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第94話 理の地下神殿・下層

 ヘル・ハウンドとの戦闘をゲイル達に任せ、アベルとティナは理の地下神殿・下層を進んでいる。上層は古城風の風貌、中層は洞窟風の見た目であったが、下層はまた全く異なる雰囲気だ。まさに古代遺跡といった見た目。壁には光る回路のような紋様が一面に描かれている。壁に手を触ると、暖かくも冷たくもなく、材質は石でも金属でもない、不思議な感触。《グリニッド海底遺跡》と同じ材質で出来ているようだ。


 少し薄暗い通路を、二人が静かに進んでいく。二人の下層探索は、思いのほか順調だ。だが、ティナの表情は冴えない。探索があまりにも順調すぎるからだ。


「何も、いないわね」


 ティナの声が、しんとしたダンジョン内に響く。Sランクダンジョンの深部だと言うのに、敵が全くいないのだ。ティナが疑問に思うのも無理はない。


「中層のボス部屋で《索敵》をしてみたんだけど、下層に敵がいる気配は感じられなかった。多分、最下層からの魔力が強すぎて、モンスターが寄り着かないんだと思う」


「そっか。……『輪廻の理』がそれほど強敵ってことよね」


 ティナの言葉に、アベルがコクンと頷く。


「それに、魔王ラドの肉体も最下層にあるはずなんだ。ラドがそう言ってたから」


 アベルが小さな声でそう言う。黙り込む二人。シンとしたダンジョンが、さらに静かになる。二人の足音だけが辺りに響く。


 一本道が続く通路を、二人はゆっくりと歩いていく。2つほど階段を下りた後、二人の目の前に初めて分かれ道が現れる。アベル達は右の通路を進む。100メートル程歩くと、行き止まりにたどり着く。よく見ると、目の前の壁には紋様が描かれている。どうやら、扉のようだ。


「ここが、最深部?」


 ティナの言葉にアベルが首を横に振る。


「いや、『輪廻の理』の気配は、もっと下にある。ここは最深部じゃなさそうだ」


 アベルはそう言いながら、壁の紋様に手を振れる。ヴンッという音と共に、目の前の壁が消え、部屋への入り口が現れる。恐る恐る部屋へと入っていく二人。


「うわぁ……すごい綺麗……」


 ティナが驚きの声を上げる。20m四方ほどの大きな部屋。その中心に、5メートル程の巨大な立方体のオブジェがある。立方体の表面は光の筋が所狭しと走っており、まるで精密な回路のようだ。立方体が放つ光が部屋の壁を照らし、幻想的な雰囲気を醸し出している。


「これは……何かの魔導装置みたいだね」


 アベルが立方体のオブジェに触りながらそう言う。ティナもアベルに近づき、光り輝く立方体をじっと見つめる。そして、何かに気付いたように口を開く。


「ねえ。このダンジョンって、《ことわりの地下神殿》って名前よね。そして、国王は『輪廻のことわり』がこの遺跡の一部って言ってた。ということは――」


 ひと呼吸おいて、ティナが続ける。


「この魔道具って、アベルとラドの『転生装置』じゃない? 輪廻って、転生って意味でしょ?」


 ティナの言葉に、アベルが一瞬驚いたような表情を浮かべ、口を開く。


「――確かに、筋は通ってるね。Sランクダンジョン、つまり王家の遺跡にはそれぞれ、特別な役割がある。ということは、《理の地下神殿》が勇者と魔王の『転生』を司る役割を担っているのかもしれない」


 アベルの言葉に、ティナがコクっとうなずく。再び訪れる静寂。そして、アベルがゆっくりと口を開く。


「――闘いが終わったら、バズさんに遺跡の解析をお願いしよう。バズさんなら、きっと……」


 アベルの言葉に、ティナがニコッと優しく微笑む。


「ええ。きっと、アベルの願いを叶えてくれるわ」


◇◆◇◆


 アベル達は部屋を出て、再び分かれ道まで戻っていく。今度は、分かれ道を反対方向に進み、ダンジョンの奥へと進んでいく。300メートルほど歩いたところで、階段が現れる。


「ねえ、アベル。ここが……」


 ティナの言葉に、アベルがコクリと頷く。


「うん。ここが、最下層へ続く階段。この下から、敵の気配がする」


「敵……輪廻の、理」


「それだけじゃない。ラドの肉体……魔王も一緒だ」


 アベルの言葉に、ティナが悲し気な表情を浮かべる。


「ラドと……闘うの?」


 アベルが首を縦に振る。


「この先にいるのは、ラドじゃない。ただの、魔王の体だ。ラドは、ラドの心は、僕達と一緒にいる」


 アベルの言葉に、ティナが優しい笑みを浮かべる。


「そう……そうよね。ラドはずっと、アベルと、私たちと一緒にいるのよね。それじゃ、チャッチャと敵を倒しに行きましょうか! それで、早いとこラドと再会しないとね!」


 ティナが元気な声を上げる。つられて、アベルも笑みをこぼす。


「そうだね。それじゃ、最終決戦と行こうか! いつもの3人で、敵を蹴散らそう! 頼りにしてるよ、ティナ! ラド!」


 アベルはティナに微笑んでから、懐にしまってある白い魔石を握りしめる。そして、ゆっくりと階段を下りていく。力強く、しっかりとした足取りで、アベルは前に進むのだった。


お読みいただき、ありがとうございます。

ついに、理の地下神殿・最下層に到着しました。決戦が、始まります!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 下層に敵がいないのは拍子抜けしたけど納得。 [気になる点] モフニウム成分が不足してきた [一言] 最終決戦、アベルがどう立ち回るかだな。 どういった決着がつくのだろうか。
[良い点] ついに決戦ですか。ラドの魔石がどうつかわれるか期待します。ラド出てこないかなあ。
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