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第1話:全国武道騎士大会



───── 西暦2289年




《決まった───────────!》





《第154回全国武道騎士選手権・関東大会の2枠を勝ち進み、“向日葵の扉”を開く戦士になったのは、》






《赤井選手!同じ高校の小鹿選手と共に、関東大会を勝ち進みました!!》







「……やったな。小鹿。」




「あぁ。サスケ。」







 ***





東京都八王子市。

春には満開の桜が咲き、夏には潺の如き蝉時雨、秋になるとSNS映えしそうな紅葉が覆い、冬にはじゃじゃ馬戯れる雪景色。

様々な顔を持つこの学園の名は、中旺高校。都内有数の名門校だ。



「夢じゃ無いんだよな。」



汗の滴る武闘場で、ぼんやりと一言呟く男。

名は「赤井サスケ」。

赤髪がトレードマークの高校3年生。





「バーカ。テメェが実力で勝ち取ったんだろ。」

サスケの一言を、恰も子供の様に遇うもう一人の青年。

黄金色の髪が中々特徴的だ。

名は、「小鹿 光司」。






2289年。現代の日本はAIが発達。

200年前と比べると、その仕事の約99%は淘汰され、殆どの日本人は仕事を得るオポチュニティを失った。

しかし、根強く残るのは「民主主義制度」。

過去の様な「貧困」「裕福」といった概念は“金”では優劣がつけられなくなり、代わりに人々の上下を序列付けるのが、「純粋な強さ」である。


時は2100年代初頭。

AIが95%の職を奪い、世の天上界を支配していた“金持ち”が一般人に陥落する様は、所謂“平民”の歓喜に近い興味関心をそそり、世の大半を占める“平民”の意見は二次関数的に加速していった。

しかし、とは言ってもそう簡単に終わるつもりはないのが“金持ち”である。

金銭的な優位性が欠けたとしても、また別の手段を用いて平民に対して優位性を取ればいい。そう考えた当時の五大財閥頂点の故・オリックス中後が当時の最新技術を応用して作り上げたのが「特殊型対人戦闘服」───通称「特殊服」である。

これは名目上「他国からの侵略を武力保持により抑制する」という要素を建前として作った、自衛隊と似た理論により実現している攻撃性質を持った武装服であるが、それが“金持ち”の強さの証明であることに他ならないことは明白であった。


そこから、日本の武力社会は加速していく。

第1回全国武道騎士選手権大会。

それは学生の強さを競う大会であり、特殊服によって繰り広げられる派手な戦闘が民衆映えするからか、大々的にメディアに取り上げられ、毎年夏に行われる恒例行事となっていった。


全国武道騎士選手権大会の地区大会上位2名は、「歴戦者」と名付けられ、「向日葵の扉」と称される里ヶ浜スタジアムへの出入りを許される。

歴戦者の集う里ヶ浜スタジアムで行われる全国武道騎士大会里ヶ浜大会では、トーナメント方式で全国で1番強い者を決める。


里ヶ浜スタジアムは全国最大の武道場であり、娯楽性・権威性・酔狂性の側面を兼ね備え、観客の最大収容人数は20万人。

約300年前に「夏の甲子園」と称された国民的イベントの武道版だと思えば、理解しやすいだろうか。



その“憧れの地”に赤井サスケと小鹿光司は降り立つことが許された、選ばれし人間なのである。






「おめでとう!小鹿!」



「アスケも相変わらず凄いな!」



全国武道騎士選手権大会が終わり、中旺高校に戻ったその日から黄色い声援が2人を包み込んだ。

頼んでもないのに寄ってくる女、無駄にテンションの高い学校の先生、途端に先輩面してくる学校OB。良いことばかりかと言われると、決してそういうわけではないが、小さい頃からの憧れであるサトガハマスタジアムに足を運ぶことが出来る喜びは、負の感情すら一新する趣だった。




そして、9月1日。

中旺高校、体育館にて。


「小鹿 光司君!そして赤井 サスケ君!本当におめでとう!」

朝礼くらいでしか見たことのない、校長先生の顔は踊っていた。

ぺちゃんこに近い鼻を赤くし、酔ったおっさんみたいなニヤつき加減で、さも自分が勝ち進んだかのように意気揚々としたデブ校長からは不快な気持ちが芽生えんでもなかったが、仲良くしてたクラスメートが喜ぶ姿は素直に嬉しかったのを覚えている。



「お前らいつも一緒に練習してたもんなあ。」

「いつか扉の奥の感想教えてくれよな!」


確かに、小鹿とはいつも一緒に鍛錬してきた。

小学校の途中に小鹿が転校してきて、家が近いということもあり帰り道がてら公園で剣を交えたり、中学校では共に武道部に入部し、エースとして全国ベスト8。そして高校では2年生の時に関東ベスト8。そして今年、関東ワンツーフィニッシュを飾ることが出来た。



「辛気くせえ顔してんじゃねえよ。」


小鹿はいつも俺を捲し立てる。

だがそれは、ただのツンデレのツンだってことを俺は知っている。






 ***




「ここか。」



「流石にセキュリティ厳重だな。」



「身体スキャナ計5回、カードスキャナ計3回、音声スキャナ計2回、パーソナルスキャナ計1回って。何回セキュリティ通せば気が済むんだよ。」



「ま、そんだけ厳重だと逆に信頼できるってもんよ。ほら、最後のカードスキャナだよ。先通せ。」



場所は神奈川県某所

里ヶ浜スタジアム入り口に、小鹿と赤井サスケはやってきた。

そこは様々な認証を経てやっと入館できる近代技術の結晶のような入館システムを擁し、入るのにも一苦労なのは、見て取れるだろう。




『チュウオウ高校サンネン・第154回全国武道騎士選手権大会カントウ地区大会優勝者・アカイサスケ 認証しました。ゲートをお通り下さい。』


「じゃ、お先に。」


「直ぐ行くから入ったとこで待ってろよ。」





『チュウオウ高校サンネン・第154回全国武道騎士選手権大会カントウ地区大会準優勝者・コジカコウジ 認証しました。ゲートをお通り下さい。』





この扉の向こうが、俺達の明るい未来。

そう信じて疑わなかった。




だがその扉の向こうは、



───────── 絶望の始まりだった。







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