独白
「もっと努力しろ」「言い訳しないで」「なんでできないんだ」「あなたのために言ってるのよ」「どこで失敗したんだろうな」「ちゃんと育てたつもりなのに」「楓とは大違いだ」「楓はちゃんとできるのにねえ」
父親からも母親からも、いろんなことを言われてきた。
無数の言葉は、呪いみたいにまとわりついて、脳の奥深くまで浸食する。
その言葉に押しつぶされないよう、必死に足掻き続けた。
俺自身が何かしたかったわけじゃない。けど、折れてしまったら、本当にその言葉通り、自分が無価値な存在になる気がして恐ろしかった。
足掻けば足掻くほど、天才との差は明確になっていった。
最初は空手で、次にチェスで。
空手はまだいい。父親の道場で、楓は一番成績をあげていた。俺は“そこそこ”でしかなかったけど、男女は分かれていたから、直接ぶつかることはなかった。それを言い訳にできた。
けど、チェスは違った。
これは親に言われたとかじゃなくて、自分でやろうと思って、自分ではじめた。けれど、遅れてはじめた楓に、あっというまに追い抜かれて、負けて、負けて、何度も負けた。
それでも絶対に負け続けてなんかやらないと、勝って覆そうと息巻いて、挑んで。
楓はジュニアチャンピオンになった。
俺は何一つ残せなかった。
中学最後の年、チェスも空手もやめた。
もう、挑む気力なんて、残っていなかった。