05 ミリオネア(5) -アレスside
クスクスと笑うカリーナの声から逃げる様に船室に戻る。
俺は一体何をやっているんだ?
レオーナやダナー殿が乗船した事で既に出港が遅れているのに、船室に籠っている場合では無い。
そろそろ出港させなくては、日が落ちるまでにミリオネアに着く事が出来なくなるのに気分が落ち着かない。
戸棚から最近寝酒に飲んでいるアルコールを取り出して飲み昔を思い出す。
カリーナに初めて会ったのは、今のファリスと同じ年齢の頃だ。
家の事を兄に任せ、貴族院の令状から逃げる為にロアンの屋敷にいた頃、彼女が公爵家にやって来た。
公爵夫人が養女にしたのはどんな娘だろうと思っていたが、期待したものとは違い、現れた少女は平凡な娘だった。
栗色の髪に空灰色の瞳は、母親から受け継いだ物で、公爵家に嫁いだばかりのイレーネの言葉に傷つき泣いている娘は、可哀想に思えても決して興味を引く対象では無かった。
若気の至りと言ってしまえばそれまでだが、当時の自分は調子に乗った若者で、誠実さや謙虚などとは程遠い生活を送っていた。
王都の剣術試合でも、魔力勝負でも負けた事は無いし、何となく始めた商売も上手くいっていて、女性にも不自由していなかった。
『僕のお姫様』と言う呼び方は、当時、付き合いのあった女性の名前を間違えない為に、アレスが良く使っていたもので、それ自体には余り意味は無く、そして、それを分かっている様な相手としか遊んでもいなかった。
ロアンが可愛がるので、他の女性達と同じ様にカリーナの事も『僕のお姫様』と呼び、適当に相手をしていると真っ直ぐな瞳に、『違うわ、私はお姫様では無いの』と正された。
「そうか、ではこれからはカリーナと呼ぼう。それでいい?」
「はい」
少女の自分を卑下した言葉では無く、ただ事実を伝えるその言葉を聞いた時から、弱く幼い少女が大切な妹になった。
カリーナは、その時から大切に思ってきた妹だ。
確かにその後、自分の行動を見直す様にはなったし、不特定多数だった相手が減っていったが、何となく始めた物が形になり忙しくなったからで、それ以外の理由ないはずだ。
それなのに、自分以外の男性がカリーナの近くにいる事にイライラしている自分がいる。
一体、何を考えているんだ。
女性にこんな感情を持った覚えは無い。
付き合った相手の行動を制限した覚えは無いし、他人の目に触れさせたく無いなどと考えた事も無い。
それを今さら彼女に感じているなんて、冗談でも口にする事が出来ない。




