第78話 小休止
「ふう、まさに怒濤の30分だったわね。次から次へと新しい情報が出てきて、頭が追いつかなかったわ」
「僕もだよ。一旦、休憩をはさんで正解だったね」
セシリアの話が想像以上に情報過多だったため、アベル達は今、休憩を取りつつ頭の整理をしている。カフェスペースを離れ、大きな窓から外の景色を眺めながら立ち話をしている最中だ。アベルの隣にはティナ、そして定位置の右肩にはラドがいる。セシリアは紅茶を淹れるため、席を外している。
「アベルが勇者で、ラドが魔王かぁ。しかも、ずーっと昔から闘う宿命だったなんて、とても悲しいわ……」
「そうだね。でも、僕はラドとは戦わないよ。何があっても、ね」
「うん、そうね!!」
アベルの言葉に、ティナは満面の笑みでうなずく。右肩に乗るラドも、顔をアベルにこすりつけてくる。
「そう言えば、ガイアスさんが先代勇者のパーティーだったなんて、驚きよね!」
「すごいびっくりしたよ! 師匠も言ってくれればいいのに……本当、人が悪いんだから」
「ガイアスさんはアベルの恩人、なんだっけ」
「うん。僕が駆け出しのころにすごく良くしてくれたんだ。――今思えば、師匠は僕に先代勇者の姿を重ねてたのかもね」
勇者アークとアベルは風貌が似ている。さらに、魔剣士と言う共通点もある。元Sランク冒険者のガイアスが、ずっとレベル1のアベルをなぜ気にかけるのか、アベルはずっと不思議だった。どんなに鍛えてもレベルが上がらないアベルを優しく見守り、『お前は絶対強くなるから』と言って励まし続けてくれたガイアス。その目は、心底アベルが強くなることを信じている目だった。
「最初は、そうだったかもね。でも、多分今は違うわよ。アベルと話している時のガイアスさんの顔は、完全に親の顔だったわよ」
ティナがフフッと笑いながらそう言う。そして、真剣なまなざしに戻り、言葉を続ける。
「ねえ、アベル。これだけは言わせて。あなたの前世がなんであれ、そんなの私には関係ないわ。私が出会ったのは、アベルという男の子よ。勇者の生まれ変わりなんかじゃない。あなただから、私は一緒に旅をしたいと思ったの。勇者じゃなくて、私はあなたを助けたいの。それだけは、忘れないで」
アベルがコクっとうなずく。ティナの言葉に、心が少し軽くなるのを感じる。そして、ガイアスもティナと同じであって欲しい。アベルは心の中でそう呟いていた。
「キュウ!!」
「あら、そうね。ラドも同じよ。あなたが魔王だろうが、関係ないわ! あなたはモフモフの、私の可愛いお友達よ!」
そう言いながら、ラドをだっこし、ギューッと抱きしめるティナ。ラドは少し苦しそうな表情を浮かべながらも、とても嬉しそうだ。
ふと、真顔に戻り、ティナが声を上げる。
「そう言えば、なんでラドはアベルと一緒にいるの? 前世は敵同士だったんでしょ?」
「キュ?」
ティナの言葉に、ラドは少し動揺しているようだ。心なしか、頬を少し赤らめているようにも見える。
「僕も知りたいな。ラドはなんで僕と一緒にいてくれるのかな?」
アベルは少し茶化すように質問をする。子供の頃に出会ってから、ラドはずっとアベルの傍にいる。そして、いつも見守るような眼でアベルを見つめている。なんとなくだが、ラドとの出会いが偶然ではないのではないかとアベルは思っている。まるで、アベルと一緒にいるためにラドが転生したような、そんな気がしてならない。
「キュ―!!!」
ダダっとラドはアベルの背後に駆け寄り、足の後ろに隠れてしまった。恥ずかしいのだろうか、顔をアベルのすそにうずめている。
「はは、また今度、教えてね」
アベルが優しく笑うと、ラドは『キュウゥ』っと困ったような声を上げるのだった。
◆◇◆◇
「休憩はもうよろしいのですか?」
アベルとティナがカフェスペースに戻ると、紅茶の用意を終えたセシリアが、既に椅子に座りくつろいでいた。
「はい。それで、今後についてなんですが、僕に案があるんです」
アベルの言葉に、ティナがニヤっと口元を緩めながら口を開く。
「さすがアベル! ウチのリーダー兼作戦参謀ね! さっそく、アベルの案を聞きたいわ!」
ティナの言葉に、アベルはコクっとうなずく。ひと呼吸おいて、口を開く。
「今回は、みんなの力を思いっきり借りようと思うんです。ティナやラド、セシリアさんだけじゃなくて、バズさんやギルダさん、ガイアスさんにアンナさんも。いや、王国民全員の力を頼ろうと思っています」
アベルは、作戦の詳細を話していく。ティナとラドがウンウンと頷きながら、アベルの策を聞いていく。一方のセシリアは、目を見開き、とても驚いた表情を終始浮かべていた。
「とてもいい作戦ですわ!」
セシリアがポンと手を叩きながら、笑みを浮かべている。ティナとラドもコクっとうなずいている。みんな、異存はないようだ。
「それにしても、アベルさんはアークとはかなり違いますね。アークは本当、一人で何でもかんでも背負い込む性格で。私たち仲間を守ろうとするばっかりで……」
セシリアが懐かしそうな、困ったような表情を浮かべながらそう言う。クルっとティナとラドの方を向き、言葉を続ける。
「ティナ、ラドさん。アーク、いや、アベルさんが変わったのは、あなた達のお陰なんですね。私たちも良いパーティーでしたが、あなた達の方がもっといいパーティーのようですね。お互いが信頼し、頼り合っている。……正直、少し悔しいですわ」
今度は、クルっとアベルの方を向き、セシリアがニコッと笑う。
「アベルさん、本当にいい仲間に恵まれましたね」
「はい!!」
セシリアの言葉に、力強く頷くアベルであった。
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次回より、国王との頭脳戦開始です!