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第83話 幻獣・ラドの闘い

「クルルルルル」


 ラドが高い唸り声を上げ、国王の背後にいる怪物『輪廻りんねことわり』をにらみつけている。そして次の瞬間、その場からラドがフッと消える。


キイン!!


 はるか前方、国王の玉座近くから金属音が響く。20メートルは離れている部屋の反対側から、ラドは一足飛びで敵に飛び掛かっていた。目にも映らない速さ。Sランクダンジョン《ことわりの地下神殿》で以前見たラドより、さらにスピードが増している。ラドがレベルアップした分、真の姿のラドも戦闘能力が上がっているようだ。だが、敵も信じられない反応で剣を抜き、ラドの鋭い爪を、防いでいる。


キキキキィン!!


 ラドが凄まじいステップで四方八方から敵に襲い掛かる。目にもとまらぬ攻撃を剣で防ぐ輪廻の理。レベルが違いすぎる攻防に、アベル達は全く手出しできない。


「ラド、すごい……こんなに強かったんだ……」


 ティナが小さく、呟くように言葉を発する。初めて見る真の姿のラドの闘いに、言葉を失っているようだ。一方のアベルは、唇を噛みながら、呆然とラドの闘いを見つめている。


「ラド……もういい。もう、やめてくれ」


 アベルの脳裏に浮かぶのは、初めて会った時のティナの言葉。『幻獣が真の姿で戦うと、莫大なエネルギーを消費する。最悪、ラドの存在が消えてしまうかもしれない』。アベルは、凄まじい強さで闘うラドを、悲痛な表情で見つめている。


ザン!!


 ラドの鋭い爪が輪廻の理の左手を直撃する。本を持った左手が吹き飛び、青い血がしたたり落ちる。輪廻の理は、アベルの《縮地斬》でもビクともしなかった強敵。だが、その輪廻の理を圧倒するほどに、ラドは強い。


 戦況を見ていたセシリアとティナに安堵の表情がこぼれる。一方のアベルは、顔を歪ませ、大きな声で叫ぶ。


「ラド、もういい! 体が……消えてしまう!」


 アベルの言葉に、セシリアとティナがぎょっとする。ラドの体が、少し透けている。存在が、消えかかってきているようだ。


キキキキィン!!


 ラドが猛攻を仕掛ける。俊敏性を活かし、フェイントを交えつつ凄まじい速さで斬撃を与えていく。一方、輪廻の理は防御に徹し、ラドの攻撃を全てギリギリのところでいなしている。どうやら、ラドが長く戦えないことを見抜いているようだ。このままラドの攻撃を防ぎきり、ラドが消滅するのを待つ作戦だ。戦況は優勢だが、決め手がない。


 ラドがゼエゼエと苦しそうな表情を浮かべている。ラドの体が、さっきよりも透明になっている。


「ラド!! もう、もういい! もういいよ!!」


 アベルの目から涙が流れる。悲痛な叫び。


 キィン、という音とともに、ラドが輪廻の理から距離を取る。


 その直後、ラドがアベルの方を振り返る。いつも通り優しく、アベルを見守るように見つめている。そして少し悲しげな表情を浮かべる。


フィイイイイイ!!!


 辺りを甲高い音が響く。音の発生源は、ラドだ。そしてラドが強く、白く光り輝く。まるで命を燃やしているような、凄まじいエネルギー。


「ラド! だめだ、やめろーー!!!」


 アベルの叫びが響く中、ラドが輪廻の理に向かって突進していく。


ザン!!


 まぶしく光り輝くラドが、左前足を振りかぶり、輪廻の理を薙ぎ払う。敵は右手に持つ剣でラドの攻撃を受け止めるも、そのまま右手ごと吹き飛ばされてしまう。その直後、ラドの左前足がフッと消える。もう、体を保てないようだ。


 ラドは右足で地面を蹴り、輪廻の理に追い打ちをかける。凄まじい速さで間合いを詰め、今度は右前足で右下から左上に斬撃を繰り出す。


ザン!!


 輪廻の理の胸部が大きくえぐれ、着ていた貴族風の服がズタズタになる。悪魔の頭部が、苦悶の表情を浮かべる。かなりのダメージを負っているようだ。


 だが、今度はラドの右前足が消失する。両の前足を失ったラド。その場に立ち尽くし、アベルを振り返る。そして、微笑を浮かべる。その瞬間、アベルは悟った。ラドは、消えてしまうのだ。


「ラドーーー!!!」


カッ!!


 ラドが強く光り輝き、アベル達の視界を真っ白な光が覆う。凄まじい光だが、なぜか眩しさを感じない。まるで白い光に呑み込まれていくような感覚。


そしてアベルは、意識を失った。


お読みいただき、ありがとうございます。

少し衝撃的な展開となりますが、この物語は【ハッピーエンド】です!



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― 新着の感想 ―
[一言] ラドが覚醒した時点でまさかと思ったけどマジか…。
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