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役立たずの僕は王子に婚約破棄され…にゃ。でも猫好きの王子が溺愛してくれたのにゃ  作者: 鏑木うりこ


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9/11

その後 ノイエ・ベルワイトの悲劇

なかなか後味が悪い話になってしまいました……。

スカッとざまぁにならなかったので、猫が見たい方はスキップ推奨です!



「猫を従えよ」


 我がベルワイト公爵家に代々伝わる言葉だ。我が家は何代も前に魔術師として時の王と共に偉業を成し遂げ、公爵を賜った。

 しかし、平和な時代が長く続き、ベルワイト家から魔術師が輩出されなくなって何代目か……。それでもベルワイト家は揺るぎない権力を持ち、王家を支える筆頭貴族として権力を握り続けた。


 そのベルワイト家の長女ノイエは怒っていた。


「あのねこをころしておしまい!」


「お、おゆるしください!ノイエ様!」


 父親同士が友人の侯爵家で遊んでいた時だ。この家の飼い猫が牙を剥き、ノイエの手を引っ掻いたのだ。


「ノイエ。殺すとはいささかやり過ぎだ。我が家は何故か猫どもに嫌われるから、近づいては痛い目をみる」


 こう慰めるノイエの父も猫には毛嫌いされている。


「きっとベルワイトのご先祖様が猫に嫌われる事をしたのかな?」


「ふん!あんな生き物、こっちから願い下げですわ!」


 この国には猫が多い。しかしベルワイトの家のそばには1匹も近寄って来なかった。


 間違いなくベルワイトの先祖の魔術師が()()()()()()()()()()()()()()()



「お父様、あの汚い子供はなんですの?ジーク王子と一緒にいるあの小さくて見た目の良くない子供です」


「ノイエ、そのような事を言っては行けない。あの子とジーク様の婚約は昔からの決まり事なんだから」


「婚約?!あの子はどうみても男の子ですよ!?何故ジーク様と?!あんな子より私の方が似合っていますわ!」


 ベルワイト公爵は「それでも、昔からの……」を繰り返すばかりでノイエが納得する答えを出してはくれなかった。


「あの子供がジーク様にまとわりついているんですわ。私がジーク様をお救いして差し上げますわ」


 ノイエはその日からカイを徹底的に虐め始めた。ノイエは良く父親について王宮へ行き、目敏くカイを見つけた。


「汚いわ!なんであなたみたいなものがこの王宮にいるのよ!出て行って!」


「で、でも、僕、ここにいなくちゃ行けないから……」


 ぶん!と扇を振り上げれば、カイは身をすくませる。それが面白くて面白くて何度も何度もやった。


「あはは!馬鹿みたい!」


 最初は叩く振りだったが、ある日本当に殴ってしまった。


「あっ!」


「ひぃ……っ!」


 最初は罪悪感があった。しかし見ていたはずの王宮のメイド達でさえ、ノイエを叱らなかったのだ!

 そして怯え、震えるカイに優越感を感じた。誰も叱らないのを良い事にノイエの暴力は日に日に増して行く。


 カイはノイエがいれば近寄らないから、ノイエはジークと二人で話す事が出来た。


「ジーク様、何故王子様のジーク様が男と婚約しているのですか?おかしいではありませんか!」


「えっ!おかしいのかい?」


 ジークは何も知らなかったがノイエに言われ、異常に気がついて来た。ジークの側近達に聞いても通常ではないと言われてしまう。

 ジークの疑問は大きくなり、ついにカイを遠ざけ始めた。誰も文句を言わないどころか


「当然」「わかります」「ですね」


 肯定の言葉ばかり。王と王妃でさえ


「何故、カイはこの王宮に……先人の言葉とはいえ……」


 と言うほどだった。仲の良い友達だと思っていたし、婚約者だから大事にしよう、()()()()()()()()()()()()()()()()()なにか使命感のような物を感じていたがそれも少しずつ薄れて行く。

