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第80話 国王・フレデリクとの心理戦

「国王の私が魔王の誕生に関わっていると言っているように聞こえるが……どういうつもりだ? セシリア」


 国王フレデリクが言葉を発する。威圧感たっぷりの口調だ。


「ええ。おっしゃる通りですわ」


 ニコッと満面の笑みを浮かべながら、セシリアが言い放つ。


「わたくし、国王様が魔王の誕生に関わっていると、確信を持っておりますの」


 本当に、セシリアは度胸が凄い。セシリアは事実上、国王を告発しているわけだ。にもかかわらず、全く物怖じしないセシリアに、心底アベルは感心する。


「ほう、それはまた、大きく出たな。相応の覚悟はあるんだろうな。不敬罪では済まぬぞ。お前とて、最悪首が飛ぶ」


 国王がセシリアをにらみつける。怒気を含んだ、鋭い目つきだ。そのプレッシャーを全く意に介すことなく、セシリアが話を続ける。


「最初に国王様を疑ったのは、《グリニッド海底遺跡》の書物を解読したときですわ」


「な! 貴様、アレを解読したのか!?」


 驚きの声を上げる国王。一瞬して、しまったという表情を浮かべる。《グリニッド海底遺跡》の暗号文書の存在を知っていることを、自ら暴露してしまったからだ。


 一方のセシリアは、してやったりという表情だ。


「あら、やっぱり国王様も文書の存在をご存知だったんですね。その書物になんと書いてあるか、もちろん知っていますよね?」


 セシリアが国王を攻め立てる。心なしか、楽しそうな表情を浮かべているようにも見える。


「……」


 国王が、黙りこくってしまう。記録室の存在を知っていたことがバレた手前、今更中身を知らないとも言えないのだろう。


「言いたくないご様子ですね。私が代わってお答えしましょう。『先代勇者が王都を訪れた際、勇者と行動を共にしていたラドを王国の秘密機関が拉致し、魔王として覚醒させた』。そう、記述されていました。他にも、歴代魔王の誕生に王国が関与したことを示唆する記述が沢山ございました」


 国王フレデリクはいらいらした様子で、ひじ掛けを人差し指でトントンと叩いている。


「ふん。あんな書物、信憑性があるか怪しいではないか」


「あら。王国指定のSランクダンジョンの最奥、隠し部屋にある暗号文書が信頼おけないと?」


 セシリアの一言に、国王が再び黙りこくってしまう。反論できない様子だ。


「他にも、証拠はございますわ。3か月前の国王様と《テレフォン》でお話したときのことです」


 ピクッと国王が反応する。


「『()()()()()があり、魔王と勇者が幻獣と幻獣使いとして転生していることを知った。勇者と魔王の闘いを阻止するため、ミラージュの塔にある真実の鏡を使って、彼らを探すつもりだ』と国王様にお伝えいたしました」


「ふん、神のお告げなどと嘘をつきおって。海底遺跡で手に入れた情報だったのだな」


 国王フレデリクが、苛立った表情を浮かべる。一方のセシリアは、ニコッと笑いながら何事も無かったように話を続ける。凄まじい胆力だ。


「その時、国王様が何とおっしゃったか、覚えておりますか?」


 再び、国王が黙りこくってしまう。


「『勇者と魔王に関しては王国が直接手を打つ。お前は動くな』と、私が勇者と魔王を探すのをかなり執拗に反対されましたね」


 ひと呼吸おいて、セシリアが続ける。


「その翌日でしたわ。私が神殿ごと封印されたのは。国王様、何か心当たりはございませんか?」


 セシリアがニコッと満面の笑みを浮かべ、国王に問いかける。再び、黙りこくる国王。渋い表情を浮かべている。


「さらに私は、《テレフォン》で『勇者を探すために真実の鏡を使う』と国王様に申し上げておりました。その、わずか二日後ですわ。真実の鏡を保管してあるミラージュの塔がダンジョン化したのも。タイミング的に、とても偶然とは思えない。そう思いませんか?」


 セシリアがにこやかな表情を崩さず、国王を攻め立てる。


「勇者と魔王の闘いを私に阻止されると、あなたは困るのではないでしょうか? だから、私を封印し、ミラージュの塔をダンジョン化した。勇者と魔王を探させないために。何か反論は?」


 セシリアが、びしっと国王を指さしながら、そう言い放つ。ここが勝負どころだ。正直なところ、セシリアの話には、決定的な証拠はない。それに、相手は国王だ。自分に都合が悪くなれば謁見を強制的に打ち切ることもできる。国王は、いくらでも逃げることができるのだ。


 だからこそ、セシリアは執拗に国王を挑発したのだ。敢えて神経を逆なでするような言動を繰り返し、国王にいらだちを募らせる。そして、国王が口を滑らせることを狙っているのだ。言質をとりさえすれば、アベル達の勝ち。これは、そういう勝負だ。


「だから、どうしたと言うのだね」


 国王が、ゆっくりと口を開く。その口調は、思いのほか落ち着いている。挑発がうまくいかなかったのだろうか? 既に作戦は始動している。ここで、国王が何も語らずに終わってしまったら、お終いだ。どんな罰を受けるか分からない。アベル達に緊張が走る。


「私が、歴代国王が魔王の誕生に古より関わっている? 確かに、それは事実だ。だが、それがどうしたと言うのかね」


 国王が、ふてぶてしい表情を崩さず、語りだす。どうやら、挑発はうまくいったようだ。何とか言質をとることができ、内心でホッと胸をなでおろすアベル達。あとは、国王をさらに挑発し、できるだけ多くの情報を語らせるだけだ。


お読みいただき、ありがとうございます。

次回、アベル達の作戦の種明かしです!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 幾らでも逃げ道のある相手をのせる事が出来るかどうかか、なかなか面白い心理戦だ。 [気になる点] 最悪不敬罪でその場で、とかが怖いが… [一言] 認めた、というか開き直ったか。 問題はこの後…
[良い点] おおついに、謎がとけるのか。次の更新おまちします。
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