第88話 国王・フレデリクへの尋問
残った伏線を回収します。
作戦会議後、アベルはティナ、セシリア、ガイアスとともに王宮の西はずれの塔に来ていた。高さ五十メートルはある高い塔。その最上階は、王族の寝室であり、国王フレデリクが軟禁されている場所でもある。アベル達がこの場所を訪れた理由。それは、決戦前に国王に尋問したいことがあったためだ。
扉を開け、国王のいる部屋へと入る。豪華絢爛な雰囲気の広々とした部屋。国王は客間のソファに座り、くつろいでいる。傍目から見れば、とても軟禁状態だとは思われないだろう。
「ふん、お前らか。して、何の用だ」
国王が口を開く。いつも通り、尊大な物言いだ。
「『輪廻の理』について教えていただけませんか? 国王陛下」
セシリアがニコっと冷たい笑みを浮かべながら、国王を問い詰める。
「ふん」
国王が不遜な態度でセシリアを無視する。すると、今度はガイアスが国王に圧力をかける。
「国王陛下、恐れながら、あなた様は『輪廻の理』に見捨てられたわけでございます。それに、既にあなた様は事実上失脚しております。真実を隠すことは、陛下自身のためにならないと思いますが?」
ガイアスが凄みを効かせ、鋭い目つきで国王を見つめる。事実、国王フレデリクの生殺与奪権はセシリアが握っている。既に実質的な権力はセシリアにある以上、適当な理由をつけて国王を処刑することも出来るわけだ。
「わ、分かった。全て話そう」
自分の立場をようやく理解したのか、国王が震えながらそう答える。態度も心なしか従順になっている。
「まず、『輪廻の理』について教えてください。あれは、一体何者なんですか?」
アベルの言葉に、フレデリクは口を押えて考え込む。何から話せばいいものか、と悩んでいる様子だ。
「あれは、王家の始まりと共に作られた、古代文明の遺物。王家の維持のために作られた、魂の転生をつかさどるシステムだ」
「システム? つまり、あれは人間がつくりだしたもの、ということですか?」
セシリアの言葉に、小さくフレデリクが頷く。
「ああ、そうだ。言い伝えによれば、な」
「なんで、そんなものを?」
アベルの質問に、フレデリクが口元を緩める。
「民をまとめるには、何が必要だと思う?」
フレデリクが問いかける。アベル達は、眉をひそめ、無言で答える。ひと呼吸おき、フレデリクが続ける。
「それは、敵だ。敵がいれば、民衆はまとまり、王家に不満など抱かなくなる。そこで、画期的なシステムを作り出したのだよ。魔王を生み出し、王家の危機のたびに王国の敵として転生させる。そして、救世主として転生した勇者が、魔王を撃ち滅ぼし、王国の力を民衆に知らしめるのだ。勝利に民衆は熱狂し、取り返した平和とともに王国の繁栄を願う、と言う訳だ」
アベルは、顔をしかめる。ラドとアベルは、まるで傀儡のように『輪廻の理』と王国に操られていたわけだ。
「ふむ。勇者と魔王の因縁は『輪廻の理』の仕業。つまり、奴を倒せば、アベル君とラド君は解放される、と言うことですな」
ガイアスの言葉に、フレデリクが小さく頷く。だが、アベルには一つ解せない点がある。
「勇者と魔王を転生させたのはなぜ? 危機のたびに新たに魔王と勇者を作り出せばいいのでは?」
アベルの質問に、ニヤッと不快な笑みをフレデリクは浮かべる。
「刷り込み。」
フレデリクの一言に、アベルはピクッと反応する。とても、不快な言葉だ。
「王国の危機に立ち上がり、魔王を倒して王国を救う。これを貴様らに刷り込むためさ。魂の奥底に刷り込まれたシナリオは、貴様らの行動を縛る。勇者の貴様は、生まれるたびにこう思ったはずだ。『王国を守らねば。人々を守らねば』ってな」
フレデリクの言葉に、今度はガイアスの顔が歪む。
「魂の呪縛……貴様らの意図的な仕組みだったのか」
拳を握りしめながら、ガイアスはそう言う。
ひと呼吸おいて、セシリアが言葉を発する。
「次の質問です。なぜ、『輪廻の理』は《理の地下神殿》へ向かったのですか?」
「『輪廻の理』は《理の地下神殿》の一部だ。恐らく、ダメージの修復をしているのだろう」
フレデリクの言葉に、ガイアスが首をひねる。
「一部? ということは、《理の地下神殿》も王家の遺跡というわけですかな?」
「ああ。そうだ。Sランクダンジョンは全て王家の遺跡だ。そして、遺跡にはそれぞれ、特別な役割がある。魔王と勇者の闘いを記録する《グリニッド海底遺跡》のように、な。」
アベルはようやく合点がいく。なぜ、Sランクダンジョンだけ探索が制限されているのか。それは、王家の秘密が漏れるのを防ぐというのが理由だろう。
「遺跡には役割がある――もしかして、《ミラージュの塔》がダンジョン化したのも、王家の遺跡の影響……?」
セシリアの言葉に、フレデリクが頷く。
「そうだ。《ハーディン空中都市》。建造物を人工的にダンジョン化する遺跡だ。もともとは、王家の遺跡をダンジョン化し、民衆の目に触れるのを防ぐための装置だった」
「もともとは……ということは、《ミラージュの塔》のように、王家にとって不都合なものを隠すという使われ方もされている、と?」
セシリアの質問に頷きながら、フレデリクが語りだす。
「今では、《ハーディン空中都市》の役割は多岐にわたる。ギルドなんてものができ、遺跡に挑戦したがるバカ者が溢れてきたのでな。遺跡のカモフラージュとして、似たような人工ダンジョンを作ったり、ギルドの力を削ぐために強力なダンジョンを出現させたり。色々と大変なのだよ」
ガイアスの言葉に、ガイアスが渋い表情を浮かべる。
「ということは、『踏破型ダンジョン』は、全て《ハーディン空中都市》により造られたもの、ということですな。勇者や魔王だけでなく、冒険者やギルドも王国のシステムに踊らされていた、と」
ガイアスが珍しく苛立った口調でつぶやく。
「ああ、そうだ。全ては私の手のひらの上で踊っていた、という訳だ。そして、貴様ら平民が平和を享受できたのも、全ては崇高な王家のシステムのお陰だ。貴様ら卑しい者共が古の理に抗い、どんな結末を迎えるのか。楽しませてもらおう。フハハハ!」
まるで負け惜しみのような、国王フレデリクの高笑い。耳障りなその声を聴きながら、アベル達は国王の寝室を後にする。
決戦は3日後。情報は全て揃った。後は、作戦を実行するだけだ。
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次回、ついに作戦開始! 《理の地下神殿》に突入します!