瀬良は「すびばぜんっ」とおとなしくなった。わかればよろしい。


 俺たちのやり取りを見て、なぎ姉はきょとんと首をかしげる。

「あら、あなたオカ研じゃないの?」

「違います、文芸部です。瀬良が鶏の始末に困ってるから助けてほしいって言われたんで手伝ってただけです」

「なるほど。だから常識人だったのね」

 なぎ姉はくすりと笑う。

「いいわよ。飼育係は当番制だから、あとでオカ研の四人も組み込んだ当番表作るわね。あとでメールで送りたいんだけど、えっと、あなた……」

「三笠司です」

「三笠司くんね。韻を踏んでていい名前じゃない」

 別に俺の名前、ラップじゃないんだが。

「連絡先教えてくれる?」

 普段はリテラシーがあって個人情報には敏感な俺だが、美人なお姉さんに連絡先を聞かれて断れるはずもない。携帯を差し出す。

「じゃ、当番表できたら送るから」

「あっす」

 話はすいすい進む。なぎ姉、できる女だ。

「てか、あの鳥ってどうすんですか?」

「毎年、生徒会はクリスマスパーティーするのよ。七面鳥は手に入らないから、ね?」

 結局食べられるんだな、こいつ。


 かつては地上最強の捕食者だった恐竜の末裔は、ちゃちなゲージのなかで「こっけー」と哀愁漂う鳴き声をあげた。


ーーーーーーーーーー


 妹と家への道を歩いていると、滅多になることのない携帯がティロン♪と鳴った。

 チェスアプリで手番が回ってきたのかと思って開くと、ウィジェットには文字列。


『こんばんは。霞凪です。飼育当番の表ができたので添付します。

 リサたちは暴走しがちだから三笠くんみたいなしっかりした人が見ててくれると安心します。これからもよろしくね♡』


「うげこっほ!? うっえ! げほぉっ!!」

「なに、おにい、どしたの?」

「い、いや、なんでもない……」

 マジで好きになる五秒前。しかし、我が優秀なる海馬は自動で過去の記憶を蘇らせる。

 中学二年のあの日、はじめて連絡先を交換した子からのメールにも、語尾にハートマークがついていた。それで盛大に勘違いした俺はその子を好きになり、告って振られて涙した。

 心の傷がうずいたことで理性が蘇る。

 女子がメールの最後にハートつけるのは自分の書くメールを可愛くしたいからであり、別に俺のことを好きなわけではない。

「わー、なんかいつもより五割り増しで目つき死んでる。ほんとに大丈夫?」

「大丈夫だ。問題ない。ちょっとこの世界滅べばいいのにとか思ってしまっただけだ」

「お、おう……そか。闇落ちおにい」

「うるせ」

 適当に軽口を言っているといくらか気分もマシになる。

「……晩飯、チキン南蛮でも作るか」

「マジで!? おにい、大好き!!」

 やたーっと、楓が抱きついてくる。世の女全員このくらい単純だったらいいのに。


 楓相手なら「好き」と言われようが抱きつかれようが、勘違いして好きになって振られる心配もない。妹こそ絶対の安全領域だ。

 だから、妹以外の女を好きになってはいけない。仮に好きになっても、それを行動に移してはならない。好きになったら気持ち悪がられるし、行動すれば手痛いしっぺ返しをくらう。

 やはり不恋の誓いは不滅だな。

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