第77話 勇者と魔王、その運命の呪縛
「あの文書を、《グリニッド海底遺跡》にあった暗号を解読したんですか!? それで、何が書いてあったんですか?」
アベルが問い詰めるように身を乗り出し、セシリアに問いかける。セシリアは一呼吸おいて、ゆっくりとアベルの質問に答える。
「書物には、歴代の魔王と勇者の闘いが事細かに書いてありました。闘いの始まり、そして勇者と魔王がどのような人生を送ったのか。12回にも及ぶ闘いの全てで、詳細な記録がとられていたんです」
セシリアがアベルをじっと見つめて、神妙な面持ちで言葉を続ける。
「驚きの事実が2つ、文書には記述されていました。一つは、魔王と勇者の闘いに王国が関与していること。アークが王都を訪れた時、ラドが行方不明になって魔王化したのも、王国が関わっていました」
アベルは黙ってセシリアの言葉に耳を傾ける。衝撃的な内容だが、概ね想像通りだ。セシリアが国王に疑念を抱いたのは、海底遺跡の暗号文書の解読がきっかけだったようだ。
「2つめの驚きの事実。それは、そのすべては同一人物の闘いだったということです」
アベルの表情が一瞬固まる。同一人物とは、一体どういうことだ? アベルはセシリアの意図を掴めない。
「お母様、同一人物ってどういうことでしょうか? よく分からないのですが」
ティナの言葉に、セシリアが頷く。そして言葉を続ける。
「そのまま、言葉の通りです。歴代勇者と歴代魔王は全て、同一人物。転生を繰り返しながら、様々な時代で戦いを繰り広げてきたのです」
セシリアの言葉に、アベルは頭が真っ白になる。様々な疑問・不安が頭を駆け巡り、考えがまとまらない。
「そんな……!! じゃあ、アベルとラドは、何度も何度も、勇者と魔王として戦ってきたってことなんですか!? そして、今回も二人が闘う運命に……」
ティナの言葉に、セシリアはゆっくりとうなずく。
「文書の信憑性はかなり高いでしょう。先代勇者・アークに関する記述は、私の知る限り全て正しいものでした。そして、今回のアベルさんとラドさんの記述も、全て事実と一致しています。ティナ、あなた自身が『真実の鏡』で確かめたわけですよね? 先代勇者・アークは幻獣使いのアベル、魔王は幻獣のラドとして転生しているということを。これは、書物に書いてあった通りです。残念ながら、遺跡の文書を否定する根拠は今のところありません」
セシリアの言葉に、アベルが少しうつむきながら、低い声で言葉を発する。
「――海底遺跡の記録室で見た映像の、タイトルの意味がようやく分かった。確か、『第12回・最終決戦の記録』。あれは、勇者と魔王の12回目の闘い、という意味だったのか。そして、今の僕とラドのことが既に書物に書かれているということは、13回目の闘いは既に始まりつつある……」
アベルの言葉に、ティナが心配そうな表情を浮かべる。そして、何かを思いついたように、声を上げる。
「ねえ、お母様! お母様は、なんでアベル達を探していたんですか? もしかして……」
ティナの言葉に、セシリアがにっこりと微笑む。
「ええ。勇者と魔王の悲しい闘いに終止符を打つためです。もう、アークのあんな顔はみたくないから……」
セシリアの言葉に、ガバッとアベルは顔を上げる。
「本当ですか!? ラドと闘わなくて済む方法があるんですか?」
「ええ、この悲しい呪縛の大元、首謀者を倒すことができれば……」
セシリアの言葉に、一瞬間をおいてティナが口を開く。
「国王、そしてこの国を敵に回す、ということですね。お母様」
ティナの言葉に、コクっとうなずくセシリア。
「ええ。かなりの危険を伴うことですが」
「でも、アベルとラドのためなら!!」
ティナが目の前で拳を握りしめ、力強く言い切る。ティナの反応に、アベルはなんだか心が温かくなる。仲間、そして自分を助けてくれる人がいる。それがこんなに心強いことだなんて、3か月前の自分には想像だに出来なかった。
ふと、アベルは隣のラドに目をやる。ラドは心なしか、目を潤ませているように見える。多分、ラドもアベルと同じ感情を抱いている。本当に、良い人たちに恵まれた。
「ありがとうございます、ティナにセシリアさん。僕は、ラドと絶対に戦いたくない。ラドは僕の親友で、大切な仲間だ。どうか、僕達に力を貸してください!」
「キュウ!!」
アベル達の言葉に、ティナとセシリアがフフッと笑みを浮かべる。
「何水臭いこと言ってんのよ! わたし達の仲じゃない!」
「そうですわ。私もアークにはとてもお世話になりました。ぜひお力添え致しますわ!」
ティナとセシリアの力強い言葉に、アベルの目から涙がこぼれそうになる。グッと涙をこらえ、アベルは口を開く。
「それじゃ、情報を整理して、今後の作戦を練りましょう」
急にいつもの調子の戻ったアベルに、一瞬驚いた表情を見せるティナ。そして、ニコっと微笑みながら、口を開く。
「ふふ、やッと調子が出てきたじゃない。それでこそ、アベルね」
お読みいただき、ありがとうございます。
アベル達の真の闘いが始まります!
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