 そして王宮から何故か出たがらないカイを置いて学園に通い始めると、やはり自分とカイの関係性がおかしいと気づいてしまった。

 学園ではノイエと仲良くなり


「ジーク様、私と……あら、はしたのうございますわね」


「ふふ、公爵令嬢と王子の婚約ならば、何の遜色もございませんわよ」


 ノイエの友人に言われ、そんな気持ちになってくる。


「私にカイは必要ない!」


 無知とは罪であった。



 最初の異変は家中に響き渡った警報の音だったが、ベルワイト家の使用人達はそれを主人に報告はしなかった。

 すぐに止んだし、何処から鳴り響いたかも分からなかったのだ。


 それは地下深くに取り残された魔術装置だったが、それを知る者は既になかったから。


 その次に異変を感じ取ったのは料理長だった。


「た!大変です!執事さん!食料倉庫が全部ネズミにやられちまいました!」


「全部?!そんな馬鹿な!」


 元々この家には猫が寄り付かないからネズミの被害は大きかったが、倉庫の中身丸々やられる事など一度も無かったのに。

 確認しに行った執事も目を覆う程の惨状で、全てネズミに食い散らかされていた。

 掃除と新しい食料を買い込んでネズミが入る事が出来ないように念入りに塞いでも、数日後にはまたネズミに全て食い尽くされていた。


「執事さん、猫を飼ってください」


「……この家には何故か猫は住み着かないんだ」


 困り果てたが、何とか食い繋いでいた。この頃から食べ物の値段は徐々に上がって行った。



「た、大変です!旦那様!御領地の穀物倉庫がやられました!ネズミです!」


「な?!なんだと?!」


 ベルワイト家では大きな穀倉地帯を持っていたが、その倉庫がネズミの被害に遭ったという。


「して、被害は?!」


「7つあった倉庫全てと……」


「なっ……!」


 ベルワイト公爵は真っ青になって椅子に座り込んだ。


「こ、今年の、今年の収穫はどうだ?!つい先日まで今年も豊作だと報告を受けていた!」


 この国は天候も穏やかで、豊作が何十年も続いている。貯めておいた倉庫がやられても今年の収穫があれば、問題ないはずだ。


「そ、それが……どうも見た目はいつも通りですが、中身がスカスカで売り物にはならないと……そしてまたネズミが……」


「ネズミ!ネズミ!ネズミ!またあいつらか!忌々しい!!」


 ベルワイト家はここ数百年あるかないかの大赤字を余儀なくされる。


「私とジーク様の婚約が成ったのに、なんて事……」


 ノイエは幸せだった。あの目障りな子供は貰われて行ったのに、ベルワイト家がこんな目に。


「今年は運が悪かったのね。また来年盛り返すはずよ。だって毎年余るくらい農作物は取れるものね」


 そう、信じて疑わなかった。



 キィキィ、チチチ。


「きゃぁっ!ネズミ!」


 あちこちにネズミが走り回るようになった。うるさいくらい街にいた猫達が全て姿を消したのだ。


「お父様、ジーク様との婚約パーティーを」


「それどころではないっ!下がれ!ノイエッ!」


 ベルワイト公爵は何日も寝ていない寝不足の頭を抱える。


「今年の……収穫はほぼ見込めないとはどう言う事だ……?しかも山々まで枯れて来ている?何が、何が起こっているんだ……?」


 いつも温暖で天気が良かったのに、近頃は雨が降り続いているのも気になる。


「山が、枯れて……長い雨。まさかな……?」


 ベルワイト公爵の嫌な予感は的中し、枯れた山では大量に降り注いだ雨を留め置く事は出来なかった。山が崩れ、川は決壊した。


「うわああーー!水が!」


 国のあちこちで被害広がり、特にベルワイト領は穀倉地帯がほぼ壊滅、王都もかなり水に浸かるという被害が出る。


「ベルワイトは……ベルワイトは……終わった……」


「お父様!しっかりなさいませ!ジーク様に、王に助けを求めましょう!」


 しかし王宮も洪水の被害にてんてこまいであり、ベルワイトへ人を割くことは出来なかった。


「すまん、ノイエ。こちらも手一杯なのだ。何せ川が決壊する事など考えた事もなかったから、対策が……」


「しかし!しかし、ベルワイトは!」


「この状況でベルワイトだけ特別扱い出来ぬのは分かるであろう?!」


 ノイエは口を閉じるしかなかった。そして汚れた泥水に覆われた場所は、病に侵される。貧民街から死臭が漂い始め、それを止められない。

 ついに平民達が暮らす場所も病が蔓延し、とうとう貴族街まで嫌な臭いが立ち込め始めた。


「げほっ、なんですの。この臭い!」


「洪水の泥が腐り、病気が広がったのです。げほっ、げほっ」


「なんて事……そしてなんなの?この食事は!」


 ノイエの朝食は固くなったパンだけだった。


「何も……何も手に入らないのです……このパンも走り回り……やっと。げほっ」


ノイエ付きの侍女はもうしわけなさそうに頭を下げる。


「……そう、下がって良いわ」


「失礼致します、お嬢様。げほっ、げほっ!」


 ノイエは窓を開けて、閉めた。酷い臭いが充満している。窓の外には道端で蹲る人々。もう死が間近に迫っている。


「どうして、こんな事に」


 長年恋焦がれて来た王子との婚約が決まったと言うのに!ノイエはため息をつくしかなかった。


 そしてベルワイト公爵は病に倒れる。


「お父様?!」


「なぁに、仕事のし過ぎだ。すぐに良くなる」


 しかし、ベルワイト公爵はそのまま起き上がる事はなかった。


「お父様……どうして……」


 しかしノイエは泣いているわけには行かなかった。


「お、お嬢様、申し訳……げほっごほっ!」


「……ベッドで休んでおいで」


「しかし、奥様にお薬を……あと旦那様の葬儀を……」


「その体で何が出来るの?休んでおいで……」


 広く大きなベルワイト家で熱もなく動けるのはノイエだけになっていた。


「どうして……」


 ノイエの母親も高熱にうなされている。執事も料理長も、メイド達も。


「どうして、どうしてーー!」


 それに応えるものは誰もなく、その後の事は何も伝わっていない。



ノイエ・ベルワイトの悲劇 終

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