落丁
この小説はTwitterの創作企画『世界に響く、音楽を!(セカヒビ)』の守河みらいと特対中心のストーリーです。
この世界には生まれながらにして特殊な力を持つ人間が1割程度存在する。
その人智を超えた力を使うと、その周りには音楽が響き渡る。
故に彼らを、"響人"と呼ぶ—
これは、響人とそれを取り巻く人々の正義の物語。
さぁ、響かせよう。
己が為の正義の音楽を!
「本日から警視庁特別対策部に配属となりました守河みらいと申します!」
ここは警視庁内の一角にある部署。
"特別対策部"比較的新しい看板が吊るされるこの部署は他の部署に比べ規模が小さい。
そんな創設されて5年も経たない小さな部署に配属された守河みらいは警察学校を卒業したばかりの新人警察官である。
「守河君は臨床心理士の資格をもっているため主に保護や拘束した響人のケアを行ってもらう。故に彼女には管理課への配属となる。が、しかし…」
「はい!ご紹介にあったように所属は管理課になるのですが、普段は組織犯罪対策課での活動となると思います。というのも…上終さん?あれ、上終さんは…」
みらいは目の前に並ぶ特別対策部の先輩刑事たちの中から見知った顔を探しキョロキョロと見回す。
「上終さん〜?あ、もしかしてトイレですかぁ?はっ!トイレであんなことやこんなこと……」
「バーカ。変な妄想してんじゃねぇ」
「イテッ」
「まぁ通常運転で安心だがな」
「上終さんが私の心配するなんて…ちょっと怖いです」
「心配して損したよ。…そんなことより」
上終と呼ばれる目の周りの隈が濃い気怠げな男はみらいの頭を再び前に向かせて説明を始める。
「コイツは俺の主治医…というか監視役として基本的に俺と行動する。雑用があればバンバン押し付けて良いからな」
「ちょ、上終さん痛い…。はい、そういうことなのでどうぞよろしくお願いします!」
警視庁特別対策部、通称"特対"—
数年前とある響人がらみの事件の後、急遽作られた部署。
他の部署では扱いきれない響人がらみの事件を対処するための部署である。
生活安全課、刑事課、組織犯罪対策課、管理課、事務課に分かれており、
上終の所属する組織犯罪対策課は主に"異能力犯罪組織『ノイズ』"という最近存在が知られてきた響人の能力を用いた犯罪を行う組織に関する事件を対処する。
「上終さん、そのノイズ…って何をしてる組織なんですか?」
「基本は麻薬の密売や暴力沙汰など大体の暴力団とやってることはかわらなないんだがな。その構成員のほとんどが響人であることが問題なんだ」
「そうですね、そういう人がいるせいで無害な響人の方々の偏見が増すかもしれない。実際響人ってだけで入居を断られたりいじめを受けたりがありますから!許せません!」
「……あとは人身売買してるなんていう妙な噂も立っている」
「人身売買…そんな薄い本みたいな話ほんとにあるんですか?」
「薄い本…? いや、まだ実態は掴めていないからあくまで噂だがな。響人の能力のような人智を超越した力が欲しい金持ちなんていくらでもいるだろう」
説明をしながらどこかへ向かっていた上終とそれを追うみらい。
上終はある古びた部屋の前で立ち止まる。
「ここは…?」
「捜査終了した事件の資料 その保管室」
軋むドアをおもむろに開け放った上終は埃っぽい机に無造作に置かれた資料を読み漁る。
「えぇ?!ここ普通に立ち入り禁止って書かれてますけどいいんですか?!」
「……」
上終が目を通す事件資料。そのどれもが既に解決済みで何の変哲もない事件ばかり。
ふと上終の目に見知った苗字が飛び込む。
"…事件被害者の関係者: 守河 新 (19)…"
「上終さん、この資料のここ、落丁してません?」
上終のそばで目的もなく資料のファイルに目を通していたみらいがそう呼びかける。
「順番通りに並べられている割にはどうも急に飛びすぎな気がするんですよね〜」
みらいが手にするファイルには十数年前の事件ばかりがまとめられられている。
「それは……。
…別におかしなところはないだろ。仮に落丁していたとしてもここの資料は別に無くなっていようがかまわないしな」
「そういうもんですか?」
「そういうもんだ。…行くぞ」
「えっ、ちょ、待ってください!」
みらいの呼びかけを他所にせかせかと資料室を後にする上終の表情はどこか不安げであった。
続く