君が大人になる前に、この恋の歌を聴いてみて
『君が大人になる前に、この恋の歌を聴いてみて』
以上が、未来の私からのメッセージ。
ある日、引き出しを開けたら、冗談みたいな手紙と一緒に古びたカセットテープが一つ。
カセットテープなんて、あり得ないのに、私の手元には事実テープが有る。
カセットテープが聴けるデッキなんか持ってなかったから、おばあちゃん家に行って物置からCDラジカセを掘り出した。
おばあちゃんには適当な理由を言って誤魔化した。
何故か、微笑んで何も言われなかったけど。
ジジジー、というノイズの後に……私の歌声が流れた。
多分、大人になった私の声だ。
歌の内容は、破れた恋について歌っていた。
なんだ、ハッピーエンドじゃないのかと、ちょっと嫌になった。
でも。
切ない歌声を繰り返し聴く内に、涙が自然と出てきた。
なんだこれ、と思ったのに、涙は止まらない。
ああ、未来の私はこんな切ない恋をするんだ。
想っても想っても報われない、そんな恋をするんだ。
虚しいどころか、何だか逆に清々しくなってきた。
いいじゃないか、こんな恋でも。
私はちゃんと大人になった。
過去の私にこうして後悔するなよってメッセージを送ってくれたんだから。
切ない歌声と歌詞の意味を考えていると、
ブチッとテープが切れた。
カラカラ……空回りするカセットテープ。
『君が大人になる前に、この恋の歌を聴いてみて』
メッセージはちゃんと残っているのに、歌は二度と聴けなくなっちゃったや…………。
二度と聴けないけれど、耳の奥に残っているあのメロディー。
はっきりと口ずさむ。
後日。
今、付き合っている貴方に突然言われた。
「なんか、良い歌だね」
言われて、気付いた。
自然と口ずさんでいたらしい。
ああ……と私はふと思った。
この人かは、分からないけれど、私は未来に狂おしい程の恋をするのだ。
そう思うと切なくて、苦しくて、おかしくもないのに、笑ってしまった。
そして、涙が出た。
突然、笑い出して、次に泣き出した私に、貴方は驚いて目を見張って、何も言わずに抱き締めてくれた。
「大人になる前に、君に恋の歌、歌いたいよ」
今度は、私が驚いて、目を見張った。
大粒の涙が流れる。
貴方のその言葉、嘘じゃあ、ないよね……?
私は、ただただ涙していた。
お読み下さりありがとうございました。