04 公爵邸(1)
「ミリオネア?」
聞きなれない言葉が聞こえたので聞き返す。
「えぇ、セリーヌ様の弟があの国と随分活発に交易を行なっているみたいで、最近では、ガルスとのやり取りも増えて手が足りないようね、、、あゝ、貴方も残念だったわね、彼との婚約が纏まっていれば良かったのに」
「それは残念に思います」
兄の様な人に憧れた覚えは無いので、婚約の件はどうでもいいが、確かに彼ともっと知り合う機会があれば、ガルスにも行く事があったかもしれない、、、でも今はお義兄様が南の国に行く事の方が大切だわ。
「お一人で行かれるのですか?」
「まさか、ノア商会の商隊に同行する形で行くのだそうよ、結構、大きな隊列になるのでは無いかしら?」
「そうですか」
「ロアンも別宅にいる人を放って置くくらいなら、別宅など、必要無かったのではないかしらね」
ロアンお義兄様は、別宅が必要になったから彼女と結婚されたのですよ。
言ってしまいたいが、どうせ数ヶ月すれば分かる事なので放っておく。
それより、お義兄様がミリオネアに行くなら一緒に行く事は出来ないかしら?
"精霊の国"のような神秘的な所なら、カリーナが求める相手がいるかも知れない。
お義兄様に相談してみる?
可能性は低い。元々、慎重派のお義兄様が仕事の場に妹を連れて行くなんて考えられない。
アレス様は?
こちらも難しい。ここ数年は会う事も無かったし、親友の妹を他国に連れて行ってはくれないだろう。
一番可能性が高いのはおじ様だが、何の理由もなく知らない国に行きたいと言ってもダメなのは分かっている。
見聞を広める?
交易の仕事に興味がある?
適当な理由を見つけても、きっと嘘だと分かってしまうし、『おじ様みたいな人と恋がしたい』とは流石に恥ずかしくて口に出来ない。
お養母様にお願いしたら、『自分で行く事も出来ないなら、自分で行けるようになってから言いなさい』と言われてしまいそう。
一番味方になってくれそうな人は、この国にいないけど、教えて貰った事はある。
「隠れる方法?」
「そう、見つかりたく無い時、どうすれば良かったのかなぁ? って」
「私も良く知らないけど、隠れたものより、紛れたものの方が探しにくいって聞いた事があるわ」
「紛れる?」
「沢山の落ち葉の中から、気に入った葉っぱを見つけ出すのは大変でしょう?」
「本当だわ」
彼女やイレーネ様のような髪や瞳の色なら難しいが、自分の茶色の髪や灰色の瞳なら紛れるのもそれ程難しい事では無い。
それにおじ様にお願いして、魔力も少しは使える様になったのだから、自分の身くらい守る事は出来るだろう。
目標が決まれば行動するだけだ。
出発の日時、商隊の規模、細かな所は分からなくても、知りたい事はいつものようにイレーネ様が教えてくれる。
これだけ兄の行動が気になるなら、そう言ってみてはどうですか? そう言いたくなるが、きっと認める事はないのだろう。
彼女を見ているとやっぱり自分の気持ちに正直でありたいと思う。
南の国まで行って、好きになれる人が見つからなかった時は、おじ様に恋していればいいわ。
それ以上の人がいなかったのだから、仕方ないもの。
それに私が好きになった人が、私を好きになってくれなくても構わないわ。
私がその人を思う気持ちは、私のものだもの、その気持ちを大切にすればいいのだから。