第9話 黒曜の洞窟・下層
黒曜の洞窟地下1階を難なく踏破し、地下2階へと進むアベル達。地下2階も、アベルの索敵を使ってズンズンと進んでいく。
地下2階と地下1階とでは、敵やダンジョン構造は基本的に同じだ。敵はコボルトにゴブリン。特に気を付ける必要がある敵ではない。
難なく地下2階を抜け、アベル達は地下3階へと進んでいく。黒曜の洞窟の下層。ダンジョン内の雰囲気がこれまでとガラッと変わる。
「ほんと、黒いのね。それに、暑い」
ティナの言う通り、洞窟の壁は黒くキラキラとした石でビッシリと覆われている。そして、ダンジョン内の異常な暑さ。まるでサウナのような環境だ。
「先を急いだほうが良いね。どんどん体力が奪われていく」
「大丈夫よ。任せて。《アダプテーション》」
ティナが魔法を詠唱すると、緑色の光がパーティーメンバーを包み込む。嘘のように暑さが消える。
「な、何をしたの? ティナ」
「ああ、環境適応魔法の《アダプテーション》よ。見たことない? 体の周りに薄い真空の層を作る魔法なの。暑さや寒さを遮断できるから、いつも快適な温度で過ごせるのよ。便利でしょ?」
三度あっけにとられるアベル。この魔法があれば、火口付近なとの今まで冒険者が近寄れなかったダンジョンにも入ることができてしまう。正直、便利どころの騒ぎじゃない。
「こんなスキル聞いたこともないよ……」
「あら、そう? うーん、もしかしたら、《聖女》しか使えない魔法だったかも……」
腕を組み、考え込むティナ。はぁっとアベルはため息をつく。
「と、とりあえずありがと。すごく便利なスキルで助かるよ。それじゃ、進もうか」
もう驚くことに飽きた、と言わんばかりの表情を浮かべるアベル。だが、気を取り直して探索を続ける。
まずは今回の討伐目標のレッサードラゴンがいる場所を知る必要がある。アベルは《索敵》を行う。
「えーっと、このフロアには3匹のレッサードラゴンがいるみたい。一番ここから近いのは……通路を曲がって右側100mのところだ」
「結構近いわね。《プロテクション》」
ティナがすかさず、3人にプロテクションをかける。パーティー内の連携もバッチリだ。黄色い光の層が3つ見えるので、プロテクションを3つ重ね掛けしたようだ。
「ありがと、ティナ。それじゃ、レッサードラゴンについて、確認しようか」
アベルの言葉に、ティナがうなずく。
「レッサードラゴンの攻撃パターンは2つ、物理攻撃とフレイム。特に厄介なのはフレイムだね」
アベルは続ける。
「レッサードラゴンは力が強いけど、動きが鈍いんだ。だから、僕とラドなら問題なく攻撃をかわせるはず。万が一攻撃が当たっても、ティナの《プロテクション》で防げると思う。だから、ティナが離れて戦えば、特に問題ないはずだ」
「ええ。レッサードラゴン程度なら、わたしの《プロテクション》はびくともしないわ」
頼もしいティナの言葉に、アベルは口元を緩める。が、すぐに表情を引き締めて、話を続ける。
「問題なのはフレイムだ。レッサードラゴンのフレイムは、広範囲の火炎攻撃。狭い洞窟内で撃たれたら、逃げ場がない。ティナ、《アダプテーション》で防げそう?」
「多分ムリね。フレイムって、火炎の旋風でしょ? 《アダプテーション》の空気の層が吹き飛ばされちゃうわ。私の魔力だと、そこまで強固な空気の層を作れないの。あと、《プロテクション》も物理攻撃にしか効かないから、フレイムには効果がないわ」
《アダプテーション》は、体の周りに真空の層を作り、外界から遮断することで熱さを防ぐ。真空の層が吹き飛ばされてしまえば、熱風を防ぐことはできない。
「OK。じゃあ、作戦は『速攻』で決まりだね。レッサードラゴンがフレイムを吐く前に仕留める」
「了解。《プロテクション》を3重掛けしといたから、回避や防御を考えずに猛攻撃をかけちゃって大丈夫よ。あと、万一の時の回復役も任せてね」
「ありがとう、ティナ。それじゃ、行こうか」
アベルとラドが攻撃態勢に入る。グッと身をかがみ、攻撃の機を窺う。ティナは後方で待機。索敵で敵の位置を探るアベル。敵影距離は、38m、35m、32m、30m、徐々にレッサードラゴンが近づいてくる。まだアベルとラドは動かない。
25m。アベルがラドに合図を出し、二人が一斉に飛び出した。
ドドドドドド!!
その刹那、急に大きな地鳴りが響き、ダンジョン内が大きく揺れる。地震だろうか。アベルとラドは攻撃を中断し、地面にしゃがみ込む。立っていられないほどの振動に、ティナも地面に手をついている。
不意に鳴り響く、「ドン!!」という大きな音。足元を見ると、地面に大きなヒビが入っている。そのヒビは徐々に大きくなり、アベル達の周りの地面が崩れていく。
「地割れだ! 逃げ……」
アベルが大声を上げた瞬間、地面は完全に崩れ落ちる。アベル、ラド、ティナの3人は地割れに飲み込まれ、暗闇の底に吸い込まれるかのように下層へと落下していった。
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次回、レッサードラゴンの大軍と戦闘です。