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第74話 王都西の神殿


「ふう、だいぶ歩いてきたわねぇ……」


「キュウウ……」


 ティナとラドが疲れた声を上げる。無理もない。王都から馬車に揺られて1時間、ハートウッドの森に着いたアベル一行は、かれこれ3時間は歩きっぱなしだからだ。


「そろそろのはずなんだけど……」


 アベルが周りを見回すも、神殿らしき建物は見えない。アベルはマップを開き、現在位置を確認する。マップには、直径20メートルほどの大岩が神殿近くの目印として記載されている。アベルが周りを見回すと、右手に大岩が見える。


「場所はあっているはずだ。でも、なんで神殿がないんだ?」


 アベルが腕組みをして考え込む。隣からひょこっと顔を出し、ティナが口を開く。


「ねえ。もしかして、封印されてるからじゃない? ほら、ここ。少し地面が変よ」


 ティナが30メートル程前方の地面を指さす。確かに、ティナが指さした部分だけ、木が全く生えていない。地面を見ると、草はなく赤茶色の平坦な土が続いている。一方、その周りは草木が生い茂っている。明らかに、その部分だけ不自然だ。


「ほんとだ。それじゃ、『解牢かいろうの錠』を使ってみようか」


 アベルがカード状の『解牢かいろうの錠』を取り出し、前へと進んでいく。すると、右手に持ったカードが強く光り輝く。カードを右手に持ち、高くかざす。すると、目の前がカッと強い光に包まれる。


 あまりのまぶしさに、アベルが目を瞑り、顔をそむける。数秒後、光が収まったのを確認し、顔を上げる。隣を見ると、ティナがぽかーんと口を開けている。


「うわ、これはすごいわね……」


 ティナが唖然とした表情を浮かべる。目の前に広がるのは、巨大な神殿。古びた雰囲気は一切なく、むしろ宮殿と表現してもいいほどの佇まい。高さ5メートルはあろうかという巨大な白門の先には、50段程の白い螺旋階段が続く。螺旋階段の内側は、庭園になっており、その中心には噴水がある。階段を登り切った先には、6本の巨大な円柱があり、その奥に少し灰色がかった壁。その真ん中には、高さ5メートルはある巨大な入口がある。まさに荘厳といった雰囲気だ。


「封印って、こういうことだったんだね。まさか、建物がそっくりそのまま消えてるなんて思いもしなかったよ」


 正気に戻ったアベルが口を開く。


「《アイテムボックス》みたいなものなのかな? 建物全部、別空間にしまわれてたって感じね」


「そうかもしれないね。――それじゃ、中に入ってみようか。セシリアさんの無事を確認しないと」


 アベルの言葉に、ティナがコクっと頷く。三人は駆け足で階段を上り、神殿の中へと入っていく。入口の扉を抜けると、大きな広間が広がっていた。


「お母様!! どこにいるの!? お母様!!」


 ティナが大きな声を上げる。神殿内はがらんとしており、ティナの声がこだまする。神殿内を走り回りながら、セシリアを探すアベル達。


「はいは~い! こっちですよ~!」


 不意に、遠くからのんきな声が聞こえる。声がした方向は上。どうやら、2階に誰かいるようだ。広間を抜け、階段を駆け上がっていくアベル達。


「お母様!! どこですか!? はあ、はあ」


 息を切らしながら、ティナが再度大きな声を上げる。


「こっちですよ~」


 またも、呑気な声色だ。アベル達は通路を走り抜け、声が聞こえる扉の前まで駆けていく。


バン!!


 勢いよく、ティナが扉を開ける。中にいたのは、黒髪の女性。鼻唄交じりで読書をしている最中だ。


「あら! ティナちゃんどうしたの? 昨日、お手紙送ったばかりだったのに。すれ違いになっちゃったわねぇ」


 黒髪の女性が顔を上げ、口を開く。声の主には、ティナの面影がある。彼女がセシリアで間違いなさそうだ。――それにしても、()()()()()()()()? これは、どういうことだろうか。


「お母様! ご無事でしたか?」


「無事? 無事って何のこと?」


 どうも話がかみ合わない。どうやら、セシリアは自分の状況を認識していないようだ。


「あなたは、3か月もの間行方不明になってたんです。僕達はあなたを助けるためにこの神殿を訪れたんです」


「3か月も行方不明? どういうことかしら? つい二日前、アンナと会ったばかりなんですけど……」


「?? ねえ、アベル。これ、どういうことかな?」


 セシリアの返答に、ティナが困惑の表情を浮かべる。


「多分、神殿の中では時間が経ってなかったってことじゃないかな。ラドの《アイテムボックス》の中みたいに」


「あ~!! そういうこと!!」


 アベルの言葉に、ティナが納得した表情を浮かべ、手をポンと叩く。つまり、セシリアが行方不明になって3か月経つが、神殿内では時間が1秒も経っていなかった、と言うことだろう。セシリアとアベル達の会話がかみ合わないのは、こういう理由であろう、とアベルは推測した。


「うーん、話が見えないわねぇ。それで、あなたはどちら様?」


 セシリアがアベルを見ながら、首をかしげる。


「僕は、アベルと言います。そして、この子がラド。――あなたが探していた、幻獣使いと幻獣です」


 アベルの言葉に、セシリアは大きく目を見開き、驚いた表情を浮かべていた。


お読みいただき、ありがとうございます。

次回から、様々な謎がついに明らかに!?


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― 新着の感想 ―
[良い点] ひとまずティナのお母さんが無事、 というか本当に何事も無かったみたいで一安心だな。 あと当たり前だけど性格が以前ティナが話してた通りだ。 [一言] 次回から色々と謎だった事の答えが判明して…
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