第79話 王都へ向かうアベル達
作戦会議を終えたアベル達は、早速王都へ向かうことにした。セシリアが《テレフォン》で馬車を呼び寄せ、そのまま王都へ向かうことになった。
王都へ向かう目的は、国王との面会だ。自ら封印したはずの大聖女セシリアから『面会したい』旨の連絡があれば、合わない道理はない。実際、急な面会の申し出にもかかわらず、あっさり国王との面会は許可された。
翌日の朝、アベル達は、馬車の待ち合わせ場所の神殿最寄りの街道まで《テレポート》で飛んでいく。待ち合わせ通りの時間に、豪華絢爛な貸し切り馬車がやってくる。アベル達は馬車に乗り込み、フカフカのソファに座りながら、王都・セイントベルへと向かう。
「ねえ、アベル。王都まで《テレポート》で飛んで行った方が早いんじゃない?」
馬車に揺られながら、ティナが素朴な疑問を口にする。
「あら、私が空から王都入口まで降り立ったら、それこそ大騒ぎよ。こう見えて私、大分顔が広いんだから」
セシリアがおどけながらティナに反論する。ティナは少し、バツの悪そうな顔をしている。
「アベルさん。作戦、上手くいくといいですねぇ」
セシリアが柔らかい微笑を浮かべながら、アベルに語りかける。アベルはコクっとうなずいてそれに答える。
「ええ。万が一失敗したら、僕達もおしまいですから。不敬罪じゃ済まないでしょう」
今回の作戦の目的。それは、勇者と魔王に関して、決定的な情報を国王から引き出すこと。だが、そのリスクはかなり高い。失敗すれば、アベルだけでなく、セシリアもティナも罪に問われるだろう。失敗は許されない。
「うぅ~、緊張してきたわ……」
ティナが両手で握りこぶしを作り、小刻みに震えている。
「僕もだよ。今回は演技力と度胸が試されるからね」
アベルがティナに同意する。どんな強敵にも緊張しないアベルであったが、流石に今回は勝手が違う。
「まあ、不安になっても仕方がないですよ。あとはなるようになれ、ってね」
包容力のある笑みを浮かべつつ、そう言い放つセシリア。どうやら、今回の作戦で一番頼りになるのは彼女のようだ。
◆◇◆◇
王都に着いたアベル達は、馬車のまま王城へと入り、そのまま謁見の間へと連れていかれる。扉を開くと、煌びやかな光景が広がる。装飾で溢れた壁。天井からぶら下がる大きなシャンデリア。足元にあるフカフカの赤い絨毯。ついこの間見た光景と何一つ変わらない。
アベル達は絨毯を10メートルほど歩いていき、20段程の階段の前で跪く。階段の上にはいるのは、国王・フレデリクだ。豪華絢爛な椅子に座っている。
「久しいな、セシリア。それに、お供の二人と一匹、見覚えがあるぞ。先日、私と謁見した若造か。――して、此度は何の用だ」
相変わらず、高圧的な態度。だが、セシリアは気にする素振りも無く、挨拶を交わす。
「お久しぶりです、国王陛下。お元気そうで何よりです。――今日謁見させて頂きましたのは、陛下の耳にお入れしたい、とても重要な情報を手に入れたからでございます。少し、お耳を拝借させて頂けませんか?」
そう言いながら、ゆっくりと階段を上っていくセシリア。国王と兼ねてから面識があるからだろう、国王に近づくことを許されているようだ。
国王に近づき、ボソッと耳元でセシリアはつぶやく。
「勇者と、魔王に関しての情報ですわ。陛下、どうか人払いを」
セシリアの言葉に、国王が一瞬、目を見開く。そして、頬杖をついて考え込んだ後、立ち上がり大きな声を発する。
「全員外せ。内密の話だ」
国王の言葉に、周りを取り巻く衛兵たちが全て部屋から出ていく。――少し妙だ。アベルは違和感を感じる。いくら知り合いと言えど、一国の王が護衛なしで他人と謁見するのは不自然だ。
だが、今は作戦中。アベルは疑問をのみ込み、作戦に集中する。
「して、勇者と魔王の情報とは、どういうことだ? セシリア」
人払いを終えた国王フレデリクがにらみつけるようにセシリアに言い放つ。かなり高圧的、攻撃的な雰囲気だ。やはり何かありそうだ。
「この二人、アベル殿とラド殿。彼らが、勇者と魔王ですわ。――あなた様がお探しの」
セシリアの言葉に、国王フレデリクがピクッと反応する。やはり、セシリアはこういう駆け引きが上手い。相手の虚をつく言葉を発言にちりばめ、相手の反応を探っているようだ。
「ああ、勇者は常に探しておるぞ。我が国の救世主だからな」
国王が上手くはぐらかす。だが、セシリアはさらに攻め立てる。
「あら、魔王がいない、この平和な世の中で? それとも、近々魔王を復活させるご予定がおありで?」
今一度、ピクッと反応する国王。完全に、セシリアの術中にはまっている。
アベル達が抱いている疑惑。それは、王国が魔王の誕生に直接関係しているのではないか、と言う点だ。先代勇者の仲間だったラドが王都に着いた瞬間行方不明になり、魔王となって再度現れたこと。そして、先日王都で国王と謁見したラドが警戒している様子だったこと。そして、海底遺跡の暗号化された文書に王国の関与が記述されていた事がその根拠だ。正直、決定的な証拠はない。だから、国王にカマをかけてみることにしたという訳だ。国王が口を滑らせば、アベル達の勝ち。今回は、そういう作戦だ。舞台は既に整っているのだ。
「フフ、面白いことを言う」
余裕ぶっている国王だが、少し動揺が見て取れる。頬を手のひらでさすり、額には少し汗がにじんでいる。戦況は優勢のようだ。
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次回、セシリアが国王を攻め立てます!